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EP.02 癒しの炎

 それは地獄絵図だった――――。


 突然観客達の一部が鉄砲を持ち出し獣人達に発砲。

 銃を見た事ない者達に取って訳が分からないものだった。

 突然体の何処かが灼けるような痛みを感じたかと思えば(おびただ)しい量の血が噴き出て、当たり所が悪ければ致命傷。良くても二撃目三撃目を撃たれ結局致命傷。

 発砲されるパンっ! って音は恐怖の対象となり、獣人達が成す術もなく倒れて行く。それ故に今の状況が訳が分からなかった。


 レオン獣王国で開催された武術大会の最後の親善試合……獣王レオンライトと優勝者アークとの対戦で事が起きた。

 武術大会で観戦する為の観戦席では足りないくらい観戦希望者が殺到する。

 その為、抽選を行い抽選に通った者だけが、観戦料を払い観戦出来ると言うシステムだ。

 それは一試合毎の事で、予選から抽選を行い観戦を行う。当然ながら決勝戦となれば倍率も高くなる。

 もっと言えば、特定の誰かを応援し、その者が人気があれば一回戦から倍率が高い。獣王国が誇る四天王とかがそれだ。


 しかし、獣王との親善試合の倍率は低い。理由は様々だ。

 獣王に勝てる者などいないと信じて疑わない獣人が多い事。親善試合なので緊迫感ない……優勝者が勝ってもメリットがないので本気にならない等。

 それに拍車を掛けるように獣王の威厳を示す為に通常の倍の観戦料だったりもする。そのせい予選並の倍率だ。


 …………それが仇となった。


 観戦している者の1/3は、銃を乱射する痴れ者。避難が到底追い付かない。それに加え、抽選に漏れたコロシアムの外に待機していた痴れ者まで流れ込んでの地獄絵図だった。

 その銃を発砲する者も、獣人からすれば良く分からない陣形を組んでいる。一列横並びになり撃つと直ぐ後ろに並ぶ。三列の陣形を組んでいた。

 この意味に気付けたのは、恐らく一人だろう。冷静な状況なら三人だったかもしれないが、二人はそれどころじゃないからだ。


 この事態に獣王国側は何もしなかった訳ではない。こういう事態の対策は入念にした上での武術大会なのだから。

 四天王は、痴れ者を直接叩きに行き、他の係員達は非難誘導を行う。しかし、犠牲者が多く上手く行かない。

 それにきっちり四天王対策もして来ていた。例えば雷を纏わせた技を得意とする風の四天王には、ゴム手袋のようなものを装備した者が相手をし、雷を完全遮断し攻撃逸らす。

 土の四天王の得意とするメテオストライクは、空中に飛び上がらないといけないと言う弱点を突き、同じように飛び槌を掴み技の発動を阻止した。

 炎の四天王は、分身のような技を使うが、的確に本物が狙われる。水の四天王は近付く者を雪の結晶にし凍らせる技があるが、槍等の長物で近付けないようにしていた。

 そして、四天王のそれぞれの血族だけが使える血脈術は、事前に詠唱を必要とする。それを銃撃で邪魔し阻止させられた。


「おのれぇぇぇえええっ!!」


 獣王の血管が浮き出る程の怒りの咆哮を上げる。民を傷付けられ、武術大会を汚された屈辱から、顔を真っ赤にして怒髪天を衝いていた。

 しかし、獣王は武舞台の中央で、結界に阻まれ何も出来ない。これも襲撃者の手札。獣王の周りに結界を張り、出られなくした。

 いつの間に獣化しており、見るからに二足歩行しているライオンになり、拳を振るうが結界はビクともしない。

 獣化は、獣人の本能を呼び覚ますとされている獣人特有のスキル。種族にもよるがパワーが何倍にも膨れ上がる。が、それでも結界は崩せない。


「サーラ! サーラ! サーラ! 死ぬな~~~~~ッッ!!!」


 先程、襲撃者の陣形に言及した中で、冷静なら意味が分かると語ったが、その冷静ではないのが彼だ。

 紅 骨根(スカル)。転移者である。その彼が一人の女性を抱き上げ嘆きの声を張り上げていた。女性はお腹を銃で撃たれ今にも死に絶えそうな状況だ。

 ちなみにもう一人は風の四天王である。しかし、彼は目の前の相手に夢中でそれどころではない。


 それは阿鼻叫喚だった――――。


 しかし、そんな中で冷静に判断する者がいた。襲撃者の陣形の意味を知る最後の一人だ。

 彼……アークは、脂汗をダラダラ流し、暫く固まっていたが、動き出したら状況の見極めも決断も早い。

 アークは銃を持った一人と相対し、銃弾を斬り、銃を斬り咲き、そして銃を持っていた襲撃者に掌打を当て気絶した瞬間、振り返り大きく息を吸い声を張り上げる。


「ラキア! 敵の武器を全部濡らせ! ナターシャは、四天王の援護。キアラは、倒れた連中の治療をしてくれ。ファーレはキアラを手伝ってくれ」

「分かったのだ」

「分かったさぁ」

「仕方ありませんね」

「御心のままに」


 アークの仲間達は一斉に動き出す。その中で真っ先に行動したのは、ナターシャだ。その場から動かず弓を構える。


「エレメント・ランス」


 魔力で精製された矢を放ち、それは風の四天王であるライコウと相対している者のゴム手袋に突き刺さる。その瞬間……、


「紫電一閃」


 ライコウが動き襲撃者を斬り咲く。直前に袈裟斬りの直撃を食らっていたが獣人故のタフ差で、致命傷になっていなかったのも幸いしていた。


「ライコウ! 外、見て来てくれ」

「え?」


 襲撃者の一人を倒し、自由に動けるようになったライコウにアークが声を掛けた。当然ながらライコウは首を傾げる。現在痴れ者達が暴れているのは、コロシアムの中なのだから。


