EP.32 スターディデュラハンは硬過ぎました
「この先にいるな」
先程、キアラと話していた場所から東に三時間程、歩くと強い気配を感じた。
「えぇ。この先です」
「じゃあ、スターディデュラハンは、俺が相手するから、その間に妹を連れて逃げな」
「分かりました」
もう少し歩き、姿が見えて来た。開幕速攻だ。
「<クロス・ファングッッ!!>」
俺が得意とする闘気剣だ。俺の闘気を喰った闇夜ノ灯から黒い斬撃、光陽ノ影から白い斬撃が交差され、スターディデュラハンに吸い込まれる。
ズッドーンッッ!! と、けたたましい音が響くが、傷一つない。頑丈過ぎだろ?
「カルシウム取り過ぎだろ」
おっと、どっかのロクでなしと同じ台詞が出てしまった。
しかも、こっちに気付いたな。とりあえずは、ラキアを逃がすのが先決か。
「<分身魔法>、<風魔手裏剣>」
分身して囲み、風魔手裏剣を投げる事で、こっちに注意を向ける。
しかし、風魔手裏剣も無傷。確り闘気を籠めたのにだ。
「ダレダ? キサマ!」
スターディデュラハンが、手に持った大太刀振るいながら、しゃがれた声を発する。しかも、分身と本物を確り見極めていやがる。
カーンっ!! と、大太刀を小刀をクロスにし弾くと、闘気を乗せ斬り掛かる。が、やはり無傷。硬過ぎる。
とりあえず、FFOコートの隠蔽機能で隠れ、手段を考えよう。
「なっ!」
しかし、見破られ大太刀を振るわれる。紙一重で躱したが危なかったぞ。
「ソノヨウナ、小細工ナド無駄ダ」
どうする? どうする? 魔法が効かないんだぞ。全力の闘気剣で無傷だったのだ。次の手段を考えろ。そもそも星々の世界でのデュラハンって弱点なんだったか? 確か雷と……、
「はっ!」
打撃だ! 俺は掌打を腹に叩き込む。そうするとピキっと音を鳴らし、デュラハンの胴体に傷が入る。
よし! いける!
「ふっ!」
次々に打撃攻撃を入れて行く。
「イツマデモ、調子ニ乗ルナ!!」
大太刀を大きく振るわれる。
バッフ~~ンっ!! と、大きな風が巻き起こり大太刀を躱したのに体勢を整えられない。
「くっ!」
「ソーラーっ!!」
危っ!! ギリギリ飛んで躱す。俺の突風魔法もレベル6になっており、少しの間なら空も飛べるようになった。それにより、空中で様子を見る。
「逃ゲルナド、卑怯ナリ」
クソ! やはりこんな時にアルが得意とした索敵気法が欲しい。闘気を膜のように周りに広げ、それに引っ掛かった物を完全に把握するもの。空間把握(極大)と言ったところだろう。
あれが使えれば、相手がどの部位に攻撃を仕掛けて来るか丸分かりで、其処に闘気を集中出来る。闘気の重点移動とか言う技法だったかな。
それは出来るのだが、結局索敵気法が出来なければ意味がない。例えば肩に攻撃が来ると思えば、肩に闘気を集中させノーダメージにし、そして直ぐに反撃に転じるなんて事が出来るのにな。
まあ出来ないものは仕方ない。だったら、別の手段だ。
俺は一気に落下した。その際に、闇夜ノ灯を両手持ちにして、闘気を集中させる。闇夜ノ灯の刀身に漆黒のオーラが纏い出す。
「おりゃぁぁぁっ!!」
落下の勢いで斬れるかもしれない。だが……、
パッキーンっ!!
俺の愛刀が、根本からポックリ折れた。愛用してた期間は手元になかった二年を除くと一年も満たないが手に馴染む、ダチの武がくれた最高の小刀が……。
「無力ダナ!」
ズサァァァっ!!
「ぐはぁ」
折れた小刀に気を取られ、集中力を欠いてしまった。その隙を突かれ袈裟斬りで左肩から右腹まで、ザックリ斬られた。
「ソーレっ!」
「ごふっ!」
続けて蹴りを腹にを喰らう。闘気を集中出来なかった。闘気で痛みを抑える事も出来るが、集中していなかったせいで、意識が一瞬飛んでいた。それにより蹴りをモロに喰らい吹き飛ばされる。
クソっ!
いてぇ!!
どうする? 闘気を集中すれば痛みは抑えられる。が、その分、攻撃に回せなくて、どっちにしろ負け確だ。
イタイ。
じゃあ逃げる? 逃げたところで、この傷じゃ助からないし、このままじゃキアラとラキアが捕まり世界樹が、どうなるか分からない。
マジデイタイ。
俺の目的が叶わない。
そもそも、まだ死にたくねぇ。
クソ! 痛みで思考がまともらない。
どうすれば危機を脱せる?
それにこのまま死んだら、ナターシャにエーコに会えなくなる。ついでに沙耶ともだ。
あ、もう! 今は戦闘中だってのに余計な事を考えるな。
死ねない! 死ぬ訳には行かない。
だから負けるわけには行かないんだぁぁぁあああっ!!!
≪修 羅 が 発 動 し ま し た≫
え?
修羅?
頭の中で変な言葉が響いた。
果てしない戦いで、激しい感情が渦巻いた時に能力が飛躍的上がる称号と鑑定で見えていたが、意味が分からなかった。
果てしないな戦いって、どんな戦いだよと言いたかったし。
もしかしたら、一人で戦う事を意味していた? FFOにおいて、ダークはかつて一人で果てしない戦いに身を投じた事で、称号が修羅に変わった。
まあなんにしろ。力が溢れて来る。痛みも止まった。血は流れっぱなしだが、とりあえずこいつをぶっ飛ばしてから、それは考えよう。
「マダ動ケルノカ?」
スっ! と、その場から消える。
「何処ニ行ッタ?」
「後ろだ」
と、言った瞬間には背中に掌打をぶち当てた。一気に亀裂が走る。
「グヌッ!!」
「オラオラ……ッ!!」
さっきは、よくも蹴ってくれたな。お返しだ。連続蹴りを見舞ってやった。
「ぐぁぁぁぁっ!!」
やがて断末魔の叫びを上げて動かなくなった。
「くっ! 俺も此処までか……」
そのまま背中から倒れてしまう。
「主上! 主上!」
置いて来たファーレの声が聞こえる。ファーレが、飛んでこっちに向かって来てるようだ。
「主上! <回復魔法>。……ダメだ。妾の魔法程度では、回復できぬ!!」
いつの間に回復魔法なんて習得したんだよ? あーダメだ。意識が遠のく。
「主上ッ!!」
最後にこれだけは伝えないと……、
「エ、ーコの……とこへ、行け」
俺は、そのまま意識を失ってしまった――――。