表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/563

EP.13 食事処 アサシンズ

 アーク達は『食事処 アサシンズ』の開店準備を着々と進めていた。


「次はどうする?」


 アークが、他の面々に呼び掛ける。


「制服じゃない~?」


 そう言ったのは店長になるセイラだ。


「それなら日本食が基本となるから和服よね」

「なら、S・M・Lの子供用のを四着づつあれば良いか?」


 沙耶の言葉を受け、そう提案するアーク。


「意義な~し」

「わたしもー」

「あたいもさぁ」


 セイラ、エーコ、ナターシャが賛同する。


「じゃあ監修は沙耶だな」

「分かったよ」

「では、早速孤児院に行って、S・M・Lの基準になる三人を仕立て屋に連れて行ってくれ。あと財布のナターシャも一緒に行ってくれ」

「アーク!」


 ペッシーンっ!


 毎度懲りずにビンタを喰らうアーク。


「言い方があるさぁ」

「サイテー」

「財布扱いは酷いよ」

「うわ~~~」


 皆してドン引きである。

 ちなみにだが、お手伝いとして孤児院の子供達を雇う事が決まっていた。この国の法律で、まともに働けるのは十五歳から。

 それまでは、働けてもお手伝い(・・・・)と言う扱いで、ピンハネし放題なのだ。ここでもあくどく考えるアークであった。

 そんな訳で制服も決まり、準備がドンドン進む。

 それから数日後。


「来た。早かったな」


 アークが(ファミリア)を覗き、呟く。

 そうして(ファミリア)を持たせたある人物の所へ向かう。


「これはこれはアークさん。私が町に入って直ぐ来られるとは早いですね」

「ハンスさんこそ、早かったな」


 人の良い柔和の笑みを称えているのは、行商人のハンスだ。メハラハクラ王国のメンサボの町で、エーコと沙耶の強制転移に巻き込まれた行商人である。

 その彼と、この町で再会したアークは、商品を注文したのだ。


「それでどうする? 今日は到着したばかりで、疲れているだろう? 商談は明日にするか?」

「いえいえ。今からでも問題ありませんよ。アークさんが用意してくれた収納魔道具(ストレージカード)のお陰で楽できましたから」


 収納魔道具(ストレージカード)とは、収納魔法(ストレージ)と同じよう感じで、物を収納できる魔道具(アーティファクト)だ。大きさは、地球で言う運転免許証の二倍くらいするが、商人に取っては有難い魔道具(アーティファクト)である。

 アークは、自分やナターシャが収納魔法(ストレージ)を使えるので、ぶっちゃけいらないので、ハンスに渡した。


「なら、店に行こう。最近作ったんだ」

「お店? なるほど。それでジパーング聖王国の特産品を所望されたのですね」


 得心が行ったと言う風に頷く。

 そうアークが注文した商品とは、ジパーング聖王国の米を含めた日本料理が作れそうなものだ。

 そんな訳で、『食事処 アサシンズ』に向かい、地下倉庫にまでやって来た。


「ハンスさんに紹介しておく。此方が店長のセイラだ。今回の商品が気に入れば次から彼女が注文してくれる」

「セイラです。宜しくお願いします~」

「行商人のハンスと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 お互いの自己紹介が済んだところで……、


「此方に商品を出せば宜しいですか?」

「ああ、頼む」

「分かりました」


 そうして収納魔道具(ストレージカード)から、出されるジパーング聖王国の特産品。米や香辛料が中心とされたものだ。


「米だ~~~! わ~~~~懐かしの米だ~~~~っっ!!!」


 壊れたように興奮するセイラ。


「興奮してないで、検分しろよ。これからお前が扱うかもしれない品々なんだぞ」

「……そうだね~」


 冷や水を浴びたかのように大人しくなり、一つ一つを検分しだすセイラ。

 パっと見た限り、調味料が豊富だ。醤油に味噌に湖沼にお酢にがある。 

 アークは、マヨネーズが作れるじゃねぇかと内心喜ぶのだが、マヨネーズはマヨネーズであったりもした。

 尤も、稲さえ確り育てられれば米から、セイラならお酢を作れるので、お酢すらもいらなくなる可能性もあった。そっちのが安上がりだし、セイラの栽培スキルで稲を確り育てられる可能性は十分にある。

