EP.24 辰の道場を目指しました
日付が三日程進む。俺達は、やっとブリテント騎士王国に到着した。まあ国境を越えたのはナターシャだけなんだけど。俺や姉妹妖精に骨根、ビオサーラは、ナターシャの転移魔法で、ブリテント騎士王国の南にあるケイ町に連れて来て貰った。
にしてもケイね。此処も転移者が関わってるのではないかと疑ってしまう。
「第105回円卓会議を始めます」
宿の借りた部屋のテーブル囲み、そう切り出す。
「また言ってるさぁ。しかも此処のテーブルは、円卓じゃないさぁ」
四角いね。
「第66回~第104回までは、どこへ行ったのですか?」
キアラさんや、細かいですよ。何で前回言った戯言を覚えているのですかね?
「円卓の騎士の町だけに?」
此処はケイ町だが、そのケイだけならともかく、他の町も含め名前が、全部円卓の騎士なんだもんな。となると、王都の名前はアーサーかもしくはキャメロットか? と思ったらキャットだった。なんでやねん!
それはともかくだ。だから、何でお前はそのネタを知っているんだ?
「なんとなくなのだ」
「でたらめだ! なんとなくで知ってるかよ!!」
おっと今回は、鋭いツッコミをしたのは、俺でなく骨根ちゃんだ。
「ちゃんは、止めやがれ!」
「ねぇ、スカル? どう言う意味? 円卓の騎士って何?」
ビオサーラが控えめに骨根に尋ねた。
「地球にある昔語だ」
「しかも少し情報を集めたのだけど、辰と寅の他に十の道場があるんだろ? 予想は付いていたけど干支じゃん。しかも十二支だから、円卓の騎士と数も一致する。この国はなんなんだろう?」
「それは俺様も知りてぇ。十年此処で暮らしていたが、意味不明だ。それに干支と円卓の騎士を合わせるとか、でたらめだっつーの」
俺の疑問は、骨根にも分からないようだ。
「転移前の世界にもあったの?」
ビオサーラが小首を傾げる。
「音丑寅卯辰……ってのが、年を表すのに用いられていたんだ。その名前がそのまま道場に名前になっていやがる」
「へ~そうなんだ」
感心するように頷くビオサーラ。
「って言うか、十年も一緒にいて教えてなかったのか?」
「別に教える事でもねぇーだろ」
「むぅ! いつもこうだったんだよ。スカルから、滅多に話し掛けて来ないしストーカーだし、うんざりしていたのよ」
「ストーカーだったのかよ!?」
ビオサーラが眉を吊り上げながら言った言葉に俺は目を剥いてしまう。
「ちっげー! お嬢の護衛をしていただけだ」
「またお嬢? 名前で呼びなさいよ!!」
「お嬢はお嬢だ! 師範のじじぃの娘なんだから」
「ほんとうんざりよ!」
なんか口論が始まちゃったよ。仲が良き事で。俺はついつい生暖かい眼差しを向けてしまった。
「てめぇ! 何だ、その眼差しは!? ざけんな!!」
あらら、骨根がキレだす。
「うんざりアークですから」
「だな! ついでにでたらめアークだ」
「確かにね」
キアラがふざけた事を言い出し、骨根とビオサーラが同意しやがった。しかも、でたらめアークってなんやねん!? 俺は武とは違うのよ、武とは。
「ザキュウとは違うのだよ、ザキュウとは。ではないのか?」
またそのネタかよ。マジで何で……、
「だから、何でてめぇがそれを知っていやがるだっつーんだ!?」
「なんとなくなのだ」
前回も言っていたな。前回はスルーしたけど今回は骨根が突っ込んだ。
「さて、馬鹿話をこれくらいにして、此処からどうやって辰の道場は目指すんだ?」
そう言うとビオサーラが所持していた地図を広げる。
「北を目指すだけよ。ガラハット町、王都キャット、パーシヴァル町、辰の道場」
順番に町を差す。
「馬車でそれぞれ半日。のんびり進んで四日目の夕方には到着するわ」
俺達だけならともかく骨根に依頼されたビオサーラを護衛なら、のんびりで良いわな。こう言う世界での最大の鉄則は、夜は出歩かない事だ。
