EP.35 風の四天王と戦いました その②
紫電一閃が頬を掠める。紙一重だった。やっぱり間近で見ると尚更速く見える。
「紫電一閃・連閃」
続けざまに紫電一閃を放って来る。それも連閃だ。FFOコート部分に当たったのは、属性妨害のお陰でまだ良い。しかしふくらはぎ半ばより下、手、首から上は、コートに守られていない。
なんとか躱すが、掠っただけで徐々に痺れて行く。それに血脈術の風は風属性だけだったが、紫電一閃は、雷属性と斬撃だ。
つまり、コートはあくまで雷属性を妨害してるだけで、斬撃は通っている。徐々に斬られて行く。いくら自動修復があっても直ぐに修復する訳ではない。このままだと、いずれコートが役に立たなくなる。
「はっ!」
これ以上痺れるのはまずいと思い小太刀に同じ雷属性の纏わせて迎撃する。とは言え防戦一方だ。
小太刀だと言う事が悔やまれる。小刀だったら、闇夜ノ灯だったらと思ってしまう。小刀のが速く動ける。いくら服と靴が俊敏に優れたものになっても小刀が欲しくなった。
こんなギリギリ致命傷を避ける戦闘なら、小刀が如何に優れているか分かる。
「くっ!」
足、手、首、頬、頭に裂傷が走る。徐々に体の感覚がなくなって行く。このままだと痺れて動けなくなる。それにいつ血が足りなくなって倒れるか分からない。回復魔法を唱える余裕すら与えてくれない。
「このっ!」
右から来た紫電一閃を小太刀で迎撃。唯一の救いは、気配完知、魔力察知、たまに危険察知で何処から攻撃が来るか分かる事。そのお陰で、なんとか反応出来てる。
このままでは成す術なく終わってしまう。どうする? ファーレを呼ぶ? ダメだ! ファーレが紫電一閃を一発でも食らえば死んでしまうだろう。
いや、速さに頼り過ぎてるんだ。俺の悪いクセだな。速さが通用しない時もある。その時の為に二の手、三の手を考えなければならない。精霊族の集落で強者と戦った時の事を思い出すなぁ。
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「ちっくしょー! また負けた」
「アーク殿よ、素早いのは分かるのじゃが、それに頼り過ぎじゃ」
俺を負かしたドワーフ族に言われる。もう六十歳を越えている。ドワーフ族は、人族とあまり寿命は変わらないので、もう爺さんだな。
余談だがエルダーダワーフは、長生きの者で百五十歳行くらしいけど。まあどっちにしろ見た目は髭面で、二十歳なのに老けて見えたり、まだ十歳なのに身長が低くくてもっと下に見えたりするんだけど。
で、この爺さんは、俺のこのスピード主体の戦いについて指摘している。爺さんは、ぶっちゃけ遅い。ドワーフ族なのでパワー主体だ。それなのに俺のスピードに反応しやがる。
「確かアーク殿の本来の武器は小刀じゃったな?」
「ああ」
「その小太刀ですら反応するのはギリギリじゃった。もしそれなら、儂も反応できんかったかもしれん。じゃが、今後もアーク殿の素早さが通用せん相手が現れるかもしれん。例え小刀だったとしてもじゃ」
「じゃあどうすれば良い?」
「二の手、三の手を用意しておくのじゃ」
簡単に言ってくれるよな。今までスピード主体だったのに、ダメなら次の手とか簡単には行かない。
「今、無理だと思ったじゃろ?」
「うっ!」
「ならば聞くが、アーク殿の格闘術はなんじゃ? 若いモンと戦う時、手加減し易いからじゃと思うが素手でやっておったな? じゃが、それなりのレベルに達してると儂は思っておるのじゃ」
「あ……」
間の抜けた声を上げてしまう。斬撃に格闘を織り交ぜたいと思ったから、徒手格闘をするようになったんだった。これが二の手と言うのではないだろうか……。
「他にもアーク殿は低いレベルとは言え、魔法を上手く使っておるのじゃ。それらを活かして見てはどうじゃ?」
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
どうじゃ?
