EP.29 骨根は、やはり強過ぎました
明けましておめでとうございます。
さて、どうしたものか。これ最悪子の道場の師範と戦わないといけないぞ。だが、全く勝てる気がしない。獣王程にはないにしろ、俺の中でコイツはヤバいと叫んでいる。
「話は聞かせて貰った」
先程の言葉を繰り返す師範。
「スカルと言ったな」
その鋭い視線が骨根に向かう。
「ああ」
「この者らとやり合ったとこで、辰の道場に罪を問わないと約束しよう。それどころか、君の勝敗の有無に関わらず、謝罪に行こう。存分にやりなさい」
「「「「「し、師範!?」」」」」
五人の雑魚が狼狽える。
「この者は、辰の道場の師範の娘を拐かすしか能がないのだろ?」
「はい」
「なら、それを証明して見せよ」
有無を言わせない迫力だ。何にしても罪に問われないなら問題無く骨根は、暴れられるな。やはり俺は何もしないって事になる。まあビオサーラの護衛の依頼だったし、彼女に危害だけは加えられないようにはするけど。
「では、訓練場に行くとしよう」
そう言って師範が踵を返す。それに続く強そうな若者の三人。俺達もそれに続く。そんな中、俺はビオサーラに問い掛ける。
「ところでビオサーラ。何であいつらは、骨根に突っ掛かるんだ?」
「それは………………」
なるほど。そう言う因縁があったのね。ただ、それっておかしくない? どうも引っ掛かる。
やがて、訓練場に到着。道場と言うだけあって、ジパーング聖王国と同じ板張りの訓練場だな。
「あ、骨根。<中位回復魔法>」
「すまねぇ」
昨日から嬲られていたのだろう。ボロボロだったので、見る見かねて回復してやる。
「て、てめぇ汚ねぇぞ」
「何、回復してるんだ?」
ウザいな、コイツら。
「あの子の道場の師範さん、まずかった?」
「いや、構わんよ。試合前だし」
そう師範が言った瞬間黙る雑魚五人。そもそも昨日の晩からタコ殴りでボロボロにしてから、試合をしましょうって言うお前らのが汚ねぇよ。
「武器の使用もあり。スカルは持っていないようだけどいるか?」
「いらねぇ」
師範に問われぶっきらぼうに答える。
「そうだったな。辰の道場は、素手を基本としてる道場だったな」
そう言って一人納得する。対する雑魚五人は、小太刀を使うようだ。まあ忍者だし。
「誰からやる?」
「まずは俺からだ。お前らが戦わなくても良いように叩きのめしてやるぜ」
「おいおい。楽しみは、俺等にも取っておけよ」
「どうせ、あのアークとか言う意味分からん奴が回復するんだし」
いや、もうしないよ? と言うか、するまでもないんだけどな。好い加減現状に気付けよ。こんな無能が五人もいるとか、子の道場も大変だな。
「うっせーな。五人まとめて掛かって来いよ」
ひゅー! 骨根ちゃんやる気マンマン。
「ちゃんは止めやがれ」
「スカルの癖に生意気な」
「分と言うのを教えてやるぜ」
「辰の道場で甚振らたのを忘れたようだな」
「思い出させてやる」
「イキりやがって」
「なぁビオサーラ。辰の道場の時に甚振られたのか? 骨根があんな雑魚五人に?」
声を潜めビオサーラに聞く。
「態とよ。スカルは、うんざりするくらいお人好しだから」
だろうね。態とじゃなきゃ負ける事はないだろう。
「では、試合を始めます。相手を死に至らしめる攻撃は禁止。治療不可能な深刻なダメージを与えるのも禁止です」
師範の後ろにいた若者の一人が、前に出て説明を始めた。どうやら審判をやるようだ。
「では、始め!」
一瞬だった。一瞬で距離を詰め殴り飛ばした。勿論殴ったのは骨根だ。って言うかね、忍者がスピードで負けるなよ。って言いたくなるけど、今の踏み込みは速かったな。俺でもギリギリ対応出来るかどうかのスピードだ。
マジで、武術大会で骨根に当たらなくて良かったと思う。優勝はしたが、骨根と当たっていたら相性の問題で負けていたかもしれない
まあ電光石火を使えば勝てるだろうが、次の試合とかを考えて温存しないといけないし、おいそれと使えない技だしな。
「骨根の癖に生意気な」
そう言って後ろに回った奴が小太刀を振り下ろす。それを後ろも見ずにスっと躱す。まあ当然だろう。と言うか辰の道場の門下生だったのに何故それが分からないんだよ。
「昨日の晩からよくもボカスカ殴ってくれたな。<着火魔法>」