星々の世界では、動物や魔物が活性化して危険。この世界では、魔獣が同じく活性化して危険だ。
それに暗いので、戦うのも不利。従って、よっぽど腕に自信がある奴以外は、夕方には宿を確保しておくものだ。
「そうか。まだ四日も掛かるか。悪かったな。戦争に首を突っ込んだせいで、余計に遅くなって」
俺は素直に頭を下げる。
「そうか?」
「思ったより早かったよね?」
「だな。戦争がなければどんだけ早かったんだっつーんだ。でたらめにも程があるぜ」
二人で、そう言ってくれる。
「そんな早かったかな? 交渉とか時間を取られてた気がするが……」
「あれは交渉とは言わないさぁ」
「半ば脅していたではないか」
え? ナターシャとラキラに、呆れながらそんな事を言われる。
「マジか?」
「ジパーング聖王国では、格技場を火の海にして、アルーク教国では、無理矢理教王と二人きりになってたではないか」
「後者をやったのは、お前だけどな」
「やれって言ったのは、主様ではないか?」
まあそうなんだけどね。そう言えば両方ともいたのは、ラキアだな。キアラは、いなかった。
「交渉じゃねぇーか! 聞いてねぇぞ。火の海ってなんだよ!? やっぱでたらめじゃねぇか!? ジパーング聖王国で、俺様達への対応が良かったのは、ビビってただけじゃねーのか?」
「それは無い。あそこは、俺が転移者だと知ると聖王自ら跪いたんだぞ」
「マジかよ」
骨根の顔が引き攣る。
「さて、辰の道場に到着したら、どうするかだな」
「だな」
「そうね」
「まず骨根は、敷居を跨がせないと言われているんだろ?」
「ああ」
「そこはビオサーラの説得に期待」
「私っ!?」
右手中指で眼鏡の蔓を押し上げながら、目を丸くする。
「俺の作戦では……」
語って聞かせた。
「……ってな感じだ」
「良いんじゃねぇか?」
「私も良いと思うわ」
「問題は、十中八九戦闘になりそうな、ハッタリックとやらに勝てるかだ」
「俺様には、無理だ」
「お父様に頼る?」
「たぶん手を打たれる」
「だよね」
うーん。腕を組んで考え込んでしまう。
「アークは、武術大会で優勝したくらいだし、いけないかねぇ?」
ナターシャにそう問われる。
「ぶっちゃけ純粋な殴り合いで、骨根に勝てる気しないんだよな」
「何でだい?」
「龍気のレベルが違うし、一日の長がある」
「その俺様より強い、ハッタリックには勝てないってか?」
「そう。だから……うん。こりゃ力押ししかないな」
俺は肩を竦めてしまう。
「どう言う事だい?」
「俺とナターシャ、キアラ、ラキア、骨根の総力戦だ」
「五対一てか?」
「そうだ、骨根」
「それしかねぇーか」
「あの……私は?」
申し訳なさそうに手を上げるビオサーラ。
「悪い。完全戦力外」
「ですよね~」
「それにビオサーラに何かあれば、骨根に殺される」
「何で、そこで俺様が出て来る!?」
「護衛なんだろ?」
ニヒと揶揄うように笑う。なんせストーカー護衛だ。
「ちっ!」
骨根は舌打ちし、そっぽ向き出した。
「ファーレも悪いが戦力外」
「まだ成長しおらぬ、妾の体が口惜しいです」
まだ幼年期だもんな。だが、成熟したらどれだけ強いんだろう? 少し……いや、かなり気になる。なにせ神獣だもんな。
「って訳で解散。これで第172回円卓会議を終了する」
「第105回ではなかったのか?」
「愚鈍アークですから」
ラキアよ、細っけー事は良いんだよ。つーか戯言の回数なんて覚えているなよ。そして、キアラの毒舌がウザい。
「じゃあ、明日から辰の道場を目指し、北に向けて出発」
「分かったさぁ」
「分かりました」
「分かったのだ」
「御心のままに」
「分かったぜ」
「分かったわ」
この時の俺はまだ分かっていなかった。辰の道場で起きる事を……。
ハッタリックが強過ぎた? いや、その方がまだマシだ。もっと恐ろしいバケモノがいやがった……。