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EP.17 一方サラは…… (三)

 このユピテル大陸とは違う大陸、ユグドラシル大陸では過去、大きな大戦が起きた。

 ユピテル大陸の精霊大戦程ではないが、凄惨な戦だった。

 そして終戦後、ユグドラシル大陸の中心の聖王国ユグドラシルで、とある少女が当時十七と言う若さで、女王として戴冠した。

 この大陸では、政治面で聖王国ユグドラシルが中心である。つまり、この少女は大陸の未来を背負って立つ事になったのだ。


 女王は、戴冠後……いや、その前から様々な政策を打ち出し、今まさに大陸は変わろうとしていた。

 その政策の一つに大陸間で国交を開こうと言うのが挙がった。ただ、誰も知らない大陸に喜んで行こうと言う者は皆無。戦後の苦境が続いていれば尚更だ。

 其処で白羽の矢が立ったのは、根っからの冒険好きの元冒険家サラである。

 現在では、戦中の功績や、とある国の王妃――戦中は王女だった――からの誘いを受け貴族入りしており、サラ=マンデーラと名を改めていた。

 お陰で簡単にサラが捕まったのである。本来なら冒険家なので所在がわからないなんて事が有り得たが、その王妃の下に行けばサラは、いるのだから。


 そうしてサラは、国交の為の橋渡しとしてユピテル大陸にやって来た。

 サラは、ルティナに言われた経路でフィックス城を目指した。その際に通過したサバンナでは、魔物がウヨウヨと寄って来て大いに冒険を楽しんだ。

 更にはガッシュと出会い、珍妙過ぎてサラは笑ってしまった。そのガッシュにエド城までの――正確にはその手前の橋――案内を頼んだ。食べ物を与えたら喜んで案内してくれたのだ。

 ただサラに取って誤算だったのは、ガッシュがいると何故かサバンナの魔物は寄って来なくなったのだ。

 せっかくの冒険が……っと肩を落としたりなんて事があったが、無事にフィックス城に到着した。


 ただ、サラは自分の耳と目を疑った。まずイーストックスでフィックス城の場所を聞いたら砂漠の真ん中だと言われ、まさか~っと思ったのに、実際に行って見たら本当に砂漠の上にあるものだから。

