EP.19 襲撃者は転移者でした
どうやらナターシャ達も無事のようだ。恐らくレイアースが襲撃に気付き、エーコが光防御魔法を張ったのだろう。
岩の盾を張る大地系の防御魔法と違い、透明なので状況が良く見えると言っていた。
ただ無事なのだが、あっちも此方と同じく馬車が中破している。
ちなみにリセア達侍女は、地面に転がってしまったが、受け身を確り取ったらしく、メイド服が汚れた程度だ。
「……一体何が?」
そうサフィーネが呟いた瞬間……、
ドゴーンっ!! ドゴーンっ!! ドゴーンっ!! ドゴーンっ!! ドゴーンっ!! ドゴーンっ!!
と、丸で中位火炎魔法クラスの魔法が連続で飛んで来た。
全て光陽ノ影で防ぐが、これ狙いは完全にサフィーネだな。
護衛と盗賊の一人が乗る馬車は無傷だ。となると、恐らくだが盗賊をけしかけて、どの馬車に女が乗っていたかを確認。
そして、女が乗っていた馬車を襲撃し、ゴージャスなドレスを纏うサフィーネだけを標的とした。
これなら先程空から感じた不穏な気配にも説明が付く。が、一番最悪なのが的外れで、護衛の誰かが内通者だと言う可能性だ。
「ちっ! 何者だ? あいつは。全く攻撃が通じねぇ」
炎をぶっ放していた奴が、怒りを露わにする。
二人いるな。炎をぶっ放していた男と、その隣にマスクをした女が。とりま鑑定っと。
名前:コタロウ=エンマ
年齢:17歳
レベル:30
種族;人族
職業:灼熱魔術師
HP:2500
MP:500
力:300
魔力:450
体力:200
俊敏:220
スキル:短剣術Lv3、灼熱魔法Lv5
称号:炎魔、転移者
炎魔は、炎魔法のレベルが上がり易く、より強い炎魔法を扱える……ね。
で、もう一人は……、
名前:シップウ=フウマ
年齢:16歳
レベル:30
種族;人族
職業:突風魔術師
HP:2000
MP:900
力:200
魔力:600
体力:150
俊敏:400
スキル:小太刀術Lv5、苦無術Lv7、投擲Lv4、隠密Lv4、気配察知Lv4、突風魔法Lv7
称号:風魔、転移者
風魔は、風魔法のレベルが上がり易く……以下ほぼ同文。風になっただけで一緒じゃねぇか。
つうか一属性だけなら静の魔導のが成長した時に、明らかに良いだろ。
で、風魔忍軍の末裔か何かか? なら風忍系にすれば良いのに勿体無い。小太刀、苦無、隠密、投擲が使えるなら疾風忍になれただろうに。
それと突風魔法が俺より高いのがムカ付くわ~~。
どうでも良いが二人合わせて風魔小太郎だな。
「で、君らは転移者だろ?」
「な、何故それを」
「分かったのでござるか?」
鑑定があるからね。って言うか、女がござるとか似合ねぇ~。
「それより何故襲って来た? それも明らかに王族を狙っただろ? 国際問題にしたいのか?」
「国際問題にしたのは、そちらでござる。この国は、御剣君を攫ったからでござる」
「ふ~~ん。ケンをねぇ。で、眼也と静の名前が出て来ないがどう言う事だ?」
「目夜君は、自ら出て行ったから良いのでござる。虫は、汚らわしいだけでいらぬでござる」
「虫って静か?」
むむい しずかで、虫ね。また凄い渾名だな。シズシズとか可愛い渾名を付けた眼也グッチョブ。
「それ以外いるでござるか?」
って言うか、さっきから風魔忍軍の末裔っぽい女ばかり喋ってるな。忍だろ? 寡黙でいろよ。男の方がよっぽどそれらしい。流石はコタロウ……無論関係無いだろうが。
「ふ~~ん。その汚らわしい虫とやらに敵わないお前らは、虫以下だな」
「何だと!?」
コタロウが目を剥く。
「有り得ぬでござる」
こっちは冷静だな。寡黙じゃないのは減点だが。
「あいつ強ぇぞ。お前らの炎魔だの風魔だののカス称号より、よっぽど良いものを持ってる」
「魔導でござるか? あのような何の称号かわからぬ称号より我等の方が上でござる」
「お前ら馬鹿か? さっきから俺はお前らの事を転移者だとか、何の称号持ちか言い当てているんだぞ。コタロウ君にシップウちゃん。鑑定持ちと気付けよ」
「くっ! 鑑定があったからと言って何なのでござるか」
いや、汗をたらりと流して言われてもね。
冷静だったシップウの顔が少し崩れているし。
「鑑定で魔導がどんな称号か分かるって言ってるんだよ。その内容を本人にも伝えた。で、お前らが格下になる程に強くなったって訳だ」
「戯言を!!」
「で、ござる」
「まあそう思っていたければそう思っていな。そう思ったまま死ね。<スラッシュ・ファング>」
闘気剣を放つ。光陽ノ影なので、闇夜ノ灯よりは威力は出ない。
「「くっ!」」
二人は軽々と避ける。まあ武器の差以上にめっちゃ加減したしな。
「殺さないでください」
サフィーネが慌ててそう言われる。
今日のお前が言うなスレは此処ですか? 君が真っ先に転移者を殺そうとした本人でしょうが。
「分かってるよ」
死ねとか言ったけど本当に殺すつもりはない。
「撤退だ。風魔」
