EP.04 アルと名無しが戦いました
「くっ! 俺はどうなった? っうう……体が動かない……」
「やっと目覚めた?」
俺の視界に見知らぬ女が入る。
「ここは? 俺はどうなった?」
「ここはラームジェルグの町。貴方は倒れていたの。三日間目覚めなかったわ」
なん……だと?
エルドリアから、こんな距離を吹き飛ばされたのかよ。
「そうか……迷惑をかけた」
「確かにね。目覚めが悪くなるから治療とかしたし」
「すまん」
「貴方ダークでしょう? エド城を滅ぼした」
俺がやったのではなのだがな。まぁ良いや。
「……だとしたら?」
普段の口調からダークの口調に切り替える。
ダークの口調は口数少なく低く喋る。ダームエルにアークスと対面した時にダークだとバレないようにと言う入れ知恵なのだが、早速バレているようだ。
気付くと、被っていた仮面がない。恐らくこの女に治療の為に取られたので、バレたのだと思われる。
もし、此処まで吹っ飛ばさた際に壊れたなら気付かれなかったのではないかと思う。
「取引しない?」
「……取引?」
「こちらの要求は二つ。それに応えてくれたら、ある程度動けるようになるまで治療してあげるわ」
断ったら動けないというのに即刻出て行けと言うのだろ? 選択の余地がないな。
「……内容は?」
「一つ、ある程度動けるようになったら、さっさと出て行く事。もう一つは、三人程殺して欲しい」
「……標的は?」
「若い女……そうね。十二~五歳くらいの少女で、ラームジェルグの町に住んでいて、私とは無関係な人。ただし一日一人で三日かけて殺して。それと殺すのは必ず夜ね」
何だ? その変わった殺しの依頼は。
《やけに具体的だな》
「……わかった」
「何も聞かないのね」
「……興味無い。変わった依頼だとは思うがな」
「そう……じゃあ殺しが出来るまで確り体を休めて起きなさい」
そして俺は深い眠りに付いた。
十日経つと、ある程度動けたので言われた通り三人殺してダームエルと落ち合う事になってるサーストックスかカルドリアを目指す為に港町ニーベに向かって出発した。
が、ダームエルの合流するには船に乗るしかないと言うのに、港町ニーベでは、港がラフラカ帝国により封鎖されていた。
ちなみにだが、顔は覆面を買って隠してる。防御力を考慮すると鉄仮面が良いのだが、生憎持ち合わせがない。
「何でも二週間前に、こっちの方へ反帝国組織の一人が飛ばされたんだって。それを捕まえる為に封鎖してると」
後ろから、いきなり声を掛けられた。二週間前って……俺の事か。
となると直ぐに合流できないな。どうしようかな?
「お前もフィックス領の方へ行きたいのか?」
後ろにいた奴がそう続けた。俺は振り返る。其処には筋肉ムキムキのエドと似た色の髪の奴がいた。下は道着で上がトンクトップと言う丸で筋肉を見せつけたいかのような服装だ。
ただ髪型がダサいな。モヒカンかよ。だが、気になるのはこいつの覇気だ。体から溢れる闘気と言えば良いだろうか。かなり凄いな。
《こんなとこにもプレアブルキャラか。マジで髪型ダサいな。まあ鑑定っと》
名前:アルフォード=フィックス
年齢:十四歳
レベル:60
クラス:空手家
称号:闘神修行修了
HP:6000
MP:0
力:2500
魔力:0
体力:1500
俊敏:600
スキル:拳使いv8、闘気Lv8、気配察知Lv1
エクストラスキル:麻痺耐性、痛覚鈍化
ユニークスキル:大力無双
《ヤバいくらい強いな。闘気Lv8って何だよ!?》
「……ああ」
とりあえず答えておく。
「これじゃあチェンルに行くしかないな。お前も一緒に行かないか?」
確かに、他に船に乗るにはチェンルに行くしかないな。
「……何故俺を誘う?」
「旅は道連れって言うだろ? それに、お前の漂わせる闘気が凄いからな。サバンナを通るのに強い奴がいた方が心強い」
いや、お前一人でどうにかなるだろ? それくらいの覇気があるぞ。まぁ良いや。まだ本調子じゃないし有難い。
《確かに一人で、どうとでもなる強さだよな》
「……良いだろ」
「そうか。俺はアルファード=フィックス」
ん? フィックス?