 フィックス城は、機械開発の為に環境汚染をする事を見越して、態々砂漠の上に城を建てたのだが、この大陸の者ではないサラが驚くのも、無理からぬところ。

 まあ、それ以前に草木一本生えない荒野しかない大陸なのだから、何を今更と言う話でもあるのだけど。

 ともかく到着したサラは、城門にいる二人の衛兵の声を掛ける。


「エドワード陛下に謁見願いたい」

「申し訳ございません。只今エドワード様は留守にしております」

「せっかくルティナに聞いて尋ねて来たのに残念だ。わかりました。では、また改めてお伺い致します」


 サラは、軽く頭を垂れると身を翻した。


「ちょっとお待ちを……今なんと?」


 ふいに衛兵に呼び止められる。


「ん? ……では、また改めてお伺い致します」


 振り返り同じ言葉を口にした。


「その前です」


 その前? はて? と、訝しげにしながら……、


「……せっかくルティナに聞いて尋ねて来たのに残念だ」

「なんとルティナ殿のお知り合いですか?」


 衛兵達が驚く。


「はい。そのルティナ殿のご紹介で、エドワード陛下に会いに参りました」

「どうする?」

「ルティナ殿のお知り合いなら入れても良いじゃないか?」


 衛兵達が話し合いを始める。

 それだけルティナの影響力が大きいのか? と、サラは首を傾げた。


「ルティナは、城の出入りが自由な方なのですか?」

「いえ、ルティナ殿に限らずエドワード様とお知り合いだという事を我々が知っていれば、出入りを自由にしております」

「なんと!?」


 王と知り合いなら出入りが自由だと? この城は一体何なのだ? 不用心過ぎるんではないか……。と、サラが驚くのも当然だろう。


「で、どうする?」


 再び衛兵達が相談し合う。


「直接ルティナ殿に尋ねてみるか? 城におられる事だし」

「はっ!?」


 青天の霹靂とはこの事だろう。

 サラからすれば、何故ルティナがいる? 私が彼女の家を離れるまで、彼女は自分の家にいた。

 そうなると、私より先に到着しているとは思えない。私は迷う事なく此処まで辿り着いたのだから。と、なるだろう。


「し、しかしルティナ殿はお休みになられている」


 尚も続く衛兵達の話し合い。


「じゃあ、エリス殿に相談するか?」


 エリス殿? 誰だ? と、更に困惑する。


「ああ、それが良い。そうしよう」


 何故か知らんが話がまとまったようだ。


「客人よ、しばしお持ちを」


 と、言うと片方の衛兵が城の中に入って行く。そして、暫く待つと一人の女性を連れ、衛兵が戻って来た……。

 後から現れた女性は紫の髪を輝かせていた。それは、見惚れてしまう程に美しい。

 顔も凛としており、どこなく気品を漂わせる。

 そして、引き締まった身体。彼女もルティナと同じく武芸嗜んでいるんだろうと推察するサラ。

 それも相当な実力者に思える。また、どことなくルティナと同じ空気を漂わせていた。


「ルティナの知己ってのはこの人?」


 透き通るような、凛とした声を発する。美しい身なり、美しい声。まるで絵に描いたような、お姫様のようだと、サラは感じた。


「はい。そうです」

「そう……」


 サラに視線を合わせる。


「私はエリス。貴女は?」

「サラと申す」

「それでルティナとは、どんなご関係で?」


 ただ残念なのは、言葉遣いが硬いところだな。服装も軍服だし、この姫は軍属なのだろうと、サラは思った。が、まだ姫だと決まったわけじゃないかと思い直す。

 王族なら、普通最初にそう言う筈だ。


「いえ、関係って程でもないのですが、彼女から此処の陛下が大陸を救った英雄の一人とお聞きし、一度お会いしたいと思ったのです」

「エドに、ねぇ……」


 何かを含みのある言い方をするように呟く。

 愛称でしかも呼び捨て!? やはり、本当に姫か何かなのか? いや、もしかしたら王妃!?

 それなら、何処と無くある気品も頷ける。


「それは興味本位? 英雄に会いたいという」


 再び問われる。


「いえ、我が主が国交を開きたいと考えております。私はその橋渡しの命で参りました」


 正確には、サラの主が国交を開きたいと考えてるわけではないのだが簡素に説明した。


「そうか。入ってきなさい」


 あっさり? と、サラは目を丸くする。


「宜しいのですか? エリス殿」


 と衛兵。


「ああ。何かあれば私が責任を取る」

「はっ! エリス殿がそう仰るなら」

「それとあの二人を応接室に呼んでおいて」


 そうしてサラが通れるように衛兵が道を開ける。


「では、お言葉に甘え失礼します」


 城の中へ入るとサラは、エリス殿の後を着いて行く。

 城の中では、ガッタンゴットンと騒音が響く。何かの機械音だろうか?


「凄い音だろ?」


 エリス殿に声を掛ける。


「何かの機械が動いているのですか?」

「そう。この城は機械仕掛けだから……それより、そんな堅くならなくて良い」

「いえ、王族の方に失礼な態度は取れませぬ」

「はっ!? 王族? ……誰が?」


 エリス殿が素っ頓狂な声を上げ目を剥く。

 サラは、正直可愛いと感じた。


「あの……エリス殿は、王族の方ではないのですが?」

「ふふふ……何故私が王族なのだ?」


 微笑を浮かべる。何故か吸い込まれそうな美しさだ。


「先程の衛兵を前にしての立ち振舞いや陛下を呼び捨てにした事から、そう推察しました」

「エドは昔の馴染みだからな。それに彼は堅苦しいのは嫌う」


 彼自身が砕けた人だから……と、繋げ含みのある笑みを見せた。


「……そうですか」

「だから、そう堅くならなくて良い。私の事はエリスで良い。私も貴女をサラと呼ぶから」

「承知した」


 と答えるが、サラは納得行かなかった。

 あの衛兵を前にしての立ち振舞いは、それ相応の立場(・・)にいないと身に付かないものだ。

 陛下の昔の馴染みだという彼女は一体何者なのだろうか?


