EP.33 決勝戦が始まりました
「にしてもデメック戦は惜しかったな」
「そうか? 最初から勝てる気がしなかってーの」
必要な話は終わったので、少し雑談に興じようと話題を振ると渋面で答える骨根。
「そもそも俺様が四位に入るのが無理だっつーの。この国には四天王がいるっつーのによ。全くでたらめ過ぎるぜ」
吐き捨てるように、それに投げやりだ。まあ確かに四天王の誰か一人を破らないと確実に四位に入れないよな。
なんせ奴らは予選免除でそれぞれのブロックに配置されている。下手すればブロック優勝を四天王で総なめに出来てしまう。
「だが、あの雪月水華を防いでたのはすげぇ。あれどうやったんだ?」
「あ、あれか。あれは……」
「ちょっと! スカル! あまり道場の事を口外したらダメでしょう」
泡を食ったようにビオサーラが言う。いや、寅の登場が炎魔法が専門ってバラしてるじゃん。他の道場はアリなんかい?
「いや、このアークは半分気付いてるっつーのたぶん。だろ?」
「闘気の上位互換」
「そうだ。つーわけで、話しても構わないだろ? そもそも寅の道場の事はバラしてウチの事はだんまりとかタチわりぃっつーの」
「もう~しょうがないわね」
ビオサーラが眼鏡の蔓を右手中指で上げつつ不承不承ながら納得する。
「答えは龍気だ」
「龍気?」
「ああ。何でも神獣である龍が纏う気を人間が真似とか」
「えっ!? ドラゴンがかい? ドラゴンって魔獣じゃないのかい?」
ナターシャが目を丸くした。実際ドラゴンではない。どうやらナターシャは、ウルールカ女王国でドラゴンに関する本を読んでなかったようだ。なので俺が説明しよう。
「いや、それは竜だよ。龍とは違う。読み方は一緒だけどな」
「そうなのかい?」
「ウチも話だけは聞いた事があります。神獣の龍は神の如き強さがあるとか」
「あれに敵う者など、それこそ魔王くらいだって聞いたぞ」
キアラ達も龍について語る。
「まあ地球の日本ではないが、他の国にも伝承としてあるからな。神獣の龍やら四神の統率者とか」
「じゃあ最強生物の一角って言われている割には、ドラゴンは龍に負けそうだね」
「なんっつーか魔獣の中じゃトップクラスじゃねぇの? 知らねぇーけど」
と、骨根が言う。
「それに姿が違う。ドラゴンは、リザードマンを巨大にしたような感じだけど、龍はワニ口で蛇を巨大にして短い手足をくっ付けた感じだな」
「なんだい? その気色悪い形は?」
「そうか? あ、それと頭に大きな角が生えているんだけど、その角を掴んで龍に乗るとかロマンだぜ」
「分かる。分かるぜ。俺様も乗ってみてぇーな」
「流石はニンゲン。気色悪い事しか言えないのですね」
「あたいも含めるんじゃないよ」
ナターシャとキアラが何故かドン引きしていた。解せん。
「それに星々の世界の上位稲妻魔法の型取ってるのって龍の方じゃね?」
「言われてみればそうだねぇ」
「前から思ってたけど、何で上位稲妻魔法は東洋竜で、魔物の竜は西洋竜なんだって」
つまり神獣の龍は、東洋竜と似ているのだ。
「東洋とか西洋とかは分からないけど、確かに違うわねぇ」
しみじみとナターシャが呟く。て言うか、皆ついて来れない会話だったな。上位稲妻魔法はナターシャしか分からないだろうし、西洋竜とか東洋竜とかは骨根しか通じないだろう。
「まあ良い。話を戻すと闘気の上に龍気とらやらがあるんだな?」
「ああ」
「まあ今の俺には使えないから、獣王には勝てないかもな。獣王は、骨根より龍気レベルが上なんだろ?」
「デメックの野郎がそんな事を言っていたが、まったくでたらめだよな」
いや、俺からすれば骨根も十分でたらめだ。なんせ鑑定してみたけど弾かれた。たぶん龍気のお陰だ。闘気は鑑定を弾くし、その上位互換なら完全に遮断しそうだ。
「つーか、お前その前に最後の四天王が残ってるじゃねぇーか」
「そうなんだよな。ライコウとやらにも全く勝てる気がしないんだよな」
骨根に指摘され肩を竦めてしまう。