 他に薄力粉があるので、天婦羅が食えるじゃねぇかと喜ぶアーク。


「……アークさん、ちょっと」


 ハンスがヒソヒソとアークに話し掛ける。

 それでアークは直ぐ様、察する。


「エーコは、セイラを手伝ってくれ。ナターシャは、こっち来てくれ」

「分かったー」

「分かったさぁ」


 そうして、ナターシャとハンスを連れ一階に登る。ちなみに現在沙耶は不在だ。


「例の物か?」

「えぇ」

「じゃあ、早速見せてくれ」

「では」


 収納魔道具(ストレージカード)とは別に背に背負ったリュックの中から木箱を取り出す。アークに内緒でと言われたので、収納魔道具(ストレージカード)に入れてしまうと、うっかり他の商品と一緒に出してしまいそうだったからだ。

 中身は果たして……、


「ナターシャ、金を頼む」

「なんだいこれは?」

「エーコの誕生日だ」

「なるほどねぇ」


 そうエーコの誕生日プレゼントだ。二ヶ月後に控えているのでアークは、ハンスに注文していた。


「それでハンスさん、全部でいくらだ?」

「小金貨四枚で如何でしょう?」


 文化が違うので、参考程度だが、日本円で400万円だ。正直財布を握るナターシャからすれば痛い。ましてや店を作るのにも相当なお金を使ったのだから。

しかも今回は、米を中心としたジパーング聖王国特産品と漠然とし注文だったので、ハンスは収納魔道具(ストレージカード)に入るだけ詰め込んだので、余計に高いのだ。


「ちなみに、これだけだといくら何だい?」


ナターシャは、木箱を指差す。


「アークさんより、なるべく性能の良い物をと言う注文を承りまして、小金貨三枚ですね。これでもお勉強させて頂いて、此方からあまり儲けを取らないようにしています」


 人の良い柔和な笑みを称えて説明するハンス。

 お店の為の物より高い。しかも儲けをほとんど取らずにだ。だと言うのに、それを聞いたナターシャは、ニヤリと笑う。エーコの為なら多少高くても良いと考えているからだ。


「そうかい。なら払っても良いさねぇ。エーコの為だ」

「毎度ありがとうございます」

「ハンスさんは、暫くこの町に滞在してくれないか? 今回の商品からセイラが店のメニューを決めるから、その後また注文する筈だ。尤も彼女のお眼鏡に叶えばだがな」

「分かりました」


 その後も紆余曲折あったが、半月後無事に『食事処 アサシンズ』がオープンする。

 開店前から行列が出来ていた。それは、開店記念で最初の一週間は精霊が接客しますと言う内容が、書かれたチラシを配ったからだ。尤も紙は高いので、木簡に書かれたチラシだが。

 ちなみに精霊とは、沙耶が契約した精霊で、湖の精霊レイアース。その精霊に接客をやらせようとアークが考えた訳だな。

 三度(みたび)言おう。あくどいアークだ!!


