EP.03 会議にお呼ばれしました
-1786――――月陸歴1516年6月5日
「ニャンゴロ~~! 報復だにゃ!」
「地の利はあちらあンだろ!」
「それでも黙ってやられたままか? グルゥゥゥ!! 獣人賊の誇りはないのか!?」
「獣人ならば矮小なニャンゲンにゃど~~」
「あんの未知の兵器に成す術なかっただろ!」
「えぇ~い! それでも我らには四天王がいるだろうが」
パッシーンっ!!
と、テーブルが弾かれる。
「あんの四天王も苦戦していただろうがッッ!!!」
「グルゥゥゥ!! 獣人賊の誇りが……」
いつまで続くのかな? この茶番。て言うか、何で俺此処にいんのかにゃん……おっと猫大臣の口癖が。
何故か俺は会議の場にいる。
今回の襲撃は捕まえた捕虜からの情報で、ジパーング聖王国の差し金だと知った。ガッカリだよ。日本人にはきっと馴染み深い良い国を想像していたのに銃とか悪い意味で馴染み深いとかさ。
で、そのジパーング聖王国にどう対応するかの会議なんだが、荒れに荒れている。落とし前を付けに攻めに行くべきと言う者と、あちらの国が戦場になるので地の利があるので尻込みしている者と真っ二つ割れていた。
好戦的な猫大臣、保守的な犬大臣、誇りが誇りがって言っている狼大臣、他にも鬣犬大臣や像大臣等がいる。
その言い合いを黙って俯瞰しているのが獣王レオンライトに四天王の面々だ。
「ライコウ様の話では、貴殿は詳しいそうだな? あの兵器について」
いきなり話を振られたよ。今まで黙っていた鬣犬大臣に。
「詳しくはない。知っているってだけだ」
「ならば、貴殿が先行し行けそうなら攻めるというのはどうだ?」
「ニャンゴロ~~!! そう言っておいしいとこは自分が貰おうって魂胆にゃろ?」
まあハイエナだしな。て言うか、そもそも何で俺が先行しなきゃアカンねん? 俺、ただの巻き込まれなんですがね。
ところで何で俺がこの場にいるかだが、まず昨日の事だ。本来なら試合も終わり優勝賞金を貰っておしまいだったのだが、乱入者のせいでてんやわん。明日渡すので城に取りに来て欲しいと言われた。
で、ライコウが俺が火縄銃を知ってると話してしまう。まあライコウからすれば、銃なんて危険な物を持ち出したので、迂闊に手を出すべきではないと嗜めようとし、その銃が危険な物だと真実味が増すように俺も知ってる事を話したようなのだが。
その結果がこれだ。城に到着して早々に会議に出てくれとか意味不明だっつーの。
ちなみにだが、ライコウは転生者で、転生前は俺のダチだった雷鳴 來だ。今は白虎獣人だが。
「……報復はしない」
腕を組み目を瞑って黙していた獣王が、そのままの姿勢で声を発する。
「しかし、王よ……」
獣王が片目を開ける。
その瞬間、ピキっと空気が震える。たったそれだけの動作なので、そう錯覚させる凄みがあった。勿論威圧してる訳ではない。
ただ、『何だ? 続きを言ってみろ』そう先を促してるような態度にしか見えないのに、逆に静まり返る。
「我等獣人族は、他の土地に行けばケモノだと蔑まれ、下手をすると奴隷落ち。今回の不埒者共も我等を奴隷にしようとやって来たようだしな。尤もアークのお陰で一人も奴隷落ちしなかったがな。だが……」
そこで獣王が腕を解く。たったそれだけの動作で圧が掛かる。大臣の中には汗をダラダラ流し、手拭いで必死に拭ってる者までいた。
「少なからずの犠牲が出てしまった」
金色の双眸から怒りを滲み出すよう言う。
そうあの火縄銃で、残念ながら何人か死んでしまった。奴隷として連れ帰る予定だったらしいのだが、殺したら意味なくね? 馬鹿なのかね。
「では、王よ。今回は泣き寝入りするしかないと?」
「いや……」
獣王はかぶりを振り、俺を射抜く。
「アークよ、ジパーング聖王国に使者で行ってくれまいか? ぅうん?」
「何故俺?」
「其の方は人間だからよ。我等と違い奴隷落ちのリスクは少ない。それに実力もあり、銃の知識もあるようだしな」
「…………」
俺は腕を組み黙考する。そもそもの目的が、この国との友好。この件を了承すれば目的が叶う。だが、それ相応のリスクがあるだろう。今回相手が使ったのは火縄銃。もしもっと最新の銃だったら? それに主力と言える者はきっと国にいるだろう。
「勿論タダとは言わぬ。其の方は獲物の修復出来る鍛冶師を探してると言っておったな? ぅうん?」
「……ああ」
「我が国、最高の鍛冶師に直すように言っておこう」
「王よ、して使者としてジパーング聖王国に何を要求されるのですか? まさか不可侵など温い事を……」
割って入って来た、像大臣を一睨みで黙らせる。
「謝罪の使者をよこす事と、賠償金白金貨10枚の請求が妥当なとこよ。国に取っては十分痛手な筈だ」
10枚って日本円換算で10億ですか? この世界の文明レベルだと国が傾くレベルじゃね?
