EP.25 午の道場の門下生に遭遇しました
次の日の夕方に到着したガラハット町で、恒例になっている宿屋で借りた部屋のテーブルを囲む。今更だが、部屋割りは男と女で分けている。骨根とビオサーラがいなけば、四人で一部屋なんだけどね。
そう俺と女三人……べ、別に女に囲まれた部屋が良いって言ってる訳じゃないからね!? って誰得だよ? と、古いネタを引っ張り出して来る。
「くだれねぇー事を言ってるんじゃねぇーよ!」
おっとまた心の声を聞かれてしまった。
「全部口に出てるっつーんだ」
「じゃあ骨根もビオサーラに頼めば?」
「は?」
「骨根から頼めばビオサーラもOKしてくれると思うけどね」
「ざけんな! お嬢と俺様はそんな関係にじゃねぇ」
隣でビオサーラが澄まし顔で、右手の中指で眼鏡の蔓を押し上げている。が、その頬は、少し朱に染まっていた。
「じゃあそんな関係になれば?」
「アーク、初心な人を弄ぶじゃないさぁ」
「そうですね。こんな子供で、遊んでも仕方ないでしょう」
「主様よ、童貞を揶揄うのは、程々にな」
「なっ!?」
骨根が羞恥で真っ赤にして行く。って言うかラキアよ、それは直接的過ぎるぞ。
「ねぇ? あ、アーク達ってこれからの予定とかってあるの?」
隣で聞いていて、居た堪れなくなったのかビオサーラが話題を変えて来た。
「辰の道場に行くんだろ?」
「そうじゃなくて、その後」
「辰の道場の問題が、解決した後に考える。特に次の予定は、決まっていないな」
「なら、急いで辰の道場に行く必要はないよね?」
「まぁな。最初に受けた依頼がこっちだったから、ジパーング聖王国とアルーク教国の戦争は、さっさと終わらせようと急いだけど」
「なら、明日はこの町にそのまま留まらない?」
なんか目を輝かせているな。いや、光の反射で眼鏡が輝く時があるんだけど……って、つまらんわ!
「クライアントは骨根だからな」
「くらいあんと?」
ナターシャが首を傾げる。言葉が通じなかったか。まあこの世界の人間は英語が分かるので妖精姉妹やビオサーラには通じていた。
「依頼主が骨根だからな。骨根に言ってくれ」
「スカル、良いかな?」
「良いけど、長旅で疲れたのか?」
気遣うように言ってるが、お前ら長旅してないだろ? 少し前までジパーング聖王国で賓客扱いだったんだから。
「滅多にガラハット町に来れないじゃん。この町の名産品とか買っておきたいの。お願い」
骨根に向けて手を合わせ拝み倒しているが、そこまでせんでも、骨根はお前の甘いけどな。
「ちっ! わーったよ。って訳で頼むわぁ、アーク」
「じゃあ明日は自由行動で」
ってな訳で次の日は、自由行動となり、俺は冒険者ギルドを訪れていた。さて何の依頼をしようかな。クエストボードを眺め、一枚のクエストが書かれた紙を剥がす。
騎士の戦闘訓練。面白そうだな。流石は、騎士王国だけはあって、騎士に力を入れているのだろう。それを冒険者に依頼するのが変わっている。
「……Bランクだった」
「何だ? 止めるのか?」
そう呟き紙をクエストボードに戻すと、後ろから声を掛けられた。振り返ると立派な槍を背中に抱えた、少し大柄な青年がいる。ふむ、槍使いか。なんか中二病妖精を思い出すな。コイツも封印された右腕どうとか言わないよな?
