EP.08 大歓迎でした
さあやって参りました聖都ヤマト。港町キョウから始まり、トサの町と全て木造住宅だ。他の国は小さな村はともかく、町とかは石造りだったのにジパーング聖王国は、やはり日本人が関わってると思える建築様式と言える。
だが、同じ木造なら精霊族の集落のようなログハウスのが趣きがあって良い。と、思ってるのはたぶん俺だけじゃない筈。
とは言え、精霊族の集落と四ヶ国周ったのは、この中で俺だけなので、他の者は違う感想を言うかもしれない。ナターシャは、ダンダレス帝国を含め五ヶ国を周ってるが精霊族の集落に来てないので感想を求められない。
そして、流石は日本人が関わってるだけあって聖都の街並みが几帳面過ぎる。港町キョウと聖都ヤマトの丁度中間にトサの町があった事からもそれが伺える。
まず南門から町に入ると目の前に大きな噴水。そして大通り。そのずっと先に王城だ。両サイドは綺麗に家が整列している。
こうも王城が目立つように見えるのは、攻め込まれた時どうなんだ? 他の国……ウルールカ女王国とレオン獣王国しか知らないけど。その二国は、王城までの道のりがそれなりに複雑だ。これは攻め込まれた時に王城に行かせない為からである。
それと城の建築様式も日本城を彷彿させる。先程挙げた二国は洋式っぽいデザインだったけど。
「レオン獣王国から使者として参りました。これ書簡です」
予定通り俺とナターシャとラキアで城を訪ね、城門の衛兵に声を掛け獣王国の刻印がされた書簡を渡す。四人いた衛兵が当然ながら全員して目を剥く。
獣王国に獣人を捕まえに行ったのに、その捕まえに行った連中の大半が帰って来ない……下手すると全員帰って来ていないと言うのに獣王国の方から使者が来るんだもんな。しかも獣人ではなく人間――妖精も混ざっているが隠している――だ。ちなみにだがファーレはキアラに預けた。
「しょ、少々お待ちください」
そう言って書簡を持った衛兵が城に引っ込む。その後、待たされた。かなり待たされた。時間にして一時間は城門で待たされた。
これはあれだな。緊急会議が開かれているな。俺達の対応をどうするかって。まあ結果は見えているのだけど。
「お待たせしました。ご案内します」
やっと戻って来たか。このまま城に通してくれるのだね。と、思いきや城に入らず城の外周を右回りに周る。
「何処に向かっている?」
「お、応接…間です」
はい、真っ赤な嘘です。動揺の汗が凄いよ?
そうして城の外周を1/3周った辺りで立ち止まる。いや~ここまで長かったね。二時間歩かされた。一時間待たされ、二時間歩かされるとか、どんな罰ゲームだ。かなりイラっと来る。
ナターシャは、澄まし顔でいるがラキアなんて鬼の形相だ。顔には出てるが文句言わないだけマシだな。まあこうなるのは全部予想していたし。キアラがいたら、とっくにキレてるだろうな。
で、到着したのは格技場。他の国で言うとこの訓練場だな。建築様式的に格技場って感じだ。はい、此処で囲んで銃撃するのですね。分かります。
で、何故か入口が個人所有道場にありそうな引き戸。小さい……個人所有道場じゃないんだから引き戸にすんなよ。大きさは、東京武道館の二倍の15㎡あるんじゃないか? 尤も東京武道館なんてテレビでちょっと見た程度だから、大きさなんて正確に知らんけど。
俺は引き戸から入ると一礼した。
「何してるんだい?」
「主様よ、それは何だ?」
「いや、日本人の習慣」
道場に入る際に一礼すると言うものだな。まあ俺は武道なんてやってないから正式な作法なんて知らんのだけど。それこそ沙耶なら、作法に詳しそうだな。なんせ家が道場で、笹山流薙刀術を広めているようだし。
衛兵に続き板張りの道場を中央に向かって進む。他の国で言う訓練場だし、外周には弾避けの塀があり、その向こうが観客席のようになっている。例えるならスケートリンク場のような作りで、塀の高さが胸の辺りまでだ。
それだけでは、魔法とかの弾避けには不足なので、当然結界のような術式が張ってある。観客席には、あらゆる一定の威力までの攻撃を防ぐと言う仕様のものだ。
まあそれはどうでも良い。問題は、その塀の向こうだ。しゃがんで隠れているつもりだが、気配がただ漏れだ。大歓迎だな。五十人はいるんじゃないか?
つまり、誘い込まれているのだな。まあそれを分かっていて衛兵の後ろを歩き、道場の中央に向かって行ってるんだけど。
「ラキア」
「馬鹿め!」
俺がラキアを呼ぶのと塀の裏に隠れていたリーダーっぽい奴が声を発するのが同時だった。さてどっちが馬鹿でしょう?
