EP.09 やっと聖王とご対面しました
実際は、びしょ濡れになっていなかった。FFOコートの属性妨害の効果だ。まあ頭は濡れてしまったので炎魔法で乾かす。ほんとこっちの世界の魔法は便利だね。火力をドライヤー程度まで絞れるのだから。
ナターシャは、咄嗟に収納魔法から、エーコ産蔵を取り出し避難していた。でだ、問題はラキアだ。こいつちゃっかり頭上に闇防御魔法を張っていやがった。
前もVIP席からで、濡れなかったしマジでちゃっかりしてやがる。
ちなみにだが俺はあの時、FFOコートが度重なる戦いで修復が間に合ってなく属性妨害が働かなくてびしょ濡れになってしまった。まだ五月だし寒いったらありゃしない。
「このちゃっかり妖精が!」
「主様よ、それはちっと酷いのではないか? そもそも主様達がやり過ぎたのだぞ」
「俺は主だぞ? 全てに優先される」
「そう呼んでるだけで、実際は違うのではないか? 主様は主になる事を受け入れてくれなかったではないか」
あ、そうだった。って言うかまた正論を。こいつ時々正論を言うんだよな。口調や態度から分からんが、実は姉より常識人ならぬ常識妖精なのかもしれない。
「受け入れるのなら、まず我の体を……」
「断る!」
「酷いではないか!? せめて最後まで言わせて欲しいのだ!!」
ラキアが目を剥く。テンプレですね。前言撤回。常識妖精なら、こんな露骨に誘わないし、俺に強く言われて体をクネクネさせるドMな訳がない。
「煩い」
「ぬぅぅぅくっ!」
見えなくしている羽根を触るをと必死に耐える形相をしだす。そう言えば何気にラキアのをイジるのは最初の頃以来だな。
「つまらん反応」
「我を姉上と一緒にするでない」
「あっそ。嬌声が可愛かったら、欲情したかもしれないのにな」
俺がニヒと揶揄うように笑うと、ぬわっ! と目を見開く。
「失敗したのだ!! もう一度、もう一度触るのだ!!」
「ぜっ! …………………………ったいに嫌だ!!」
「どんだけ溜めるんのだ!? 酷いではないか! 姉上のはあんなに触っているのに」
「キアラの羽根はイジる専用。ラキアのは……」
「我のは……?」
なんか凄い期待の眼差しをしているな。
「もぐ専用」
「そ、それだけは! それだけは止めて欲しいのだ!!! 頼むのだ! 足でも手でも、もいでも良いが羽根だけは止めて欲しいのだ!!!」
涙目で絶叫をし始めた。
妖精族の羽根は、魔力の源で無くなると無力の存在になってしまう。なので、キアラもラキアも羽根をもがれるのを嫌がる。まあ触るだけでキアラは、めっちゃ嫌がってるけど。
「って言ってる割には、クネクネしてるさぁ。興奮してないかい?」
「主様の言葉責めプレイは堪らな…………」
ナターシャの冷ややかな問いに答えようとしてラキアが固まる。何故なら良からぬ発言をしようとしたので、ナターシャが弓を構えたのだ。
「……あたいのアークさぁ」
怖い怖い怖い。ナターシャさんの桃色の双眸がラキアを捉える。
「たまには良いではないか。我もベッドの……」
「エレメント・ランス」
うわ! マジで撃ち出したぞ。ラキアの頬を魔力の矢が掠める。って言うか今日はどうした? ラキアの不謹慎な発言をいつも流してるのに。
「<風魔手裏剣>」
「なっ!?」
おっと後ろから攻撃して来ようしてる馬鹿がいやがった。気配で丸分かり。五十の兵に囲まれている中で雑談を興じてるので、隙だらけに見えたのだろう。風魔手裏剣を五発程飛ばし足元に放ってやる。
ちなみにだが、雑魚聖騎士長は聖王に報告に行って不在。戻って来るまで暇なので雑談に興じてる訳だ。てか、それよりも……、
「ナターシャ、何か機嫌悪い?」
「散々待たされて、散々歩かされて、また待たされているさぁ。あたいも流石にイラっと来てるさぁ」
「だからって我に八つ当たりするでない」
「てへっ!」
歳考えろ。実質年齢二十八だろ。何拳をコテリと頭に当てて舌を出してるんだ?
「何か失礼な事を考えてないかい?」
「ソンナコトナイヨー」
エスパーめ!
「てか、たまにはラキアをベッドに誘うか」
「アーク!?」
「おお! 主様よ」
ナターシャが目を剥き、ラキアが目をキラキラさせた。
「で、両手足を縛って放置。ナターシャとのを見せびらかす」
「それは良いねぇ」
「ガーンっ!!」
ナターシャはニッコリ笑い、ラキアは血の涙を流すような勢いで絶望的な表情に変わる。
「主様よ、悪魔の所業ではないか。それでは一人でする事も……」
「慎みを持てとキアラに言われるぞ」
キモい事を言おうとしたので遮る。
「いやいやいや、な、何でもないのだ。わ、わ、我はそ、そんな事した事ないのだ。あは、ははは……」
動揺が凄いぞ? しかも珍しく顔が赤いし。ラキア的によっぽど失言だったのだろうか。こないだ止めなければ『濡れる』とか言いそうになってたけど、アレのが酷いと思うけどな。
「<風魔手裏剣>」
再び後ろから攻撃して来ようとした者がいた。同じく風魔手裏剣で牽制。
「ウザいわ! お前ら如きでは相手にもならないって好い加減気付け!」
「くっ!」
威圧を飛ばすと兵達が後退る。
「待たせなな。聖王陛下がお会いになるそうだ」
そこで雑魚聖騎士長が戻って来た。
「あ、ハゲ」
「ハゲだと!? 儂にはランプ……」
「ハゲだねぇ」
「ハゲだな」
「ハゲ言うでない!」
雑魚聖騎士長の名乗りをナターシャとラキアが遮る。まあ鑑定で見たが、ランプレードとかちょっと格好良い名前だったけど……、
「断髪ハゲで良いよ」
「断髪……ハゲ!?」
雑魚聖騎士長の顔が真っ赤になる。
「良いから聖王のとこに案内しろよ。断髪ハゲ」
「早く案内するさぁ。ハゲ」
「ハゲよ、さっさとするのだ」
「ぬぅぅぅぅおおおお!!!! ハゲハゲ言うなーっ!!」
「うるせーよ! 断髪ハゲが」
叫び出したので、小太刀の切っ先を首元に当てた。
「くっ!」
「ほら案内しろ。ランプレーハゲ」
「早くするさぁ。ハゲ」
「さっさとするのだ。ハゲ」
雑魚聖騎士長……もとい断髪ハゲは、大人しくなり踵を返すと応接間に案内した。
そこに一人偉そうに椅子にふんぞり返ってる者がいる。こいつが聖王か。少し筋肉ムキムキで、武人タイプと言ったところか。水戸黄門みたな長い顎鬚を生やしている。
後ろに二人立ってる者が……宰相と摂政あたりだろうか? 二人は青い顔している。まあ道場で暴れたいしな。が、聖王は堂々としている。ちなみに断髪ハゲは、出入口に立った。
「余が聖王ジャパネット=ジャパン=ジパーングだ」
何だよその通販サイトみたいな名前は。しかもミドルネームがジャパンとか酷過ぎる。この国の評価がどんどん下がるな。