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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十三章 レオン獣王国の武術大会
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EP.42 名前を呼んで -side Biosara- その②

 いつも我慢しているスカルが見ていられなくて、私はスカルに合う道場を探す事にした。それで見つけたのが、炎魔法を教えている寅の道場。

 私は何度も通い、スカルが門下生になれないか交渉を続けた。道場通しの交流は、どこも禁止にされており、最初は当然煙たがられた。

 有難い事に寅の道場は辰の道場から一番近い道場で、馬車で三時間だ。お陰で何度も通えた。


 そうして何度も何度も通い、数年通い、辰の道場は武術系、寅の道場は魔法系と別物と言うのが幸いしてか徐々に話を聞いて貰えるようになった。

 仮に寅の道場で教わり、裏切りそれを辰の道場に持ち帰っても大して役に立たないと判断しての事だ。

 そんな事ないのに。スカルは転移者だからなのか魔法拳なんてやってるのを見掛けた。私や他の者にはない発想だ。

 どこでどう活きるか分からないのに馬鹿みたい。まぁお陰で話を聞いて貰えてるのだけど。


 寅の道場に通う際に、毎回の如くスカルが着いて来る。護衛のつもりなのだろう。なのに寅の道場には入って来ない。全く道場通しの交流は禁止にされてるんだから、道場の中こそ危険かもしれないのよ。

 それに何も聞かない。父に口を酸っぱく他の道場に行くなと言われているのに咎めもしない。

 全く誰の為に通ってると思ってるのよ。少しは問い掛けてくれても良いじゃない。

 スカルの事を考えて一喜一憂してる自分に次第に気付いた。顔が火照る。







 ――――だからこそ名前を呼んで貰えない事に一番うんざりした。







 スカルと出会ってから十年が経過した。

 ある日、私の知らないとこでスカルが破門された。

 トリスタン海洋町で、暴れたとか。馬鹿みたい。その日は私といたのに。またスカルは、何も言わない。甘んじて受け入れる。本当そう言うとこもうんざりよ。せっかく寅の道場と話が纏まりそうだったのに。

 だから、私はスカルを追い掛けてレオン獣王国に行った。そしてスカルを会え次第食って掛かる。


「何で黙っていなくなったのよ!?」

「破門されたんだから仕方ねぇっつーの!!」

「私の護衛は?」

「破門されたんだから知るか。そもそも頼まれた訳じゃねぇ」


 腹立つわねー。そりゃ勝手にやっていたのだろうけど。でも、何年もしてくれていたのに突然いなくなったら、落ち着かないじゃない。


「こんなの間違っている!!」

「知らねぇよ」


 しかも破門されて、もう私とは関係ないから護衛もしないって言ってのに……、


「それでも他に道はないんだ。お嬢、いい加減諦めてくれ」

「ねぇ、何でこんな時までお嬢なの? 普通に名前で呼んで。今までだって呼んでくれた事なかったのに」

「………………………………………………呼ばね」



 これだよこれ。破門されてまで私の名前を呼んでくれない。ねぇ何で頑なに呼んでくれないの?



 そうやってモメていると聞き耳を立ててる人がいた。しかも初対面で、手伝うとか訳の分からない事を言い出す。何なのこの人?

 それに転移者? 馬鹿馬鹿しい。


「スカル、手伝って貰うって話を本当に考えるの?」

「考えるだけだ。あんな得体の知れない奴に頼めるかよ」


 吐き捨てるように言う。


「そうよね。転移者とかって胡散臭いわ」

「灰色の髪で灰色の目で転移者とか意味分かんねっつーの」


 しかし、そのスカルの態度が変わったのはブロック決勝だ。観戦しているとアークと言う得体の知れない人が勝ち、その瞬間スカルが目をこれでもかと見開き立ち上がる。「マジかよ」とか言いながら。


