EP.33 ハッタリックが馬脚を露しました
一週間が経った。ハッタリックが、馬脚を露す時だ。草により、言質を取ったが録画出来る訳ではないので、証拠にならない。
何度も、師範にこの事を伝えて師範が処断させられないかと、皆と話し合ったが、良い方法見つからず、後手に回ってしまったのは遺憾だ。
せめて師範に王都に行ったフリをして貰い、馬脚を露す時に現れて取り押さえて貰えないかと話したが、国王陛下からの呼び出しで、それをすっぽかすのは出来ないとの事だ。
余談だが、子の道場師範は、この一週間の間の本当にやって来て、謝罪していた。
まあそんな訳で、俺とナターシャ、キアラ、ラキアは、道場を態と開けた。俺達がいれば馬脚を露さないだろうと思ったからだ。よって現在道場にいるのは、骨根とビオサーラだ。
「あ、スカル。丁度良かったです。少しお使いを頼まれてくないですか?」
滑らかな笑みを浮かべ骨根に話し掛ける。
「は? 何で俺様が?」
「弟弟子でしょう?」
「…………ちっ!」
間を開けて舌打ちした。恐らく破門されたので、弟弟子もクソもあるかと言いたかったのだろうけど、グっと堪えた感じだ。
まあこの流れは当然だろう。道場に関わらず序列があるなら、下の者が小間使いにされる。
「パシられるしかないのか」
げんなり呟く骨根。
「ところで、アークさん達の姿が見えませんが、何処にいるのでしょうか?」
「他の道場も見たいんだってよ。今頃寅の道場じゃねぇーのか?」
真っ赤な嘘だ。骨根に渡した草で監視をしてるが、あまり近くにいると索敵気法で、居場所が分かり警戒されるので、離れた場所にいる。
「そうですか」
ハッタリックは、滑らかな笑みを深めつつ紙を骨根に渡す。
「それはリストです。あぁ、ゆっくりで構いませんよ」
「わーったよ」
顔を顰め道場を出て行く。その後にビオサーラが現れる。
「あれ? スカルは何処へ出掛けたの?」
「えぇ。買い物を頼みました」
「そう」
「何か用でしたか?」
「いや、別に」
そうビオサーラが言うと、一瞬笑みが消え目を細めるハッタリック。嫉妬爆発ですね。分かります。朝、顔をあわして開口一番に骨根の事を聞いたしな。
「ところで、ビオサーラ。久しぶりに私とお茶しませんか?」
再び滑らかな笑みを浮かべる。
「良いわよ」
「では、私の部屋に行きましょう」
「分かったわ」
うーん。男の部屋に行くのって割とこの道場では、普通なのだろうか。俺は首を傾げてしまう。まあ師範の娘なので、下手な事をすればまずい事にはなりそうだけど。
ハッタリックの部屋に行くと、ハッタリックは手早くお茶を淹れお茶菓子を用意し椅子に座る。ビオサーラもテーブルを挟んで反対側に座った。
「武術大会の時にビオサーラは、スカルの応援に行ったのですか?」
「えぇ」
「スカルはどうでした?」
「凄かったわよ。最初の強敵は、水の四天王だったのだけど、水になった四天王を蒸発させていたわ」
「それは凄いですね」
「次は、火の四天王だったのだけど、気配が全く同じ分身を作ったのに関わらず、一発で看破して殴り飛ばしていたわ。それで場外に落としていた」
真っ赤な噓だ。真っ赤な噓に真っ赤な噓を重ね真っ黒な嘘だ。
「なるほど。成長しているのですね」
「えぇ」
ビオサーラは、ハニカムように笑う。嘘を言ったとは言え、骨根が褒められるのは嬉しいのだろう。逆にハッタリックは、面白くなさそうに一瞬笑みが消える。まあ一瞬の事で、直ぐに滑らかな笑みを浮かべた。
「それにしてもビオサーラも、もう二十歳ですね」
「もう随分前にね」
骨根の話から入ったのに、気に入らなくて話題を変えたのだろう。
「年々美しくなって行きますね」
「え? そう?」
いきなり口説き出したぞ。ビオサーラも一瞬目を丸くするが、褒められて悪い気はしなかったのか、照れたように笑う。
「元服をとっくに越えていますし、そろそろ身を固めたりしないのですか?」
「うーん。そう言うのは、あまり考えていないかな」
「そんなに綺麗なのだから、周りがほっとかないでしょう?」
「そんな事はないわよ」
「それに良い体して来ていますし」
チラっと胸を見る。唐突にセクハラ発言して来たぞ。
「もうやーね。変なとこ見ないでよ。恥ずかしいわ」
だと言うのにビオサーラは、気分を害すどころか、一層照れた笑みを浮かべモジモジしだす。おいおい、骨根への気持ちはどうした?
