EP.38 獣王レオンライトと対戦が始まりました
「そうだな……何処から話そうか」
俺は腕を組み考え込む。
「って、アレ?」
何かに気付いたのかライコウが首を傾げる。
「どうした?」
「目付きが鋭くないから、今まで気付かなかったけど似てるんだよな……」
考え込んでいた時に鋭くなっていたのだろう。それで気付いたのかな?
「ダークに?」
「そう、ダークにだ」
改心の笑みを浮かべる。
「そのダークの肉体を奪ったんだよ」
「は? ダークはゲームキャラだろ?」
それから、ダークの体を奪った経緯から始まり、この世界に来た事、獣王に顔を売りたい理由等を話した。
それから治時代の事とかで盛り上がったりもした。その間に昼食は如何ですかと、侍女の獣人がやって来た。
果物を少々と頼み、また後で来てくれと言った。連れが三人と一体いるから、と。
その後も果物を摘まみながら、小一時間程話しているとナターシャ達が戻って来た。そして、それぞれ昼食を注文し食べ始める。
「優勝すると賞金だけでなく、こんなオマケまであるとはねぇ」
「ケモノ風情にしては、気が利きますね」
「獣王国に感謝してやるぞ」
「妾の分まで……有難く頂戴するのだ」
「なぁアーク、このお嬢さん二人は何でこんな偉そうなんだ?」
ライコウが引き気味に聞いて来た。確かに偉そうだ。
「先程からお嬢さん、お嬢さんといくらアークの旧友でも失礼でありませんか? ケモノ風情が!」
「黙りなさい」
「ぁあ~」
キアラの見えなくしてる羽根を触ると嬌声を上げ、顔を真っ赤にし出した。
「また、変なとこ触りましたね。ロリコンが過ぎますよ」
ロリコンが過ぎるとか言葉おかしくね?
「黙りなさい。小娘妖精」
「小娘妖精!? 次から次へと変な呼び名を……」
「隠してるんだから、小娘で通せよ。痴鈍妖精が」
「今度は、痴鈍妖精!?」
「ライコウ、会話からもう種族が分かっただろ? だから見た目通りの年齢じゃないんだ」
「なるほどな。ただ、何で中空を触っただけなのに変な声を出した?」
「変な声だってよ」
「煩いです」
ニヒっと揶揄うように笑うと再びキアラが顔を赤くした。
「羽根だよ。幻魔法で隠してる」
「そう言う事か」
ライコウに教えると得心が行ったように頷く。
「じゃあ俺はそろそろ行くよ。これでも四天王だからやる事もあるしな」
「最後に聞きたいんだけど獣王って、やっぱつぇーか?」
「獣王様と本気でやり合ったら、俺は一撃で負けるだろうよ」
そこまでか。一撃ねぇ。
「そうか。じゃまたな」
「おう。またな」
そう言ってライコウが去って行った。
「俺、寝るから一時間くらいしたら起こしてくれ」
「分かったさぁ」
獣王には、万全な状態でも勝てるか分からないってのに……いや、ライコウの口振りから万全でも勝てないだろうけど、それでも少しでも良い試合にしたいので、休む事にした……。
そして、始まる。獣王とのエキシビションマッチが。俺は武舞台の上に立つ。
ちなみにだが身代り護符は、交換させられた。つまり観戦料払えって事だ。今まで損壊すればサービスってルールだったのに最後だけケチぃなぁ。
『お待たせしました。これより優勝者アーク選手と、我らが偉大なる獣王レオンライト・グランザム様との親善試合を行います』
Aブロック決勝で同僚を血祭りに上げた女猫獣人に司会者が交代してるな。あの気持ち悪い笑いをするのじゃなくて良かったぜ。
『一応ルールを説明します。今までと同じく、降参の有無、場外10秒、身代り護符の損壊で勝者が決まります。但し、これはあくまで親善試合です。勝利で得られるものはありません。あえて言うなら名誉でしょうか』
これ明らかに俺に向けて言ってるな。
『それでは、獣王様入場をお願い致します』
パパパッパッパッパ~~~~……。
ラッパやら太鼓やらの音が響いてるぞ。
「「「「「「「「「「ぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」
それに加え会場も大熱狂だ。その熱狂の中、獣王がやって来た。その瞬間……、
「っ!?」
ゾクリ。
背中に悪寒が走った。
頭の中で絶叫している。コイツはヤバい、と。獣王が一歩一歩、また一歩と武舞台に近付くに事に、体が震える。これは危険察知? いや、違う。そんな生易しいものじゃない。
魂が絶叫してるのだ。何故だかそう思った。
また一歩近付く。
ゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリゾクリ!!!
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
足が震える。今直ぐに逃げ出したい。そう思うような言い寄らぬ恐怖を感じる。今まで感じた事のないものだ。体中の汗が噴き出る。コイツは化物だと本能が訴えていた。
「おい!」
「はっ!?」
気付けば獣王が目の前に立っていた。まさにライオンって感じの鬣を生やしている。ただ金色だ。そして、赤い目が一層戦慄させる。
「大丈夫か?」
一言で喋るだけで大気が震える。いや、そう錯覚させられた。
「あ、ああ」
汗がドバドバ流れる。
「もう試合は、始まっているぞ」
え? 司会者の声が耳に入っていなかった。
「余が恐ろしいか?」
ゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワ!!
背中に再び悪寒が走る。見破られている。見破られている。いや、たぶん今の俺は分かり易いか。
「………ああ」
俺も馬鹿正直に答えてしまう。
「ガハハハハハ……。正直な奴め。だが、誇るが良い。其の方は、本能で実力差が分かるのだ。それは、一定の力を持つ者ではないと分かぬ事よ」
豪快に笑い飛ばす獣王。
「試合はブロック決勝から、見させて貰った。昨日の疲れもあるだろうに決勝で随分力を使ったであろう? うぅん?」
左目を瞑り問い掛ける。赤い右目で見られ少し怖い。
「………ああ」
「万全な状態ではないと余には勝てぬと思ったか?」
「いや」
俺はかぶりを振る。
「万全でも俺が100人いても勝てる気がしません」
「ほぉ。其の方は、そこまで見通せるか」
獣王が関心の笑みを浮かべた
「それでも余は、万全な其の方とやりたかったぞ。だが、余が本選から普通に出場していたら、盛り下がる言われてな」
残念だと言わんばかりに溜息を付く。そりゃそうだろ。こんな化物が最初から現れたら俺なら逃げる。
「さて、たかが親善試合よ。やるか? 余が恐ろしいなら棄権もアリだぞ?」
「……せっかくの権利です。やります。まあ結果は見えていますが」
話しているうちに、少し落ち着いた。せっかくのエキシビションマッチだ。胸を借りようじゃないか。そう思うと気持ちがグッと楽になった。
良く見ると豪華な装いだ。黄色を基調としたガウンに深紅のマント。試合をすると言うのに動き辛くないか? 強者の矜持って奴か?
「そうか。ところで其の方は、余の民ではない。畏まる事はないぞ。普通で良い」
「それは有難い。礼儀とか言葉遣いとか、あまり得意ではないんでね」
「ガハハハハハ……本当に正直よのぉ」
また獣王は豪快に笑い飛ばす。
「では、最初は軽く流して行こう」
「流す?」
俺は首を傾げてしまう。
「さっきはああは言ったが、実のところ民たちは、これを楽しみにしている。それを早々に終わらせては不憫であるまい? 故に徐々にペースを上げて行こうというわけよ」
「了解だ」
では、負け確試合を始めよう……。