EP.37 スカ×ビオサ -side Skull-
更に暫くすると此処魔導都市から、━━戦争が勃発した。よりによってこの場所からだ。しかも黒魔導士が、たった一人で攻めに来やがったのだ。それで次々に魔導都市にいる魔導士達を殺して行った。たった一人でだ。
そして言った。『逆らう者や、逃げる者は皆殺し。配下となる者は生かしてやる』と。更に『━━━━王国から帰還命令が出てる者は見逃す』と。つまり俺様は見逃されるって事になる。その為に国王直々に俺様に手紙をよこしたっつー事だ。……だが、ニアはどうなる?
「イスカ、お別れだね」
なんて事無いように言って来た。
「配下になるのか?」
「それならお別れにならないでしょう? 戦うよ」
「死ぬぞ」
「だろうね」
「何でだよ?」
「うーん、何でだろうね?」
暫く熟考し出した。そして……、
「たぶんあんな奴の所に下りたくないからかな?」
考えた挙句それかよ。
「なら俺様も加勢してやるよ」
ペッシーンっ!!
そう言った瞬間ひっぱ叩かれた。
「馬鹿な事言わないで……。イスカは帰れるんでしょう?」
それは悲痛な叫びのよう絞り出される。ニアが泣き出してしまった。なんて事無いように言っていたが、内心凄い悩んでいたのだろうか?
「………」
俺様は何も言えなかった。
「━━━━━王女様を大切にね、イスカ」
涙を堪え精一杯笑ってる感じで痛々しい。
「だから━━━━━は……ぅんっ!?」
俺様の言葉を遮るようにニアの唇で塞がれた。
「分かってるよ。でも、あんた優しいから━━━━━王女様に何かあればきっと力になるんじゃない?」
「……だが今、俺様の前にいるのはニアだ」
「あんたは何の為に魔導学園に来たのっ!?」
「っ!?」
ニアが此処まで怒りを露わにしたのは、初めてかもしれない。真っ赤な瞳がユラユラと燃えているかのように錯覚してしまう。
「━━━━━王女様の為でしょう? 目の前の事に捕らわれないで。あんたは底抜けのお人好しなんだから」
「はん! 俺様がお人好し? 勝手言ってくれるぜ」
「あんたさ、態とクラスで態度を悪くしてた時があったでしょう?」
「何の話だ?」
「クラスで何か問題があると、態と悪目立ちして、まるで存在悪のように振る舞って、挙句孤立して行ってクラス対抗試合とかで纏まろうとしてる時に空気悪くしてるのを察して学園に来なくなったでしょう?」
そう言って俺様の手を取る。そもそも俺様は、最初から孤立してたけどな。だから……、
「……何言ってやがる?」
そう返してしまう。確かにニアの言う通りだ。態と悪目立ちした事もあった。だが学園に行くのが潮時だと思ったからだ。そもそも俺様は、まともに人と関わる事の出来ないクソみたいな存在だ。それこそ━━━━━くらいしか俺様とつるまなかった。
「知ってたよ。だから、私はあんたを毎日学園に引っ張って行こうとした」
そう言ってまた涙を流し、俺様の手を自分の豊満なボインボインに当てた。
「おい! 何してる?」
手を離そうとするが、ニアは力を入れ、それをさせてくれない。
「最後だし良いよ」
「何が良いんだよ?」
「大きいの好きなんでしょう? それだけが私の取り柄みたいなものだしね」
「だからって……ぅん!?」
また唇を塞がれた。
「この鈍感馬鹿っ!! 私は、そんなあんたがずっと好きだった」
そして、俺様達は一つになった。
ボインボインを自由にして良いってのに胸の高まりを感じない。初めてだっつーのに高揚感とか全くなかった。あるのは別れを感じる悲哀感ばかり。
俺様は何をやってるんだと思いながら、ひたすら動いた。ニアも最初こそ痛がっていたが、止めようとしない。一日中お互いを求めた。
涙が出そうになるのをグっと堪え、動き続ける。ニアは途中から泣き続けていた。それでも、止めてとは言わない。それどころか俺様にしがみ付こうとして来る。
俺様達の名を合わせると『不幸な愛』。そして『全てを失う』。縁起でも無いと思ってニアの名前を頑なに呼ばなかった。それなのに、その通りになってしまった。ははは……最悪だ。
もう何度果てたか数えるのもバカらしくなった。ただ、止めてしまったら別れが来る。そう思ってしまい悲哀ばかりでも、お互いに求め続けた。