「どうしたの?」

「……あいつ水素爆発を狙いやがった」

「水素爆発?」

「あぁ? あ~~簡単に言うと水と雷と炎を混ぜると大爆発を起こすんだよ。転移者くらいしか知らねぇー科学知識だ」

「たまたまじゃない?」

「じゃあ何で事前にあのバリアみたいなのを張る魔道具武装アーティファクト・ウエポン出したっつーんだよ!?」


 まぁ確かにあれで防ぐのを前提に炎魔法を使っていた。


「転移者の人に聞いていたとか?」

「……その可能性もある。それにあいつ俺の知らねぇ魔法を使っていやがった。威力から考えて魔法レベルが低い段階で覚えられそうな奴だ」


 スカルは炎魔法に関してそれなりにレベルを上げている。なのに威力が低い割には自分が覚えていない魔法を使ってたのが不思議って訳ね。

 スカルがどこまでレベルを上げているか分からない。まさか上位の紅蓮魔法まで行ってるとは思えないけど、仮にその紅蓮魔法まで習得していて、今更あんなしょぼい魔法を覚える訳がないとは私も思う。


「で、どうするの?」

「………………………………一応話をしてみる。信用ならねぇー奴ならそれまでだが」


 こうしてアークとやらに相談する事になった。まぁスカルは負けてしまって破門が取り消して貰えないのだから、可能性があるなら話してみるのも悪くないかもなね。なのに……、


「お嬢の護衛」


 これよ。一体どう言う事よ!!?? 

 道場に戻る相談ではなく何で私の護衛なのよ? ほんとどこまで人が良いのよ。少しは自分の事を考えてよね。

 そしてアークは、更に踏み込んで手を貸してくれると言ってくれた。こっちも人が良過ぎるでしょう? 二人して何なのよ?


 その後、アークは見事優勝した。信じられない。龍気を使えないのに優勝するなんてと思った。まぁ私も使えないのだけど。

 だけど獣王との親善試合の最中にコトが起きた……。


「獣王を抑えたぞ! 残りはやれ」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンっ!!


 何なのよ、あの連中。それにあの筒状の物は何? 一瞬火を噴いたと思ったら、獣人達が血を流し倒れ出す。訳が分からない。知らない未知の武器に一瞬でやられる獣人達。私はパニっくっていた。


「ちっ! 何で銃なんか存在するんだよ!? お嬢、逃げるぞ」


 それでもスカルは、冷静で私の手を引いてくれる。しかし……、


「がはっ!」

「お嬢!?」


 何が起きたのか分からない。吐血をしてしまった。その後、遅れてやってくるお腹の熱。そちらに目を向けると血が噴き出ていた。


 な、ん、で?


 私はスカルに抱かれるように倒れる。

 お腹が焼けるように痛い。意識も薄れて行く。


「お嬢! お嬢! おじょ~~~~~~!!!!!!」


 スカルが呼んでいる。こんな時にもお嬢なので、内心苦笑いしてしまう。

 この出血じゃ助からないな。




 スカルに抱いて貰っている、嬉しい状況な筈なのに涙が出て来てしまう。




 スカルを寅の道場に入れる話し合いも、もう直ぐ決着だったのにな。




 スカルは口が悪い、態度が悪い。それはただ素直じゃなくて、本当は凄く優しい。




 スカルは破門されても、何だかんだ言って心配してくれる。




 スカルさえいてくれれば、他に護衛なんていらないんだよ。




 スカル、スカル、スカル、スカル、スカル、スカル、スカル、スカル……、




















「……名前を、呼ん、で」




















 スカル、最後くらいお願い。


「……………………呼ば……ね」


 スカル、何でそんな苦しそうな顔しているの?


 私は思う。名前を呼ぶ、それは【誓い】の言葉。

 

 名前を呼ぶ事は、自分の心に相手を住まわせるという事。


 そして、相手に踏み込む始まりだ。


 スカルは名前を呼んでくれないし、私に踏み込んでくれもしない。


 私はスカルの頬に手を伸ばす。


 スカルの頬に暖かい雫が流れている。私の為に泣いてくれているの?


 なら最後くらい………………、


「な、まえを………………………………」




















「っ!? ………………サーラ」




















「……え?」


 スカル、今なんて言ったの?


「サーラ! サーラ! サーラ! 死ぬな~~~~~ッッ!!!」


 スカル、私の名前はビオサーラだよ。最後まで素直じゃないんだから。


 でも、初めて略称でも呼んでくれた。


 胸が暖かくなるのを感じる。




















 ――――ありがとう。




















 そう思ってったら全身が熱を感じ始めた――――。

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