「分かったのだ。<雨魔法>」
「やれ!」
これまた同時だ。リーダーっぽい奴……ハゲだ。お侍さんのちょんまげを断髪したようなハゲだ。その断髪ハゲがそう言うと、一斉に塀の裏に隠れていた連中が立ち上がり発砲。
……
……………
……………………。
当然不発。塀の裏から立ち上がり姿を現す前にラキアが雨魔法で、火縄銃を濡らしたのだから。
今回は、大雨魔法にせず、下位互換の雨魔法のようだ。コロシアムより、狭いし自分達まで濡れるからな。あの時、俺も濡れたんだよな。当のラキアは、VIP席にいたので、濡れてなかったけど。
「公平に貴様も濡らしてやるのだ。<放水魔法>」
雨の範囲を逃れた俺達を此処まで連れて来た衛兵もびしょ濡れにしだす。
「なん……だと!?」
断髪ハゲが擦れた声を漏らす。
「何故……我等いるのに気付いた? 何故……この兵器の弱点を知っている? 何故だ? 何故だぁぁぁああああ!!!」
煩いな。怒鳴るなよ。
「お前、馬鹿なの?」
「な、にを?」
「獣王国に行った連中は、数人くらい帰って来てないのか? 帰って来てるなら、弱点が看破されてるのは伝わってるだろ。帰って来ていないのなら、それはそれで捕虜になってるって丸分かりだろ。もしもーし! 君の頭は誰か入っていますかー?」
おっと未来に戻るって映画の小悪党の台詞が飛び出てしまったぜ。
「煩い! これなら……」
パンっ! カキーンっ!!
銃弾が飛んで来たので、反射的に小太刀を抜き斬り伏せていた。
お! 少し進化した銃だな。銃に詳しくないから、よく分からんがマスケット銃って奴か? 水に濡れても撃てるようだけど、一発づつしか弾を込められない弱点は変わらんな。
「銃弾を斬った……だと!? なら……はぁぁぁ!!」
目を剥き、驚いたと思ったら今度は刀を抜いて突っ込んで来た。
「はぁ~」
溜息が出てしまうぜ。
「な、に?」
断髪ハゲが目をこれでもかと見開く。小太刀をしまい真剣白刃取りをしてやりました。
「よっと」
「ぐふっ!」
ついでにヤクザキックで突き放す。
「やっぱ馬鹿? 銃弾より遅い剣が通じるかよ」
「嘘だろ……?」
「聖騎士長の剣が」
「銃弾を斬ったのもまぐれ……じゃない?」
周りの兵から、驚きの声が上がる。
つうかこの断髪ハゲが現聖騎士長? トモエと比べてゴミ過ぎるだろ。一応鑑定っと……………………表示するまでもなく酷い数値だ。見るべきとこは銃術ってのがスキルにあるくらい。レベル1だけど。
「聖王に会わせてくれない?」
「くっ!」
小太刀を再び抜き切っ先を雑魚聖騎士長に向ける。
「そもそもさ、獣王国からの使者をこんな歓迎して良い訳? おたくらアルーク教国と戦争してるんだろ? 両国と同時にやり合うの? ついでに使者に手荒な歓迎をしたって他国に喧伝されたい訳? 馬鹿過ぎるだろ」
「ぬっ……」
雑魚聖騎士長は、何も言い返せず苦虫を嚙み潰したような顔をしだす。
「そもそも勘違いしていない? 俺達は聖王と話しに来たんだよ。まず話し合いじゃねぇの? なのに初手で攻撃して来たって事は暴れて良いって事かな?」
「なにを……」
「ナターシャ……<下位火炎魔法>」
「分かったさぁ……エレメント・ファイアーランス」
ドッゴーンっ!!
いちいちこっちの世界の魔法を使うのは面倒なので、あっちの世界の魔法をナターシャにぶっ放す。それを弓で受け止めて魔法弓を打ち出す。
「<下位火炎魔法>」
「エレメント・ファイアーランス」
「<下位火炎魔法>」
「エレメント・ファイアーランス」
「<下位火炎魔法>」
「エレメント・ファイアーランス」
ひたすら繰り返し、天井や地面を打ちまくる。
「はははは……………燃える燃える。良く燃えるぜ。はーはっははははは……」
他の国の訓練場は、石作りだが此処は床も含めて木材。燃えまくる。ちょっと悪ノリで悪役的な笑いをしてみた。
「悪魔みたいだぞ、主様よ」
なんか妖精が言ってるがスルー。
「さて、続けて城も燃やしに行くか」
「やめろぉぉぉぉ!!!! やめてぇくれぇぇぇえええ!!!!」
雑魚聖騎士長の絶叫を上げる。
「なら、聖王のとこへさっさと行け。そして会わせろと言ってると伝えろ」
「わ、分かった」
「じゃあ消化宜しく」
「相手の兵器より、主様達の攻撃のが酷いぞ。<大雨魔法>」
ラキアがげんなりした顔で大雨魔法を使う。
結局びしょびしょだな。残ったのは、床も天井も至る所が穴だらけ、焦げだらけの見るに無残な道場と恐怖に震える兵達だった。