EP.13 食事処 アサシンズ
アーク達は『食事処 アサシンズ』の開店準備を着々と進めていた。
「次はどうする?」
アークが、他の面々に呼び掛ける。
「制服じゃない~?」
そう言ったのは店長になるセイラだ。
「それなら日本食が基本となるから和服よね」
「なら、S・M・Lの子供用のを四着づつあれば良いか?」
沙耶の言葉を受け、そう提案するアーク。
「意義な~し」
「わたしもー」
「あたいもさぁ」
セイラ、エーコ、ナターシャが賛同する。
「じゃあ監修は沙耶だな」
「分かったよ」
「では、早速孤児院に行って、S・M・Lの基準になる三人を仕立て屋に連れて行ってくれ。あと財布のナターシャも一緒に行ってくれ」
「アーク!」
ペッシーンっ!
毎度懲りずにビンタを喰らうアーク。
「言い方があるさぁ」
「サイテー」
「財布扱いは酷いよ」
「うわ~~~」
皆してドン引きである。
ちなみにだが、お手伝いとして孤児院の子供達を雇う事が決まっていた。この国の法律で、まともに働けるのは十五歳から。
それまでは、働けてもお手伝いと言う扱いで、ピンハネし放題なのだ。ここでもあくどく考えるアークであった。
そんな訳で制服も決まり、準備がドンドン進む。
それから数日後。
「来た。早かったな」
アークが草を覗き、呟く。
そうして草を持たせたある人物の所へ向かう。
「これはこれはアークさん。私が町に入って直ぐ来られるとは早いですね」
「ハンスさんこそ、早かったな」
人の良い柔和の笑みを称えているのは、行商人のハンスだ。メハラハクラ王国のメンサボの町で、エーコと沙耶の強制転移に巻き込まれた行商人である。
その彼と、この町で再会したアークは、商品を注文したのだ。
「それでどうする? 今日は到着したばかりで、疲れているだろう? 商談は明日にするか?」
「いえいえ。今からでも問題ありませんよ。アークさんが用意してくれた収納魔道具のお陰で楽できましたから」
収納魔道具とは、収納魔法と同じよう感じで、物を収納できる魔道具だ。大きさは、地球で言う運転免許証の二倍くらいするが、商人に取っては有難い魔道具である。
アークは、自分やナターシャが収納魔法を使えるので、ぶっちゃけいらないので、ハンスに渡した。
「なら、店に行こう。最近作ったんだ」
「お店? なるほど。それでジパーング聖王国の特産品を所望されたのですね」
得心が行ったと言う風に頷く。
そうアークが注文した商品とは、ジパーング聖王国の米を含めた日本料理が作れそうなものだ。
そんな訳で、『食事処 アサシンズ』に向かい、地下倉庫にまでやって来た。
「ハンスさんに紹介しておく。此方が店長のセイラだ。今回の商品が気に入れば次から彼女が注文してくれる」
「セイラです。宜しくお願いします~」
「行商人のハンスと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
お互いの自己紹介が済んだところで……、
「此方に商品を出せば宜しいですか?」
「ああ、頼む」
「分かりました」
そうして収納魔道具から、出されるジパーング聖王国の特産品。米や香辛料が中心とされたものだ。
「米だ~~~! わ~~~~懐かしの米だ~~~~っっ!!!」
壊れたように興奮するセイラ。
