EP.31 精霊族は引き籠りでした
「<収納魔法>」
収納魔法で、椅子とテーブルと、お茶とお茶菓子を取り出し腰掛ける。そしてお茶をずず~っと啜る。
「ほれ、ファーレ」
お茶菓子をファーレに与える。
「感謝します」
「……何をしているのですか?」
何か妖精族が、ジトーっと見て来ている。
「何って休憩。立ち話もなんだし座れよ」
「ふざけてるのですか?」
「別に電撃は飛ばさないぞ?」
「は?」
「いや、何でもない。至って真面目だ」
「敵を目の前にして何を言ってるのですか?」
「いや、もう戦う気ないだろ? さっきも言ったが、俺は敵対者を止めただけだ」
「……本当に意味の分からない人ですね」
そう言いつつも椅子に座る。
「ほれ、お茶だ」
「ニンゲンが振る舞ったもの等、口にできる訳ないでしょう?」
「さっきからニンゲン、ニンゲンって悪意を感じる言い方だよな」
「事実、悪意しかありません」
「俺は、アーク。悪意は、まあある程度知ってるから仕方ないが、名前で呼んでくれ」
「どこまでも意味の分からないニンゲ……いえ、アークでしたか」
「お前の名は?」
「………」
ジーっと見詰める。ややあって妖精族は、は~~と溜息を付くと……、
「……キアラ」
「そうか。キアラは、番人をしているのか? 世界樹に到達できないように」
「やはり、それが目的でしたか? 世界樹に行き同族達を皆捕まえる気なのですね?」
再び憎悪の眼差しを向けられた。
「コレ、主上に対しなんたる態度。弁えろ! 妖精風情が」
「コラ! 他の者に一定以上の経緯を持って接しなさい。最初から喧嘩腰じゃ話も、まともにできないだろ?」
「失礼致しました」
「ファーレが悪いな」
「先程から、気になっていましたが、それは神獣ですね?」
「ああ」
「神獣がニンゲンに従っているのは、不思議ではありますが、騙されませんよ?」
またニンゲンって言われたよ。やはり1800年くらい前から始まった確執があるのだろうな。本の中でしか、俺は知らないけど。
「で、さっきの話だけど、俺一人では、どうにかできないだろ?」
「どうにかとは?」
「だから、俺一人じゃ一人か二人しか搔っ攫えないだろ? だったら目の前にいる可愛い妖精を攫う方が合理的だ」
「なら、そうすれば良いでしょう? ああ、言っておきますが、ウチを攫おうが殺そうが、結界は直ぐに解けないように魔法を施していますよ?」
「別に殺しも攫いもしねぇよ」
今度は俺が溜息を付いてしまう。
「では、何の目的があって世界樹を目指すのですか?」
「観光」
「は?」
「だって興味あるだろ? 1800年くらい前まで友好的で、魔王を倒す秘宝とやらを渡してたんだろ? 秘宝もそうだけど、どんなとこかも興味がある」
「そんな事の為に……」
何か逡巡してる感じだな。それとも、ただ言葉を失っただけか。
「そんな事が重要なんだよ。なんせ俺は転移者だから」
「え?」
キアラが目を丸くする。それから俺はかいつまんで転移して来た事情を話した。
「魔王を倒す為じゃない? それよりも世界崩壊?」
キアラが茫然と呟く。
「で、結界だったか? そんなものその気になれば、ぶち破れるぞ?」
「え?」
「ファーレ、結界はどっちだ?」
「あちらです、主上」
「<スラッシュ・ファングっ!>」
ファーレの言われた方角に闘気剣スラッシュ・ファングを飛ばす。木々を薙ぎ倒し突き進む。そうすると、その方向の魔力流れが変わったのを察知した。
恐らく結界に穴が空いたのだろう。だが、小さい穴なので、簡単に修復すると思うが。
「ほらな。軽く闘気剣を飛ばしただけで、あれだ。全力でぶっ放せば完全に破壊できるぞ?」
「なら、何故しないのですか?」
「だから、搔っ攫うつもりがないからだ。できれば友好的な繋がりを作りたい」
「は~~」
と、大きな溜息を付く。そして……、
「友好的ですか? ならばウチが困っていると言ったら助けてくれるのですか?」
「困ってるのか?」
「えぇ」
「内容によるな。俺一人でどうにかできるなら、考えても良いぞ」
「ウチら妖精族が物理による攻撃が不得意とご存じですか?」
「種族特性はそうだと本の知識程度には」
「実は、双子の妹が魔法の効かない魔獣に攫われました」
「は?」
魔獣が攫う? 殺されたとかじゃなく?
