EP.15 霊人一体 -side Saya-
アークから伝心魔道具でセイラに連絡がった日の夜、闇夜を徘徊する影の姿があった……。
数は四人。全員忍とも暗殺者とも言える出で立ちだ。黒尽くめで覆面で顔を隠していた。その者達は『食事処 アサシンズ』に忍び込もうとしてた。
しかし……、
「「「「うわぁぁぁぁっ!!」」」」
影……いや、刺客達の叫び声が木霊した。それもその筈。建物に入ろうとしたら、突然目の前から津波が発生し、数m流されたのだから。
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《サヤ、来ましたよ。起きてください》
「……ん?」
湖の精霊レイアースに体を揺さぶられ目を覚ます。
アークから今日は警戒するように言われていたので、レイアースを顕現して侵入者が現れたら起こすように言ってベッドに入った。
起こされたという事は、本当に侵入者が来たのだろう。私は寝起きが良いので、瞬時にそこまで頭を巡らし、ベッドから飛び出る。
尚、こっちの世界の精霊は有難い事に寝ていても気絶していても、事前に指示を出していれば顕現してくれたままでいてくれる。
星々の世界の精霊は常に魔力供給しないといけないので、私が意識を保っていないと精霊も消えてしまう。
「状況は?」
《津波で流しましたが直ぐに戻って来られると思います。数は四》
「水柱でも立てて少しでも足止めしといて」
《了解でーす》
「それにしても舐められたものね。たった四人でどうにかなると思ってるのかしら?」
私は、壁に掛けてあるハンガーから、着物を掴む。現在着物用の下着の一種である長襦袢姿だ。
本来は寝間着に着替えるのだから、侵入者を警戒して一番上に着ている着物だけを脱いでベッドに入った。
ハンガーから取った着物を羽織ると……、
「ぅわぁぁぁ……」
「何だ? この水柱は?」
外から騒がしい声が聞こえた。
私は手早く着付ける。慣れたもので直ぐに着付けられる。着付けた後は襷掛けをして壁のフックに掛けてある薙刀を掴み準備完了。
「アークの予想通り、本当に来たんだ。馬鹿な人達よ」
『食事処 アサシンズ』の窓を開け面格子に右足を掛け呼び掛ける。本来面格子は防犯のもので、窓全体を覆っていないと意味がないのだが、飾り目的で窓の1/3の高さまでしかない。
「何処だ!?」
「あそこだ!」
刺客達が辺りを探し『食事処 アサシンズ』の三階の私のいる窓を指差す。
「はっ!」
地上まで飛び降りる。そんなとこまで降りれば着物が多少乱れるので、サッと直す。
アークがいたならきっとこう言ったであろう……『美幼女が颯爽登場したな』と。そして、直ぐに『あ、『美』は余計だった』と。
それで私は『何でよっ!?』と、つい怒鳴り標的を刺客からアークに移していたに違いない。
もうそれがお決まりになってるなと一瞬苦笑いをしてしまう。
とは言え、私は何だかんだアークを気に入ってる。
戦いもアークを見て学んでいた。今、飛び降りた際も風魔法で上昇気流を起こし直地の衝撃を軽減とかしたが、アークがやり出した事だし。
アークには決して言わないけど、本当に気に入ってるとこは気に入ってる。今までここまで憧憬を抱いた相手はいないくらいに。
ただ本人に素直に言うと気持ち悪いと言われてしまうのが頭痛の種だ。
「ガキだ。さっさと始末してしまうぞ」
「しかし、三階から軽々と飛び降りたぜ」
「それでも四人で囲めばなんとかなる」
「レイアース!」
《はーい》
刺客達が相談してる隙に飛び降りる直前に私の中に戻って貰ったレイアースに呼び掛ける。呼ばれたレイアースは、再び顕現し津波を起す。
「同じ事が通用するか!」
そう言って刺客達が跳躍して、津波を躱すと私から見て正面に二人、左右に一人ずつ降り立つ。
「<霊人一体>」
精霊と契約してる者だけが使える精霊魔法を唱えた。
レイアースが元々透き通るような肌をしているのに、本当に透けて行き……体が広がったので見た目が薄くなったと言うべきか……。
少し大きくなり、私にス~っと吸い込まれる、そして私の背中の辺りから、まるでレイアースの上半身だけが生えたような姿になった。私の手に持つ薙刀も水流を纏う。
アークに見せたら『スタ〇ドかよ!?』と突っ込まれてしまった。そもそもスタ〇ドってなんだろう? ガソリンを補給するとこ?
