EP.07 実は霊獣使役では不足でした
港町キョウから聖都ヤマトに向けて馬車で朝から出発し、のんびり走らせても夕方頃には小さな村に到着する。
その小さな村から出発し、同じ距離を進むとトサの町と言う大きな町に到着する。そこから更に同じ距離を進むと再び小さな村に到着する。で、また更に同じ距離を進むと聖都ヤマトに到着する訳だ。
つまり何が言いたいかと言うと聖都ヤマトと港町キョウの丁度中間にトサの町があり、そのトサの町と聖都ヤマト、港町キョウのそれぞれの中間に小さな村がある。日本人が建国に関わっていそうなだけはあり几帳面だと言いたいのだ。
緻密に距離を計ったのだろう。しかもだ、港町キョウから急いで馬車を走らせれば夜にはトサの町に到着出来る。もしかしたら、そこまで計算して大きな町にしたのかもしれない。
だが、名前が酷い。ジパーング聖王国の北にはサツマの町なんてのもある。マジで名前が酷い。
それはさておき、ジパーング聖王国とアルーク教国の国教にされている宗教について今更ながらに説明しておこう。
ジパーング聖王国の宗教は端的に言えば転移者を信仰している。転移者は魔王を倒し平和を齎してくれるので、崇め感謝しましょうと言う内容だ。
ルナリーナ南大陸で転移者を聖人と言って信仰しているとのと同じだな。いや、宗教にしてる辺りそれ以上なのかもしれない。聖人信仰と呼ぶべきものだ。
対してアルーク教国は、端的に言えば転移者を遣わしてくれた神を崇め感謝しましょうと言う内容だ。こっちのが宗教らしい神様信仰だな。
で、その主義主張が違う宗教のせいで昔から争いが絶えないとか。どっちも魔王を倒し平和を齎してくれているってとこは共通してるんだから、どうでも良いだろ。くだらない、実にくだらない。とは、思うのだけど。
と言うか、そもそもの話、魔王と言う存在が生まれるようにしたのは、神だろと言いたくなんるんだけどな。
だが、この世界の者は魔王がいるのが当たり前って考えで、そこにツッコミを入れる者はいない。
こう考えると神ってのは一番最悪なのかもしれないな。まあそれをジパーング聖王国やアルーク教国で言おうものなら吊し上げられるだろうけど。
冒頭説明から始まったが、俺達は現在トサの町の宿屋にいる。港町キョウから出発し二日目の夜だ。聖都ヤマトに到着後の事で話を詰めようと思い皆でテーブルを囲む。
「トモエクラスはいないと思うが油断は禁物だ」
「またトモエねぇ。そんなに美人が忘れられないのかい?」
「面食いアークですね」
「主様よ、好い加減に我という良い女がいる事に気付いたらどうだ?」
「そんな話ばかりうんざりよ」
またかよ! 何で皆して生き生きと俺を攻め立てる? 酷くね? もうスルーで良いや。
「作戦としては、銃を持ち出して来たらラキアが全部濡らしてしまえば良い」
「話を逸らしたさぁ」
「逸らしアークですね」
「主様よ、今は良い女について大事な話をしてるのだぞ」
「すり替えるとかサイテーね」
まだ続けるか。
「こんなのが主人とか貴女も大変ですね」
キアラが俺の頭の上……ファーレを見て言う。そっちまで話を振るなよ。
「妖精風情が知ったような事を! 妾の自由だ」
頭の上で憤慨してるな。
「自由も何も使役されてるではないですか」
確かに霊獣使役で縛っている。
「妾は神獣だ。霊獣使役の縛り程度その気になれば破れるわ!」
「え?」
マジで?
