EP.17 再び神託が来ました
俺達は、沙耶を連れのんびりと馬車で王都メルーシに帰る。もうセイラ一人で平気だろ。
冒険者ギルドで、代官が『食事処 アサシンズ』にちょっかいを掛けて破滅したと噂を流して貰う依頼をした。事実だし、これで馬鹿な奴は現れないだろう。そもそも沙耶が刺客を撃退したのは、噂になっていた。
ああ、それとライオス君の剣の相手を一度して上げたが、沙耶の言う通り剣道を習ってたかのような動きだった。まあまだ子供なので、体重も乗せられず大した事ないが将来が末恐ろしく感じた。
「神託が来たよー」
マジかよ。どうせ霊託とか言う詐欺臭い神託だろ?
「ほんと!? 是非行きましょうよ」
あ、沙耶が食い付いた。まあ精霊だったら契約したいのだろうな。
「で、内容は?」
「助けて、だってー」
漠然としてるな。
「場所は?」
「此処から南の森みたいー」
「次は森の精霊レイアース二号とかかね」
「何よ!? 二号って! レイアースに失礼じゃないのよっ!!」
細かいツッコミは入れないで良いよ。まあ自分の契約精霊が貶められたと思ったのかね。
そんな訳で、南の森に向かい森の入口で場所を止めて森の中を探索する。
「詳しい場所は?」
「分かんなーい」
「めんでくせー。魔獣の相手しながら森を探索するのかよ」
「片手間に詐欺手裏剣を投げてるじゃないのよ」
魔獣の気配を完知し、投擲が届く距離なら、こっちに気付く前に風魔手裏剣を投げている。が、詐欺手裏剣って何だよ!? 酷くね? ちょっと言い返してやろう。
「沙耶は将来詐欺乳にしそうだな」
「何よそれ?」
「あまりにも小さくて、悲観して変なものを仕込みそうだなぁ、と」
「煩いよっ!!」
「なら風魔様様手裏剣と呼びなさい」
「何で様様なのよ!?」
「今、楽してない? それとも沙耶が全部狩る?」
「ほんとムカ付くよ。あんた」
「さいですか」
そうして森の奥に進み……、
「なんだい? あれ」
ナターシャが、変わったものに気付く。
「卵だねー」
「それも大きいよ」
直径20cmあるな。とりあえず鑑定してみるか。
「神鳥の卵だってよ」
「じゃあこれが神託かい?」
「うーん。たぶーん」
ナターシャの言葉にエーコが曖昧に頷く。
「神鳥なら、詐欺臭い神託ではなかったな。残念だったな。霊託じゃなくて」
「良いよ。また何処かで精霊を見つけれるかもしれないよ」
「で、助けてって親鳥がうっかり落としたとか?」
「それで、孵して欲しいのかねぇ?」
「かもー?」
マジで曖昧だ。
「まあ良いや。じゃあ神鳥の卵を回収して撤収だ」
「はーい」
そう言ってエーコが卵を拾うが……、
「あ……」
「どうした?」
「スキルが追加されたー。霊獣使役Lv1だってー」
「は? よし全員に卵を回してみよう」
そうして皆で卵を回した。結果俺にも霊獣使役Lv1が追加された。ナターシャと沙耶は追加されず。
えっと霊獣使役って魔獣使役の上位互換だったよな? いきなり上位互換の方が手に入ったのか?
ちなみに、この世界では魔獣は三段階存在する。まず一番下の人に害しか齎さない――まあ素材や魔石の恩恵を受けているが――ただの魔獣。
一つ上が、棲み分けが確りできており、賢いのか自分の領域に踏み入れて来なければ大抵人を襲わない霊獣。そして一番上位が人に信仰され、人語を介したり時に人に恩恵を齎す神獣だ。
王都メルーシの書庫の本によれば、魔獣使役は従魔契約を行えば魔獣を使役できると書かれていた。
上位互換の霊獣使役は、霊獣とも従魔契約ができる。そして、
最上位の神獣使役は神獣と従魔契約ができると言ったものだ。尤も神獣使役はおろか、霊獣使役すら早々に習得できるスキルではないらしい。
なのに霊獣使役をいきなり手に入れた俺とエーコ。
これってあれか、元はダークのユニークスキル 愛犬使役か? 今更こんな形で発現したとか? しかもユニークスキルだったので、魔獣使役をすっ飛ばして霊獣使役になったと。
「ご都合主義も良いとこだろ!?」
「あんたがでしょうよっ!!」
また鋭く突っ込まれてしまった。やっぱハリセンを持たせるべきか真剣に考えないと。
「だから何でよ!?」
あ、また心の声を聞かれた。
「だからいつも駄々洩れなのよっ!!」
ともかくダークのユニークスキルが元なら、その血を引くエーコも霊獣使役を覚えても不思議じゃないな。って言うか……、
「今のうちにさっさと従魔契約してしまおう。神獣の類だろうが、卵状態なら霊獣使役でも従魔契約できるんじゃないか?」
「分かったー。わたしと従魔契約しよー」
たったそれだけを言いながら卵に触れるとエーコと卵が一瞬光った。従魔契約ってチョロいな。
「よし! 俺も。わたしと従魔契約しよー」
ピカーン、と俺と卵も光る。
「わたしの真似しないでーっ!!」
あ、おかんむりだ。
「今日からこの卵は、チョロインだな」
「何でよ!?」
だってチョロく従魔契約できたし。
「沙耶はウルサインだな」
「あんたが煩いよっ!!」
その次の日、王都メルーシに到着する。馬車だと半日(約12時間)掛かるもんな。
そして、借りっぱなしの離宮に向かっている最中にサフィーネがやって来た。勿論リセアを含む侍女が二人に護衛が三人いる。
「アーク、面白そうなお店を始めたみたですね」
「え? 何で?」
「代官を失墜させる原因になったお店ですから」
「あの代官が強欲だっただけだろ」
「まあそれもそうですわね。それよりどんなお店か興味がありますわ」
目を輝かせながら言う。こっちが本題だったのだろう。まあ丁度良いんだけど。
「来ないか?」
「え?」
目を輝かせてそれを期待してたくせに目を丸くするなよ。いや、あっさりそう言う話になったからか?