まぁともかくこれが人と精霊が一体となった姿よ。
「はっ!」
私が手に持つ薙刀を右に振ると背中から生えたレイアースが水流を起こし右側の刺客を溺れさせる。
津波なら地面を這ってるので飛べば良いが、要は水の竜巻のようなものなので、飛んでも逃げられないのだ。
「ふっ!」
「うっ!」
続けて左手で脇差を左側に投擲した。脇差は左側の刺客の足に刺さりつんのめる。
「クソ! 一瞬で二人やられた」
「何なんだ? あのガキは。精霊使いなんて聞いてないぞ」
この『食事処 アサシンズ』が、レイアースが接客した事で人気が出たのである。なので当然有名なのだが、この刺客の雇い主は知らないのか刺客達は驚愕を露わにする。
調べれば直ぐ分かるのに知らないとはマヌケな話だし、知っていても刺客にその情報を渡してないのもあり得ない。どっちにしろ……、
「貴方達の雇い主は馬鹿よ」
侮蔑混り言う。心底そう思ってしまう。
「はぁぁぁ……!」
そのまま正面の二人に向かって走り込む。
刺客の一人が直ぐに飛んで距離を取ろうとするが、もう一人が反応が遅れた。それでも私が到達する前に飛べた。にも関わらず、振るった薙刀の水流は確り届き溺れる。
最後の一人は私の左側に降り立ち、手に持った毒塗りの短剣を振るう。
カーーンっ! と、甲高い音が鳴り響く。
「な、に!?」
刺客が驚きに目を見開く。それもその筈、私は先程投擲した脇差を左手で持って防いだのだから。
水の力で回収しており、レイアースが水流の中に潜めそっと隠していた。
私の目指すべき戦闘スタイル。アークに憧れ真似し、アークに教わりはしたが、私なりにアレンジしている。
全く同じなんて私のプライドが許さない。私は私だけの戦い方を目指す。例え師事し参考にしようが。
それが薙刀と脇差による二刀流。アークは間合いの把握が面倒になると長さの違う獲物での二刀流を嫌う。
私はそれを目指す。ただ問題は薙刀は両手持ちの獲物であるという事。つまりはそれを片手で使いこなさいといけない。
だが、笹山流薙刀術を片手でやろうとしても不可能。よって常に二刀流には出来ないのが課題ね。
それでも二刀流を行いつつ、私の今まで培って来た笹山流薙刀術も使う。これが目指すべく私の、私だけの戦闘スタイル。
「だが」
刺客が覆面で隠れた口角を上げニヤリと笑う。いくら防いだとしても毒塗りなので、その毒が防がれた時に飛び散り私の頬に付着からだろうか。
甘いな。甘過ぎる。この人達はレイアースに簡単に気配を察知されていたし、プロなのだろうか? 雇い主は余程の馬鹿だし、お金をケチって質の悪い刺客を送り込んで来たとしか思えない。
「<毒解除魔法>」
「なっ!?」
再び刺客は驚愕した。まさか精霊を操り、それに加え回復系魔法を習得してるとは思わなかったようね。
尤も私がこれを覚えたのは、こっちの世界に来てからではあるが。
元々療魔法Lv5を持っており、この世界の理でレベル5の範囲に毒解除魔法があったので、早々に習得していた。使う機会は今までなかったけど。
「これで終わりよ。レイアース!」
湖の精霊の名を呼ぶと私と分離して、レイアースが刺客の顔に触れる。
「ガボガボボボボボ……」
そのまま顔を水で包み溺れさせた。一応意識があるのは脇差を投げられた刺客だけなのだが、今の戦いで完全に戦意喪失していた。
私は四人を集め武装を解除するとロープで縛りあげる。
「<回復魔法>」
そして、死なないように回復魔法をかけた。
画像生成のAIに何度指示しても沙耶の年齢に引っ張られてレイアースまで子供化してしまいました