EP.01 リメンバー・ミー -side Skull-
「……スカ……イスカ……イスカ。イスカ! ちょっとイスカ! 起きなさいよ」
俺様のまどろみを覚ます奴がいた。
「っせーな! なんだってんだよ!?」
「次は実習よ。準備しなさい」
あまりに授業が退屈で机に突っ伏して寝ていた体勢のまま悪態を付く俺様に次の授業を促す奴。
「実習? またボインボイン揺れるのを見せてくれるってぇのか?」
態とらしく下卑た笑いをしながら、そいつのでっけー胸を見てやる。
「その場で動かず魔法を放つ実習よ。お生憎様」
「ちっ!」
「それにしても相変わらずサイテーね」
「立派なのを付けてるからだ、委員長」
「その呼び方止めてくれない? うんざりなのよ。名前で呼んで」
「なら委員長なんてやらなければ良かっただろ?」
「イスカだけよ。そんな呼び方するの」
俺様が通う全寮制の魔導学園でコイツは、このクラスの委員長をやっている。
俺様はイスカ。お互い家名はない。
魔法に興味を持ち魔導学園に来たが毎日退屈だぜ。そもそも俺様には才能がなかった。
「では、まず氷系から。中位までなら魔法は問わない。そのラインから的を撃ち抜きなさい」
実習での教員が、そう指示を出す。が、俺様はボー立ちで何もしない。
「また君かね? 下位でも良いんだ。好い加減覚えなさい」
うっぜー。俺様には才能がないんだ。下位すら覚えらねぇっつーの。
「またイスカだけ」
「ほんと何しにこの学園に来たんだよ」
「さっきの授業も寝てたし、やる気無いなら止めちまえよ」
ヒソヒソ話してるのが全部聞こえてるっつーの。面と向かって言う根性もないくせにうっぜー。
「では、次は炎系を撃ちなさい」
教員が次の魔法の指示を出す。
「<炎刃魔法>」
スッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパーンっ!!!
炎系だけは、使えるんだよな。それも今の下位だが、一度唱えるだけで七発飛ばして七つの的を貫いた。
原則として魔法一つ唱えただけでは一発しか放てない。それなのに俺様は数発放てる。炎系だけは才があったっつー事だ。
炎系なら中位も行けるのだが、この程度下位で十分だ。
ただ、俺様が炎魔法を使うとさっきの喧騒が嘘みたいに静かになる。周りは茫然と見てるだけだ。
「次は雷系を撃ちなさい」
当然雷系も使えない。
「またかね? 炎以外も習得しなさい。君は毎回毎回何でそう……」
また教員の説教が始まった。いくら炎をちゃんと使えても普段の俺様の態度が気に食わないらしくこれだ。全くうっざー。
そして、またガヤガヤと周りがザワめく。嘲笑混りで。直接言う根性もないクソったれ共だぜ。
炎系で劣ってるからこういう感じらしい。委員長がそう言っていた。マジで魔導学園なんてクソだな。学園も生徒共も。
「え~……魔法は、魔導の始祖が提唱したのは、全部で十属性。では、この中で基本属性は? ビオサーニア」
「はい。炎、氷…………………………」
次の授業のたっりー講義で、眠くなりまどろみに引き込まれてしまう。そんな基礎は予習済みだっつーの。
……
……………
…………………………
「……カ……イスカ! イスカ! 起きなさい」
「っせーな、委員長」
「だから、私にはビオサーニアって名前があるの! 名前で呼びなさい」
「で、何だ? 委員長」
「っ!? 貴方ねぇ……!!」
「で、何の用だ?」
「もう授業終わったわよ」
「それで態々起こしてくれたってか? 委員長は大変だな」
嘲笑ってやる。
「だったら手間取らせないでくれる?」
「そのボインボインしてるの俺様の好きにして良いっつーなら考えてやる」
「貴方のそういうとこうんざりよ!」
「そうかよ」
そう言って俺様は立ち上がり寮に戻ろうとした。
「何処行くの?」
「帰る以外に何があるっつーんだ?」
「イスカは補習だって。第二訓練所に来なさいって」
「は? 何でよ!?」
「今日の実習で、一つも魔法を使えなかったからって」
「でたらめだ!!」
炎系だけは使っただろ。
「確かにね。でも、普段の態度が悪いから、先生の標的にされたんじゃない?」
「うんざりだぜ」
「それ私の台詞なんだけどな。まぁともかく伝えたから。頑張りなさい」
「ちっ! うっぜー」
その後、補修という名の説教を受けた。どこまでもうぜーぜ。
説教が終わり今度こそ寮に向かう帰路に付いた。が、その途中でまた面倒な事に……。
「よう! イスカ」
「ヒヒヒ……」
「元気してるか?」
「んだよ! てめぇら」
下卑た笑いをする連中に囲まれた。まぁたまにあるがな。俺様の態度が気に食わねぇとかで囲んで来る連中。数で物を言わすクソったれだ。
「おいおい。そんな態度で良いのか?」
「あぁん!? 何がだ?」
「お前さん態度が悪いから、ちっと教育してやるよ」
「てめぇらにされる謂われはねぇよ」
「ちっ! 相変わらずだな」
相手は舌打ちし吐き捨てるように言う。
「俺様は帰るんだ。邪魔だから道を開けな」
「大人しく帰れると思うな。全員やっちまいな」
「おお!」
「キヒヒヒ……」
「悪く思うなよ」
「これも日頃の行いって奴だ」
ちっ! うっぜー。
「<炎柱魔法>、<炎柱魔法>、<炎柱魔法>、<炎柱魔法>、<炎柱魔法>……」
炎柱魔法を連続で唱えて炎の柱が左右で上がる。それが等間隔に前へ配置され、丸で俺様の通り道が出来る。
「おっと! 危ないねぇ」
俺様の前にいた連中は炎柱を避けるように柱の外側の左右に散った。
「こんなもの消してしまえ」
「水玉魔法」
「氷刃魔法」
「水刃魔法」
「氷槍魔法」
「ダメだ。消えねぇ」
「どうなってるんだ?」
思い思いに魔法を使っているようだが俺様の魔法が消えない。俺様には魔法の才はないが、炎だけなら誰にも負ける気がしねぇな。
「あばよ」
そう言って炎の柱の道を歩いて帰った。
今日も今日とて退屈な一日だったぜ。俺様は何の為にこんな学園に通ってるんだろうな。
寮に到着後、飯食って適当な魔導書を眺め予習してベッドに転がった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
ふと目が覚める。
「……またこの夢か」
この世界に来てから時々見る夢だ。いや、あいつに出会ってからか?
いずれにしろこの夢は何なんだっつーんだよ。
夢は記憶の整理とか言うが、全く記憶にねぇっつーんだ。
「だがまぁ、お陰で炎魔法が使えるようになったんだけどな」
夢と同じように俺様には炎系の才があったようだ。あっさり習得出来た。
しかも、地球にいた頃の知識を使って魔法拳なんてものも編み出したしな。
「悪い事ではないんだろうけどな」
だが、同じ夢ばかり見るのは腑に落ちねぇっつーの。一体何だってぇんだ。