EP.05 相棒と再会しました
「おれかったかった」
野生児が重力のまま足が付くとはしゃぎ出す。
「ほれ! 約束のチキンだ」
アルが道着のポケットから取り出したチキンを差し出すと野生児は、それを受け取り食べ始めた。
「ムシャムシャ……うまいぞうまいぞ」
「ガハハハハハハ……修行の成果を試すのに絶好の相手だったぞ」
それが理由で一本取れとか言ったのかよ。
≪まあ称号に修行修了ってあったもんな。試したいのかもしれない。長年の成果だもんな≫
「もっとくれもっとくれ」
食い終わると図々しい事を言い出したぞ。
「残念ながらそれが最後だ」
「そうかざんねんだざんねんだ」
「だが、俺達はチェンルに向かってるんだが、着いて来るならもっとやるぞ」
マジかよ!? 俺は目を剥いてしまう。
「おれ、ついていくついていく」
「で、お前名前は?」
「わすれたわすれた」
「何だそれ?」
俺も同じ事を思った。
≪あ~だから名前が名無しだったのか。攻略サイトでは、名前があったからおかしいなと思ったんだよな≫
「むかしおれ、すてられたすてられた」
俺と同じか。
「……帰ろうと思わないのか?」
俺も口を挟んだ。
「ここきにいってるきにいってる」
「……そうか」
なら良いか。
「じゃあ名前、俺が付けてやろうか?」
アルがそんな事を言い出す。
「たのむたのむ」
「じゃあガッツがあるからガッツってそのまま過ぎるから……ガッシュでどうだ?」
「それいいそれいい。おれガッシュ」
≪ほ~~アルが名前を付けるのか。って言うかガッシュをプレイキャラにした奴、かなり長い間、名無しでプレイするんじゃないのか?≫
「俺はアルフォード。アルで良い。こっちがダークだ。宜しくな」
「アル、ダーク、よろしくよろしく」
「……ああ」
こうして珍妙な野生児ガッシュが加わった。と言うか加えるなよ。とか考えていたら俺の脳裏に言い寄らぬ不安が過ぎる。
「二人で、チェンルに行ってくれ。俺は少し寄り道する」
「寄り道って何処だ?」
アルが聞き返して来る。
「南だ」
「少し遠回りになるだけだろ? 付き合うぞ」
「おれもおれも」
「ラフラカ帝国兵と戦闘になるかも知れないぞ?」
「それって兄貴の敵か?」
「……ああ。そうなるな」
「ガハハハハハハ……なら尚更付き合うぜ」
豪快に笑い飛ばされた。
「おれもおれも」
ガッシュも来る気だ。
「……そうだアル。気になっていたのけど、その武術の神とやらは気配察知もお手の物だったのか?」
「ん? 気配察知? 何だそれ?」
「周囲の気配を感じる事……って、アルだってやってただろ? ガッシュとの戦いの時に、後ろに周られても、どんな動きをしてるか把握してただろ?」
「あ~アレは闘気による把握だよ」
「何!? そんな事出来るのか?」
俺は目を丸くする。
「闘気って自然に漏れ出るだろ? それを意識的に出して周囲に膜を張るイメージをするんだよ。それにより、膜を張ってる範囲の全ての動きがわかる」
「それって気配を隠してる奴もわかるのか。凄いな。だけどそれを維持するのは疲れないか?」
「ガハハハハハハ……修行のお陰で自然とできるぜ」
こいつどこまでデタラメなんだ? 筋肉で出血を止めるし。
≪ダークに同意。だが、出血を止めたのも闘気なんだよな。闘気レベルが7以上になると強過ぎるだろ。俺のダークは、今の5でカンストなんだよな≫
無雑作に振るっただけで気弾を飛ばしたり。しまいには気配察知の上位互換までありやがる。絶対敵に回したくないな。
「あ、話は戻るが、エドは表立ってはラフラカ帝国と同盟してる。フィックス関係者だとバレないようにしろよ」
「わかったぜ」
一応忠告しておこう。まぁただの杞憂に終われば良いがな。
俺達は反帝国組織のアジトの方を目指す。別に依頼されたわけではないが、ダームエルの事を考えると行くべきだな。あそこには子供達がいる。
杞憂に終われば良いと思ったが残念ながら、予感は的中していた。ラフラカ帝国兵が五十人程、アジトに向かっていたのだ。
「……やるぞ」
「ああ……兄貴の敵は俺が潰すぜ」
「おれもいくぞいくぞ」
そうして戦闘が始まるが一瞬で決する。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
此処で戦闘パートね。と言うか最初は近寄って来た魔物は、全部アルが瞬殺していたので、戦闘にならなかった。
ガッシュが加わってから、何故か魔物が寄って来なくなったし。
にしても、三人でのパーティ戦闘は初めてだな。いつもダームエルと二人だけだったし。こないだのエリス戦も、味方がいた筈なのに他の雑魚を相手していたからパーティ戦じゃなかったしな。
と、そんな事を考えていたら……、
「オォォォラバスタァァァっ!!」
ズゴォォォォっ!
