EP.26 スイースレン公国に向かいました
沙耶と言い合いをしていると丁度セイラがお店を締めてやって来た。
「相変わらず仲良いね~~」
「良くないわよっ!!」
「ツンデレ乙!!」
「ツンデレじゃないわよ! それにだから乙って何よ!?」
「それより、セイラお別れだ」
「それよりって何よ!? 流すんじゃないよ」
「沙耶、煩い」
「あんたがよっ!!」
「ほんと仲良いな~~」
セイラが苦笑いを浮かべる。
「ともかくお別れだ」
「寂しくなるね~」
「だが、お金は繋がっている。どんどん稼げよ」
「嫌な繋がりだね~~」
「とは言え、実は3月には、少しだけ戻って来るけど」
「えっ!?」
セイラが目を丸くする。
「沙耶が誕生日なんだよ。店を貸し切りにしよう」
「ああ~。良いよ~」
「ちょっとー、私の為に貸し切りとか良いよ!」
沙耶が抗議の声を上げるが……、
「却下」
「は?」
「お前は俺達の大事な仲間だぞ。お前だけ適当に扱えるか」
「……何なのよ? こんな時にそんな事言って。普段言わないじゃないのよ」
ボソっと小さく呟き俯いてしまう。ダークの耳を持ってすれば全部聞こえている。
「じゃあセイラの店を貸し切って、祝うのやり過ぎだと思う人~?」
「思わないさぁ」
「思わないよー」
「だね~~」
「だってよコラ! グダグダ言うんじゃねぇ!」
「何で半キレなのよ!?」
「でだ、セイラ。稲の種は育ってるか?」
「育ってるよ~。住居は私しか使ってないから~、いくつかの部屋を使って育ててるよ~」
稲の種は温室ではないと育たないと聞く。だけどセイラの栽培があればそれでも育つのか。やるな。
「じゃあ沙耶を祝うので戻って来たら、最初くらい田植えを手伝うよ」
「良いの~?」
「ああ。今年はまだ誰かを雇う余裕ないだろ? だが、来年は雇えよ」
「分かった~」
まあ既に庭師を雇い、花の世話はやらしてるようだけど。
「それと、そろそろ伝心魔道具を返して貰う」
「今までありがと~」
そう言って伝心魔道具を渡しくれる。
「草は?」
「そのまま持っておけ。忍術レベルが上がって草もパワーアップしたぞ」
「どんな~?」
「軽く叩くと、俺が気付くようになった。覗いていなくても、何か伝えたい事があるのが伝わる」
「なるほど~」
「だからモールス信号をしろ」
「知らないよ~~!!」
セイラが眉を吊り上げる。うん、俺も知らない。
「じゃあ、合図だな。一回だと間違えて叩いてしまったと判断する。三回叩けば何かあったと思って、覗く事にする」
「分かった~。何から何までありがとうね~~」
「尤も直ぐに駆け付けられるか分からないがな」
そう言って肩を竦めた。
直ぐに駆け付けないと困る緊急事態じゃなきゃ良いんだけどな。
「実は新代官様が時々、食べに来てくれるんだ~」
「は? 一般の客に混ざって?」
「いや~、代官様が来たら二階を使って貰ってるよ~」
二階を貸し切りかよ。
「だから~、困った事があれば代官様が出来る事なら、してくれるって~」
「ほ~」
代官を味方に付けるとか、その町に暮らす者なら、かなり優遇されてるって事だな。
「そう言う訳で~、早々アークに頼らないから大丈夫だよ~。旅に専念してね~。それと皆、元気でね~」
気を使わせてしまったか。
「旅ばかりじゃなく日本料理食べたいから、近くに来れば直ぐに此処に来るけどな。なんせタダ飯だし」
「ほんとアークはあくどいよね~。ああ~、そう言えば気になってたんたけどそれ何~?」
そう言って、エーコの頭の上を差す。
「神鳥だよー。従魔契約したー」
「えっ!? 神獣~? 何処まで規格外なんだよ~~」
セイラが目を剥く。
規格外? 失礼な。
「ああ、そうだ。忘れる前にこれやる」
「これは収納魔道具~?」
「仕入れとか楽になるだろ?」
「そうだね~。助かるよ~」
三枚あったが一枚はハンスに、もう一枚はセイラに渡した。最後の一枚は保留だな。
まあそんな訳で、セイラとの別れを済ました。セイラからすれば留別だな。
次の日、起きるとセイラは朝の仕込みをしていた。別れは前日に済ませてあるので、邪魔しないように『食事処 アサシンズ』を出る。
続けて向かうのは、孤児院。ライオス君を引き取る手続きは、もう終わらせてあるので、後は引き取るだけの状態だ。
あの闇を抱える瞳が気になり、可能なら復讐を果たした後も、空虚にならないように導いてやりたいと皆には、もう話してある。
「ライオス君、迎いに来たぞ」
「これはアークさんに皆さん。これから宜しくお願い致します」
相変わらず硬い。と言うか、何故こんな礼儀正しいんだ? 俺達のように年齢を下げているとか?
