EP.14 悪代官がやって来ました
大盛況のうちに一週間を終える。
やはり精霊効果は抜群で、一目見ようと客が押し掛けた。そしてあの人間味を感じさせない美しさに誰もが見惚れていた。
そしてトドメは死ぬ程うめ~と大半の客は舌鼓を打って帰って行った。
ちなみに孤児院の子供達は四時間交代制にして、一人いくらではなく、孤児院にいくらと言う契約にした。後見人は院長だしね。
制服は日本料理なので着物だ。
「沙耶って、やっぱ着物が似合うよな」
「何よ? 急に褒めて」
ツンケンしてるけど顔赤らめているぞ?
「マジで、そう思ってるんだけどな」
「どうせペッタンコだから似合うとか思ってるんでしょうよ?」
「うん」
「アンタのそう言うとこが、ほんと嫌いよっ!!」
さいですか。
「ふむ。じゃあ他のとこは好きなのか?」
「は? 誰もそんな事言ってないでしょうよ」
「本当は、好きなくせに~」
「今日は絡むわね」
「ほれ、正直に言ってみなよ。他は好きなんだよな?」
「全部嫌いよっ!!」
って言ってる割には顔赤いんだよな。
「怒ってるからよ」
あ、また声に出てたか。
「ツンデレ乙っ!!」
「ツンデレじゃないわよっ!! しかも乙って何よ? 意味分からないよ」
それはともかく開店から一週間発ち、精霊がいないし、少しは客足が減ると見こし王都メルーシに戻ると言う話になった。
「沙耶は残って。俺の予想では、そろそろちょっかい掛けて来る馬鹿者来そうだから」
「分かったよ」
「それとセイラにはこれ」
伝心魔道具を渡す。ちなみに草は以前に渡してあるので、まだ持っている筈だ。
「馬鹿者がいなくなるまで持っていて。それと前に渡した草も、なるべく身に付けていて」
「何から何まで有難うね~」
「まあぶっちゃけ転生者が珍しかったってのが一番大きいけど」
「今になって新事実~!? そうだったんだ~」
セイラが目を剥く。
「あ! ちゃんと夜、慰める時も確り草を……」
「その時は、付けないわよ~!! って言うか前世も含め、した事ないわよ~~!!」
「あら、セイラもエーコより子供か」
「だから、わたしを引き合いにするなー!!」
エーコに怒られしまった。
その後、王都でまた王城書庫に籠り、数日間本を読み耽っていると、ある日の夕方に予想通り来ました。馬鹿者が。草で覗く。
「セイラさん、此方この領地の代官であらせるアクダイカーン様です」
院長がセイラに紹介する。また名前に引っ張られた奴か。まんまアクダイカーンだな。来ると思ったよ。代官様よ。
商業ギルドで聞いていた。売上の七割は、代官に払わないといけないと。
しかし、調べたところによると、良心的な領地で三割、通常でも五割で済む。そもそも七割取るとなると、その土地が潤っていないか、国が何かしらの政策――例えば戦争とか――が打ち立てられ、その煽りで領主もしくは代官が厳しいと思った時だ。
つまり、この代官は土地的にも国の政策的にも、問題無いのに七割にしているのだ。よって、悪代官だな。
そんな悪代官が、最近爆発的に儲けを出した店にちょっかいを掛けない訳がない。なので、来ると予想していた。
って言うか、二人はプリティースターのラスボスの名前じゃないか。アレのせいで満月と薫風が苦労する事になったんだよな。おっと、関係無い私怨が入ってしまった。
「初めまして、『食事処 アサシンズ』の店長をしてます。セイラです」
緊張気味に挨拶するセイラ。
そして、悪代官が腰掛けているソファーの対面にあるソファーに座る。悪代官の後ろには護衛らしき者が二人いた。
「君かね? 私の領地の孤児達を勝手に使ってお店を開いてるのは?」
「はい」
事前にサフィーネに確認を取ったが、私の領地の孤児達であって、私の孤児達ではないので、法的には問題は何もない。ついでに言うと代官なので、お前の領地ではない。
「困るんだがね。勝手にそんな事をされては」
「すみません」
「権利書をよこしなさい」
「はい?」
「だから、店の権利書だよ。君の店は許可出来ない。よって権利書をよこすのだ」
難癖付けて店を乗っ取ろうと言うのが見え見えだ。
俺は此処で伝心魔道具でセイラに連絡した。
『はい、もしも~し』
流石は元日本人。『もしもし』と来ましたよ。
アクダイカーンは、驚愕に目を剥いてる。そりゃそうだろ。国宝級の伝心魔道具を出したのだから。
これで小心者なら王家が関わってると気付いて手出しして来ないけどコイツして来そうだな~。
「もしもし、セイラちゃん。ラブコールだよ~」
『いや~、アークからはいらないかな~』
失敬な!
