表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
375/563

EP.31 精霊族は引き籠りでした

「<収納魔法(ストレージ)>」


 収納魔法(ストレージ)で、椅子とテーブルと、お茶とお茶菓子を取り出し腰掛ける。そしてお茶をずず~っと啜る。


「ほれ、ファーレ」


 お茶菓子をファーレに与える。


「感謝します」

「……何をしているのですか?」


 何か妖精族が、ジトーっと見て来ている。


「何って休憩。立ち話もなんだし座れよ」

「ふざけてるのですか?」

「別に電撃は飛ばさないぞ?」

「は?」

「いや、何でもない。至って真面目だ」

「敵を目の前にして何を言ってるのですか?」

「いや、もう戦う気ないだろ? さっきも言ったが、俺は敵対者を止めただけだ」

「……本当に意味の分からない人ですね」


 そう言いつつも椅子に座る。


「ほれ、お茶だ」

「ニンゲンが振る舞ったもの等、口にできる訳ないでしょう?」

「さっきからニンゲン、ニンゲンって悪意を感じる言い方だよな」

「事実、悪意しかありません」

「俺は、アーク。悪意は、まあある程度知ってるから仕方ないが、名前で呼んでくれ」

「どこまでも意味の分からないニンゲ……いえ、アークでしたか」

「お前の名は?」

「………」


 ジーっと見詰める。ややあって妖精族は、は~~と溜息を付くと……、


「……キアラ」

「そうか。キアラは、番人をしているのか? 世界樹に到達できないように」

「やはり、それが目的でしたか? 世界樹に行き同族達を皆捕まえる気なのですね?」


 再び憎悪の眼差しを向けられた。


「コレ、主上に対しなんたる態度。弁えろ! 妖精風情が」

「コラ! 他の者に一定以上の経緯を持って接しなさい。最初から喧嘩腰じゃ話も、まともにできないだろ?」

「失礼致しました」

「ファーレが悪いな」

「先程から、気になっていましたが、それは神獣ですね?」

「ああ」

「神獣がニンゲンに従っているのは、不思議ではありますが、騙されませんよ?」


 またニンゲンって言われたよ。やはり1800年くらい前から始まった確執があるのだろうな。本の中でしか、俺は知らないけど。


「で、さっきの話だけど、俺一人では、どうにかできないだろ?」

「どうにかとは?」

「だから、俺一人じゃ一人か二人しか搔っ攫えないだろ? だったら目の前にいる可愛い妖精を攫う方が合理的だ」

「なら、そうすれば良いでしょう? ああ、言っておきますが、ウチを攫おうが殺そうが、結界は直ぐに解けないように魔法を施していますよ?」

「別に殺しも攫いもしねぇよ」


 今度は俺が溜息を付いてしまう。


「では、何の目的があって世界樹を目指すのですか?」

「観光」

「は?」

「だって興味あるだろ? 1800年くらい前まで友好的で、魔王を倒す秘宝とやらを渡してたんだろ? 秘宝もそうだけど、どんなとこかも興味がある」

「そんな事の為に……」


 何か逡巡してる感じだな。それとも、ただ言葉を失っただけか。


「そんな事が重要なんだよ。なんせ俺は転移者だから」

「え?」


 キアラが目を丸くする。それから俺はかいつまんで転移して来た事情を話した。


「魔王を倒す為じゃない? それよりも世界崩壊?」


 キアラが茫然と呟く。


「で、結界だったか? そんなものその気になれば、ぶち破れるぞ?」

「え?」

「ファーレ、結界はどっちだ?」

「あちらです、主上」

「<スラッシュ・ファングっ!>」


 ファーレの言われた方角に闘気剣スラッシュ・ファングを飛ばす。木々を薙ぎ倒し突き進む。そうすると、その方向の魔力流れが変わったのを察知した。

 恐らく結界に穴が空いたのだろう。だが、小さい穴なので、簡単に修復すると思うが。


「ほらな。軽く闘気剣を飛ばしただけで、あれだ。全力でぶっ放せば完全に破壊できるぞ?」

「なら、何故しないのですか?」

「だから、搔っ攫うつもりがないからだ。できれば友好的な繋がりを作りたい」

「は~~」


 と、大きな溜息を付く。そして……、


「友好的ですか? ならばウチが困っていると言ったら助けてくれるのですか?」

「困ってるのか?」

「えぇ」

「内容によるな。俺一人でどうにかできるなら、考えても良いぞ」

「ウチら妖精族が物理による攻撃が不得意とご存じですか?」

「種族特性はそうだと本の知識程度には」

「実は、双子の妹が魔法の効かない魔獣に攫われました」

「は?」


 魔獣が攫う? 殺されたとかじゃなく?


「助けて欲しいと?」

「えぇ。お願いできますか?」

「いや、世界樹に集落があるんだろ? ドワーフとかに頼れよ。それにあくまで種族特性は物理が苦手であって、個体差があるって本に書いてあったぞ」

「えぇ。仰る通り、同胞の妖精族の中には、物理攻撃を得意とした者がいます。それに集落にはドワーフやダークエルフもいます」

「なら、頼れよ」

「それができないのです」


 俯き忸怩たる思いで語り出す。1800年くらい前に人族に裏切られ、どんどん同族達が奴隷にされた事で排他的になり、結界から出なくなったとか。結界の番人を置いてるくせに、どうせその番人が死んでも結界は、暫く維持されるからだとか。