「代官を潰すまで計画してたんだよな。で、それが終わったらサフィを招待しようと思ってたんだ」
「計画だったとは?」
「いや、売上の七割を取る代官だぞ? 店が大繁盛すれば、ちょっかい掛けて来ると予想できるってもんだ」
「まぁ。相変わらず慧眼ですね」
サフィーネが目を丸くする。慧眼と言うかテンプレです。
「でだ。新しい代官か領主を着任させるんだろ? それで、これから宜しくお願いしますパーティーをセイラの店でやるのはどうだ? そこでサフィが王女として軽く挨拶するとか」
「面白そうですわね」
「だろう? それにサフィには一度見て貰いたいと思ってたんだよ」
「そんな事を言って、お上手ですね」
ふふふ……と、扇子を口元に当てて優雅に微笑む。
「本当よ……いえ、本当の事ですよ。サフィーネ王女殿下」
沙耶からの援護射撃……ただ言い直したな。ちなみにだが、デザインしたのは沙耶なので、援護射撃したのだ。
「サヤ、今は友人としてお話しましょう」
「え? 宜しいのですか?」
「公の場では困りますけど」
いや、これ公じゃないの? 侍女も護衛もいるじゃん。何処から何処までが公か、分からんな。
「それで、どうして私に見て貰いたいと?」
「サフィと同じ名前のものを見せると言っただろ?」
「……それがお店にあると?」
「ああ」
「それは是非見に行きたいですね」
そう言って顔を綻ばすが……、
「ただ……パーティーをするのには、それなりの広さが必要では?」
そう言って、小首を傾げる。
「十分広いと思うぞ。それに立食パーティーにすれば、そんなにスペースはいらないだろうしな」
「なるほど。素晴らしい案ですね」
「それと、ちょっとしたステージもあるから、何か催しもできるし、サフィからの挨拶も其処で出来るぞ」
「まぁまぁ。素晴らしいですわ。先を見据えて、お店を建てたのですね」
増々目を輝かせるサフィーネ。
「ただ、普段使用している場所はともかく、ステージがあるとこは、まだ装飾をしてたないんだよな」
「え? 普段使用してる場所とそうじゃない場所があるのですか? 一体どれだけの面積の土地を購入されたのですか?」
再び目を丸くしだす。
「いや、三階建てだ。普段使っているのは一階」
「まあ。良くこの短期間で三階建てなんて、出来ましたね」
扇子を口元に当てて驚く。まあ普通は二階建てとか作らないからな。この世界は、木造だと建てるのが大変だし。
「いや、外観は此処にいるエーコ大先生がやってくれたから」
「大先生とか止めてよー」
「エーコがやれば可能かもしれませんわね」
頬を赤らめるエーコに得心行くサフィーネ。
「でだ、お金を出してくれたら貴族用の内装にするぞ」
「それが目的だったのですか?」
ジトーっと見られる。
「一番の目的は、サフィにお店を見せる事だ。その為の作りにしている」
「本当ですか~?」
増々ジト目になった。
「いや、マジで」
「まぁ良いでしょう。そう言う事にしておきます。では、お母様に相談してみますね」
「そして、パーティーでお金を下ろして貰えばセイラも喜ぶだろ」
「守銭奴ですか!?」
サフィーネが目を剥く。
「いや、俺の手元にほとんど残らないだろ? 最初の準備金は内装に全部使い、パーティーでのお金はセイラのものだ。まあ儲けの一割は俺のだが、それだけだしな」
「分かりました。お母様が次の領主もしくは代官を選定していると思いますが、時間が掛かるでしょう。パーティーの件も合わせて検討するように伝えます」
「ああ、宜しく頼む」
その後、月日が流れ12月24日になった。パーティーの件は、女王の承認を得て内装のお金がセイラに渡ったので、現在『食事処 アサシンズ』の二階は改装中だ。
とは言え、城の文官の監督の下での事なのだが。まぁどんな内装にすれば良いか、貴族向けなんて分からないし、助かってはいる。
そして、新たな代官が決まり、1月1日に着任と言う運びとなった。つまり新年会パーティーも兼ねるらしい。
「今日は誕生日だねぇ」
「おめでとー」
「あ、どうも」
ナターシャとエーコが祝ってくれる。
「あんた、イヴが誕生日だったの?」
いつも揶揄ってるので、今日はお返しと言わんばかりのニヤリと笑う沙耶。
ちなみにだが、この世界も星々の世界にもクリスマスは存在しない。
「その言葉、切り捨て」
「は?」
「誰も俺の誕生日とは言っていない」
「じゃあ誰のよ?」
「ダークの」
つまり二人は、俺の肉体に対し祝ってくれたのだ。
「あんたのじゃないよ!」
「アークの誕生日は、ナターシャに拾われた日。正確には異世界転移したと思われる日」
「紛らわしいよっ!!」
って、言われも勝手に勘違いしただけだろ? 胸だけじゃなく器も小せぇな。
「煩いよっ! 声に出てるよっ!!」
おっとまたやってしまった。