「でだ、そっちの状況は分かってる。だけど、草の事は言いたくない。演技で今何が起こってるか説明してくれ」
『は~い。今、代官のアクダイカーン様がいらっしゃってて、この領地の孤児達を使ったって事で、お店の権利書が欲しいみたいだよ~』
ナイス演技。
「じゃあ悪代官に替わって」
『ぷっ! 分かった~』
そこで吹いたらダメっしょ。
「あの、オーナーよりお話があるそうです」
そう言って伝心魔道具をアクダイカーンに渡した。
『代官のアクダイカーンだ!』
「あ、オーナーのアークです」
『今、聞いた通り権利書をよこしたまえ』
「分かりました。では、近々お持ちしますね」
『分かった。なら明日の昼、出直そう』
「え? 昼ですか?」
『何かね? 問題あるのかね?』
大有りだ。ボケェ!! 夕方である今から出発して、王都から早馬で到着するのは夜中から早朝だぞ。つまり片道六時間~八時間。
仮にダレスの町から王都メルーシへと往復するとなると、ギリギリ昼に間に合わうか間に合わないか。
つまりコイツは、そんな短時間では小細工出来ないと考えてるのだ。ついでにもし王都より遠いとこにいたら、間に合わない。
ま! 普通ならね。ふふふ……悪い笑みが出てしまうぜ。
「いいえ。明日の昼ですね。分かりました~」
明日が楽しみだぜ。ふふふ……。
「では、セイラに伝心魔道具を戻してくれますか?」
『ああ』
そう言ってアクダイカーンがセイラに伝心魔道具を戻す。
『は~い』
「可愛らしい、お返事で」
『アークに言われても嬉しくないよ~』
失敬な。その2。
「今日の夜中、俺の予想では刺客を送り込んで来る。沙耶に警戒するように伝えておいて」
『了解』
何故にドイツ語?
「じゃ」
『バイバ~イ』
伝心魔道具を切る。
「と、言う事で明日また此方に起こしください」
「ところで、何故君は伝心魔道具を持ってるのかね? そんな高価なものは平民が持つべきではない。よこしなさい」
コイツ、全部俺の予想通りだな。此処まで図太いと伝心魔道具欲しさに絶対刺客を送り来る。そして王家が関わってたとしても誤魔化す算段を立てる筈だ。
「此方もオーナーの所有物です。ですので、明日オーナーと交渉してください」
「またオーナーか。そのオーナーとは何者なんだ?」
「冒険者パーティ『アサシンズ』の実質的なリーダーです」
何で君まで俺をリーダー扱いしてんねん!?
「それで店の名前が物騒なのかね?」
「それもありますね~」
今、目逸らしただろ? 君が勝手に決めた名前だよね? 草じゃアクダイカーンから視線を逸らしたとしか確認できないけど、絶対目が泳いでるな。
「ふん! 冒険者風情がそんなものを持ちやがって」
せいぜい吠えてろ。君の末路は決定した。その時の吠え面が楽しみだせ。ククク……フーハッハハハハ……。
「アーク、気持ち悪いよー」
何か聞こえたが気のせいだ。
「アーク!」
ペッシーンっ!
ナターシャにビンタを喰らってしまった。
「何、ちょいちょいセイラを口説いてるんだい!?」
ごめんなさい。