EP.06 トモエは元聖騎士長でした
「……と言う訳で、依頼を取り消しにしてあげておくんなんし」
「分かりました。そのように受理します」
トモエが言った通りギルドに話を通してくれ、あっさり受理された。本当に融通効くんだな。
普通受付嬢じゃ判断出来ないとかで、上役に相談しそうだけど。
トモエって何者? それに受付嬢の第一声は『トモエ様!?』だった。位の高く有名な人なのだろうか。
「ところで、素材を是非当ギルドで引き取らせて頂きたいのですが」
「構わないでありんす」
「それにしてもアークさん、良かったですね。オークエンペラーは、Cランク冒険者には荷が重すぎますから」
まあこの世界では、平均的なAランク冒険者と同等の力があると言われてるからな、エンペラー。
「そうですねー (小並感)」
「その点、運が良かったですよ。聖騎士長のトモエ様が討伐してくださって」
聖騎士長? マジか。聖騎士長とは、他の国で言うとこの騎士団長の位だ。
ちなみにだがウルールカ女王国を例にすると、第一騎士師団や第二騎士師団、第一魔導師団、第二魔導師団等があり、それぞれの長が、第一騎士師団長、第二騎士師団長、第一魔導師団長、魔導第二魔導師団長と呼ばれる。そしてそれら全てを束ねているのが騎士団長だ。
「元、でありんす」
どっちにしろすげえ奴だな。まああれだけの実力があれば頷ける。
そうしてオーク素材の換金が終わりギルドの外に出る。俺の収納魔法にも入れていたので、一応最後まで残っていた。
「口添え助かった」
「気にしなくて良うござりんす。主さんの依頼を横取りした形になってまいましたでありんすし」
「にしても、元とは言え何でこんな所に聖騎士長がいるんだ?」
ついでだし情報収集をしておこう。これから聖都に行くし人事について聞けるかも。もしかしたら現聖騎士長はトモエより、強いかもしれない。
「もしかしたら、獣王国から獣人達が攻めて来るかもしれせんので、備えでありんす」
「それって先にこっちから手を出したから、報復を考えてか?」
「知っていんしたか。それなら隠していても仕方ありんせんね。その通りでありんす」
トモエが目を丸くしながら言う。ただそれだと引っ掛かるな。俺は腕組みをしながら唸る。
「うーん。それならトモエみたいな強い奴は聖都の守りをするべきじゃないのか?」
「……左遷されたのでありんす」
トモエの眉が下がり溜息と共に溢す。それに艶めかしさを感じる。
「はぁ!?」
「銃は見んしたか?」
「ああ」
「あれは並みの兵を一定レベルまで引き上げんす。そうなればあちきはいらねえという事になりんして」
「いや、所詮一定レベル止まりだろ。銃使いを百人や二百人相手にしようがトモエの敵じゃないだろ?」
「その通りでありんす。なので、そう進言したのでありんすが、それが仇となりんした」
軸地たる思いで語る。
「もしかして、獣王国に手を出すのも反対した?」
「はい。だけど聞き入れて貰えんせんでありんした。このままでは国がどうなる事やら」
国の行く末を案じるかのように聖都の方角を眺めていた。
「銃ってどれだけ量産出来てるんだ? って言うか火縄銃より高性能なのはないのか?」
「……主さん何か探りを入れているのでありんすか?」
おっと露骨過ぎたか。これ以上あれこれ聞くのは危険かもしれないな。絶対にトモエとは戦いたくないし。
「いや、俺は獣人達をジパーング聖王国の者が襲った時に傍にいたんだよ。危うく巻き込まれで撃たれるとこだった」
「そうでありんしたか」
「なので、次同じような事があった時の為に備えておこうと思ったまでだ。国の内部情報を漏らせないなら、無理に聞かない」
「それは……申し訳ありんせん」
そうして俺はトモエと別れ、ナターシャ達と落ち合う事になっている宿屋に向かう。にしてもトモエが元聖騎士長で、現在は聖都の守護に就いていないのは朗報だな。
あの様子だと、銃の良さばかりに目が眩んだボンクラしかいなそうだ。それなら獣王国の要求を通し易いかもしれない。
次の日、トモエの事を皆に話した。
「美人に騙さてたんだねぇ」
ナターシャに蔑まれる。何で? 確かに美人の元聖騎士長だったとは言ったが、それだけだ。あ~あと戦い方も言及したか。でも、共有が必要な事だと思ったからのだけど。
「美人だったけどそれだけだ。もう会うかも分からないしな」
「通りで昨晩は、盛り上がってたんだねぇ」
