EP.36 風の四天王と戦いました その③
獣化もプラスされた紫電一閃は今まで以上に速い。紫電一閃のスピードに慣れて来たお陰で反応出来ているが、しょっぱならからやられていたら、速攻負けていただろう。
「はっ!」
小太刀と小刀で刀を防ぎ、蹴りを放つ。しかし、刀を片手で持ち、もう片方の手で俺の足を払う。反応まで良くなりやがった。
噴射魔法で、なんとか着いて行ってるので、先程と同じように躱して斬るなんて事は、もう出来ない。
もしそれが可能なら、斬撃か格闘のどちらでやるか読めなくしてやれば良いのにな。
なので、紫電一閃を避けて、通り過ぎた後に斬る。
プシュっとライコウの腕に切れ目が走る。背中しか見えないが驚愕に目を剥いてる気配を感じた。
通り過ぎた時に行った斬撃は、少し傷を入れただけ。ちなみに何故斬れたかと言えば、光陽ノ影で影を斬ったのだ。この小刀は、バリアを張る他に影を斬る能力がある。
影を斬れば肉体にも影響する。が、大きな傷にはならないのが難点だ。奇策にはなるが決定打にはならない。紫電一閃を止めてくれれば儲け物と思ったが緩めただけだ。現にまだ続く連閃で、突撃して来た。
それにこれは闘気を使うので、何度も出来ない。
ダメだ。負けてしまう――――。
「<電 光 石 火>」
なので、俺は奥の手を使った。
闘気もMPも限界が近い。ぶっちゃけ一か八かの賭けだ。が、出し渋って負ければそれまでだ。どうせ負けるなら奥の手も使って負けてしまえ、と思ってだ。
風忍になった事で習得した電光石火。
電光石火と書いて、何故エレクトリックと読むのか? それは風を体の周りで回転させるように渦巻く事で、体内に電気を作りだしてるからだ。つまり風力発電だな。
が、それは紫電一閃と似てるが非なるもの。紫電一閃は体に雷を纏わせているが、俺は風の力で体内に電気を作り出している。この体内と言うのが厄介極まりない。使用時間が短く、直ぐに全身が痺れて動けなくなるからだ。
まあどうせ紫電一閃で斬られ、雷で完全に痺れて動けなくなるのは時間の問題だったので、どうせなら自分から痺れてしまえと言う乱暴な解だな。
「はぁぁぁぁっ!!」
それでも紫電一閃以上のスピードが出る。それにあれは一直線にしか進めない。俺のは自由に動ける。なので、まずは小刀を鞘に納め弾き飛ばされた小太刀を拾う。続けて連続でライコウを斬り掛かる。
ライコウも、足を止めたら負けると分かってるのだろう。斬り刻まれながらも紫電一閃を続ける。
紫電一閃で走り抜けるライコウを追い掛け必死に斬る、斬る、斬る、斬る。
俺の体が完全に動けなくなる前に仕留める。しかし……、
「<紫電一閃・極>」
その刹那。俺と同等に近いの速さの紫電一閃を使われる。ライコウの奥の手なのだろう。
あっぶね~。避けるのは無理だと言わんばかりの速さだったが、危険察知の警報が頭の中で煩く鳴り響てくれたお陰で一旦距離を離して猶予が出来た。
一瞬の猶予が出来ただけで、結局避けられない。ならば迎え撃つ!!