「着いたぞ。サラ」


 エリスが立ち止まる。


「応接室か?」

「いや、ルティナが寝ている部屋だ。せっかく来たのだから、見舞ってくれ」


 そう言って、エリスが中に入って行く。

 サラもそれに続く。中のベッドには確かにルティナが寝ている。

 しかし、何故だ? 何故彼女が先に此処に来ている? たが、まず気にするべきは他にあるとサラは考え……、


「ルティナはどうしたのだ? 何処か悪いのか?」

「ただの疲労みたなものだ。少し休めば良くなるとエドは言っていた」

「そうか、良かった。だが、私は、ルティナより先に彼女の家を後にした……なのに何故ルティナが先に此処に到着しているのだろうか?」


 無事を確認したサラは、此処で疑問を口にした。


「ん? ……サラはルティナの事を何処まで知っている?」


 エリスが真剣な眼差しで見詰めた。


「何処までというのは……?」


 一体何の話をしているのだろうか……。首を傾げるサラの心情を読み取ってか……、


「……例えばルティナが魔導士だと言う事とか」

「なぬ!?」


 サラは思わず声を張り上げてしまった。


「しー!!」


 エリスが人差し指を自分の口元に当てる。


「あっ! すまぬ」


 危うくルティナを起こすとこだった。と、猛省するサラ。


「その様子だと知らなかったようだな」

「知らぬも何も、私が魔法を使ったら、物凄く驚いていたくらいだからな……」

「えっ!? ……貴女、魔法使えるの!?」


 エリスが目を丸くする。


「ああ」

「精霊が復活している事に気付いたの?」


 またその話か。それに私の推測通り復活していたのか。と、内心呟く。


「少し違う。その事は後で説明するから、まずルティナの事を教えて欲しい」

「悪いけど、私の口からはこれ以上言えない。彼女の内情になるから。彼女が目覚めたら本人に聞いて」

「……わかった」


 こう言われたらサラも引き下がるしかなかった。

 この大陸では、魔導士である事に深い意味があるのだろうか? わかっている事は、これ以上エリスは何も言ってくれないだろう。


「じゃあ……応接室に案内するから、貴女の話を聞かてくれる?」

「ああ」


 そうしてサラ達は、ルティナが休む部屋を後にし応接室に向かう。

 其処には老人と幼女がいた……。


「エリスお姉ちゃん、その人は誰ー?」

「エドにお客さんだ」

「ふ~ん。エド叔父ちゃんにねー」

「何か?」


 そう言って、幼女が舐め回すように観察して来たので、サラは小首を傾げた。


「お姉ちゃん、凄い魔力を持ってるねー。わたしと同等かそれ以上ー」


 見ただけでわかるものなのか? と、不思議に思うサラ。


「エーコちゃん、それは本当? 貴女と同等かそれ以上ってルティナに匹敵するって事じゃない?」

「流石にルティナお姉ちゃんには、敵わないと思うけどなー。全力の(・・・)ルティナお姉ちゃんより、魔力が高い人間(・・)が存在してたらビックリだよー」

「それもそうだな」


 そんなにルティナは凄い魔力を秘めてるのか? と言うか、何か含みのある言い方をしているな。

 不思議に感じるサラであったが、それよりも……、


「此方の方々は?」

「ああ。此方エーコちゃん。エーコ=アローラ。魔導士の村に住んでいる。此方がラゴス。ラゴス=マゴス。同じ魔導士の村のエーコちゃんと同じ家に住んでるご老人だ。二人共去年まで続いた精霊大戦に終止符を打つ際に、私やエド共に戦った仲間だ」


 魔導士の村? 何だそれは? それにこんな小さな子が戦った? それに私や(・・)、と言わなかったか? エリスも十一人の英雄の一人か?