これが邪の力なのか? 俺やナターシャは気持ち悪いと感じてしまう。事実今もコイツの監視をしてるのは、気持ち悪い。マジで吐き気がする。が、ビオサーラには好意的に感じるのだろう。
これは、尚更厄介だな。ビオサーラがコロっと騙されるかもしれない。
その後も和やかにお茶会が進んで行く。しかもだ、ハッタリックのやり口が上手い。口説いては、深入りせず、話題を変えそこからまた口説きに繋げ、深入りせずまた話題を変える。
徐々にビオサーラが、落ちて行くような甘々空間が形成さて行く気がして来た。
「ところで、ビオサーラ。良ければ私と一緒になってくれませんか?」
ハッタリックが、遂に深入りした。明確にプロポーズしやがった。やばい。どうする? ビオサーラ。
「え? 気持ちは嬉しいけど……でも……うーん」
何か抗うようなもどかしい態度を取る。邪の事を聞いていたからなのかもしれない。ビオサーラの表情が険しくなる。このまま身を委ねてしまいたい。だけどそれは邪による洗脳だ。そんな葛藤がビオサーラを苛め、苦しめていたるのだろう。
「やはりスカルですか?」
「くっ! ……それ以前の問題よ」
苦しそうに吐き出すように口から洩れる。
「それ以前の問題とは?」
「……私の心を、操らないでよね!」
言い切った。もしかしたら、限界なのかもしれない。このまま和やかに話していたら、完全に呑まれるとそう判断したのだろう。
実はハッタリックが、何かアクションを起こしたら時間を稼ぐようにビオサーラに言っておいた。だけど、もうキツイのかもしれない。理性が持つギリギリまで頑張ったように思える。
対してハッタリックの表情が抜け落ちる。あの滑らかな笑みがピタっと消える。そして憎悪するかのような冷たい目でビオサーラを見詰める。
「なんの話ですか? 私が心をあやつ……」
「邪の力」
「っ!?」
ビオサーラが遮るように言うと、目を剥く。そして増々冷たい瞳になった。
「……何故それを?」
「アークが神獣を連れていたのに気付かなかったのかしら?」
「あの鳥か……」
憎悪が増すかのように眉が吊り上がる。
「まぁ良いです。思考誘導だけでのつもりでしたが、完全に洗脳するしかありませんね。あの者に頼めば容易いです」
そう言って立ち上がる。ビオサーラは、ビクっ! と身を固めた。……うん、ちゃんと身を固めたぞ。ハッタリックの言う通り。家庭を持つって意味じゃないけど。
にしても、あの者……ね。そいつが邪魔法の使い手だな。さて、こっちは準備が整ったし乗り込むか。
「って訳で、ナターシャ」
「分かってるさぁ。<転移魔法>」
視界が変わる。次の瞬間……、
「<クロス・ファングッッ!!>」
ドゴゴゴゴゴゴ……っ!!
「何だ!?」
ビオサーラを避けるように、外から放ったクロス・ファングが寮を吹き飛ばし半壊させる。ハッタリックは、目を剥きつつも龍気による防御を行う。予想していたがノーダメージだ。コンチクショー!!
だが、一瞬の隙ができ、骨根がビオサーラを抱えてハッタリックから離れた。
「スカルーっ!! 何故貴方が……」
「生きてるのかって?」
「っ!?」
叫ぶハッタリックを遮るように骨根が嘲笑混りに言うと目を丸くする。
「やっと馬脚を露したな。てめぇのやった事は、こっちには筒抜けだっつーの!!」