EP.37 旧友コンプリートしました
ライコウはそのままVIP席の方まで肩を貸してくれるようだ。
『獣王様との対戦は三時間の休憩のち行います。アーク選手は、それまで休んでいてください』
アナウンスが流れた。三時間じゃ大して回復できないな。まあ獣王に顔を売る事が目的だから、勝つ必要はないから良いんだけど。それよりも……、
「ラキア、ライコウも回復してやってくれ」
「分かったのだ。<超回復魔法>」
「おぉ。ありがとうな。お嬢さん」
それ禁句なんだけどな。まあ妖精族って知らないから仕方ないか。それにラキアならキアラじゃあるまいしキレないだろう。
「何故ウチには言わないのですか?」
「お前は、ケモノ風情に勿体無いとか言いそうじゃん」
「失礼ですね。言いますけど」
やっぱり言うのかよ。
にしても、ライコウって初めて会った気がしないんだよな。それに雷の申し子とかって称号もあったし、ちょっと疑ってしまう。
「ライコウ、お前さ。雷の日に生まれたからって、その名前になったんじゃないか?」
「良く分かったな。その通りだ」
初めて会った気がしない、雷の日に生まれたからライコウ、それでいてスポーツ刈り。はい、もう前世が分かった気がします。
「前世も似たような事なかった?」
「おお!? 何故分かるんだ?」
ライコウが驚きに目を丸くする。
「雷鳴 來。それが前世の名だ」
「当たってる当たってる。お前何者だ?」
驚きを通り越して疑いのあるような目で見て来た。そこでVIP席に到着した。
「お疲れさぁ。大分無理したんじゃないかい?」
「主上、お疲れ様です。無理をしておりましたな」
「まぁな」
ナターシャとファーレが労いの言葉を掛けてくれる。そしてライコウは、そのまま椅子に座らせてくれた。
「サンキュー」
「で、何で分かったんだ?」
「俺、治だよ」
「え!? 治って高梨か?」
ライコウが驚愕に目を剥きながらのけぞる。
「そうだ」
「お前も転生したのか?」
「いや、俺はこの体に転移した」
「なんだそれ? 俺よりレアじゃねぇか」
「それ他の転生者にも言われた。にしてもお前、白虎に生まれ変わるなんて四神にでもなるのか? あ~~四天王だったな」
ニヒっと揶揄うように笑う。
「相変わらずお前の言う事はつまらねぇよ」
「二人は知り合いだったのかい?」
横からナターシャが首を傾げ問い掛けて来た。
「こいつ、俺の治時代のダチだったんだよ」
そう中学生時代がいつもつるんでいた一人だ。まさか武、サトモジャに続き、來と再会できると思わなかった。これで中学時代からつるんでいた連中全員だ。
「へぇ~、そうだったのかい」
「これはまた凄い偶然ですね」
「主様の旧友か。これは興味深い」
三者三葉に驚く。
「じゃあアークは、ゆっくりと休むと良いさぁ。獣王との戦いもあるのだし」
「ああ」
「あたい達は、昼食でも買って来るさぁ。アークは何か食べたいものじゃあるかい?」
「そうだな……まだ獣王との戦いがあるから、がっつり食えないな。果物を少し買って来てくれるか?」
「分かったさぁ」
「お話のとこ悪いのだけど、優勝者は昼食が用意されるぞ。獣王様との対戦もあるのだし、英気を養ってくれと言う意味もあって」
話が纏まり掛けたとこで、ライコウが水を差す。うーん、たぶんナターシャは気を使ってくれたのだと思う。旧友との旧交を温める為に。
「そうなのかい? まぁ良いさ。少し散歩して来るさぁ。キアラ、ラキア、それにファーレもおいで」
「分かりました」
「またなのだ、主様」
「主上、少し行って参ります」
結構強引に出て行ってしまった。
「ありゃ、気を使ってくれていたのか」
「見たいだな」
漸くライコウも気付いたようだ。
「ところで治、天皇なのか?」
「は?」
間の抜けた声を漏らしてしまう。
「いや、だって主上って呼ばれてただろ?」
「ああ。主が他にもいるんだよ。俺は主の上って意味で主上と呼ばせる事にした。グランドマスターだと長ったらしいし」
そう言って肩を竦める。
「って事は、神鳥が二重使役されているのか?」
「そうなるな」
「良く出来たな」
再びライコウが目を丸くする。
「運が良かったんだよ」
「あ、さっきの話じゃないが、この世界では霊獣扱いになってる白虎とは戦ったぞ。良い修行になった」
神獣から霊獣を連想したのだろう。まあどっちも魔獣の上位だからな。修行か……そう言えばこいつのレベルの割にステータス高かったな。まあ転生者の効果だろう。ステータスが上がり易く特殊なスキルか称号を得られると言う。
ただ、それよりもスキルにツッコミを入れたい。
「お前のステータスは、色々ツッコミ所満載だったな。本当に風の四天王か? 雷の四天王の間違いだろ」
「風血脈が称号にあっただろ? 風だよ風」
「風系の上位である暴風より更に上の魔法を覚えてるのかと思えば中位の突風魔法だし、雷の方は上位の雷撃魔法を覚えているしよ」
「いや、風血脈で風魔法が上がり易いんだが、それより雷の申し子のが強烈でそうなってしまったんだよ」
苦笑いを浮かべ肩を竦める。
雷の申し子、内容は雷魔法の威力が上がり、レベルが上がり易い。また無詠唱で負担が無く、魔法名破棄でも負担を少なく出来ると言うものだ。
対する風血脈は、風血脈の力を解放出来る。風魔法の威力が上がり、レベルが少し上がり易く最上位に到達出来る。と、鑑定では、そう出て来た。確かに雷の申し子のがレベル上がり易いのかもな。
「それで紫電一閃ばかりなのか」
「まぁな。だが<極>は、まだまだだ」
「あれは、自分で制御出来ていないだろ?」
「その通りだ。そのせいで負けてしまった。治の……」
「それ止めろ。今の俺はアークだ」
つい遮ってしまった。
「悪い。アークの最後のアレ何だ? 強烈だったが自分までダメージが入っていて馬鹿みたいだったぞ」
「煩いやい。あれは自分の体を風力発電にして体内に電気を流すもので、短時間で痺れて動けなくなる。完全に奥の手だな」
「何その馬鹿みたいな技」
「煩いやい」
ドン引きされて二度も言われた。
「俺の目的は獣王に顔を売る事だったから、何が何でも勝ちたかったんだよ」
「いや、勝たなくても獣王様に謁見くらい出来るぞ。手順が面倒かもしれないけど」
「一番手っ取り早いだろ?」
「獣王様に顔売ってどうするんだ? と言うか、そろそろお前の事も教えろよ」
訝しげるように俺を見て来た。まあ当然だろう。今は獣王がコイツに取っての主だ。顔を売って良からぬ事をされたら困るしな。