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EP.21 サフィーネコーディネートをしました

 -1940――――月陸歴1516年1月1日



 『食事処 アサシンズ』の二階では新年会が始まろうとしていた。

 集まった貴族達はジパーング酒を手に取る。ジパーング酒とは言え、ジパーング聖王国で購入したものではない。

 セイラが、米から作ったのだ。酒を造るとか何処まで多芸なんだなと言いたくなる。

 そして、サフィーネがステージに立つ。


「皆様、本日は、お集まり頂きありがとうございます。ウルールカ女王国、第一王女サフィーネ=メル=ウルールカでございます」


 そう言って、ドレスのスカートの端を掴みお辞儀を行うと、拍手が巻き起こる。

 今日のドレスもゴージャスだ。普段は赤を基調としているが、今日のは水色を基調としており、落ち着いた雰囲気がある。

 胸元も開いておらず代わりに背中が開いていた。それがまた大人の女性を思わせる。サフィーネは、まだ十三なので、子供と大人の狭間。いや、見た目が童顔で胸もあまりないので子供寄りであろう。

 しかし、所作が洗練されており、それが美しく大人の女性と錯覚させる。それにシックな魅力を感じるドレスを纏っていれば尚更であろう。

 ちなみにこのドレスは、ナターシャの収納魔法(ストレージ)の中に入れていた。


「皆様、今手に持ってるお酒を見て首を傾げていらしゃってましたね? ふふふ……」


 と、左手で持った扇子で口元隠し上品に笑う。


「私達の国ではエールが基本です。しかし、このお店はジパーング聖王国のお酒や料理をお出ししております」


 いや、お酒は出してないよ? 今回限りの特別だよ。

 まあそれを言うのは、無駄に長くなるので、省くと事前に聞かされていたけど。

 それに今日は(・・・)お酒を出している。嘘は言っていないしな。


「しかし、口に合わないと言う方もいらっしゃるでしょう。なので、後ろをご覧ください」


 そう言うと会場の貴族達が後ろを振り返る。


「確りエールもご用意しておりますので、ご安心してくださいね。また本日は立食形式なので、同じく後ろから、お好きな料理をお取りになってください」


 そこでサフィーネが、少し間を置く。流石は王女だな。こう言うのに慣れている。間の起き方や話し方など。ステージに立つサフィーネは、今まで見た事ない魅力を感じる。


「さてこの度、使用させて頂いた、このお店なのですが建物の飾り付けは、サフィーネコーディネートと呼ばれる転移者の故郷である異界のデザインが使用されているのですよ?」


 そう言うと、会場の貴族達が目を見張る。


「そう私の名前です。例えば門とかそうですね。柔らかな曲線を描くのが味わい深く、優雅で優美なディテールだと思います。それが私の名前と同じなのですから、大変嬉しく存じます」


 そう、いたる所にサフィーネコーディネートをあしらっている。門もそうだが、窓飾りやフェンスもだな。他にも『食事処 アサシンズ』の看板はサフィーネサインと呼ばれるものだ。

 内装でも階段の手すりも同じようにした。

 そして、何より外観の至る所にあるオーナメントは、サフィーネコーディネートによる王冠のような形にした。サフィーネが時期女王だと言う事を象徴しての事だ。

 昨日、それらをサフィーネに話したら喜んで貰えた。


「さて、私事(わたくしごと)の話は此処までにして。本日は新年会と本日付けで代官となるジギリスタ卿の歓迎会を行いたいと思います。それでは皆様、グラスをお持ちください」


 そう言って、サフィーネがグラスを持った右手を挙げ、それに貴族達が続く。


「あ、ちなみに私は、まだ未成年なので果実水ですよ?」


 そうおどけたように言って左手で持った扇子で口元を隠して、ふふふ……と笑うと、会場からドっと笑いが漏れた。


「では、乾杯!」

「「「「「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」」」」」


 一斉に酒―― 一部果実水――を煽り出す。

 そうすると、一部ではジパーング酒に舌鼓を打ち、一部では首を傾げる。やはり合う合わないがあるようだ。

 その後、思い思いに移動を開始する。大半はジパーング聖王国の料理に興味があるのか、後ろの料理が置かれた台に向かう。尤もジパーング聖王国に本当にあるのか知らない。全てセイラが再現した日本料理なのだから。

 特に目を引いたのは魚のお造りだ。まだ口がパクパクして動いてるので当然であろう。

 他にも茶碗蒸し、天婦羅、五目御飯、味噌汁など色々ある。


 詳しいメニューは、蕗味噌竹の子、紫蘇白魚豆腐、菜の花胡麻和え、鰆桜海老菜種焼、桜花三味新丈etc.……全然分からん。

 セイラは、どんだけ前世で料理に精通していたんだと言いたくなったね。まあナターシャとエーコにレシピを教えてくれたのは嬉しかったけど。

 とにかく最初は奇異の目で見ていたが、一人が食べ美味いと言うと次々に飛び付いて行った。良きかな良きかな。


 で、俺はと言うと貴族達に混ざって飯食う根性のない小心者なので、果実水をチビチビ飲んでおります、ハイ。それはナターシャと沙耶も同じようだ。エーコだけが普通に食べているけど。