「明らかに組織立っての行動だ。目的が獣人の殺害なら……」


 ……コロシアムの外でも事は起きてるかもしれない。と、言い終わらないうちにライコウは血相を変え、外に飛び出して行った。


「<大雨魔法(スプラッシュ・レイン)>」


 ラキアが、大雨を降らす魔法を唱えた。コロシアム全体を雨で包む。銃を濡らせと言われチマチマやるのではなく、この方が手っ取り早いと思ったのだ。

 これで敵側の大多数が持っている武器が無力化された。なんせ敵が持っていた銃は火縄銃なのだから。

 火縄銃とは、引き金を引くと、火皿に火縄が押し付けられ、火皿の火薬が小爆発し、それが銃身内部の火薬に引火して爆発し、弾丸が飛び出す仕組みなのだから。

 つまり、縄の火が消えれば発砲は出来ないし、湿気ってしまえば、火を再び付けられない。

 こうして発砲がなくなった事で、四天王達は血脈術を解放出来るようになった。

 余談だが、水に濡れると言う他にもう一つ弱点のある銃だ。それは一発放つと次弾装填に時間を要する事。それ故に敵集団は三列の横並びの陣形を組み発砲すると後ろに並び、中列目にいた者達が前に出て発砲。後ろの列に移動した者達は、その間に弾詰めをしていた。


「獣王! 合わせろ。同時攻撃だ」


 そう叫びながら武舞台の上に戻って来るアーク。


「うむ」

「はぁぁぁっ!」


 アークは、バンザイの恰好で小太刀を天に掲げる。そして、まだ扱いに慣れていない龍気を小太刀に集める。少々溜めを必要としてしまった。

 小太刀が薄紫色の膜を帯びる。闘気の時は、白っぽいような銀色だったが、龍気だと薄紫色のエネルギーなのだ。尤もこれはアーク特有の色なのだが。


「<クロス・ファングッッ!!>」「<秘殺苦十之王来音拳ひゃくじゅうのおうらいおんけん>」


 アークは、小太刀をクロスに振り下ろす十八番の闘気剣を使った。

 獣王の方は、両手首通しがくっつきそうな距離まで近付け十本の指を突き出す秘殺苦十之王来音拳ひゃくじゅうのおうらいおんけんだ。


 バリィィィィィンっっ!!!!


 甲高いを音を響かせ結界が割れる。内側と外側から大きな力が加えられた結果だ。


「褒めてつかわすぞ」


 そう言うと獣王は飛び出す。痴れ者達を抑える為に。

 アークは、ヘナるように座り込む。もう限界が近かったのだ。それに加え新たな力である龍気は消耗が激しかった。


「サーラ、サーラ、サーラ……」


 骨根がビオサーラの名前を弱々しく呼ぶ。ビオサーラの熱が消え、青白くなっており息もしていないのだ。


「……遅かったですか」


 呟くように現れたのは、キアラだ。彼女は手近な者から回復を行いながら、骨根の所まで来た。

 真っ先骨根の所に来ていれば……そこまで考えてキアラは首を横に振る。そんな事を考えても詮無き事なのだから。


「サーラ! クッソー! 死ぬなーーっっ!!」


 そして、骨根は絶叫した。もう助からないと分かっているからこそ嘆きのような絶叫だ。


「…………」


 しかし、今度は骨根から表情が抜け落ちる。


「……ねぇ」

「今、何か言いましたか?」


 骨根がボソっと呟き、キアラが聞き返す。


「……死なせねぇ」


 ボソっとだが今度こそはっきりと呟く。


「ですが……」


 もう手遅れです。と、言おうとしたが、途中で止める。そんな事は骨根が一番良く分かっているだろう。それを口に出したからと言って何にもならないからだ。


「死なせるものか」


 骨根は、強くそう思った。頭が? 心が? いいや、魂が死なせるかと叫んでるのを骨根は、はっきりと感じた。もう二度と(・・・・・)死なせるかよ、と。

 その瞬間、劇的な変化が起きた。骨根から炎が溢れビオサーラを包み出す。


「……火葬ですか? いや、違う。これは何です?」


 死なせいと言いながら、いきなり火葬を始めた事に訝しんだが、直感で感じた。ただの炎(・・・・)でないと


「ま、まさか……」


 キアラの隣にいた神獣のファーレが目を剥きながら擦れた声を上げる。


「何か分かるのですか?」

「……癒しの炎だ」

「癒しの炎?」


 キアラはオウム返しのように言う。


「一部の神獣のみが使えるスキルだ。人族が使えるとは……妾も知らぬ」


 生後四ヶ月が何を言ってるんだ? 四ヶ月で様々な事を知ってる訳ないだろと言う無粋なツッコミを入れて来る者はいない。

 何故なら神獣は、生れた時から様々な知識を持っているからだ。

 そのファーレが、目を見張るようにビオサーラを見詰める。

 すると徐々にお腹の傷が癒え、それだけでなく、お腹に空いた穴から銃弾が飛び出して来る。そして顔色も血色を取り戻す。


「……ここは大丈夫ですね。次に行きましょう」

「心得た」


 一瞬呆けてたキアラは、ファーレに声を掛けて次の負傷者のとこに向かう。


「おのれぇぇええ!! 獣王が解放されとは……っ!」


 襲撃者達の指揮官が歯噛みをする。


「えぇーい! 撤退だ! 全員撤退」


 そして、撤退を指示し無事だった襲撃者達は去って行く。

 こうして何人もの犠牲者を出してしまった武術大会は、幕を閉じた……。

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