「エドの縁者か何かか?」
「兄貴を知ってるのか?」
アルフォードと名乗った者が目を丸くする。
「ん? 弟なのか?」
「ああ。双子の弟だ。お前は兄貴と、どんな関係なんだ?」
「雇い主」
「雇い主? お前は、何をやってるんだ?」
「殺しもやる何でも屋。その二週間前に飛ばされたという奴が俺だと言ったらどうする?」
「ガハハハハハハ……」
いきなり豪快に笑われた。
「どうもしない。兄貴が雇ってそんな事になったのだろ? 詫びを入れる事はあっても怒るなんてしねぇよ」
「……そうか」
良いオーラを出してるだけあって、おおらかなんだな。無論関係ないが。
「それで、お前名前は?」
「……ダークだ」
「宜しくな。俺の事はアルで良いぜ」
「……ああ」
こうして俺達は二人でサバンナに入る事になる。見通しが良い上に大陸中の魔物が此処から、始まり此処に帰って来ると言われる危険地帯で、良く襲われる。
最近知ったが五年くらい前からラフラカが魔導の研究をしており、まず手始めに動物で実験し魔物に変えたとか。だから、此処から始まったようだ。
しかも今でも、動物を狂化しているという。面倒な場所だ。
「ムシャムシャ……」
其処で、こいつはあろう事がチキンを食いながら横断してる。匂いでも寄って来るだろうが。あ、後ろから来た。
「ふんっ!」
振り返りもせず裏拳を後ろに放つ。それだけで闘気の塊が飛び魔物が一瞬で絶命した。
こいつ何なんだ? 俺、完全に必要ないだろ。
「……闘気の扱い上手いな」
「ん? 闘気を知ってるって事はダークも扱えるのだろ?」
「いや、俺はそんな軽々使えないし精度を良くない」
俺の闘気剣は、小太刀を逆手に持った時のみ五分五分の確率で使える。勿論集中してだ。決して食い物食べながら後ろを見ずに裏拳を放つだけで使えたりしない。
「ガハハハハハハ……実はなロータスの南にある森に隠れ住んでる武術の神様ってのに弟子入りしていたんだ」
そんなのがいるのか。神様って言うくらいだ。闘気なんて簡単に使えるのだろうな。
《それが闘神って奴なのか? 称号にあったけど》
「其処で数年修行したから帰ろうと思ってな」
「……そしたら港が封鎖されてたってわけか」
「まあな。まさか兄貴に帰りを邪魔されとはな。ガハハハハハハ……」
ほんとに豪快に笑う奴だ。
「うまそうなにおいするにおいする」
ん? 何だ? 気配が希薄だったぞ。
いつの間にか、其処に野生児がいた。サバンナで暮らしてるのだろうか? 十歳にも満たない少年に見える。服装は獣の皮を鞣したものだけだ。
《あ、またプレアブルキャラだ。鑑定っと》
名前:名無し
年齢:八歳
レベル:60
クラス:野獣
称号:野獣
HP:4000
MP:0
力:400
魔力:0
体力:1800
俊敏:2000
スキル:拳使いLv7、闘気Lv3、気配察知Lv7
エクストラスキル:毒耐性、麻痺耐性、痛覚鈍化
ユニークスキル:立体軌道、挿爪生成
《こいつも強ぇな! 俺のキャラより俊敏があるし、ユニークスキルが二つあって三種の耐性スキル持ちかよ。てか、名無しってなんだよ?》
「おれにもくれおれにもくれ」
「ん? これの事か?」
アルは気付いていたのだろうか? 驚きもせずチキンを見せる。
「それだそれだ」
「ガハハハハハハ……じゃあ俺に一本取ったらやるよ」
「いっぽん? なんだそれなんだそれ?」
「あ? えーーそうだな。一発俺の顔面を殴れたらやるよ」
アルが言い直した。
「わかったぞわかったぞ」
野生児が馬鹿正直にアルに突っ込む。と言うかこんなとこで暴れるのか? アルの闘気に巻き込まれるのはごめんだ。離れよう。
「はっ!」
気合いともにアルが右拳を突き出す。
バッフーンっ! と、闘気の塊が飛ぶ。
「うえっ!?」
ドテっ腹に直撃し野生児が吹き飛ぶ。あれはモロに入ったぞ。死んだのじゃないか?
だが、野生児は立ち上がりケロっとしてる。そして、また馬鹿正直に突っ込む。
速い! 俺より速いな。だけど、そのスピードを使いこなしていない。ただの猪突猛進だ。
「はっ!」
バッフーンっ!
「ぐふっ!」
その証拠に先程の焼き直しだ。しかし、また立ち上がりケロっとしてる。
タフだな。そして、また突っ込む。同じ事になるぞ。
「はっ!」
さっきと同じように拳を突き出すだけで気弾を飛ばす。
バッフーンっ!」
スッ!
