EP.22 今度こそサプライズを行いました
俺達は、適当にプラプラと王都メルーシを歩き、夕方頃に城に戻って来た。
「エーコ様がお帰りになりました」
「え?」
城門の兵が、そう言うとエーコが小首を傾げる。
こう言った言い方はエーコ一人の時ならあるだろうが、俺達もいるので、ここは『アーク様達が』とか『ナターシャ様達が』とか言われる。それなのに『エーコ様が』と来たのだ。
それも複数系ではなく個人である。それが不思議に感じたのだろう。
そして、門が開けられる
「何よ? これ」
「………」
その光景に沙耶は目を丸くし、エーコは、理解が出来ないと言わんばかりに固まってしまう。
どんな光景かと言えば、城門から城の出入口まで道のりの左右に兵や侍女達がズラリと並んでるのだ。
城門を入ると庭園が広がっており、城の出入口まで50mくらいある。その距離に人が並んでいれば壮観だろう。
それも何か楽器を持ってるし。
「とりあえずエーコ、歩こうか」
「……うん」
俺が背中を押すと、か細く頷く。
そうして兵や侍女達が並ぶ間の道を歩き始めると、盛大に楽器を鳴らし始めた。
「一体何なのっ!?」
「………」
絶賛混乱中の沙耶に放心気味のエーコ。
ナターシャの方を見ると、ナターシャも目を丸くしていた。事前に伝えてはいたが、此処まで大掛かりとは思っていなかったのであろう。
と言うか、この音楽あれに少し似ているな。ガンナーになった召喚士が即興で歌ったあれに。
あ、コーラスまで聞こえ始めた。少し離れたとこにコーラス部隊がいるな。
生れて来た君の声
根を張って
強いフリ
ララ~ララ~♪
なんか言えなかった万の言葉とか歌詞にあるし。やっぱガンナーの即興で歌ったあれと似てる。
てか、此処までド派手だと、俺もぶっちゃけ引くくらい驚いている。
やがて城の出入口の側に到着するとサフィーネがいた。
「エーコ、誕生日あめでとうございます」
「「「「「「「「「「おめでとうございますっ!!」」」」」」」」」」
サフィーネがそう言うと、一斉に左右にいた兵や侍女達も祝福の言葉を述べる。
それで漸くエーコは理解したらしく……、
「もー、何なのかと思ったよー」
頬を赤くしそっぽ向くが、その後ろ姿は嬉しそうに見えた。
「へー。今日はエーコちゃんの誕生日だったのね。誰かさんと違い紛らわしいのではなく」
感心したよう言うが、まだ根に持ってるのかよ。
「小さいのは器だけでなく……」
敢えて言葉を切る。いつもと同じじゃ芸がないからな。
「煩いよ!」
「あれ? あれれ? 俺何か変な事言ったかな?」
「どうせ胸も小さいって思ったんでしょう?」
「何卑屈になってるの? あーそうかそうか自覚があったんだ」
ニヒと笑い揶揄う。
「煩いよ! 普段から誤解を招く言動してるアークが悪いよっ!!」
「いえ、煩いのは二人共です。主役のエーコより、目立っておりますよ?」
サフィーネの眉が吊り上がる。
「あ~夫婦漫才を皆に見られているな」
「誰がアンタなんかと夫婦になるよっ!?」
「アークっ!」
ペッシーンっ!
いつもの事ながら、ビンタを喰らってしまう。
「今度は三人ですか」
サフィーネが、は~と溜息を付き頭抱えた。
「本日の主役はエーコなのですからね? さぁどうぞ中へ。パーティーの準備はできております」
そう言ってサフィーネが道を開ける。
俺はエーコの背中を押して城の中に入れた。すると中では、侍女軍団が待ち構えており……、
「本日は、エーコ様の生誕した日。ささやかながら祝辞を述べさせて頂きます」
「「「「「「「「「「おめでとうございますっ!!」」」」」」」」」」
侍女の代表がカーテシーを行いながら言い、他の侍女達が続く。
「ちょっと派手過ぎない?」
俺の顔は、絶賛引き攣っているだろうな。
「なんせ王侯貴族達に取って、九歳は十五歳の次に特別な誕生日ですから」
俺の言葉を拾ったサフィーネが答える。
「十五歳は成人だろ? 九歳は?」
「学園に入れる歳と言う事で一つの節目にしております。尤もエーコが学園に行くかどうかは、別の話ですけど」
「ふ~~ん。節目ねぇ」
「エーコ様、本日はこれより、体を清めて頂きます」
俺とサフィーネが話している間もエーコと話していた侍女が、そう言い出すとエーコを連れて行く。風呂かね?
王族にしそうな対応だな。外の音楽隊といい、此処の侍女達といい。やり過ぎのような。
いや、本来なら十五歳になっており、成人していたんだよな。そう考えるとアリか? いや、それでもこれはちょっと……。
「サプライズでエーコの誕生日をやりたいと言ったが……これ、やり過ぎじゃね?」
「張り切ってしまいました。再来年は私も十五になるので、皆さん予行練習になるとかで。勿論つい私もですね」
少し気まずそうに頬を染めながら溢すサフィーネ。
そう言えば今、十三なんだよな。
「サプライズだったのね。ナターシャさんは知っていた?」
「やるって事は知ってたさぁ。でも此処までとは……」
沙耶の問いに答えるナターシャは引いていた。
「何で私には言わないのよっ!?」
続けて俺に突っ掛かる。言わずと知れた沙耶。ハリセン要る?