「それなら亡くなった者への賠償にも当てられますな」
「して、引き受けてくれるか?」
再び水を向けられる。
「鍛冶師に頼むって、俺の獲物は神位クラスじゃないと直せないと言われたぞ」
「ふむ。見せてくれるか?」
「ああ」
俺は折れた小刀闇夜ノ灯を渡す。獣王は、それを後ろに控えていた羊獣人に渡した。立ち位置を考えると摂政とか宰相辺りか? いずれにせよ鑑定スキル持ち或いは鑑定眼のある者なのだろう。
羊獣人は、闇夜ノ灯を色んな角度からしげしげと見詰める。
「アーク殿、こちら対になるものがあるのでは?」
「ああ」
対となっている小刀光陽ノ影も渡す。と言うか、対となる小刀があるって見抜けるのはすげぇな。
そもそも魔道具武装とやらは、術式とやらが刻まれているらしいが、それを見抜く事すら俺には出来ない。ただの鑑定じゃないのか、或いはそう言った知識があるのだろう。
「これは素晴らしい術式ですね。しかもこれは恐らく試作と思われます。まだまだ改良の余地があったのではないかと」
そこまで分かるの? 俺は目を剥いてしまう。
「ほぉぉ」
獣王は獣王で何やらニヤニヤしてるし。どうせこれを直したらまた勝負しようとか戦闘狂思考でもしてるのだろう。絶対嫌だよ。仮に小刀が直って俺が龍気を使いこなせるようになっても勝てる気しないし。
「ちなみにアーク殿、こちらは何方の作品でしょう?」
「知らない。貰い物だし」
そもそもこの世界の者かどうかも怪しい。
「そうですか……。これは件の鍛冶師でも時間が掛かりそうですね。同じ神位鍛冶師でもレベルが違うと思われます。アーク殿、年数を要する事になりそうですが宜しいですか?」
「それでも構わない」
直るだけマシだ。それにもっとレベルの高い神位鍛冶師とやら探すのは大変そうだし、見つけたとして簡単に依頼を受けてくれるかも分からない。だが、今回は獣王から依頼なので、年数が掛かろうがやってくれるだろう。
それに何より、俺の最終目標であるこの世界の異変を見付けどうにかすると言うのは、年数を有するだろう。よってこっちも腰を据えて持っていても問題は無い。
「なら使者として立ってくれるな? ぅうん?」
獣王が片目を瞑り問い掛けて来る。
「ああ、分かった。その依頼受けよう」
「では、アーク殿。宜しければこの対の小刀も預かって宜しいでしょうか? 件の鍛冶師も対が有った方が直し易いでしょう」
「分かった」
宰相、もしくは摂政の人に言われて頷いた。光陽ノ影一振りだけでも重宝する場面があるだろう。今までそうだったし。が、直す方を優先だな。
こうしてやっと会議は終わった。 あれ? なんか結局厄介事を背負っただけじゃね?