左小太刀で刀を払い、右小太刀で腹を横一文字に斬り咲く。唯一俺に取って有難かったのは、あの速さに反応速度が着いて来れていない事だ。今まで紫電一閃中も器用に刀を操っていたのに、今回は簡単に捌けた。
紫電一閃と電光石火との違いに反応速度も上がるかどうかもある。電光石火は、体内に電気を流す事で脳の処理速度が上がり、結果反応速度も上がる。
尤も危険察知で危険を感じ離れなければ目の前で、今まで以上のスピードにより、俺が斬られていただろう。
「くっ!」
しかし、俺も限界だ。横一文字の後、擦れ違いライコウに背を向けたまま、うつ伏せに倒れてしまう。体が痺れて動かない。
「がはっ!」
数瞬遅れてライコウの吐血したような声が聞こえた。
『全く見えなかった。あの一瞬で一体二人はどんなくんずほぐれつが行われたのでしょう!? 想像しただけで……ぐふふふぐへへへ』
こんな時もまで気持ち悪い事を言ってるなよ。
『ですが、ライコウ様の身代り護符損壊を確認。これは引き分けかーー!?』
引き分けか。それも悪くない。やれるだけの事はやったのだから。
『アーク選手、意識はありますか? あるなら返事を』
「……あ゛るよ~~」
なんとか声を絞り出す。
『では、仰向けになれますか? 身代り護符を確認させてください』
「むり゛~~」
って言うか、まともに司会出来るじゃん。最初から最後までやれよ。と、どうでも良い事を考えてしまう。
『では、此方で体を動かします。係員さん、お願いします。出来れば私がしたい。あの肉体を間近で見たい、触りたい、舐めたい。ぐへぐへぐびびび……』
結局それかよ。しかも触りたいまでは良いが、舐めないでくれ。
そんな訳で、係員がやって来て俺は、仰向けにされる。どうやら胸に付けた身代り護符は、無事なようだ。
『身代り護符の無事を確認。優勝はアーク選手!!!! 抱いて~~~~。ぐひひひひぐへへへ……』
抱かねぇーよ。
「アーク、大丈夫ですか?」
「主様よ、動けぬのか?」
「……ああ」
何故かキアラとラキアがやって来た。
「仕方ないですね。ラキア、行きますよ」
「分かっておるのだ」
「「<超回復魔法>」」
二人掛かりで回復してくれる。だが、それだけじゃ動けない。
「まだ動けないのですか? ひ弱なアーク」
「軟弱妖精に言われたくねぇ。麻痺してるんだよ。体の中に電気を流したからな」
「軟弱妖精!? また変な呼び名を……」
「ならば……<麻痺解除魔法>。これでどうだ? 麻痺解除魔法かけてやったぞ。感謝しろ」
キアラが目を剥いてる間にラキアが魔法をかけてくれた。だが、効き目が薄い。それでもなんとか立てるようになった。効き目が薄いのは麻痺させられた訳ではなく、自ら麻痺した代償だろう。
「サンキュー! 喚き姉妖精と違い出来る妹だな」
「喚き姉妖精!? どこまでも失礼な人ですね」
「そうだろうそうだろ。我は姉上と違うのだ。お礼はベッドの……」
「それは結構」
「何故だ!?」
今度は姉妹揃って目を剥く。もうマジでテンプレ化してるな。
「アークさん、見事だった」
ライコウのダメージの大半は、身代り護符が肩代わりしてくれたらしく軽い裂傷が体中にあるくらいだ。それでも獣化は解けていた。そんなライコウが手を差し出して来る。
「アークで良い」
「なら、俺もライコウで良い」
フッとお互いに笑いがっちり握手した。ついでに鑑定しとこっと。
名前:ライコウ=グリンブラット
年齢:二十五歳
レベル:72
種族:白虎族
職業:雷侍
HP:12000
MP:2200
力:2800
魔力:1700
体力:1500
俊敏:3500
スキル:刀術LvMAX、闘気Lv3、突風魔法Lv7、雷撃魔法Lv2、強化魔法Lv5、獣化
称号:ゴブリンスレイヤー、オーガスレイヤー、ドラゴンキラー、デーモンキラー、風血脈、雷の申し子、転生者
色々ツッコミ所満載だ。ツッコミ所満載なのだが、それらが吹っ飛ぶくらいビックリなのがあった。それは……、
「お前、転生者なのかよ!?」
「え? ああ、鑑定されたのか? そうだ。転生者だ」
一瞬目を丸くするが、直ぐ納得し肯定した。
「色々ツッコミ所満載なんだが、まずそれがビックリだ……おわっと!」
まだ体が言う事を聞いてくれない。フラっとしてしまった。
「大丈夫か? 俺に勝っておいて情けないな」
やれやれって感じで言ってるが、俺を支えてくれて肩を貸してくれた。
『これは! これは尊い! ぶっは~~~。は、はな、鼻血が止ま゛らない゛』
司会者が鬱陶しい。
『貴腐人の方々! 脳に焼き付けていますか? これはオカズになる事間違い無し! ぐへぐへぐびぼぼぼ……』
キモいわっ!!!!
『アーク・ザ・ストーリー』から『アサシンズ・トランジション』にかけて雷系魔法でエレキーを廃止したのは、電光石火が理由でした
まぁそもそも雷と電気では違うんですけどね。ついでに風が体の周りを渦巻いたら風力発電になるとか簡単なものじゃないんですけどね(笑)