「ふざけやがって」


 軽くキレそうだわ。


「それじゃあ、ただの引き籠りじゃねぇか」


 今日のお前が言うなスレは此処ですか? 元引き籠りが何言ってるんだって? 今が違うから良いんだよ。それより精霊族ってのは、ふざけてやがる。特に……、


「お前達は捨て駒じゃねぇか!!」

「その通りです。でも、不思議ですね。ウチらの為に怒ってくれるニンゲンがいるとは思いませんでした」

「人間も色々だよ。引き籠ってるクソったれな精霊族がいるように、奴隷しようとするクソったれな人間もいる」

「そう……なのかもしれませんね。ウチは此処から出た事がないので、知りませんでしたが」


 儚く微笑むキアラ。初めて見せてくれた笑みなのに痛々しい。


「仮にお前の妹を助けたとして、これからどうするんだ?」

「どう……するとは?」

「いや、同族がクソ舐めてるだろ? このまま同族と共に引き籠るのか?」

「それしかできませんから。ウチら妖精族は、簡単に捕まり奴隷にされてしまいます」

「お前、幻魔法を使ったよな? 羽根隠せるんじゃないか?」

「隠せてもバレる時はバレますから」


 そう言ってまた儚く笑う。


「そうか」

「それともアークがウチらを守ってくれますか? 守ってくれるなら、アークに従います」

「自ら奴隷宣言かよっ!?」


 俺は目を剥いてしまう。


「神獣の主人ですから、それも悪くないかと思えて来ました」

「残念ながら、俺の中の幼女枠は決まっている」


 言わずもがな、エーコたんです。


「幼女と言いますが、これでも貴方より四倍は生きてると思いますよ?」

「見た目が幼女だろ?」

「確かにウチと妹は八歳から、肉体の成長は止まりました」

「よし! じゃあ妹を助けてやる」

「本当ですか?」


 キアラが目を丸くする。


「ただし俺に従え」

「えぇ。構いません。ですが、ウチだけにしてください。妹は奴隷にしないでください」

「奴隷になんかしねぇよ! 世界樹の連中が排他的過ぎるのが予想外だったからな。集落への案内と精霊族と揉めそうなら間を取り持ってくれ」

「間に入っても、同族達が大人しくなるとは思えませんが?」

「それなら、俺の味方でいろ。もし、それで追い出されるようなら、俺が最低限面倒見てやる。捕まって奴隷落ちしないようにな」

「それは願ってもない事ですね」

「だからって喧嘩腰で間を取り持つなよ? あくまで友好を結べるようにな」

「分かりました。妹を……ラキアを助けてくださるなら、そのようにします」


 そう言って微笑む。先程とは違って儚いものではなかった。で、妹の名前はラキアね。


「じゃあとりあえず、お茶飲めよ」

「分かりました。では、頂きます」


 あ、今度は素直に飲み出した。先程の態度の意趣返しをしたくなって来たな。


「あ、それ媚薬入り」

「ゲホッ! ゲホッ! ……むっ!!」


 噎せ返り、俺を睨み付けて来た。


「自ら奴隷になる宣言してたのに、どうして睨む?」

「……妹を助けてくれたら従うと言ったのです。それに普通に命じるならともかく思考力を奪うのは最低です」

「まあ、嘘だけどねー」

「やはり、ニンゲンは信用できませんね」

「さいですか」

「それに貴方は、幼女趣味なのですね?」

「四倍ババァって言ってなかったか?」


 ニヤリと笑い更に揶揄う。


「態と言ってるのですか? 失礼な言い方ばかり」

「なら幼女趣味とか言うなよ」

「事実でしょう?」

「いや、可愛い女の子趣味ですが? 男なんてそんなもんだし」

「どっちにしろ女の敵ですね」


 二股クソ野郎と一緒にするなよ。


「そもそもお前、仮に妹を助けた後、俺が命じれば何でもするのか?」

「……その気は失せましたが、最初はそのつもりでした」

「ふ~ん。じゃあラキアっての助けて貰えたら、脱がされても構わないと思ってたのか?」

「もうただ一人の肉親ですからね。それに同族に見捨てられたので、貴方に従っても良いと思いました。えぇ、脱げと言うなら脱ぎましょう。ですが気が変わりました。貴方の味方となり、同族との間を取り持つだけにします」


 なんか怒らせちゃったな。最初の憎悪までは行かないが、淡々と言うその言葉に怒気を孕んでいた。


「さて、冗談はこの辺りにして、妹は何処にいるか知っているのか?」

「一体何処までが冗談だったのですか!?」


 キアラが目を剥く。が、直ぐに続きを話し始める。


「居場所なら分かります。魔獣の目的は妹とウチの身柄、そして結界を解く事ですから」

「は? 魔獣がそんな知能あるのかよ?」

「ウチも驚きました。それで最初に妹が捕まり、結界を解く事はできませんので、妹に逃げるように言われ逃げました」


 忸怩たる思いで語る。そりゃ妹に逃げろと言われたら姉として達せがないな。


「その際に言われました。気が変わったら戻って来いと」

「そもそも魔獣が喋るのか? 神獣だろそれ」

「はい。ウチも喋る魔獣は、初めて見ました。霊獣ですら喋れないと聞いていたのですが」

「ちなみに何て魔獣だ?」

「スターディデュラハン」


 は? スターディデュラハン? 聞いた事ないな。デュラハンは首の無い鎧だけど、その上位種なのは間違いないが。俺が読んでいなく、他の面々の誰かが読んだ書物に書いてあった魔獣だろうか?

 分かっているのは、魔法耐性が強いって事だけだな。


「デュラハンなら光属性が効きそうだな」

「えぇ。多少は効きました」

「光属性も得意なのか?」

「得意ではないので、倒せなかったのです」


 流石は妖精族。魔法を多才に扱えるな。が、倒せなかった以上納得していないのだろう。


「まあ良い。じゃあ案内してくれ」


 そうして、ラキアを捕まえた魔獣とやらがいる場所に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