「興奮してないで、検分しろよ。これからお前が扱うかもしれない品々なんだぞ」
「……そうだね~」
冷や水を浴びたかのように大人しくなり、一つ一つを検分しだすセイラ。
パっと見た限り、調味料が豊富だ。醤油に味噌に湖沼にお酢にがある。
アークは、マヨネーズが作れるじゃねぇかと内心喜ぶのだが、マヨネーズはマヨネーズであったりもした。
尤も、稲さえ確り育てられれば米から、セイラならお酢を作れるので、お酢すらもいらなくなる可能性もあった。そっちのが安上がりだし、セイラの栽培スキルで稲を確り育てられる可能性は十分にある。
他に薄力粉があるので、天婦羅が食えるじゃねぇかと喜ぶアーク。
「……アークさん、ちょっと」
ハンスがヒソヒソとアークに話し掛ける。
それでアークは直ぐ様、察する。
「エーコは、セイラを手伝ってくれ。ナターシャは、こっち来てくれ」
「分かったー」
「分かったさぁ」
そうして、ナターシャとハンスを連れ一階に登る。ちなみに現在沙耶は不在だ。
「例の物か?」
「えぇ」
「じゃあ、早速見せてくれ」
「では」
収納魔道具とは別に背に背負ったリュックの中から木箱を取り出す。アークに内緒でと言われたので、収納魔道具に入れてしまうと、うっかり他の商品と一緒に出してしまいそうだったからだ。
中身は果たして……、
「ナターシャ、金を頼む」
「なんだいこれは?」
「エーコの誕生日だ」
「なるほどねぇ」
そうエーコの誕生日プレゼントだ。二ヶ月後に控えているのでアークは、ハンスに注文していた。
「それでハンスさん、全部でいくらだ?」
「小金貨四枚で如何でしょう?」
文化が違うので、参考程度だが、日本円で400万円だ。正直財布を握るナターシャからすれば痛い。ましてや店を作るのにも相当なお金を使ったのだから。
しかも今回は、米を中心としたジパーング聖王国特産品と漠然とし注文だったので、ハンスは収納魔道具に入るだけ詰め込んだので、余計に高いのだ。
「ちなみに、これだけだといくら何だい?」
ナターシャは、木箱を指差す。
「アークさんより、なるべく性能の良い物をと言う注文を承りまして、小金貨三枚ですね。これでもお勉強させて頂いて、此方からあまり儲けを取らないようにしています」
人の良い柔和な笑みを称えて説明するハンス。
お店の為の物より高い。しかも儲けをほとんど取らずにだ。だと言うのに、それを聞いたナターシャは、ニヤリと笑う。エーコの為なら多少高くても良いと考えているからだ。
「そうかい。なら払っても良いさねぇ。エーコの為だ」
「毎度ありがとうございます」
「ハンスさんは、暫くこの町に滞在してくれないか? 今回の商品からセイラが店のメニューを決めるから、その後また注文する筈だ。尤も彼女のお眼鏡に叶えばだがな」
「分かりました」
その後も紆余曲折あったが、半月後無事に『食事処 アサシンズ』がオープンする。
開店前から行列が出来ていた。それは、開店記念で最初の一週間は精霊が接客しますと言う内容が、書かれたチラシを配ったからだ。尤も紙は高いので、木簡に書かれたチラシだが。
ちなみに精霊とは、沙耶が契約した精霊で、湖の精霊レイアース。その精霊に接客をやらせようとアークが考えた訳だな。
三度言おう。あくどいアークだ!!