「宜しく(さぁ)(ー)(ね)」
「ライオス君……いや、ライオス! 最初に言っておく事がある」
「何でしょうか?」
「これから共に旅をする仲間になるんだ。敬語は無しだ」
「だねぇ」
ナターシャに続きエーコと沙耶も頷く。
「分かりました。いえ、分かった。これから宜しく」
「それともう一つ。エーコに手を出したら殺す」
「ぐっ! ……はい」
軽く威圧しました。
「またそんな事言ってー。ライ君、気にしなくて良いよー」
「アークは、そればっかしさぁ」
「ほんと親バカよっ!!」
三人して酷くね? ライオスもなんか苦笑いしてるし。にしてもエーコは、ライ君呼びか。
こうしてライオスを加え、港町ルカまで徒歩二日掛けて向かい船に乗る。船旅は三日掛かったが事前に、得てた情報通り穏やかなもので、港町スイに行けた。
ここはフラグクラッシャー沙耶の出番で、海の巨大魔獣に襲われると思ったんだけどな。
「誰がフラグクラッシャーよっ!! あんたがそうじゃないのよ!? 毎回変な厄介事を起こして」
スルー。
「……また私の扱いが雑になったよ」
「うわっ!」
「何よ?」
沙耶が俺を睨んで来る。別に沙耶の話なんてしてないんだけどな。沙耶は俺の事、好き過ぎるだろ?
「嫌いよ!」
ツンデレ乙!
「ツンデレじゃなし、乙って何よっ!!」
てか、さっきから煩いよ。俺は何も言ってないのに。
「煩いのはあんたよ! 全部口に出てるのよっ!!」
「ほんとうわって言いたくなるさぁ」
「だねー」
「これは酷いな」
沙耶以外『うわー』に同意してくれたけど、沙耶は俺しか見えてないのか? それで嫌いとか良く言えたな。
「……煩いよ」
ボソっと呟き頬を染め俯く。
「しおらしくしても可愛くないから」
「だから煩いよっ!!」
「良いから前を見ろ」
俺は沙耶の顔を掴み前を無理矢理見せる。
「何よ!? ……えっ!?」
漸く気付いたか。
「……………この国、最悪よ」
「ああ。奴隷推奨国とは聞いていたが、これはな……」
一人に付き奴隷を一人以上持っているのではないかと言わんばかりだ。
まあ港町だし、力仕事が多いからなのかもしれないが。
「獣人にドワーフに、あれはダークエルフか? 初めて見るな」
「本当に耳が長いさぁ」
ナターシャが言う通り耳が長い。それと肌が浅黒い。そして見た目が良い。整った顔立ちだ。男でこれなら女は、かなり期待できるんじゃないか?
そうして港町スイを暫く歩く。
「奴隷商を何件見た?」
「数えるのも馬鹿らしいさぁ」
「目に入れるも嫌よ」
「五件だ」
ライオスは確り数えていたようだ。
それと沙耶が一番堪えていた。元日本人だし常識が違うのだろう。
「あんたもでしょう?」
「まあそうだけど。俺の場合、もっと凄惨のを見て来たからな。って言うか心を読むな」
「だから、口に出てたわよ」
「ともかくエーコは単独行動禁止な。捕まって売られそうだ」
「大丈夫だと思うなー」
「まあ隕石魔法をぶっ放せばな」
「そこまでしないよー」
エーコがプクーと頬を膨らましそっぽ向く。
「いや、俺にしょっちゅう使って来るだろ?」
「アークが変な事ばかり言うからだよー。それにこの世界に来てからー、一度も使ってないよー」
まあ確かに。
「エーコなら白金貨はしそうだ」
「……また親バカ発言」
「沙耶は……まあ平気だろ」
「何でよ!? 心配してくれないの?」
「ああ心配だよ。滅茶苦茶心配だよ」
「え?」
目を丸くし顔を赤らめる。
「捕まっても値段が全く付けられなそうで」
「そっち!?」
違う意味で赤くなった。
「誰も買いたいと思わないだろ」
「煩いよ!! はっきり言うな!」
「仮に元の年齢でも、性奴……」
ブーンっ!!
薙刀を振るわれたので避けた。
「避けるなっ!」
「そりゃ避けるだろ!」
「ほんと嫌いよ!」
さいですか。
「ともかく此処にいても気分悪いし、今日はさっさと宿を取り、明日王都を目指そう」
「「「「異議なーし」」」」
と言うわけで、次の日スイースレン公国の王都スーレンを目指す事になった。