お! 今度は半身ズラして躱した。最初の二発で見極めたのか。
野生児がそのまま走る。そして遂に間近まで接近する。
「うー」
唸りながら、右手を突き出す。拳ではなく爪による攻撃だな。と言うか爪が伸びている? あれどうやってるんだ? 闘気の爪か?
《ユニークスキル 挿爪生成の効果か。あれが武器代わりなんだな》
それをアルが左腕を内側から外側に流すように往なす。良い反応だな。そして、右拳突き出す。
野生児はそれを無視し、左手を突き出した。
バコン! ブスっ!
見事にクロスカウンターになったな。
アルの右拳が野生児の顔面に炸裂。野生児の左爪がアルの右胸に突き刺さる。今のは惜しかったな。
野生児は顔面殴れば勝ち。なので、野生児は確り顔面を狙った。しかし、身長差に加え、先にアルの拳が届き狙いがズレたのだ。
「ふんっ!」
おいアルが突き刺された右胸を止血したぞ。何処まで筋肉で物を言わせるんだ?
《いや、違う。攻略サイトで見た。闘気レベルが7に達すると一定時間止血ができるのだ。ただ、たぶんだが、今の一撃は浅い。よってその一定時間が過ぎた頃には、肉体の再生力で完全に血が止まるだろうな》
その後、ドロ沼の殴り合いが始まる。躱し、往なし、殴り、突き刺しとしばらく続いた。しかし、アルの攻撃の方が多く入ってる。
闘気を自由に扱え、あの筋肉質の体。かなり破壊力があるだろう。対する野生児は小さい。
だと言うのに耐えている。かなりタフだ。
《力はなかったけど体力があったからな。そりゃタフだろうな》
「うーっ!」
やがて野生児が唸り、アルに蹴りを入れ、その反動で距離を取る。
シュッ!
次の瞬間、野生児が爪を振るう。斬撃が飛ぶ。野生児も多少は闘気を――アルと比べたら――扱えるようだが、それより速さだ。空を切る速さにほんのちょっとの闘気で斬撃が飛んだというべきか。
《いや、それもたぶん違う。この名無し野生児は、闘気レベルが3しかない。よって斬撃は飛ばせない。よって、これもユニークスキル 挿爪生成の効果だろうな。しかし、応用が利く良いスキルだ》
ズサーっ!
アルはそれを両腕をクロスさせ耐え凌ぐ。腕が擦りむけ血が吹き出て、少し後ろに下がった。かなりの威力があったな。
「ふんっ!」
おい今、また筋肉で出血を止めたぞ。デタラメだな。
「オォォォラバスタァァァっ!!」
アルが叫び、お返しと言わんばかりに両掌を突き出した。
ズゴォォォォっ!
今まで闘気弾の比じゃない。今までのは拳サイズくらいだが、今のはその五倍はあるぞ。さながら、あれがアルのとっておきなのだろう。
ゴッフーンっ!
「ぎゃっ!」
直撃し空高く吹き飛ぶ。今度こそ死んだのではないか?そう思っていたら、野生児は空中で体勢を立て直す。
マジか!? タフってレベルじゃないぞ。
ガツっ!
それどころじゃない。あいつ今、中空を蹴ったぞ。
「な、何ぃぃぃっ!?」
アルが目を剥いて驚くのもわかる。
俺も驚いてる。中空を蹴る奴は、初めて見た。たぶん闘気で固めたのを足場にしたのだろう。
《これもユニークスキル 立体軌道か。ヤバいくらいに良いユニークスキルだな。これで闘気レベルがもっと上がればバケモノだな。最強クラス間違い無し》
そして、野生児はアルにそのまま突っ込む。
スッ! と、アルは右に避ける。
野生児は、アルの後ろに着地し、即座に反転し爪を突き出す。
「おっと」
それをアルは右腕で、内側から外側に動かす事で往なす。
其処からが目を疑いたくなる光景が広がった。野生児が飛び、中空を蹴り、跳ねるとアルの左側に周り、また蹴り、戻って来たと思ったら、また中空を蹴りアルの右側に周り、また蹴るを繰り返した。
一体何なんだ!?
「はっ! はっ! はっ! はっ!」
右左右左と拳を突き出し気弾を飛ばすが、全て空中を縦横無尽に駆け、躱す。
そして、野生児はアルの背後に周って攻撃に転じる。爪ではなく拳を突き出した。キメに入ったのだろう。
アルが振り返った瞬間、それが炸裂。それでも、アルはビクともしない。
野生児は空中にいて、体勢が悪い。反撃したらアルが勝つかも知れない。
しかし……、
「やるな」
アルがニヤリと笑う。
これは顔面に攻撃を受けた時点でアルの負けと言う勝負なのだ。故に反撃など無粋な事はせずに相手を称賛していた。