EP.32 骨根とビオサーラの事情を聞きました
「オッホン!」
態ととらしく咳をする。
「話を戻そう。二人が何をモメてるのか分からないが、話して見てくれないか? もしかしたら解決の糸口になるかもしれない」
「わーったよ」
「まずそのビオサーラを護衛って何処までして欲しいんだ?」
「ブリテント騎士王国だ」
「で、何でして欲しいんだ? 骨根も強いんだから骨根がしてやれば良いんじゃね?」
「ジパーング聖王国とアルーク教国がドンパチをやっていやがる。それが激化すれば横断するのに苦労する」
ジパーング聖王国って北にある国で、レオン獣王国から船が出ているな。アルーク教国はジパーング聖王国の東にある国だ。
戦争か。また益体も無い事をしているな。両方国教があるから、どうせそれで意見が割れているとか、そんな理由だろうか。
「なるほど」
「ウルールカ女王国から周って行けば良いじゃない。私、そのルートから来たわよ」
ビオサーラが口を挟む。
「それだと距離が長くなり、どっちにしろ護衛が欲しい」
「もう過保護過ぎ」
呆れたように言うが、その顔は心なしか嬉しそうだな。
「それから、お嬢をブリテント騎士王国の辰の道場まで連れて行きたいのだが、俺様は破門された身。ブリテント騎士王国に入ったら辰の道場まで送って欲しい」
「だからそれは……」
俺は手を挙げビオサーラに制止の合図をする。二人がモメてる内容からして、原因はこの話だろう。
「骨根の言いたい事は分かった。じゃあ聞くが、何でお前破門にされたんだ?」
「それは……」
何でもトリスタン海洋町で、殺人事件が起き、そこに骨根の市民カードが落ちていたとか。
それで疑われたと言うか完全に犯人にされ、この大会で四位以内に入らないと戻って来るなと言われたとか。
「なるほど。でも、アリバイがあるとかモメてなかった? 確か寅の道場に行ってたとか」
「お嬢がな。俺も暇だから、寅の道場の外までは着いて行った。だが、聞いてたと思うが転移魔法でいくらでも誤魔化せる」
「そもそも何で辰の道場と寅の道場は仲が悪いんだ?」
道場通しの交流があればこんな問題は起きなかった。
「辰と寅に限らず、他の道場とも折り合いがわりぃ。一子相伝じゃねぇが、門下生しか技術を教えない。それが他所に流れるのを嫌ってるんだ」
「じゃあ何でビオサーラは、その寅の道場に行ってたんだ?」
「スカルを寅の道場に入れる為だよ」
「えっ!?」
あっけらかんとと言った言葉に何故か骨根が驚く。何で驚いているの? めっちゃ驚愕に目を剥いてるじゃん。
「は? 何で俺様が寅の道場に?」
「スカルが一番分かってるでしょう? 貴方には辰の道場は合わない」
「だとしても聞いてねぇよ」
「言ってなかったし」
テヘペロって感じで舌を出す。こういうのって女の子がすると可愛いと思うのは何でだろう?
「何か余計な事を考えてないかい?」
「ソンナコトナイヨー」
ナターシャのエスパー力健在。
「なぁ聞きたいんだが、何故スカルとやらは寅の道場のが向いてるのだ?」
ラキアが問い掛ける。うん、それは俺も思った。
「寅の道場って炎魔法を扱う道場なのよ」
「そういう事ですか。そのニンゲンは確かに炎魔法の才がありました。ニンゲンにしてはですが」
何でキアラはそう悪意があるような言い方をするんだ?