そうして店が開けられ、客達が入って固まった。言葉通り固まった。その視線が一点に釘付けにされる。
人間味を感じさせない透き通るような美貌の少女。全身黄色っぽく、服はイエローグリーンのワンピースで、金色の髪は足元まである。そんな少女が中空に浮かんでいた。
肌も黄色っぽいが瑞々しく美しい。クリームイエローの瞳は、美しさ故に畏怖さえ感じさせる。それに誰もが見惚れていた。
これが件の湖の精霊レイアースだ。
《いらっしゃいませ!》
レイアースは、にこやか挨拶した。しかもスカートの端を掴み、中空にいると言うのに優雅にカーテシーを行う。そう教育したのだ。契約者の沙耶は当然文句を言って来たが。
「おおおおお~~~~!!」
それだけで客達は、大盛り上がり。
精霊は信仰で誕生する。日本で言えば付喪神のようなもので、存在自体がレアで有難がたられるのだ。
その後、客達は席に腰を掛け注文を行う。此処には馴染みのないジパーング聖王国の料理なのだが、絵心があった沙耶が書きイメージをし易くしている。
「それにしても沙耶は、制服の監修にメニューの絵、そして契約精霊に接客をさせる等と店長より働くなぁ」
「誰がやらせてるのよ!?」
ボソっとアークが呟くと、すかさず沙耶に突っ込まれる。お約束になって来た光景だ。
「レイアースちゃぁぁぁん!! 注文お願ーい」
《はーい》
「レイアースっつぁああん!! おしぼりちょうだぁぁぁい!!」
《はーい》
「レイアースちゃーん! パンツ見せてー!!」
《メニュー外です!》
「レイアースちゃぁぁぁん!! 御代わり!」
《はーい》
酔っ払いか! しかも音楽家の骨のような事をほざいてる客もいるし、とか考えながら眺めるアーク。
にしても大人気である。お手伝いの孤児院の孤児達は完全に空気化していた。
そんな中、レイアースのワンピースのスカートを捲ろうとするアホな客まで現れる。
《お痛いは、ダメですよ》
やんわり手を弾かれる。
そこまでは良い。問題はそれ以上を行うドアホがいる事だ。その者は、レイアースのお尻を撫でたのだ。
《お客様一名、お帰りでーす!!》
ざっぶ~~~~んッッ!!!!
レイアースは、津波を起こし店から追い出す。しかも、その客だけに命中させ、他の客に水飛沫が一滴もかからないようにコントロールしてだ。流石は湖の精霊なだけはある。
ちなみにレイアースに羞恥心などないのだが、かと言って好きに触らせてしまうと、そういう事をしても良い店などと勘違いされてしまうので、店を追い出すという教育をしていた。
「良いね! 良いね!」
「レイアースちゃんサイコー!!」
「ナイスだ!」
「……俺もレイアースちゃんの水で溺れたいな」
「もっとやってしまえ!」
もう別の店化していた。その光景に沙耶の顔が引き攣る。しかもだ、なんかマゾ的発言をしてるのが混ざっていれば尚更である。
《はーい》
「がぼぼぼぼぼぼ……っ!!」
本当に溺れさせている。レイアースは、その客の顔部分だけ水玉で覆った。
「こらこら、レイアース! それメニュー外よ!!」
《そうでした》
沙耶がすかさず止めに入る。
そうして、大盛況のうちに初日が終わる。レイアースが大人気なだけに思えるが最後には、食事が美味かったと言って帰って行ったので、成功と言えよう。
「疲れた~~!!」
店を閉めた瞬間、セイラがぐったりしだす。
厨房でひたすら調理し続けたからだ。ホールではレイアースが一番働いたが、彼女は魔力さえあれば無尽蔵に動ける。よって時々沙耶が魔力を与えていたので問題はなかった。
「セイラの料理は盛況だったぞ。まあ大変なのはレイアースがいる一週間だけだ。頑張れ!」
「一週間はやり過ぎだよ~」
アークが声援を送るが、セイラはげんなりと返した。
「それにしてもさ。気になったのが、レイアース」
《何でしょうか?》
「お前、その服って脱げるのか?」
パンツ見せてって発言があったせいで、アークは少し気になったのだ。
「アークっ!」
ペッシーンっ!!
またビンタ。アークも、ほんと懲りない。
「何変な事を言ってるのさぁ!! しかも精霊相手とか見境がないさぁ」
「サイテー!」
「アークはスケベだな~~」
「それがアークよ」
皆してアークから距離を取る。
「いや、そうじゃなくて! 服と体が一体なんじゃないかって気になったんだよ!!」
慌てて言葉を訂正するアーク。
「紛らわしいさぁ」
《アークの言う通り一体ですよ》
「あ、やっぱり。じゃあパンツ見せてとか言われてたけど、見せられないんじゃないか?」
《あ、パンツにあたる部位はありますので、見ますか?》
「見せなくて良いよ!!」
スカートを捲ろうとしたレイアースをすかさず止める沙耶。
そんな一幕もあったが、初日が大盛況過ぎて、噂が噂を呼び残りの六日間地獄を見る面々だったのは、また別の話である……。