アルの闘気技が炸裂。これで1/3が吹き飛んだ。更に陣形がめちゃくちゃ。
次にガッシュが中空を縦横無尽に駆ける。これに翻弄されていた。
って、俺の出番ないじゃん。この二人が一緒だと大抵どうにかなるだろ? プレアブルキャラ二強
は、この二人だな。
まあ一応俺も攻撃するか。
シュシュシュシュシュ……ブスブスブスブスブスっ!
ガッシュが翻弄している隙に投擲用武器を俺が投げる。
ぶっちゃけ俺がやったのはこれだけだったな。その後、アルが突っ込み、一人一人ぶん殴っていた。ガッシュも爪で引き裂いている。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
その後、町を三つ経由しつつチェンルに到着した。その間、ガッシュがあっちこっちに目が行って疲れた。
アルはそれに付き合い、ガッシュが欲しそうな物を買っていた。あれでも王子なんだよな。
金持ってるわけだ。まぁ買った大半が食い物だったが。
「じゃあガッシュ。ここでお別れだ」
「わかったわかった。またなアル、ダーク」
「おお」
「……ああ」
こっちの港は封鎖されていなく、問題なくイーストックスに到着した。
「ダークはこれからどうするんだ? 俺はフィックス城に行くが来るか?」
「……いや、相棒をカルドリアで待たせている」
「じゃあここでお別れだな。またな」
「……ああ」
アルと別れた俺はカルドリアに到着した。一ヶ月半はかかってしまった。
≪その大半がガッシュの買い食いってのが笑えるよな≫
とりあえず酒場だな。其処でいなかったらサーストックスに行くか。と、思っていたらダームエルがいた。
「お帰りさん」
陽気に声を掛けて来た。
「エド領の方まで飛ばされたと聞いた時はキモを冷やしたぜ。無事で何よりだ」
「十日寝込む重症だったがな」
「ははは……それで、よくサバンナでラフラカ帝国兵と殺り合ったよな」
「知ってたのか?」
俺は目を丸くしてしまう。
「俺の情報網舐めるな。最悪の場合は迎えに行こうとも考えたし、情報は入念に仕入れたよ」
そうだな。ダームエルの情報収集能力はお手の物だな。
「で、何で殺り合ったんだ? 依頼はエルドリアの精霊の件だけだったろ?」
「アジトにガキがたくさんいた。ラフラカ帝国の被害者だ」
「なん……だと? どこまで腐ってるんだ、あの帝国は」
ダームエルの目が吊り上がる。が、直ぐ穏やかなものになり、俺と視線を合わす。
「あ、もしかして、俺がガキの事を気にすると思ったから殺り合ったのか?」
「まあな」
「悪いな」
「相棒だろ?」
「その相棒を、エド領まで吹き飛ばす事になった原因に俺は頭きてる。此処まで上等かましてくれたラフラカ帝国に徹底抗戦だ」
陽気に笑っていたが、やたら怒ってるな。俺なら無事だったのにな。
と言うか、原因は精霊なんだけど。まぁ細かい事だし良いっか。
≪良いんかい!?≫
「反帝国組織に所属するのか?」
「いいや」
ダームエルはかぶりを振り……、
「反帝国組織の依頼はなるべく全部受ける。それ以外は今までと同じだ……っと、俺は思ってるのだが、お前さんはどう思う?」
「ダームエルが決めた事なら、それで良いぞ。言っちゃっ悪いが、俺は無事だから、其処まで気にしていないし、ガキに思い入れもない。だから、今まで通りダームエルの方針で着いて行くだけだ」
「そうか……悪いな」
こうして、俺達はラフラカ帝国に完全に敵対し、反帝国組織の依頼は、ほぼ受けるようになった……。
それから数ヵ月色々あった。
ムサシが反帝国組織に加わり、俺達と一悶着あったり。エリスがラフラカ帝国を裏切ったり。
ロクームがエリスを口説く為に反帝国組織に入ったりルティナはアジトにいた子供達を守る為に半精霊に覚醒したり。
アルがガッシュを反帝国組織に勧誘したり。
と。
本当に濃密な数ヵ月だったと思う。
余談だが、ガーリンソン指揮官はエルドリアの精霊に吹き飛ばされ、死亡が確認され、今は別の奴が指揮官だ。