 そうして店が開けられ、客達が入って固まった。言葉通り固まった。その視線が一点に釘付けにされる。

 人間味を感じさせない透き通るような美貌の少女。全身黄色っぽく、服はイエローグリーンのワンピースで、金色の髪は足元まである。そんな少女が中空に浮かんでいた。

 肌も黄色っぽいが瑞々しく美しい。クリームイエローの瞳は、美しさ故に畏怖さえ感じさせる。それに誰もが見惚れていた。

 これが(くだん)の湖の精霊レイアースだ。


《いらっしゃいませ!》


 レイアースは、にこやか挨拶した。しかもスカートの端を掴み、中空にいると言うのに優雅にカーテシーを行う。そう教育したのだ。契約者の沙耶は当然文句を言って来たが。


「おおおおお~~~~!!」


 それだけで客達は、大盛り上がり。

 精霊は信仰で誕生する。日本で言えば付喪神のようなもので、存在自体がレアで有難がたられるのだ。

 その後、客達は席に腰を掛け注文を行う。此処には馴染みのないジパーング聖王国の料理なのだが、絵心があった沙耶が書きイメージをし易くしている。


「それにしても沙耶は、制服の監修にメニューの絵、そして契約精霊に接客をさせる等と店長より働くなぁ」

「誰がやらせてるのよ!?」


 ボソっとアークが呟くと、すかさず沙耶に突っ込まれる。お約束になって来た光景だ。


「レイアースちゃぁぁぁん!! 注文お願ーい」

《はーい》

「レイアースっつぁああん!! おしぼりちょうだぁぁぁい!!」

《はーい》

「レイアースちゃーん! パンツ見せてー!!」

《メニュー外です!》

「レイアースちゃぁぁぁん!! 御代わり!」

《はーい》


 酔っ払いか! しかも音楽家の骨のような事をほざいてる客もいるし、とか考えながら眺めるアーク。

 にしても大人気である。お手伝いの孤児院の孤児達は完全に空気化していた。

 そんな中、レイアースのワンピースのスカートを捲ろうとするアホな客まで現れる。


《お痛いは、ダメですよ》


 やんわり手を弾かれる。

 そこまでは良い。問題はそれ以上を行うドアホがいる事だ。その者は、レイアースのお尻を撫でたのだ。


《お客様一名、お帰りでーす!!》


 ざっぶ~~~~んッッ!!!!


 レイアースは、津波を起こし店から追い出す。しかも、その客だけに命中させ、他の客に水飛沫が一滴もかからないようにコントロールしてだ。流石は湖の精霊なだけはある。

 ちなみにレイアースに羞恥心などないのだが、かと言って好きに触らせてしまうと、そういう事をしても良い店などと勘違いされてしまうので、店を追い出すという教育をしていた。


「良いね! 良いね!」

「レイアースちゃんサイコー!!」

「ナイスだ!」

「……俺もレイアースちゃんの水で溺れたいな」

「もっとやってしまえ!」


 もう別の店化していた。その光景に沙耶の顔が引き攣る。しかもだ、なんかマゾ的発言をしてるのが混ざっていれば尚更である。


《はーい》

「がぼぼぼぼぼぼ……っ!!」


 本当に溺れさせている。レイアースは、その客の顔部分だけ水玉で覆った。


「こらこら、レイアース! それメニュー外よ!!」

《そうでした》


 沙耶がすかさず止めに入る。

 そうして、大盛況のうちに初日が終わる。レイアースが大人気なだけに思えるが最後には、食事が美味かったと言って帰って行ったので、成功と言えよう。


「疲れた~~!!」


 店を閉めた瞬間、セイラがぐったりしだす。

 厨房でひたすら調理し続けたからだ。ホールではレイアースが一番働いたが、彼女は魔力さえあれば無尽蔵に動ける。よって時々沙耶が魔力を与えていたので問題はなかった。


「セイラの料理は盛況だったぞ。まあ大変なのはレイアースがいる一週間だけだ。頑張れ!」

「一週間はやり過ぎだよ~」


 アークが声援を送るが、セイラはげんなりと返した。


「それにしてもさ。気になったのが、レイアース」

《何でしょうか?》

「お前、その服って脱げるのか?」


 パンツ見せてって発言があったせいで、アークは少し気になったのだ。


「アークっ!」


 ペッシーンっ!!


 またビンタ。アークも、ほんと懲りない。


「何変な事を言ってるのさぁ!! しかも精霊相手とか見境がないさぁ」

「サイテー!」

「アークはスケベだな~~」

「それがアークよ」


 皆してアークから距離を取る。


「いや、そうじゃなくて! 服と体が一体なんじゃないかって気になったんだよ!!」


 慌てて言葉を訂正するアーク。


「紛らわしいさぁ」

《アークの言う通り一体ですよ》

「あ、やっぱり。じゃあパンツ見せてとか言われてたけど、見せられないんじゃないか?」

《あ、パンツにあたる部位はありますので、見ますか?》

「見せなくて良いよ!!」


 スカートを捲ろうとしたレイアースをすかさず止める沙耶。

 そんな一幕もあったが、初日が大盛況過ぎて、噂が噂を呼び残りの六日間地獄を見る面々だったのは、また別の話である……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