「うっ!」
「うわ~」
ビオサーラが生ゴミを見るかのような眼差しを向けて来た。その視線がマジで痛い。
そうだよ。確かにビッグマグナムが完全覚醒したせいで、引っ込みがつかなくナターシャで発散したよ。だが、これだけは言っておくが……、
「他の女を考えながら抱いたとか断じてないっ!!」
それだけは、はっきりと言える。
「ほんとかねぇ。アークだからねぇ」
まだ言うか。
「トモエって人の戦いに見惚れていたのは事実のようだしねぇ」
「流石は見境無しアークですしね」
「流石に痺れんし憧れんぞ。いい加減我に手を出すが良い、主様よ」
二人増えたぞ。しかも見境無しってなんだよ!? ロクームと一緒にするな。
「これだから男ってうんざりよね」
「そう言ってやるな。男なんてそんなもんだっつーの」
更に増えた。マジで簡便してくれ。
「エーコがいなくて良かったよ。どんな蔑みの目で見られるか……。それにエーコの前で話すのは絵面が宜しくないしな」
「それは今更さぁ」
まあそうなんだけどね。それでも見た目九歳の前で話すのは、内容的に絵面が悪い。ビオサーラ辺りが確実に小さい娘の前で話す内容じゃないって言って来るだろうな。
「エーコって?」
ビオサーラが首を傾げ尋ねて来た。面倒だが、ここはこの前軽く話した俺達の事情をもっと詳しく説明しておくか。
「………………と言う訳だ」
「え? え? じゃあもしかしてアークは、私よりずっと歳上?」
目を白黒させながら言う。気になるとこそこ? まあ十も上だしな。流石銃に撃たれただけあって気にするのだろうか……って、つまんないッスね。失礼しやした~。
「そうなるな」
「なら、アークさんと呼んだ方が……いえ、呼んだ方が良いですか?」
「歳なんてどうでも良い。普通でいろ」
「うん、分かった」
ビオサーラが頷く。
「それより、話を戻すぞ」
「美人の聖騎士長の話だねぇ」
「節操無しアークの話ですね」
「我以外の女に、うつつを抜かす話だな」
「男は美人に弱ぇって話だったな」
「聞いててうんざりする話ね」
なんでやねん!!!
「ちっげー! 現在聖都はトモエがいない分、手薄だろって話だ」
「その話かい」
「そんな話もありましたか」
「ふーん」
「有難い話だぜ」
「……そうね」
なんか全員してテンション下がってない? 俺をディスって楽しんでいた? マジ酷くない? 骨根だけじゃん。普通に続けているの。男性比率の少ないパーティはこうなる運命なのかね。
「だからって、骨根とビオサーラを危険に晒す訳にはいかねぇ。俺達の目的は獣王の依頼をこなすのをついでにやり、骨根達をブリテント騎士王国に送り届ける事だ」
俺も、もう気にしないで話しを進める。
「そう思ってくれるのは助かるぜ」
「うん、ありがとう」
「って訳で、骨根とビオサーラとは一緒に北西の聖都ヤマトを目指すが、ヤマトに到着後別行動だ。極力俺達の関係者だとバレないようにしたい」
「分かったさぁ」
「分かりました」
「分かったのだ」
「御心のままに」
「助かるぜ」
「分かったわ」
何故かファーレも会話に加わった。まあ行動方針を了承しただけだけど。
「で、火力のあるキアラも何かあった時の為に二人の護衛で別行動」
「仕方ありませんね」
「そして、ナターシャとラキアは王城に向かう。銃を手にした程度で万能な気分に浸り傲慢になっている連中だ。恐らく戦闘になるだろうから心構えはしておくように」
そう銃を手に入れただけで、トモエを手元から引き離すとか傲慢にしか思えない。銃の良さばかりに目が眩みデメリットが丸で分かっていない。
「構わないんだけど、それで獣王からの依頼をこなせるのかい?」
「主様よ、戦闘したら完全に敵対する事になるって事だろ?」
ナターシャとラキアに問われる。
「圧倒的な力で勝つ。まずは銃があれば何でも出来ると言う幻想をぶち殺……ゲフンゲフンっ!!」
「なんだい?」
「それ最後まで言ったらアウトだろ」
ナターシャは首を傾げるが、骨根には意味が通じたのだろう。流石は転移者だ。
「えっと、まずは銃が使えないと言う事を分からせる。話し合いはそれからだ。たった三人で簡単に城を制圧出来れば、分からせる事も可能だろう。それが分かっていないままの連中は聞く耳持たない」
「なるほどねぇ」
「分かったのだ」
こうして方針が決まった。その後、軽くこの国の現状等情報を集める。そして次の日の早朝、北西に向けて出発した。