ボっと骨根の腕が燃える。お得意の魔法拳だ。
「なんだそれはー!?」
言う前に離れるか攻撃しろよ。右から攻撃しようとした奴が、目を丸くし一瞬固まる。
「っ!?」
小太刀を素手で掴む。ほら、固まるからそうなる。小太刀はポキっと折った。俺には出来ないな。流石は龍気Lv5なだけはある。
「ごふっ!」
続けて左手でボディーブロー。これで二人目だな。
「「「<空手裏剣>」」」
「<炎刃魔法>」
三人一斉に空手裏剣を使うが、骨根が三発飛ばした炎刃魔法にあっさり弾かれる。と言うか燃える。所詮は空気の塊だしな。燃料になるだけだ。そして、三発の炎刃魔法のうち一発がそのまま雑魚一人に当たる。これで三人目。
「なんだそれはー!?」
「聞いてないぞ!!」
目を剥き騒ぐ残り二人。言ってないで攻撃なり距離を取るなりしろよ。
「<嵐よ、燃え盛れ! 炎嵐魔法>」
中位クラスの広範囲魔法で残り二人を焼き払う……死んでないけど。流石にキアラのように詠唱破棄とは行かないが、短縮詠唱で使うとは、やっぱ大したものだ。
「汚ねぇぞ! 何だ? その炎魔法は」
一番最初にやられた奴が起き上がりケチを付け出す。
「てめぇらこそ、龍気と忍術を混ぜていやがったじゃねぇか!」
「くっ!」
雑魚が苦虫を嚙み潰したような顔をする。その通りだな。自分達はOKで骨根だけ咎めるのは筋違いだ。
「やったー! スカルー!!」
「うわ! お嬢」
感極まったのか、ビオサーラが骨根に抱き着く。まあ昨日からずっと抑圧されていたしな。にしても骨根が耳まで赤くしてめっちゃ慌ててる。ウケるわー。
「は、離れろっつーんだ!!」
「あ、ごめんごめん」
少し頬染め離れるビオサーラ。我に返り自分のした事が恥ずかしくなったのだろう。まだそう言う関係じゃないしな。まあ時間の問題だろ。
「本当は嬉しいんだろ? このこの」
「うっぜー」
俺が突つくとしかっめ面になる骨根。そして、俺の言葉に更に赤くするビオサーラ。
「アークと言ったな」
「え?」
いきなり師範に声を掛けられた。
「先程回復魔法を使っていたが、悪いがこの戯け五人にも頼む」
「あ、了解」
適当に回復魔法を掛ける。適当と言うのは低位魔法を使ったのだ。中位なんてこんな馬鹿共に勿体無い。炎嵐魔法の直撃だった奴は、回復しきれていないが知らんわ。
「ところで、君達さ。おかしいと思わかったのか?」
「何がだ?」
雑魚五人のうち一人が俺の問い掛けに答える。先程ビオサーラから骨根との因縁を聞いておかしいと思っていた事だ。コイツらは、何故なんとも思わないんだ?
「それに答える前に子の道場師範に問いたい」
「何だ?」
「師範になると、国より『干支の騎士』の称号を与えられ、有事の際には馳せ参じて、前線に立ち脅威を排除しないとならないと言う義務が課せられる。これは間違っていない?」
「それが全てではないが、大きな役割りで言えばその通りだ」
「となると……」
俺は雑魚五人に視線を向ける。
「仮に君達の言う通り、骨根がビオサーラを篭絡させ辰の道場の師範に気に入られたとしよう。その後に何が発生する?」
「それは、勿論次期師範だ」
そうだそうだと、全員が頷く。まあここまでは、俺もさっき聞いた。でも、問題は……、
「じゃあその後は?」
「その後も何もないだろ? 師範になるだけだ」
「は~~。子の道場師範のさっきの言葉を聞いてそれ?」
溜息が出てしまうぜ。
「じゃあ他に何があるんだよ?」
「前線に立つってさっき言っただろ? 師範の娘を篭絡しか能がないなら、実力がともわない。となると、前線に立っても死ぬだけ。そうなると師範がビオサーラに恨まれる事になるんだぞ。おいそれとそんな感情論で次期師範にするかよ」
「「「「「あ!」」」」」
雑魚が五人がポカーンとし出す。丸で夢が覚めたかのように。何でそんな事がすっぽり抜けているんだか俺には不思議だ。普通に考えれば分かる事だろう。
なんだろう。ここ最近感じてる気持ち悪い感覚が、名状し難いと言うべきものを俺をずっと襲っている。ジパーング聖王国からだ。一体何なんだろうか? 不快感ばかり増した。
「ところでさ、そんな馬鹿みたいな話を君らに吹き込んだのは誰?」
「……ハッタリック」
またその名前か。