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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十三章 レオン獣王国の武術大会
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EP.01 プロローグ

 月光の世界(ルナ・ワールド)での気候は安定しており、暑さや寒さを大きく感じない。それでも四季や赤道は存在する。

 南西に行く程暑く感じ、逆に北東に行く程寒い。よってブリテント騎士王国の冬は特に寒い。ましてやブリテント騎士王国の北東の町となれば特にだ。

 二月から三月では、雪に埋もれていない時期が無い程に。

 尚、赤道はジャアーク王国の山脈に沿って斜めに走っている。


挿絵(By みてみん)

 

 日本と違い土地はいくらでも余っているのだから、態々寒い土地に町を作らなくても良いのだが、ブリテント騎士王国の北東になるとそうも行かない。

 ブリテント騎士王国の北東にあるトリスタン海洋町は、海を挟んで北にあるキアーラ海王国との交易の要所。それ故に必要な町と言えよう。


 季節は三月。雪が降っていない日は、ほとんど無いと言っても過言ではない。それどころか酷い日は吹雪く始末。

 それでも稀に雪が降らない日があるので、そう言う日は決まって町民総出で雪搔きを行う。

 四月になればキアーラ海王国との交易が再開―― 一月~三月は寒さの関係で一時ストップされている――され、それだけではなく畑の種蒔きがあるからだ。

 雪に埋もれていては、それらに支障をきたすと言う訳である。


「今日も寒いな」

「おお~。隣のおっちゃんか。ああ、寒いな」

「さっさと終わらせて家に入りたいぜ」

「だな。魔石で温まりたいわ」


 そんな会話を続けながら雪掻きを行う隣通しの家の者。


「ところで聞いたか? メハラハクラ王国で大量の英雄召喚が行われたらしい」

「…………」

「困るよな。普通は一人や二人だってのに」

「…………」

「ん? 雪搔きに夢中になって聞いてないのか? まぁ良いか」


 会話が続いてない事を不信に思い振り返れば、もしかしたらこの者の運命は変わっていたかもしれない。

 運命とはちょっとしたボタンの掛け違いで大きく変わる事もあるのだから。

 尤もちょっとやそっとで変わらない事もあるのだけど。この状況もあくまで変わったかもしれないってだけで必ず変わる訳ではない。

 何にしろ隣のおっちゃんとやらは、雪掻きに夢中になってるのだろうと判断し、自分も雪搔きに集中し出した。


「おっと! いたたた……」


 足に何かが絡まりすっ転んでしまう。


「こんなとこで寝てるのか……え?」


 視界に入ったのは、さっきまで話していた者の死体だった。真っ白い雪を赤く染めた絨毯の上に転がる死体。


「おいどうしたんだ? え? 何だこの状況は……」


 そして気付く。町中雪をドス黒い赤で染め上げて、人が無数に倒れている事に。

 これが隣のおっちゃんが見た最後の光景だった……。


「がはっ!」


 バタンっ!


「お前、良い面だな。俺様の女にしてやる。有難く思え」

「いや! 放して放して!」


 ところ変わって他の場所では、男が女の腕を掴み引っ張っていた。


「周りを良く見ろよ。アレを見てもそんな事が言えるのか?」

「え? キャー!! し、死んでるの?」

「それ以外に何に見える? でたらめな光景だよな?」

「ヒィィ!!」


 女は恐怖に顔を引き攣る。町中の死体達が網膜に焼き付き、そうさせた。


「お前は生かしてやる。有難く思え。まぁ俺様が飽きたら奴隷になるんだけどな」

「…………」


 女は絶望で目のハイライトが消える。


「おい! 男共は殺したか? 気に入った女は掻っ攫っても良いぞ。俺様達の役に立つんだから女共も幸せってもんだしな」

「おお~。そうッスね」

「スカルの旦那! 逃げた奴はどうしやす?」

「面倒だし無視だ。お前もさっさと女を味わいたいだろ?」

「そうっすね。早く帰りやしょう」


 こうしてトリスタン海洋町で悲劇が起きた……。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 トリスタン海洋町から一日南西に歩いた所に龍気心拳の道場と、其処の門下生が住む家があった。

 現在は龍気心拳師範とその娘、門下生が二人の計四人しか住んでいない。

 門下生二人のうち、二番目の弟子にあたる方の名は(くれない) 骨根(すかる)と言う。名前から察せられる通り転移者だ。

 別に召喚させられた訳ではない。稀にいるのだ。迷い込む者が。骨根も迷い込んだ者である。

 迷い込んだのは八歳の頃。龍気心拳師範に拾われその後、十年間育てられた。


「んだよじじぃ。朝っぱらから」


 師範をじじぃと呼び悪態を付きながら道場にやって来た。


「もう昼だ。貴様は最近はサボりっぱなしじゃないか」

「はっ! 俺様には才能がないんだよ。どうせこの道場を継ぐのはハッタリックだろ」


 ハッタリックとは兄弟子の事だ。


「まぁ良い。それより貴様、トリスタン海洋町の事は聞いてるか?」

「でたらめな真似をしてくれた奴がいたんだろ?」

「で、貴様は3月12日は何をしていた?」

「は? ……あ~忘れた」

「これは何だ?」


 そう言って一枚のカードを骨根に投げる。


「おっと! これは……俺様の市民カードじゃねぇか。落としたらしく見つからなかったんだよな」

「3月12日にか?」

「いや、それよりずっと前だ」

「それがトリスタン海洋町に落ちていたぞ」

「は? で、でたらめだ」


 骨根は、泡食ったようの言う。


「なら、その日は何処で何をしていた?」

「だから、覚えていねぇっつってんだろっ!!」

「良かったな。それを拾ったのは身内だ。憲兵にでも拾われていたら、貴様は死刑だったぞ」

「ちっ!」

「だが、貴様は破門だ。即刻出て行け」

「ふざけんな、じじぃ」

「師範、宜しいでしょうか?」


 今まで、傍に控えていたが口を開かなかったハッタリックが師範に話し掛けた。


「何だ?」

「ただ市民カードが落ちていただけで、スカルがやったと決めつけるのはどうなんでしょうか? どうか寛大な処置を。私としても弟弟子がいなくなるのは寂しいです」

「そうだな。では、五月にレオン獣王国で行われる武術大会で四位以内に入れば破門を解いてやろう」

「で、でたらめだ。出来る訳ねぇーだろっ!!」

「それは今までの鍛錬を怠った貴様が悪い。残り一ヶ月ちょっとで儂が教えた事を思い出せば可能性はあるぞ」

「クソっ!」

「頑張ってください、スカル」

「他人事だと思って……」

「いえ、兄弟子として本当に貴方を応援していますよ」

「ちっ!」


 ハッタリックの言葉にそっぽ向く骨根。


「ともかく、さっさと出て行け。武術大会が終わるまで、此処の敷居は跨がせん」

「わーったよ。あばよ、じじぃ」


 そう言って骨根は龍気心拳の道場から去って行った。

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