EP.17 残念姉妖精が大暴れしました
「ラキア、手を出さないでください」
「仕方ないのだ。姉上の好きにするが良い」
何故かキアラは一人でやるらしい。
「ルールは相手を気絶もしくは降参させる事。殺すのは禁止です」
受付嬢がルール説明をする。
「一つ質問です」
「何ですか? お嬢ちゃん」
「此処を破壊しても問題ないですか? お嬢ちゃん」
なんか二人してムキになってお嬢ちゃんって言ってるな。
「えぇ。魔法を拡散させる作りになっていますので、出来るものならどうぞ。お嬢ちゃん」
「では、壊してもウチには責任がないのですね? 愚鈍なお嬢ちゃん」
「はい、そうなります。無知なお嬢ちゃん」
そんな訳で一対六の戦いが始まる。
「<噴火魔法>」
ブッシャーーっっ!!!
真っ先に動いたのはキアラだ。六人との間に炎の壁を勢い良く立ち上がらせる。
「<悠久の時より始まりし炎が広がる……>」
どうやら、六人がキアラに迫って来る前に詠唱を完成させるつもりだな。
だが、六人も馬鹿ではない。正面が炎の壁で通れないなら、周り込めば良いと判断した。
「<焼かれろ、焦がされろ、爆ぜろ! 厄災の業火に包まれ……>」
「おらっ!」
「はっ!」
「<水槍魔法>」
「<雷槍魔法>」
キアラの目の前に迫った者が、そのまま攻撃する。魔法職の者も炎の壁を周り込んで、キアラを射程に収めた瞬間、魔法を放つ。
が、キアラは飛んで躱す。そう文字通り飛んでだ。例え幻魔法で羽根が隠れていても空は飛べる。
「「「「「「なっ!」」」」」」
六人の開いた口が塞がらない。空を飛ぶなんて発想は、この世界の大半の人間にはないからな。それでも風が渦巻いていれば、風魔法で飛んでると気付けるかもしれないが、それすらない妖精なら余計に驚くのは必然だ。
「<灰塵とかせ!>」
「何なのよ!? この魔力は」
キアラの周りで蠢く魔力に受付嬢が恐れおののく。
「<災害猛火魔法>」
そして詠唱が完成し魔法が放たれた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!!!!
爆炎の竜巻が上がる。それは天井を破壊する……と言うより一瞬で溶けた。地面も溶けて抉れて行く。
この魔法は、長い詠唱から予想するに本来はもっと範囲が広いんじゃないか? 狭くしないと六人に当たり骨すら残らないだろう。つまり殺して反則負けになってしまう。
で、その六人は完全に腰が抜けて座り込んでいる。失禁までしている奴がいる始末。
更に……、
「<炎槍魔法、炎槍魔法、炎槍魔法、炎槍魔法、炎槍魔法、炎槍魔法……ッッ!!>」
ドッゴン! ドッゴン! ドッゴン! ドッゴン! ドッゴン! ドッゴン! ドッゴン!
炎槍魔法を連発し、周りを破壊しまくる。相当キレてたんだろうな。もう滅茶苦茶だ。
「<百炎槍魔法>」
ダメ押しと言わんばかりに百の炎槍を展開し、六人に刃先を向ける。
「まだやりますか?」
「「「「「「降参します!!!」」」」」」
「結構」
百の炎槍を消す。キアラは、すっきりした顔をしていた。いや、こんな滅茶苦茶にしておいて、自分だけすっきりするなよ。ラキアも顔が引き攣ってるし。
だが、流石は紅蓮妖精と言うべきか。恐るべき魔法を使う。
「キアラは、強いんだねぇ」
しみじみと呟くナターシャ。
まあエーコには及ばないだろうけど、相当な火力があるだろうからな。
「一体なんの騒ぎだ! ……って、何だこりゃ!!??」
中年のおっさんが飛び込んで来て、更に惨状を見て目を剥く。
そりゃ修練場は原型を留めていないし、対戦した六人は泡拭いてる奴や気絶してる奴、半泣きの奴、失禁してる奴と死屍累々だしな。
「俺の仲間を冒険者登録させようとしたら、この受付嬢の態度が悪くHランクからスタートさせるとか脅して来たので、仲間がキレてこうなりました」
この状況で飛び込んで来るのは、恐らく一人しかいないだろう。従って一応敬語を使っておこう。
「何!?」
ギロリと受付嬢を睨む。
「あ、いや……こんな事になるとは思わなくて……」
ボソボソと喋る。
「こんな事になる予想以前にHランクからとか脅すのはどうなのかな?」
こうなったら俺もとことん追い込むか。俺も相当頭に来ていたからな。前に会った時に。
「何故そんな脅しをした?」
「あのお嬢ちゃんがそんなに強いとは思わなくて……」
「まだお嬢ちゃんと言いますか? 失礼なお嬢ちゃんですね」
キアラも口を挟む。
「見た目で判断するじゃねぇよ。そのせいでお前は公都から飛ばされたんだろ?」
「……はい」
やっぱり飛ばされたんだ。
「しかも、この娘はお前や俺より年上だぞ」
「えっ!?」
受付嬢が目を丸くする。もしかして……、
「鑑定しました?」
「するまでもねぇよ。この惨状で、その見た目を考えれば察しは付く」
嘆息しながら言う。流石ギルマスをしているだけはあるな。
「なのにどうせお前の事だ。お嬢ちゃん、お嬢ちゃんって連呼したのだろ?」
「……はい。申し訳ございません」
「謝る相手が違うだろ」
そう言われて苦虫を嚙み潰したよう顔でキアラを見る。
「申し訳……ご、ざいません」
不服そうに言う。
「やっと自分が無知で愚鈍と言うのが分かりましたか?」
「……はい」
キアラも更に追い込む。えげつないな。
「そもそも何で態度悪く対応した?」
「それは……」
「俺の選べる職業に暗殺者とかがあったので、要注意人物扱いで公都で出会った時から態度悪かったですね」
「……はぁあああ! 呆れて物も言えんな」
溜息が凄いな。
「もう良い。お前、明日から来るな」
「そんな……」
受付嬢が絶望的な顔をしだした。
「それと修繕費は全てお前が負担だ」
あ、灰になっちゃった。これは我に帰るのに時間が掛かるだろうな。
「さて、名乗るのが遅くなったが、俺はこのギルドのマスターをしているリリカッシュだ」
やっぱり、ギルマスか。
「話はギルマスの執務室で聞く。登録もそこでしよう」
「分かりました」
そんな訳でギルマスの執務室に移動する事になった……。