「だから何でよっ!?」
「いや、サプライズにしたかったし」
「私にはしなくて良いでしょうよっ!!」
「サヤはともかく私達は、先に会場に行きエーコを待ちましょう」
そう言ってサフィーネが先導する。
「……私の扱いが雑よ」
ボソっと聞こえたがスルー。
「そう言えばサフィ。学園行ってないよな? まだ通ってる歳だろ?」
「メハラハクラ王国に行く為に休暇を取ったのですが、予定より長い休みになってしまいました。そのお陰で予定より、ずっと学業が遅れる事になり、王家の者として恥ずかしいですから、学園の内容まで追い付くまで、城で勉学に励んでいたのですよ」
「王族も大変だな」
「えぇ。それで冬休みが15日まであるので16日から、学園に戻る予定ですわ。11日のエーコの誕生日に参加できて良かったです」
そう言って微笑む。冬休みが10日までだったら参加できなかったな。
ちなみにどうやら学園は寮暮らしらしい。勿論家が近くにあればその限りではないが。
「そう言えば十五は特別と言っていたが、学園に通っているだろ? どうやって祝うんだ?」
「卒業パーティーが成人パーティーも兼ねております。そこで祝い、それぞれの家に帰った後に、再び祝うと言うものですね。勿論も領地が近くにあるなら誕生日に帰って祝って貰う人や、長期休暇を取る方もいらっしゃいますけど」
「二回も祝うのか。王侯貴族も大変だな。その度に特別なドレスとか用意するんだろ?」
「えぇ。それに清めにエステにと面倒ではありますね」
「面倒なら、俺が清めてやろうか?」
「何を言ってるのですかぁぁぁあああっ!!!」
「サフィーネ様、お言葉が崩れております」
サフィーネが、目を剥き怒鳴り付けて来た。で、いつものようにリセアが咎める。
「いや、俺のスピードは知っているだろ? 一瞬でやってやるよ」
「そういう問題じゃないでょぉぉぉおおおっ!!!」
「あんた何処まで変態なのよ?」
「アークっ!!」
ペッシーン。
ちょっと調子に乗り過ぎた。まともやビンタを喰らってしまった。
「あたいだって洗って貰った事ないのに……」
そういう問題!?
「いやだってさ、この二人を揶揄うの面白いだろ?」
「それは分かるけどさぁ」
「分からないでくださいっ!!」
「ナターシャさんも悪ノリしないでよっ!!」
ってな事を話していたら、パーティー会場に到着していた。
「会場は、派手じゃないんだな」
「えぇ。主役のエーコの気が引けてしまいますからね」
美味そうな料理は並んでいるが、人はいない。いるのは準備している侍女達と……、
「ケン、眼也、シズシズ。お久~」
「久しぶりね」
「久しぶりさぁ」
いたのは転移者組だ。
「久しぶりだな。アーク、沙耶、ナターシャさん」
「久しぶり」
「……久し、ぶ…り。でも、何でシ……ズシ、ズ? 眼、也君……みたい」
「他の転移者に会ったんだけどさ、お前虫とか呼ばれてただろ? 眼也のネーミングセンスグッチョブって思ってさ」
「……確、か…に……虫よ、り……良い」
「そんな事を言われると照れるな」
「それにシズシズのが可愛……おっと、これ以上言うとケンに視線で殺される」
「殺さないし、殺せないから!!」
ケンの目付きって視線で人を殺せるだろと言いたくなる程、怖いんだよな。
「でも、あれからもっと仲が深まってるだろ? どうせ。眼也が見てる前でもイチャイチャとかしてそうだし」
そう言うと、静の顔がめっちゃ赤くなった。あれ? 図星?
「確かに僕の前でもイチャイチャしてるな」
「してねぇーよ!」
「でも、静の反応を見る限り、夜もお盛んなんだろ?」
「それはもう」
「…………」
増々赤くなり、耳まで真っ赤だ。てかケンの奴、認めちゃったよ。
「下品よ」
「あ~~ごめんごめん。沙耶には、いっしょ~~~~~~~~縁のない事だったな」
「溜め過ぎよっ! あんたとそう言うとこ、ほんと嫌いよっ!!」
さいですか。
「ところで、サフィ。何でそんな顔を赤くしてるんだ?」
「アークが変な事を言うからでしょうぉぉぉおおおっ!?」
また絶叫されてしまった。
で、ナターシャはナターシャで、なんかビンタの素振りしてるし。これはもう黙ってた方が良いな。
やがて、エーコがやって来た。結構時間掛かったな。先程のビンタの素振りをしてた時から三十分は掛かったな。
ただ、顔がオコだな。しかも俺をめっちゃ睨んでるが気にせいか?
「エーコ、やっと……」
「アーーークーーーー!! どう言う事ーーーーっ!?」