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うっさいわ! はい回想終了。
「<噴射魔法>」
背中から炎魔法の火を噴かせる。それにより機動力が上がる。結局スピード主体です。はい。ただ魔法の二重使用はMPがキツイので、小太刀に流してた雷を止める。
風魔法で背中を押して直線距離を一瞬で移動する縮地も考えたのだが、あれはあくまで直線にしか進めない。なので噴射魔法にした。
それにより躱す余裕も出来る、迎撃ばかりしていた小太刀を攻撃に回せる。
「はっ!」
ライコウの腕を軽く斬る。ライコウは、一瞬目を丸くした。が、それだけだ。
二度目となると刀で防がれる。紫電一閃で、刀で斬撃を入れた直後、俺の斬撃を防ぐように刀を動かして来た。紫電一閃は、雷を纏い超スピードで動いている。だと言うのに、何でそこまで余裕があるんだよ。
カーンっ!
また防がれた。だが、それで良い。小太刀で攻撃して来ると思い込ませるのが狙いだ。
続けて、今度は攻撃しないで、先程と同じく防ぐ。避けようと思えば避けられるのにだ。それは、ライコウも気付いたのだろう。先程より驚きで目を丸くする。
「おりゃぁぁぁ!」
次の瞬間、脇腹に強烈な蹴りを入れた。
「がはっ!」
ライコウは場外まで吹っ飛んだ。が、脇腹を抑えながら、高く飛び直ぐに戻って来てしまう。そのまま10秒其処にいろよ。
「今のは効いた。やるな」
今度はこっちの番だ。紫電一閃を使われる前に肉薄する。小太刀二刀流で斬り掛かった。
「くっ!」
今度はライコウが、防戦一方になる。俺の二振りの小太刀を一振りの刀でなんとか凌いでる感じだ。
『おおおおおお! ライコウ様の紫電一閃が今大会で初めて止められたーーーっ!! しかも場外にまで吹っ飛ばされるとは!? 倒れたライコウ様に圧し掛かりたかったぁぁぁあああっ! ぐへぐへへびびばば……。想像しただけで鼻血が……』
司会者よ、力抜けるから止めてくれ。
「隙やり!」
左手の小太刀が弾き飛ばされた。クソ! 司会者めぇ。恨むぞ。そのままライコウは、空高く舞う。風魔法で飛んだようだ。俺を含め風魔法で空を飛ぶのは三人目だな。
そういやフォックスがライコウは異端だとか言っていたな。他の者が知らない理論がどうのとか。その一つがこれかな? 風魔法で空を飛ぶとか転移者くらいの発想だし。
「<無数の雷槍にて穿て! 百雷槍魔法>」
短縮詠唱で、魔法を使われた。上から百に及ぶ雷槍が降り注ぐ。俺は全力で逃げ回った。その間にライコウは獣化し出した。白虎獣人だけはあり白い虎になると思いきや、他の獣化と違い二足歩行だ。刀も確り握ってる。
「がぉぉぉおおおおお……っ!!」
咆哮を上げた。
じゃあ何が違うのか? それは、毛むくじゃらになったのだ。それとごつくなった。筋肉ムキムキだ。
マジかよ。って言うか、四天王が獣化したの初めてじゃね? とか、どうでも良い感想を言ってる場合かよ。
『ライコウ様が獣化したーー!! あの肉体美は素晴らしいです。ぐへへへ……。あの太くなった腕に抱かれたいです。ぐへぐへぐびびび……。また鼻血が……』
「<紫電一閃・連閃>」
雷槍を全部避けたと思ったら、空中から紫電一閃で突っ込んで来た。俺はそれをバックステップで躱す。が、連閃なので、方向転換して俺の方へ突っ込んで来る。獣化の影響か、さっきより速い。
「ちぃぃ!」
なんとか躱す。小太刀が一振りないお陰か、ほんの少し身軽になれたからであろう。
「<噴射魔法>」
再び背中から火を吹かせ機動力を上げつつ、左手で光陽ノ影を抜く。長さが違う獲物を二刀流にするのは、間合いが取り辛いから嫌なんだけど、小太刀を拾う余裕ないし、贅沢は言えない。
にしても、この厳しい戦いは、まだまだ続きそうだな。俺は内心げんなりしてしまうであった……。