「何でてめぇは上から目線で語るんだ?」
案の定、骨根が睨み付けて来てるじゃん。キアラはどこ吹くか風って態度だし。
「あ~悪いな。こいつ紅蓮魔法まで到達してるから、偉そうなんだよ」
何で俺がフォローしないといけないんだよ。
「……マジかよ」
「それは凄いわ」
骨根とビオサーラが目を丸くする。
「話を戻すと骨根には炎魔法の才があるから寅の道場のが向いてると」
「そうよ」
「最後に聞きたいけどビオサーラも門下生? 話を聞くに骨根達と同じ場所に住んでるっぽいけど」
「私は師範の娘よ」
「ちなみにその辰の道場関係者は、みんな同じ場所に住んでるで良いのか?」
「そうだ」
骨根が肯定する。
ふむ。大体情報が揃ったな。
「話は大体分かった。みんなは他に聞いておきたい事はあるか?」
「あたいはないさぁ」
「ウチもありません」
「我もだ」
「一応聞くがファーレは?」
「申し訳ないですが人族の事情は妾には分からぬ。故に静観させて貰います」
「そうか」
全員問題無いようだ。
「骨根が寅の道場に入るかどうかは、また別の問題だが、まずは辰の道場に戻る事じゃねぇのか?」
「戻れるならな」
骨根が吐き捨てるように言う。
「これさ、黒幕は骨根の兄弟子とやらしか考えられないんだけど」
俺が核心を言うと全員目を丸くする。いや、骨根以外だ。
「ああ。俺様も道場を離れてから気付いた。だが証拠がねぇ」
「待って待って! 何でハッタリックが犯人なのよ!?」
皆の気持ちを代弁するかのようにビオサーラが疑問を口にする。
「まず、骨根の市民カードを盗めるのは三人だけ。師範と兄弟子とビオサーラだ」
「私も?」
「同じ場所に住んでるんだろ?」
「えぇ」
「なら、部屋に忍び込んでやろうと思えば可能だ。違うか?」
「まぁ……やろうと思えば?」
釈然としないと言った感じだな。まあビオサーラではないだろうな。
「まずビオサーラだけど、犯人だとしたら態々その日に寅の道場に行こうとしない。自らアリバイを作ってるんだからな」
「えぇ。私じゃないわ」
「次に師範。もし犯人が師範なら大問題だ。そんな愚を犯してまで破門にするか? 才能がないって言って破門にすれば良いだけだろ?」
「確かに」
ビオサーラが頷く。
「で、残るは兄弟子って訳だ。兄弟子なら、お前らが寅の道場に行ったのを知ってるかもしれないが、確執ある相手のところに行ってたなんて簡単には話せないからアリバイに使えないと判断して決行したとも考えられる」
「でも、何で? 動機は?」
「それは、辰の道場の全員の関係性が分からないから、確信が持てないがテンプレで言ったら……」
俺は最後まで言わずジーっとビオサーラを見る。骨根も同じく見ていた。
「え!? 何?」
「気付けよ馬鹿! ハッタリックは、お前に惚れてるんだよ!!」
「え? え?」
骨根の言葉にビオサーラが目を白黒させる。やっぱりか。テンプレありがとうございますっと言ったところか。
「なのに本人は骨根に構ってばっか。寅の道場に入れようとか画策したり、この大会まで態々来たり。お前さ……」
「アーク」
ナターシャに止められる。『骨根に惚れてるんだろ?』とか、此処で言うのはまずいか。
「まあ構ってばかりだから、嫉妬したんだ。で、骨根が邪魔だと」
「そんな……」
ビオサーラの顔が沈み俯く。
「そんな訳で骨根が戻って来たら何かしらの行動を起こすだろうな。だからそこを抑える。そうすれば解決なんだが、どうする?」
ビオサーラに問い掛ける。
「え? 何で私に聞くの?」
困惑を浮かべた顔を上げ眼鏡の蔓を右手中指で上げつつ小首を傾げる。
「骨根が言っただろ? 兄弟子とやらはお前に惚れているんだ。そいつを捕まえるって事だぞ。お前はそれで良いのか?」
「うん……もし、本当にハッタリックが、そんな事をしてるなら許せない」
動揺を隠せない様子で赤い瞳を揺らすが、それでも覚悟したかのように言う。
「と、言う事だ。どうする骨根?」
「何が?」
「だから、俺達が手伝うのは、ビオサーラの護衛ではなく。真犯人を捕まえる事だ」
「いや、そこまで迷惑は掛けられねぇよ。転移者の好ってだけで」
まあそうだよな。
「俺が良いって言ってるんだ。ちなみに皆は?」
「アークが決めた事なら良いさぁ」
「ウチはアークに着いて行くと決めましたから」
「我もだ。どこまでも付き合ってやるぞ。感謝しろ。ベッドまでだって……」
「それはいらん!」
「だから最後まで……」
「煩い!」
「酷いではないか」
って言う割にはクネクネさせてキモいわ! いつものテンプレになって来たやり取りをする。
初めて見る骨根とビオサーラはドン引きしてるけど。
「って訳だ。後は骨根次第だ」
「じゃあ、頼む」
骨根が頭を下げる。
「分かった」
「だけど本当に良いのか? 今後の予定とかあったんじゃねぇか?」
「俺達は国とコネを作るのを目的としている。その為に獣王と戦えるかもしれない、この大会に出た。だから、これが終わったら北に向かうのも悪くない。但しジパーング聖王国が、戦争しているなら、もしかしたらそれに介入して国と関わるようにするかもしれない。つまり、真っ直ぐブリテント騎士王国には向かわない。それでも良いなら協力する」
「それは構わねぇ。どうせ破門されてる身だ。ゆっくりで構わない。ただ何でコネを作ろうとするんだ? やっぱ魔王とやらを倒すのに必要なのか?」
「いや、今のところ魔王を相手にする予定はない」
俺は軽く転移して来た事情を話した。例の如く驚かれたけど。まあ世界崩壊とかピンと来ないだろうな。