EP.34 風の四天王と戦いました
「<風魔手裏剣>」
とりあえず風魔手裏剣を十発程投げて見るか。が、ライコウの風に当たった瞬間消滅した。
《おわ! これはなかなか。2000発投げられたら負けるな》
そんな投げられるかっ!
《では、次は俺が》
バッフ~~~ンっ!
風が通り過ぎた。遅れて足と首に痛みが走る。血がスーっと流れていた。
《良いコート着てるな。こりゃダメージを与えるのは骨だ》
後ろから声が聞こえた。確かにFFOコートのお陰で助かったかも。属性妨害と言う性能がある。剥き出しになっている足、手、首より上は、魔法属性によるダメージが入るがふくらはぎの半ばより上は、コートで守られている。
とは言え速過ぎる。顔を狙われたら一巻の終わりだ。そんな事を思ってると頭の中でやかましい警報が鳴る。危険察知だ。咄嗟に右に飛ぶ。
「<下位回復魔法>」
続けて下位回復魔法で、足と首を回復させる。咄嗟なので、あっちの世界の魔法を使ってしまう。
《Aブロック決勝でも思ったけど、知らない魔法を使うのだな》
そう言いながら、また風が飛んで来た。頭の中の警報が煩い。分かってるよ。って訳で躱す。
「他の世界の魔法だからな」
律儀に答えてやる。
《それは興味深い》
「ちぃぃ!」
風が通り過ぎる。紙一重で躱せたが、デメックの水やフォックスの炎の比じゃない。速過ぎる。
「こんなのもあるぞ。<中位風魔法>」
中位風魔法を飛ばす。一瞬だけライコウを止めたけどそれだけだ。
《風になった俺に、ただの風をぶつけても意味がないぞ》
「試しただけだよ」
そう言いながら次の風の突撃を躱す。
《せめて弱点の土系にしないと》
「土系は残念ながら使えないし、使えてもルール違反だ」
とりあえず風勝負をしようと言った手前使えない。
《勝てないと思えば他の手段で、とも言っていたが?》
まあ確かにその通りなんだけど。
とりあえず風魔法で空を飛んで風を躱す。
「まあそうなんだけど、まだ試していない事もあるからな」
《そうか。ちなみに空に逃げたとこで無駄だ》
風が追い掛けて来る。俺は小太刀を抜き風魔法を纏わせ、風を躱しつつ斬撃を繰り出す。
《くっ! これは……百回斬られたら負けそうだな》
その前に俺の魔力、闘気、体力のいずれかが切れる。そうライコウの風を斬るのではなく……って、つまらんわ。
自分で突っ込んでしまった。
「結局これに頼る事になるか。<ライト・ウィンド・ファング>」
《くっ! これは効く。準決勝でもやっていた技だな》
いや、準決勝でやっていたのは、スラッシュ・ファングの構えだ、と言う訳で小太刀を逆手に持ちつつ風を躱す。
「<ウィンド・ファング>」
次の瞬間、ウィンド・ファングを放つ。
《さっきより威力が上がった。これは厳しいな》
そう言った瞬間、ライコウの風のスピードが更に上がった。まだ速くなるのかよ。クソっが!!
だが、地上と違い360度逃げられる。立体的に動き躱す。こう言う時に空間把握のスキルが役に立つ。例え『小』でも十分だ。
「<ウィンド・ファング>」
逃げ回りながらウィンド・ファングを放つ。空中で動き回ってるせいで、ぶっちゃけ上下感覚が曖昧だ。どっちは上なのか、下なのか分からない。
下手すれば地面に激突だ。しかし、それを何とか空間把握(小)のスキルで凌いでいる。これがなかったら、もう終わっていたな。
「<ウィンド・ファング>」
チャンスがあればウィンド・ファングを放つ。正直MPがヤバいかもな。空を飛びつつ小太刀に風を纏わせているのだから。二重に魔法を使っている状態だ。
ここで使い切る訳には行かないんだよな。これを凌いでも紫電一閃が待っている。
「くっ!」
無理な体勢でライコウの風を避けたので、体が痛い。やっぱこいつは強い。
だが、こいつを倒さないと獣王と戦えない。だから凌げ! 凌げ! 凌げ!
気付くと俺は小太刀に風魔法を纏わせるのを止めていた。避けるのに精一杯になっていたのだ。クソ! このまま防戦一方ではまずい。と、そう思っていたが……、
《ここまでだ》
「はぁはぁ……」
ライコウは、そう言って地上に下りると元の姿に戻っていた。俺も息切れをしながら地上に下り立つ。
「何で止めたんだ?」
「血脈術はMP消費が激しくて、あのまま続けていたらMP枯渇で俺が負けていた」
「正直だな」
「何故だか貴方相手だと口が軽くなる。風勝負と言うのも乗っかりたくなったし。初めて会ったって気がしないんだ。不思議な事に」
「ああ。実は俺もだ。昔っからの知り合いって気になっていた」
「そうか。ふふふ……」
「ははは……」
お互い笑みが零れる。
『男通し通じ合った笑みを交わしている。堪らない。こりゃまた堪らん。ぐふふふふ……また鼻血が……ぐびぐびび~』
「あれどうにかならない?」
「ならないな。Aブロック決勝のような明らかに相手を侮辱してる訳じゃないし」
確かに俺を侮辱しまくってたな。そのせいで女猫獣人司会者に血祭り上げられていたし。
「でも、何であんなのが人気あるんだ?」
「笑い方が面白いとか。貴腐人方と通じ合うものがあったり。あ、貴腐人と言うのは……」
「あ、うん。ニュアンス的に分かる。分かりたくないけど」
「このまま貴方と駄弁ってるのも楽しいけど、決着付けないとな。紫電一閃を使って行くけど問題は?」
「有りまくりだけど、ルール違反じゃないし仕方無い。ここからが本番って感じだなぁ」
俺はげんなりしてしまう。対するライコウは、音も立てずに静かに刀を抜き正眼――刃先を相手の首に向けて――で構える。
血脈術とやらを試させて貰ったけど、絶対紫電一閃のがヤバい。紫電一閃を凌いだら風系を使い始め厳しいと思ったけど逆だった。
本当の戦いはここからって感じだな。俺は気合を入れ直す。
「では、失礼して。<紫電一閃っ!>」