「承知でござる」
そう言った途端、シップウはコタロウを背中から抱き上げ空を飛び出した。
あ! 俺がやりたかった事を他の奴が先にやりやがった。腹立つな~~~。
風魔法で空飛んでるんだろ? クソ! 突風魔法レベルが俺より高いどころか、俺がやりたかった事をやりやがって。
「なっ!?」
サフィーネが驚愕に目を見開く。空を飛んだ事に驚いたのだろう。
「ナターシャ! 撃ち落とせ!!」
「分かったさぁ。<エレメント・ランス!>」
俺の渡した魔真鍮のリングで増幅された、金色に輝く魔法の矢が放たれ、二つに分裂し二人を襲う。
「くっ!」
「ぬっ!」
二人に突き刺さり落下。地面に激突し動かなくなった。
「エーコ、回復して凍結封印。ナターシャは、次元収納魔法に入れてくれ」
「分かったー。<超回復魔法>、<凍結魔法>」
エーコも慣れたものだな。こっちの世界の魔法を使うようになって来た。
「<次元収納魔法>」
ナターシャがそれをしまう。
「二人は短距離転移魔法を用いて王都に戻って、そいつらを引き渡してくれ」
「分かったさぁ」
「分かったー」
「サフィ、勝手に決めたがそれで良いか?」
「えぇ。それで構いませんわ」
「それとな、護衛達だが……」
俺は声を潜ませる。
「内通者がいる可能性がある」
「無傷ですからね」
理解が早いようで何より。サフィーネも声を潜ませている。
「ただ、盗賊が五人しかいなかった事、その時に空から妙な気配がした事、それらから一番有力なのは、盗賊をけしかけて女がいる馬車を確認し、二台の馬車を破壊。そして、唯一ドレスを着てるサフィだけを狙ったと言うものだ」
「なるほど」
「だから、護衛を完全に怪しむ事は出来ないんだよ。って訳で、判断はサフィに任せる」
「分かりましたわ」
そう言ってサフィは、護衛達の下に向かう。
「貴方達も王都に戻りなさい。馬車は、そのまま使用して構いませんわ」
「ですが、王女殿下を歩かせる等……」
護衛が言い淀む。
まあ馬車が中破したお陰で馬も逃げちゃったしな。
「此処からは、歩いて行きますわ。王都よりダレスの町のが近いのですから」
「やはり王女殿下を歩かせるわけには参りません。我等が歩きます」
「あのロリコ……もとい、ヨウジョ モトムに襲われ、アークに助けられた後、歩いて王都を目指したのですよ? 足腰は鍛えられましたわ」
「しかし……」
「これは命令です! 従いなさいっ!」
「はっ! 失礼致しました」
ピシャリと言い付けると、護衛が左胸に右拳を打ち付ける敬礼をした。
次にサフィは、声を潜ませナターシャとエーコに『護衛も、怪しいので変な行動したら、お母様に報告してください』と言う。
「後はナターシャ達と一緒に乗っていた侍女をどうするかだな。短距離転移魔法で一緒に城に戻させる?」
「そうですね。殿方しかいない馬車に乗せるのも気が引けますし、私達と歩かせるのも酷ですね。まぁそれを言ってしまうと、リセアとエリセリカも同じですけど」
もう一人の侍女はエリセリカと言うのか。初めて知ったな。
「なら……」
中破した馬車の側面や椅子を斬り飛ばす。ナターシャ達が乗ってた馬車も同じようにする。
「如何するのですか?」
「エーコ、これを土系魔法で繋げてくれ」
見せる方が早いと思いサフィーネに答えずエーコに頼む。
「分かったー。上位大地魔法」
中破した馬車通しが繋がる。平台に車輪が四つくっ付いた状態だな。
「なるほど。これなら一応乗れますね。もしかしてアークが引くのですか?」
「まさかぁ。沙耶が引く」
「何でよっ!?」
「正確にはレイアースが」
「は?」
「だから、津波で流す要領で馬車引けば良いだろ?」
「なるほど」
沙耶が得心が行ったかのように頷く。
「てか、気付けよ。自分の契約精霊の有効活用くらいさ」
「煩いよ! お店といい、コレといい。普通は思いつかないよ」
ってな訳で、サフィーネ、沙耶、リセア、エリセリカ、ナターシャ達と一緒にいた侍女が平台馬車に乗った。
俺? 満員だし、いざって時に動けるように歩くよ。
「アーク、歩きで宜しいのですか? 私が歩きますよ?」
「一番歩いちゃいけないだろ、サフィは」
「これでもアーク達のお陰で鍛えられましたから」
「侍女達が、『はい、あーん』とか、構いまくってくれるなら乗るかな?」
「あんたサイテーよ」
「それか、沙耶と違ってボリュームのある胸でおしくら……」
「もっとサイテーよっ!!!」
あ、最後まで言わせてくれなかった。
「冗談はともかく。いざっと言う時の為に歩くよ」
「分かりましたわ。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
「絶対冗談じゃいでしょうよ」
何か小声で聞こえた。
「そうだね。半分マジだね。『沙耶と違って』と言う部分は本気で言ったね」
「煩いよっ!! アンタのそう言うとこ、ほんと嫌いよっ!!!」
さいですか。