その後、試合で疲れたのか目がしょぼしょぼして来たので、解散しベッドに倒れ込んだ。
翌朝目覚めると体が少しダルかった。思った以上に消耗していたようだ。こんなんで決勝大丈夫だろうか? 更に自信がなくなって行く。
だが、あと一歩で獣王と面識が持てる。今後の活動に絶対に有利になる筈だ。気合を入れて挑まねば。
『お待たせしました。遂に決勝戦です。待ちくたびれでしょうか? 私も今から楽しみで。ぐへへびび……。あ、鼻血が……ぐひ』
げ! あの気持ち悪い笑いをする奴が今日の司会者かよ。
『まずはアーク選手。何と四天王を二人も撃破しております。この快進撃は今回も続くのか!? しかも去年の覇者デメック様も打ち破ってます。凄いですね。ぐへへへへ……』
だから、笑い方が……もう言うまい。
『それでは、アーク選手入場してください。続きまして四天王最年少にして今年は四天王最強と噂されるライコウ様です。あの引き締まった細身の肉体がまた堪りませんね。ぐふふふふ、ぐっほっほぐび~』
どう言う笑いをしてるんだ? もう言うまいと思ったが、さっきより酷い笑いのあまり心の中で突っ込んでしまった。
それにまた肉体の話をしてるし。そこを強調されてるせいで他がオマケみたいに感じるのは気のせいかな? 気のせいかな?
『では、ライコウ様入場をお願い致します。これからお二人はくんずほぐれつするんですよね。楽しみですね。ぐっへっへぐふふ……。楽しみ過ぎてまた鼻血が……。あ゛、さっぎよ゛り酷い。しょうじょうおまぢを』
「くんずほぐれつって……」
「悪いな。同族が」
白虎獣人のライコウが気軽に話し掛けて来た。
「あんなんでも人気が高い司会者なんだよ。俺には理解できないけど」
「それは同感」
「ふふふ……」
「ははは……」
二人で笑ってしまう。なんか親しみ易い奴だな。
「ところで自分の手の内を晒す事になるから答えたくなければ答えなくて良いんだけど」
「何だ?」
「何で紫電一閃しか使わないんだ? あんた風の四天王だろ?」
「えっと……どう言う意味?」
「いや、例えば風になったりとか。他の四天王が出来るんだから、あんたも出来るんだろ?」
「あ~。出来るけど、紫電一閃がお気に入りってだけなんだよ。だから、それ以外は滅多に使わない」
得心が行ったと言う感じで頷き教えてくれる。紫電一閃がお気に入りなだけなんかい!
「じゃあ、とりあえず風勝負してみない?」
「どう言う事?」
『お待たせしました。鼻血が納まりました。それでは試合を始めてください』
あ、開始の合図がされちゃった。紫電一閃が来る。俺は身構えてしまう。が……、
「そう身構えなくて良い。さっきの話の続きをしてからでも遅くはない」
律儀だな。
「そうか。俺、魔法の中で風が一番得意なんだよね。とは言え中位止まりだけど。だから、とりあえず風系勝負しない?」
「構わないけど、『とりあえず』と言うのは?」
「それで決着が付かない、もしくは勝てないと判断したなら他の手段に移行するって事。つまり風勝負は、お遊びみたいなものだよ」
「了解。じゃあそれで行こう。となると俺は血脈術を使うけど良い?」
「どうぞ」
血脈術と言うのは、恐らく四大元素になる技だ。毎回ブルーブラットのなんたらとか、イエロブラットのなんたらとか唱えているので、恐らくその血族だけが使える技なんだろう。
紫電一閃より、ヤバいかどうか分からない。だけどもしヤバかったら、紫電一閃を防いだ後に使われるのは必然。なら最初から使わせようと考えて提案してみたが、あっさり乗ってくれた。
「じゃあ遠慮なく。<我がグリンブラットの血脈に眠りし力よ、目覚めろ!>」
ライコウが風になった。うん、自分で言っておいてヤバそうだな。なんせ風はテンプレ的に速い。しかもカマイタチのような事が出来そうだ。
スピード主体の俺に追い付き切り刻まれそうである。
『あ~~っと、ライコウ様が今大会で初めて、グリンブラットの血脈の解放を行ったぁ! あの美しい肉体が見れないのは残念です』
おいコラ! 私情入ってるぞ。