全く興奮しねぇ、マジで興奮しねぇ。途中からニアも果て始めたが、それを見ても興奮しねぇ。なのに永遠に果て続けられる気さえする。いや、ずっとそうしたいと思ってしまったのだ。
「何で言ってくれなかった?」
次の日……いや、一日中貪り気付けば倒れるように寝ていたので、二日後だな。目覚めて開口一番そう聞いた。
「ふあ~……起き抜けに何の話?」
ニアは大きな欠伸をしている。
「何で好きって言ってくれなかった?」
「鈍感に、そんな事言って信じて貰えた?」
クスリと笑いながらそう言って来た。確かに信じなかったかもな。
「……それに言ったからって、学園来てくれた?」
「行かなかったな」
「私ね……実は私も留年してたんだ」
舌を出し悪戯な笑みを浮かべる。
「はっ!? 何で?」
「イスカと一緒に学園行きたかったから……。だからずっと言わなかった」
「馬鹿らしい」
そんなくだらない事で留年するなよ。
「なのにイスカは私の言う事を全然を聞いてくれないし」
「何で、てめぇの言う事を聞かねぇーといけない?」
「……胸しか見てくれてなかったよね?」
拗ねたように言って来る。確かにニア自身を見ようとしなかった。俺様逃げ続けていた。いずれ故郷に帰るからと。━━━━━の力になるんだと。ニアもどうせ魔導都市を去るだろうと思っていた。
「ちっ! 悪かったな」
「今なら胸じゃなくて、私自身を見てくれる?」
急に真顔になり、そう言って来た。
「ああ」
「じゃあ最後に約束して。ずっと私の言う事を聞いてくれなかったけど、最後くらい聞いて」
「何だ?」
「イスカには、イスカの戦いがきっとある。その時にその命を賭けて。それは今じゃない」
「……分かった」
苦々しく答える。俺様はそれしか言えなかった。何故ならたぶん今のは詭弁だ。俺様を生かそうとしてるのを感じたからだ。故郷に帰って━━━━━の力になれって、そう言ってるのだ。
そして、俺様は故郷に帰還した時に知った。魔導都市で暴れた黒魔導士が所属している国は、俺様の故郷の国と同盟を結んだのだ。だから、俺様は見逃されたっつー訳か。
暫くするとそんな国を見限り謀反を起こそうとした━━━━━を従わせる為に俺様が人質にされた。だが、俺様は逆らわなかった。逆らえば━━━━━に何かあるかもしれない。失いたくない。
ずっと俺様の中にニアの言葉が残ってる。『イスカには、イスカの戦いがきっとある』と、そればかり反芻する。……………詭弁だと分かってたとしても。
だからじっと耐えた。俺様の戦いがきっとあると信じ、そして何よりも俺様は、もう何も失いたくない……!!
やがて、ニアの言葉の通り俺様も戦う時が来た。俺様もドンパチに参加し、やがて終結した。英雄の一人と称えられるが、俺様には空しく感じるだけだ。
終戦後、魔導都市に戦争初期に死んだ者達の墓が立てらてる。当然ニアの墓もあった。俺様は、そこで三日三晩突っ立ってた。
「なぁニア。俺様の戦いがあったぜ」
瞳から涙が零れる。一度決壊したら、止まらない。ひたすら流れるのを感じる。
「でも、何でかなー」
俺様は、グっと胸を掴んだ。生暖かいものが流れた。爪が、指が食い込んでいる事も気にならない。
「此処がポッカリ空いてるんだよなー」
俺様は……俺様は……、
「手の届く範囲、全部守ったぞ」
もう何も失いたくなかったから……。
「お前が言った通り、━━━━━の力になったぞ」
そう俺様は、たぶんアイツの力になったんだ。アイツは天才だから、俺様より遥かに強い。それでも力に、きっとなれた筈だ。
「でもさ……。でも……」
涙が止まらねぇ。前が霞んで何も見えねぇ。
「お前がいねぇーじゃんかっ!!」
俺様の嘆きは、止まらない。三日三晩此処から動けなくなってしまう。
「ニア……ニア。ビオ、サーニア」
俺様の名のイスカとお前のビオサ-ビア。合わせると『スカビオサ』と呼ばれる花で、マツムシソウという多年草。花言葉は『不幸な愛』と『私は全てを失った』。
「俺様は、失うのが怖くて、ずっと呼べなかったんだ。でも、結局失っちまった」
ドンパチやってる時は、忘れられたけど、終わってみると思い出すのはお前の事ばかりだよ。
「俺様は、どうすれば良い? 答えてくれよ。ニアぁぁああっっ!!!」