EP.16 リメンバー・ミー その②
暗い暗い暗い。
まだ昼間だと言うのに暗く不気味だ。
それでいてジメジメしていた。
イスカは、肌に張り付く気持ち悪い汗を拭い去る。
此処は魔導学園近くの森の中。森は異常発達しており、光が届かないのだ。
その原因は魔導にある。イスカが寮生活で暮らしている場所は魔導学園だけではない。魔導都市と呼ばれており沢山の魔導士が、日々研究をしていた。
結果、不必要な魔力に晒され森が異常発達してしまったのだ。そんな森を一人歩くイスカ。
「グルゥゥゥゥっ!!」
当然そんな森には、危険な動物がいる。生態系が狂ったのだ。今もオオカミが三頭、獲物を狩る目でイスカを囲む。
「ちっ! <下位炎系魔法>」
舌打ちしつつオオカミを焼き払う。下位でも一瞬にしてオオカミを三頭燃やしたのは流石と言えよう。イスカは炎魔法だけは誰よりも才があり、魔導学園屈指の実力者なのだ。
「数がでたらめだっ!!」
イスカは吐き捨て、ジメ~っと張り付く汗を拭う。
余計な魔力に晒され狂暴化している動物は、何度もイスカを襲って来た。
そもそも何でイスカは、こんなところにいるのかと言えば、魔導学園の実戦授業の一環である。やる事は単純。森を一直線に抜ける事。森はあまり大きくないので、異常発達していなければ四、五時間で抜けられる距離しかないので、授業に組み込まれていた。
まぁこうして生徒に実戦をやらせる事で、魔導士として育ち、且つ狂暴化した動物が森の外に出ないように間引く一石二鳥な訳だ。
ただ、命を伴う危険な授業なので、班を作り団体行動をさせている。が、イスカは一人だ。
「またか。うっぜーっ!! <炎刃魔法>」
イスカの前に現れたシカを炎の刃で切り裂く。
早朝出発しと言うのに、この調子で全然前に進めずに森を彷徨う。尤も夕方頃に森の反対側に出れると言う計算で授業が組まれているのだが。
ただ一人だとキツイものがあった。ちょっとした油断が命取りになる。イスカは、もうずっと気を張って森を歩き続けているのだ。
「きゃぁあああああ……っ!!」
「あん?」
悲鳴が聞こえたので、そっちにイスカは向かった。
そこには動物に囲まれている女子の班があった。一人足を挫いた様子で、その女子を庇うようにしている女子。悲鳴を上げたであろう女子は震え上がっている。
そして、その先頭で戦うのは巨乳美少女。委員長ことビオサーニアがいた。ビオサーニアは、綺麗な赤い髪を揺らしながら、果敢に動き回り注意を自分に引こうとしている。
「ちぃぃっ! <炎柱魔法>、<炎柱魔法>、<炎柱魔法>、<炎柱魔法>……」
こんなとこを見てしまって何かあれば目覚めが悪ぃとか思いながら、舌打ちをし、炎の柱をいくつも出し、動けない女子達と動物を分断させる。
動物は、オオカミ、シカ、イノシシ、クマと様々な種類だ。果ては馬に角を生やしたようなユニコーンなんてものまでいる。
「イスカっ!?」
「委員長がそっち側の処理を」
「だから名前で……」
「言ってる場合かっ!! <炎連槍魔法>」
ズダダダダダダダダダダ……っ!!
