EP.15 残念姉妹妖精と村に向かいました
「急だが、明日此処を発つ」
ナターシャと伝心を終えた俺はキアラ達に話を振る。
「本当に急ですね」
「我は構わぬぞ」
「でだ、お前らどうする? もう追放命令は撤回されているだろ?」
「撤回されていますが、当然着いて行きますよ。ダメとは言いませんよね?」
「我も着いて行ってやるぞ」
「ダメとは言わないが、良いんだな?」
「えぇ。最初からウチはそのつもりです」
「我もだ」
そんな訳で、族長に挨拶し次の日、集落を発った。
当然キアラとラキアは幻魔法で羽根を隠している。妖精族とバレれば奴隷にしようと言う愚か者がいるからな。特にスイースレン公国では。
魔力封じの枷をハメられた日には無力だし簡単に隷属させられてしまう。
それと既に装備は整っている。防具も含め新調して貰った。
飛竜の小太刀 (攻撃力4000、俊敏400)
飛竜の装束 (防御力600、俊敏800)
飛竜の靴 (防御力300、俊敏1200)
何でもピュア・オリハルコンと飛竜の素材を合わせたとかで、なかなかの性能だ。ただやはり小刀ではない分、俊敏が物足りない。
それに魔道具武装ではないので、特殊な能力はない。まあそこまで求めたら贅沢だな。これも十分過ぎる性能だ。
それからポロック村に向けて歩き出し三日後の事だ。不穏な気配を感じ取った。
「ん?」
「どうかしましたか? アーク」
「誰か襲われている気配がする」
なので、そっちの方へ向かった。
そこには大量の魔獣に囲まれ戦う少女がいた。歳は十ニ、三歳ってとこだろうか?
黒髪ショートカットで耳に掛かっていない長さ。6:4分けにしている。そして、黒目だ。転移者か?
服装は軽装に急所を守るだけの皮鎧。武器は宝石剣と言うべきか……宝石が散りばめられた剣だ。豪華だなオイ。
宝石は魔法効果を高めたりもできる。つまり、魔法剣士ってとこだろうか?
目は戦闘中なのかキリっとしており、閉じた口は感情を感じさせない。その口がゆっくり動く。
「<炎刃魔法>」
剣から魔法が発せられる。やはり魔法を使う為でもある剣なのだな。
「ふっ!」
続けて剣で斬り咲く。踏み込みといい、剣速といい、なかなかの腕だ。
そんな少女と目が合う。
「えっ!?」
何故か吸い込まれた。理由は分からない。目を離せない。
いや、違う。世界が停止しているのだ。少女を囲んでいた魔獣が完全に止まっている。
更に信じ難い光景が目に映った。
「何だ?」
「何?」
星々が瞬く。これは宇宙だ。
それだけではない。ビッグバンが起きた。いや、そんな映像を見せられたと錯覚させられた。
気付けば元の景色に戻っていたからだ。
何だったんだ?
「え?」
続けて少女が短い言葉を吐く。その視線は俺の後ろ行っていた。
「<風魔手裏剣>」
後ろから魔獣が襲って来ていたのだ。俺は咄嗟に風魔手裏剣を投擲して倒した。
「手伝うか?」
そう問い掛けた。一応彼女の獲物だ。素材の取り分とかの問題や経験値の問題があるので、勝手に手を出すなと言う冒険者のルールがある。
これが全くの素人なら助けても良いのだけど。
「……いらないわ。<風刃魔法>」
短く答えながら、風魔法で魔獣を斬り咲く。
「魔眼持ちだからか?」
「……そうよ」
気に障ったのか、いきなり看破したから気に入らないのか、俺を睨みながら返して来る。
そう彼女の左目は黒だが、右目は茶の魔眼持ちだ。エーコと同じオッドアイなので直ぐに気付いた。
それに魔獣の動きがおかしい。個体によるが彼女に睨まれて止まっているのだ。それが一瞬なのもいれば、ずっと固まってる個体もいる。それどころか睨まれただけで絶命している魔獣までいた。
「君一人なら、それでも良いけど後ろにもいるだろ?」
「……そうね。じゃあ頼むわ」
一瞬苦いものを口にしたような顔をし、了承した。本当は手を借りたくないが、他に同じ歳くらいの子が二人いるので、苦渋の選択だったのだろう。
そうこの少女は他の二人を庇うように戦っている。一人は女でもう一人は男。両方少女の後ろで大きな木を背に震えていた。
「了解。キアラ、ラキア、サクっと片付けるぞ」
「分かりました」
「助けてやるのだ」
四人掛かりなら余裕だ。一瞬で片付いた。
「俺は、アークだ。こっちはキアラとラキア。君は?」
「ノア」
短く答える。素っ気ない態度だ。戦闘が終了しても感情を感じない。いや、感じさせないようにしているのだろう。
「じゃあノア。助けを拒もうとしたのは素材が欲しいのもあったのだろ? 全部やる」
「いらない。助けてくれたんだし均等で良いわ」
「そうか」
ノアは収納魔道具を取り出し自分の取り分を収納し始めたので、俺も収納魔法にしまって行く。
収納が終わると俺はノアに声を掛けた。
「ところで、こんなとこで何をしていたんだ?」
「実習よ」
「ん? 学生か何かか?」
俺は首を傾げてしまう。
「そうよ」
なるほど。それで収納魔道具を持っていたのかな?
こう言っちゃっ失礼だが、装備とか見るに宝石剣以外リッチに見えない。それなのに高価な収納魔道具を持っていた事に疑問を感じたんだよな。恐らく学院の支給品だろう。
「こう言っちゃなんだが、まだ若いだろ? 実習なら普通引率者がいるんでは?」
「魔獣に襲われ、囮になってくれたのよ」
先程から普通に会話しているが、どうもこの少女の喋り方には抑揚がない。平坦に喋っている。
「じゃあ、その引率者を探すか」
「良い。そこまで手間取らせないわ」
「まあ乗り掛かった舟って奴だよ」
「そ。ありがと」
感情を全く感じさせないお礼をされた。
「キアラ」
「分かりました。<探求魔法>」
キアラが光属性の探求魔法を唱える。
「発見。東に2k地点にニンゲンがいます」
「了解」
その後、無事に引率者である教員と合流できた。多少怪我をしていたが、キアラとラキアの使える魔法で事なき得る。
そして、行き先は同じなので、一日野宿した後にポロック村に到着し、この少女達とは別れた。
それから二日後ナターシャと合流する。
「……どう言う事だい?」
合流して第一声がこれだ。何故か怒っていた……。