 ちなみにだけど、ドレスコードはちゃんとしてるよ? 尤も代金はウルールカ女王国の準備金からだけど。とは言え、女性陣は店の制服を少し見目を良くした和服だが俺は執事服だ。

 

 そうしてると一人の貴族に話し掛けられた。


「君がアーク君かい? 私はジギリスタ。爵位は男爵だ」


 新代官かい。


「ジギリスタ男爵様、お会いできて光栄です。アークと申します」


 お腹に手を添え頭を垂れた。

 こう言う挨拶で、和服より様になるので、執事服にしたのだ。


「君の……いや、君と仲間達の噂は聞いてるよ」

「はは……それはお耳汚しを」

「謙遜しなくても良い。王女殿下を救い、ワイバーンの大群を蹴散らし、王女殿下を貶めた英雄候補と言うには、(おぞ)ましい者を捕らえたとか」

「お褒めに預かり光栄でございます」

「他にも、この店に忍び込もうとした不埒者達を、一人で撃退したとか」


 沙耶の噂が、かなり広まってるな。


「それにこの店の開店一週間は精霊がいたのであろう?」

「はい」

「良ければ精霊を見せて貰えるかね?」

「沙耶、精霊入りましたー」

「ドンペリ入りましたー、みたいなノリで言わないでくれる!?」


 あ、気付いた?


「レイアース!」

《はーい》


 湖の精霊レイアースが顕現した。


「おお! これが……」


 その新代官の叫びを皮切りに、他の貴族達も集まって来た。


「あの噂は本当だったのか」

「夜中に忍び込もうとする不埒者を津波で流すとか」

「見た者は、死の恐怖で震えるとか」

「美しい」

「流石は精霊。人間味を感じさせない美しさがある」


 口々に言う。って言うか、死の恐怖で震えるってなんだよ? だったら見るなよ。震えるんだろ?

 その後、レイアースのショーがステージで始まる。津波を起こしたり水流を起こしたりして大盛り上がり。精霊は信仰されて誕生するとか言っていたし、見れるだけ有難いのだろう。

 続けて料理が大絶賛され、料理長……つまりセイラだな。セイラが呼ばれる。セイラは緊張気味に会場にやって来た。


「是非、私の屋敷で働かないか?」

「いや~」

「いいえ。私のとこでどうだ?」

「金は今の倍は払おう」


 コラコラ! 勝手に勧誘するな。


「申し訳ございません。セイラは俺のものです」


 ニコやかにそう言い、軽く威圧を掛ける。


「私は、アークのじゃないよ~」


 ボソっと何か言われたがスルー。


「皆様、お誘いは大変嬉しく存じますが~、私の才能を見出してくれた彼には大恩がござますので、丁重にお断りさせて頂きます~」

「大恩? そんな事思ってないだろ?」

「思ってるよ~」


 ヒソヒソと話す。


「じゃあ体で返せよ?」

「それは絶対に嫌~~」

「ほ~、此処で働いて行くのは絶対に嫌か?」

「態と誤解する言い方してるでしょ~~!?」


 セイラが目を剥く。


「誤解? 何と誤解したのかな?」

「煩いよ~~!!」


 俺が揶揄うようにニヤリと笑うとセイラは顔を真っ赤にした。

 こうして新年会は終わり、サフィーネは一日ゆっくり休み1月3日に王都メルーシを目指し出発する。勿論また護衛に俺達が付いた。

 ただ行きと違い馬車は二台だ。護衛達は行きの時に帰らせたしな。それでも何事もなく無事4日には、王都メルーシに到着した。当然だが、ダレスの町で馬車を二台購入してだ。壊れたしね。

 それから数日が過ぎ、1月11日になった。


「今日は散歩に行きます」

「いきなり何言ってるのよ?」

「今日は散歩に行きます」

「誰が同じ事を言えって言ったのよ!?」

「今日は散歩に行きます」

「だから、理由を言いなさいよ!!」


 もうお馴染みの光景だな。俺がボケて沙耶が突っ込む。


「皆、本ばかり読んでタルいだろ? たまには、外に散歩に行かないと」

「そうさねぇ」


 ナターシャは、俺の意図を分かっている。と言うか伝えてあった。


「そうだねー。最近本ばかり読んでるよねー。散歩に行こうかー」

「で、何処に行くのよ!?」

「ラブホ」

「行かないよっ!!」

「え? 俺も沙耶とは絶対行かないよ? 絶対に行かない」

「二度も言うなっ!! それは、それでムカ付くよ!」

「つうか、この世界にそんなものある訳ないっしょ?」

「煩いよ! 戯言は良いから何処に行くのよ?」

「適当にブラブラ……あぁ、沙耶は一生ブラいらないか」


 ニヒと揶揄うように笑う。


「必要だったわよっ!! アンタのそう言うとこ、ほんと嫌いよっ!!」


 さいですか。

 ちなみに『だった』と言うのは、年齢を下げる前の事であろう。初めて会った十四歳の時に既に付けていたし。何で知っているかって? 袈裟斬りでバッサリ斬られ見えちゃっただけだ。無理に見た訳じゃないぞ。

正確にはサフィーネコーディネートではなく、ラフィーネコーディネートなんですけどw

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