いくつもの炎の短槍を放ち次々に動物を貫いて行くイスカ。
「<雷刃魔法>、<水刃魔法>、<風刃魔法>」
対してビオサーニアは、手数で動物達を切り裂く。ビオサーニアは、優秀で様々な属性を扱える。それだけではない。相手の弱点属性を全て把握していた。
なので、イスカと違い全て下位で処理している。対してイスカが使った炎柱魔法は中位。炎連槍魔法は上位と火力で圧倒していた。
正直燃費はビオサーニアのが遥かに良い。勿論中位も使える程、優秀だしペース配分も確り考えていた。
動物達の処理が片付くと炎柱魔法を消す。
「イスカ、ありがとう。助かったわ」
「んな事より、ふん!」
顎で足を挫いた女子を差す。
「えぇ。そうね……<下位回復魔法>」
ビオサーニアは、足を挫いた女子を回復させる。
「改めてありがとう。イスカ」
「偶々通り掛かっただけだっつーの」
「……ねぇ、ビオサーニア」
小声で、足を挫いた女子を支えていた女子が、ビオサーニアに話し掛ける。
「何?」
「あんなのと関わらない方が良いわよ」
「でも、助けてくれたのよ」
「どうせ自分が優秀だって見せびらかしたいだけよ」
「そんな事ないと思うわ」
と、ヒソヒソ話しているつもりだが、森は静まり返っておりイスカには丸聞こえだ。うっぜーって内心悪態を付く。
「見せびらかすも何もどうでも良いっつーんだ」
「何ですって!?」
「ホント失礼な人よね?」
「私達なんてどうでも良いなら、助けなきゃ良いのに」
「ちっ!」
他の女子達も混ざり悪態を付き始め、イスカはそれを辟易した顔で舌打ちする。ビオサーニアには、それらを眺め溜息を溢した。
イスカがどうでも良いって言ったのは、優劣を付ける事だ。そもそもイスカが魔導学園でやって来たのは、自分の目的の為に魔法を学ぶ為。他の事はどうでも良いのだ。が、普段の言動や態度でこうやって誤解を与えてばかり。
その後、女子達は前を歩き始める。イスカは、また何かあっては目覚めが悪いと思い後ろから着いて行った。
「何よ、あいつ」
「着いて来ないで欲しいわね」
「気持ち悪いよね」
「ちっ!」
前でヒソヒソと話しているつもりだが、イスカには丸聞こえなので舌打ちを溢す。ビオサーニアだけは、イスカが何かがあった時の為に着いて来てくれていると気付いているので、この状況にうんざりしていた。
やがて森を抜ける。其処では先に到着した者や、監督している教師がいた。
「ビオサーニアさんの班は到着ですね。イスカさんは、減点です」
教師が第一声そう言い出す。当然イスカとしては不本意な事を言われた。
「はぁ!?」
「自分の班から離れ勝手な行動をしたからです」
教師の後ろでイスカ達より先に到着したイスカの班の者三人がクスクス笑いだす。それも嘲笑混りでイスカを見て来た。
「ちっ!」
舌打ちするが何も言い返さないイスカ。実は他の三人に除け者にされ、一人で森を歩く事になった。が、普段の言動や態度で何を言っても信用されないだろうと言うのは、イスカ本人にも分かっていたから言い返さなかったのだ。
こうしてイスカは、どんどん孤立して行く。その状況にビオサーニアは溜息を付く。彼女だけが状況を理解出来た。
いや、全員イスカの事を理解しようとしないし、孤立してしまえとも思っているのだ。まぁ人間はヒエラルキーを作らないといられない生物なので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
「今日はありがとうね、イスカ」
ビオサーニアは、孤立して行くイスカを見ていられなくて、微笑み礼を言う。言葉なんて何でも良かった、と言った感じだ。
「偶々通り掛かっただけだっつってんだろ。委員長」
「だから、名前で呼んでって言ってるでしょう?」
「嫌だね」
「ほんとそう言うとこうんざりよ」
イスカは、決してビオサーニアを名前で呼ばない。呼びたくないのだ。自分に気を使って声を掛け、微笑み掛けてくれたと察していても。
ビオサーニアの名は不吉だから。いや、ビオサーニアの名自体は問題無い。ただイスカに取っては、不吉なのだ。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
~side Skull~
「またこの夢か」
ふと俺様は、目を覚ます。
「いや、初めて見るシーンだったが、またアイツが出て来た。一体なんだっつーんだ」
違いあるとすれば眼鏡を掛けているか否か。いずれにしろ朝から気分悪ぃと思い、髪をかき乱す。
そうしてベッドから、起き上がり身支度をして、部屋を出た。
「おはようございます。スカル様」
「……ああ」
メイドに声を掛けられる。
まだ慣れねぇな。この聖都ヤマトの王城でアーク達を待ち始めて三日が過ぎるが、どうも『様』付けとか気持ち悪ぃ。俺様が転移者だからって丁重過ぎるっつーんだ。
「お連れの方は、もう食堂に行かれております。スカル様も朝食を摂りますか」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」
そう言うとメイドは、頭を下げて去って行く。俺様も食堂へ向かう。そこでお嬢が待っていた。
「あ、スカル。起きたのね。おはよう」
「あぁ、お嬢」
「せっかく略称とは言え、名前を呼んでくれたのに、またお嬢?」
お嬢の目が吊り上がり、眼鏡の蔓を右手の中指で押し上げる。
「うっぜー」
「名前で呼んでって言ってるでしょう?」
「嫌だね」
「ほんとそう言うとこうんざりよ」
「ちっ!」
俺様は、舌打ちしてしまう。夢と同じやり取りじゃねぇか。そもそもあんな夢を見てしまったから、それに引き摺られ名前を呼びたくなくなって来てしまうんだっつーの。全くうっぜーぜ。