「いつもパーティ行動なんでね。癖で取ってしまった」
冒険者ギルドの決まりで、四人パーティの場合、最高ランクの者のランクの一つ上の依頼を受けられる。平たく言えば、Bランクが一人いれば、他三人がGランクの下位でもAランクの依頼が受けられる訳だ。
まあそんな高難度な依頼をGランクが行ったら死ぬのは確実だろうから、連れて行くBランクがいるとは思えないけど。
「となると、あんたCランクか?」
「ああ」
「で、今日はパーティじゃないのか?」
「今日は自由行動になった。俺は暇だから、此処に顔を出しただけだ。勿論面白そうな依頼があれば受ける気でいたけどな」
「なら、今日はうちのパーティに入るか? 四人パーティなんだが、丁度一人欠員が出てな」
「良いのか?」
「あんた強そうだから、こっちも助かる。あぁ、俺の名はソウソウ。一応午の道場の門下生だ」
「俺は、アーク。旅人だ」
「宜しくな」
手を差し出されたで、握手を交わす。にしても槍使いで、名前が槍々なのかよ。それに馬の道場ね。
「ちょっと聞きたいんだが、良いか?」
「何だ?」
「俺は昨日、この国に来たばかりで詳しくないんだ。午の道場ってのは、冒険者活動とか許されているのか? 勝手なイメージで悪いが、道場に籠って鍛錬ばかりしてるのかと思った」
そう言うとソウソウは、目を丸くして、直ぐに笑い出した。
「ハハハ……。確かに最初の頃は、そうだな。道場に籠って鍛錬ばかりだ。だが、ある程度実になって来た者は、実戦訓練を言い渡されるんだよ。たぶん他の道場も同じだぜ」
「なるほど」
「で、依頼はこれで良いのか? 騎士の訓練か」
そう言って、俺が先程取った紙を剥がす。
「いやパーティって、他の二人はソウソウの身内だろ? 三人で決めろよ。俺は暇潰ししに来ただけだ。注文付けるなら、一日で終わるのが良いな」
「でも、これ面白そうなんだろ?」
「まぁな」
「なら、これで構わないさ。他の二人も文句言わないだろ。まぁ紹介するから、着いて来いよ」
そうしてソウソウの後を着いて行く。冒険者ギルドに併設された酒場のとある一角に魔導士っぽい女と、大盾と大きな片手剣を持った大男がいた。
「待たせた。臨時で今回パーティに加わって貰った、アークだ」
「宜しく」
俺がそう言うと二人がコクリと頷く。
「紹介する。こっちの女が、リンシャン。見ての通り魔導士だ」
「よろ~」
「ああ」
軽いな。魔導士と言うより魔女っ子って感じがある恰好だ。黒いロープに黒いとんがり帽子で。杖はウッドっぽいもの。これに跨って空飛ばないよな?
「こっちが、カンウー。見ての通りで壁だ」
「おい! タンクと言え。宜しくな」
「ああ」
タンクだけはあり、大きな鎧を纏っている。盾も大きいし、この守りを突破するのは、容易ではないだろう。にしてもカンウーね。ソウソウやリンシャンも含め名前の響きが中国とかあっち系が多いな。
「にしても、前衛がニ人で、後衛が一人って欠員の一人次第で、バランスは大丈夫か?」
「ああ。欠員の一人が後衛の、それもヒーラーだから悪くはないぞ」
「そうなのか」
「そう言えば、アークは? 得意なものは?」
「え? 察したから誘ったのでは?」
何? 俺はてっきり、分かってて誘ったのかと思った。
「いや、覇気だ。武器は、小刀のようだけど、あまりに珍しく、どう扱うのか察せられなかったな」
そう言っておどけたように肩を竦める。
「珍しいのか?」
「これが小太刀や短剣なら分かり易いんだけどな。双剣士とか。小刀だと、メインは魔法で接近された時だけ小刀で対処するとも考えられるし」
「なるほど。俺は見たまんまのつもりでいるんだけどな。スピード主体の前衛だ」
「見たまんま~~? いやいや、重そうなコート着てるじゃん」
リンシャンにそう言われてしまう。確かに忍系の職を持つ者は、ロングコートなんて着ないだろう。だけどこのFFOコートは……、
「これ敏捷アップ能力があるんだよ」
「へぇ~~」
「で、依頼なんだけど、騎士達の訓練だ。異論はあるか?」
「ないよ~」
「無論俺も」
「じゃ決まりだな」
そうしてガラハット町に住む領主の城に向かう。なんでも王都から騎士団が来ており、領主お抱えの騎士団と合同訓練をしているとか。そこに冒険者も混ぜて訓練をしようと言うものらしい。