「助けて欲しいと?」
「えぇ。お願いできますか?」
「いや、世界樹に集落があるんだろ? ドワーフとかに頼れよ。それにあくまで種族特性は物理が苦手であって、個体差があるって本に書いてあったぞ」
「えぇ。仰る通り、同胞の妖精族の中には、物理攻撃を得意とした者がいます。それに集落にはドワーフやダークエルフもいます」
「なら、頼れよ」
「それができないのです」
俯き忸怩たる思いで語り出す。1800年くらい前に人族に裏切られ、どんどん同族達が奴隷にされた事で排他的になり、結界から出なくなったとか。結界の番人を置いてるくせに、どうせその番人が死んでも結界は、暫く維持されるからだとか。
「ふざけやがって」
軽くキレそうだわ。
「それじゃあ、ただの引き籠りじゃねぇか」
今日のお前が言うなスレは此処ですか? 元引き籠りが何言ってるんだって? 今が違うから良いんだよ。それより精霊族ってのは、ふざけてやがる。特に……、
「お前達は捨て駒じゃねぇか!!」
「その通りです。でも、不思議ですね。ウチらの為に怒ってくれるニンゲンがいるとは思いませんでした」
「人間も色々だよ。引き籠ってるクソったれな精霊族がいるように、奴隷しようとするクソったれな人間もいる」
「そう……なのかもしれませんね。ウチは此処から出た事がないので、知りませんでしたが」
儚く微笑むキアラ。初めて見せてくれた笑みなのに痛々しい。
「仮にお前の妹を助けたとして、これからどうするんだ?」
「どう……するとは?」
「いや、同族がクソ舐めてるだろ? このまま同族と共に引き籠るのか?」
「それしかできませんから。ウチら妖精族は、簡単に捕まり奴隷にされてしまいます」
「お前、幻魔法を使ったよな? 羽根隠せるんじゃないか?」
「隠せてもバレる時はバレますから」
そう言ってまた儚く笑う。
「そうか」
「それともアークがウチらを守ってくれますか? 守ってくれるなら、アークに従います」
「自ら奴隷宣言かよっ!?」
俺は目を剥いてしまう。
「神獣の主人ですから、それも悪くないかと思えて来ました」
「残念ながら、俺の中の幼女枠は決まっている」
言わずもがな、エーコたんです。
「幼女と言いますが、これでも貴方より四倍は生きてると思いますよ?」
「見た目が幼女だろ?」
「確かにウチと妹は八歳から、肉体の成長は止まりました」
「よし! じゃあ妹を助けてやる」
「本当ですか?」
キアラが目を丸くする。
「ただし俺に従え」
「えぇ。構いません。ですが、ウチだけにしてください。妹は奴隷にしないでください」
「奴隷になんかしねぇよ! 世界樹の連中が排他的過ぎるのが予想外だったからな。集落への案内と精霊族と揉めそうなら間を取り持ってくれ」
「間に入っても、同族達が大人しくなるとは思えませんが?」
「それなら、俺の味方でいろ。もし、それで追い出されるようなら、俺が最低限面倒見てやる。捕まって奴隷落ちしないようにな」
「それは願ってもない事ですね」
「だからって喧嘩腰で間を取り持つなよ? あくまで友好を結べるようにな」
「分かりました。妹を……ラキアを助けてくださるなら、そのようにします」
そう言って微笑む。先程とは違って儚いものではなかった。で、妹の名前はラキアね。
「じゃあとりあえず、お茶飲めよ」
「分かりました。では、頂きます」
あ、今度は素直に飲み出した。先程の態度の意趣返しをしたくなって来たな。
「あ、それ媚薬入り」
「ゲホッ! ゲホッ! ……むっ!!」
噎せ返り、俺を睨み付けて来た。
「自ら奴隷になる宣言してたのに、どうして睨む?」
「……妹を助けてくれたら従うと言ったのです。それに普通に命じるならともかく思考力を奪うのは最低です」
「まあ、嘘だけどねー」
「やはり、ニンゲンは信用できませんね」
「さいですか」
「それに貴方は、幼女趣味なのですね?」
「四倍ババァって言ってなかったか?」
ニヤリと笑い更に揶揄う。
「態と言ってるのですか? 失礼な言い方ばかり」
「なら幼女趣味とか言うなよ」
「事実でしょう?」
「いや、可愛い女の子趣味ですが? 男なんてそんなもんだし」
「どっちにしろ女の敵ですね」
二股クソ野郎と一緒にするなよ。
「そもそもお前、仮に妹を助けた後、俺が命じれば何でもするのか?」
「……その気は失せましたが、最初はそのつもりでした」
「ふ~ん。じゃあラキアっての助けて貰えたら、脱がされても構わないと思ってたのか?」
「もうただ一人の肉親ですからね。それに同族に見捨てられたので、貴方に従っても良いと思いました。えぇ、脱げと言うなら脱ぎましょう。ですが気が変わりました。貴方の味方となり、同族との間を取り持つだけにします」
なんか怒らせちゃったな。最初の憎悪までは行かないが、淡々と言うその言葉に怒気を孕んでいた。
「さて、冗談はこの辺りにして、妹は何処にいるか知っているのか?」
「一体何処までが冗談だったのですか!?」
キアラが目を剥く。が、直ぐに続きを話し始める。
「居場所なら分かります。魔獣の目的は妹とウチの身柄、そして結界を解く事ですから」
「は? 魔獣がそんな知能あるのかよ?」
「ウチも驚きました。それで最初に妹が捕まり、結界を解く事はできませんので、妹に逃げるように言われ逃げました」
忸怩たる思いで語る。そりゃ妹に逃げろと言われたら姉として達せがないな。
「その際に言われました。気が変わったら戻って来いと」
「そもそも魔獣が喋るのか? 神獣だろそれ」
「はい。ウチも喋る魔獣は、初めて見ました。霊獣ですら喋れないと聞いていたのですが」
「ちなみに何て魔獣だ?」
「スターディデュラハン」
は? スターディデュラハン? 聞いた事ないな。デュラハンは首の無い鎧だけど、その上位種なのは間違いないが。俺が読んでいなく、他の面々の誰かが読んだ書物に書いてあった魔獣だろうか?
分かっているのは、魔法耐性が強いって事だけだな。
「デュラハンなら光属性が効きそうだな」
「えぇ。多少は効きました」
「光属性も得意なのか?」
「得意ではないので、倒せなかったのです」
流石は妖精族。魔法を多才に扱えるな。が、倒せなかった以上納得していないのだろう。
「まあ良い。じゃあ案内してくれ」
そうして、ラキアを捕まえた魔獣とやらがいる場所に向かった。