 サラの中の疑問が尽きない。


「ラゴスじゃ。宜しく頼むのじゃ」

「宜しくねー……えっとー……?」

「サラだ。サラ=マンデーラ」

「サラお姉ちゃんは、魔導士の家系とかー? 凄い魔力だけどー?」

「親を知らないから魔導士の家系かどうかはわからぬ。それにしてもエーコ、お主は人の魔力量とかわかるのか?」


 少なくてもそういう者はユグドラシル大陸にはいなかった。魔力が大きいか小さいかや、異質か否かとか大まかな事しかわからない。


「うーん。魔導士の村の者の中にはわたし以外にもいるけどねー。ただー、わたしのこの目は、魔眼なんだー。この目で見ればー、詳しくわかるかなー」


 そう言って、エーコは愛らしい薄紫の目を差す。


「儂もエーコ程、鋭くはないのじゃが、なんとなくわかるのじゃ」

「エーコちゃん達の魔導士の村は精霊と密接に関わってる人達だ。魔力がわかったり、普通の人間が感知しえないものを理解できるのだ」


 エリスが説明してくれる。

 サラも魔法を使うだけはあり、それくらいならある程度理解できる。

 ただエーコの魔眼のように、はっきりとまではわからないなと、嘆息してしまう。


「村の名前くらいなら噂で聞いた事くらいあるだろ?」

「いいや」


 エリスに問われるが、サラはかぶりを振る。


「ひっそりと暮らしてるから知らぬ者もおるか。それで、さっきの話だが魔法が復活していたの知っいたのとは少し違うと言っていたがどういう事だ? 私達はそれ関係で調べているから、何か知ってる事があれば教えて欲しい」

「残念だが、私では力になれぬ。何故なら、私は此処とは別の大陸からやって来たから」

「「えっ!?」」

「なぬっ!?」

「それで最初に出会ったのがルティナだ。そして、ルティナにこの大陸の事を教えて貰ったのだ」

「なるほど」

「そう言えばエリス。ルティナはそんなに魔力が高いのか? 他に並ぶ者がいない程に」

「ああ。私も彼女程の力を持った人は知らない。まあさっきの話にもなるが、その理由が親が関係してるから詳しく私からは言えないがな」


 そうか。家族の問題だから言えないのか。此処でようやくルティナの事の疑問が一つ解消されるサラ。


「なら、エリスの魔力も相当なものでは?」

「どうしてそう思う?」

「ルティナとなんとなく似た空気を感じる」

「すっごーい。サラお姉ちゃんはー、もしかしたら魔導士の家系だったのかもねー」


 ん? 何故かエーコに反応されたぞ。そう思いサラは、首を傾げる。


「さっき言った魔導の村の人達は普通では感知し得ないもの。それがサラにはなんとなく理解できた」


 エリスが説明する。サラも魔導士の端くれ。ある程度は感知できる。


「それで、私の話だけど私は人工魔導士だ」

「ルティナから聞いたな。精霊から無理矢理力を抽出して、それを人に流し込むとか」

「そう。私は、それの最初の被験者。所詮紛い物だから生まれながらに魔導の力が備わってたエーコちゃんやルティナには敵わない」

「だが、ルティナから、お主と似た空気は感じぬぞ」

「やはり其処までわかるのだな。これもルティナ本人に聞いてくれ。ルティナが教えてくれれば納得行くと思うぞ」

「そうか。わかった」


 その後、魔導についてを語り合った。

 精霊から力を借りる仕組みは同じだが魔法の名前がユグドラシル大陸とは違っており、なかなか面白いとサラは感じた。

 彼女等三人もユグドラシル大陸の魔導に興味があったらしく、サラはいろいろ聞かれる。

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