「なら何故いつまでも縛られているのですか?」
「それこそ妾の自由だ」
「ファーレ、その気になれば使役から抜け出せるのか?」
「然り、主上」
俺の問いに答えたファーレは俺の頭からテーブルに降り立ち、俺の顔を見て再び口を開く。
「残念ながら主上のは神獣使役ではございませんので」
「でも、使役されたよな?」
「それは、まだ意識も持たぬ卵の時に従魔契約をされたが故。意識を持ってしまえばどうとでも出来ます」
マジかー。そうだったのか。それで良く使役されっぱなしだったな。
「そもそも主上とは、思念伝達が出来ませぬ」
「え?」
「本来従魔契約とは、口に出さずとも指示を出し合えるものです」
確かにいつも口で指示を出していたな。
「ですが、徐々に縛りがきつくなっております。それは霊獣使役のスキルレベルが上がっている証左。主上ならば、やがては神獣使役に至るでしょう。その頃には、きっと妾も成長しておりますので、今より十全に力を発揮出来るかと存じます」
そこまで語ると右羽根で顔を隠し優雅に頭を垂れ、俺の頭に戻って行く。毎回思うが美しい所作だ。
最初に比べ確かに霊獣使役のレベルが上がっている。それは使役されているファーレにも分かるのだな。
ところで超今更だが、俺の頭の上がかなりお気に入りなのかね。外では危険だから頭にいろと指示を出した。しかし、宿屋等は別に問題はない。なのに大抵ファーレは、俺の頭の上にいる。別に良いんだけど。
「さて話を戻すが、ラキアには銃を全て濡らして貰いたい」
「主様を考えると股ならいつもぬ……」
「黙れ!」
何かキモい事を言おうとしている。
「慎みのない妹をさておき、話を戻すならアークが美人の事ばかりというとこではないでしょうか?」
まだ言うか。
「そうだねー。ファーレの所作は美しいねー。妖精風情よりよっぽど」
「何故我も言われる!?」
「ウチもそんな事を言われる謂われないですね」
「じゃあ喘ぎ妖精だな。そうだよな? ファーレ」
「その通りです。慎みがないのは姉の方です」
「主従揃って失礼……あぁぁんっ!!」
例の如く羽根を触ってやる。
「これを喘ぎ妖精と言わずなんて言う?」
「ぬぅぅぅ!!」
顔を真っ赤にし睨み付けて来る。
「骨根もそう思うよな?」
「……俺様に振るんじゃねぇ」
「顔、赤いよ?」
「だから、俺様に振るんじゃねぇっつってんだよっ!!!」
「スカルもうんざりなくらい男の子ね」
「っるせー! そもそも俺様はボインボインが好みなんだよ。こんな真っ平とか興味ねっつーんだ!!」
いや、お前の性癖の話なんて聞いてないぞ。と言うか、胸の前に見た目年齢を気にしろよ。キアラ達は、八歳で成長が止まったらしいし幼女だぞ。ついでにビオサーラが、そのボインボインなんだが、本人の前で良く言えるな。
「真っ平とは失礼ですね」
「これでも少しはあるぞ。主様以外には見せんがな」
「見せんで良いっつーんだ」
「あ、俺も目が腐るから見せるなよ? 絶対に見せるなよ」
「酷いではないかっ!? 腐るとまで言う事はないだろ? 主様」
「あーーーじゃあ見たい見たい。キアラのが」
「何故ウチになるのですか!?」
姉妹揃って目を剥く。
「姉上ばかり羨ましいぞ」
「冗談はさておき」
「どこまでが冗談だったのですか!?」
はい、テンプレですね。
「煩い! まだガタガタ言うなら、今晩羽根をイジり倒すぞ。あ、ラキアは引っこ抜きな」
「「えっ!?」」
二人揃って固まる。
マジで好い加減に話を進めさせろってーの!
「まあとりあえずは正面から、獣王からの使者だって乗り込むけど、十中八九城に招かれた後に銃撃部隊に囲まれるだろうな。銃を過信してる馬鹿共っぽいし……」
そうして話を進め。今後の予定を詰めた。