EP.10 お店が完成しました
-2006――――月陸歴1515年10月25日
馬車だと12時間かかってしまったが、ダレスの町に到着した。夜に出発したので朝の到着だ。
ちなみにだが、ウルールカ女王国内であれば、馬車を元の町に戻さなくても問題無い。少し手間賃は掛かるが、行った先の馬車屋に渡すだけで済むのは楽だ。
「じゃじゃーん! 少し早いけど、セイラに誕生日プレゼント」
半月後、セイラの誕生日で成人し、働けるようになるしな。
前日の夜に出発したのは、明るい状態で見せたかったからだ。朝出発してしまうと暗い夜に見せる事になってしまうしな。
「……いや、ちょっと誕生日にしては豪華過ぎない~?」
めっちゃドン引きしてるな。
それもその筈、基本は木造住宅だと言うのに、鉄筋――実際は岩――の豪邸と思われるような外観。勿論色塗りしてるので、真っ白だ。
しかも平民が三階建てに住むなんてあり得ない。二階三階があるのは宿屋くらい――豪商や貴族は平屋で広い面積の土地――で、他に階層があるのはお城くらいだろう。
「成人だよ? 成人!」
「だからって豪華過ぎるよ~」
「まず門から入って、両サイドに花壇。見た目が良いね」
「……手入れが大変そ~~」
其処まで知りません。
「ああ、裏も回ってみようか」
建物には、入らず裏も周る。
「これな~に? 畑~?」
そう庭付き、畑付き、更に稲を植えるスペースも確保している。
「イエス」
「ドン引きよ~~~~!!!」
「そうよ! これやり過ぎよ!!!」
沙耶から言われちった。
「……お金掛け過ぎさぁ」
ナターシャは、金の心配だ。まあいくら掛かったか伝えてはいたが、めっちゃ怒られたんだよな。
お店だと言って納得して貰ったけど。
「いや、栽培スキルがあるから畑とあると便利じゃん」
「だからって畑所有の家って~」
「そもそも家って誰が言った?」
「「は?」」
エーコは当然の事、ナターシャはお金の使い道で話したから知ってるが、沙耶とセイラは知らないので、間抜な声を漏らす。
「お店だよ。これでセイラは栽培を自分の為にしか使わず、変な要求をされる事はないぞ」
素晴らしい案だね。
「お店って何を売るのさ~!? 私は商売の経験なんてないよ~?」
「料理。料理好きだって言ったじゃん」
「え!? これって……レストラン的な?」
首がギギギッと音が鳴りそう動きで周りを見渡す。
「「レストラン?」」
エーコとナターシャは、レストランと言う言葉を知らないのか、首を傾げる。
「そう。『食事処セイラ!』 完璧だね。栽培スキルを活かせて、好きな料理ができる」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや~~~~~」
『いや』を何回言ってるんだ?
「料理は好きだけど、それが繁盛するかどうかは~……」
「三人に質問です。セイラの料理は売れない程、不味いですか?」
「売れると思うさぁ」
「美味しよー」
「そうよ、美味しいよ。だけど最初にレストランって言いなさいよ!? 私までビックリしたじゃないのよっ!!!!!」
何か沙耶さんだけ俺を怒鳴り付けて来るんですが……。
「それに私がやらないって言ったら……」
「この土地を売って白紙に戻す」
「もうやるしかないじゃないのよ~~!!」
「嫌なの? なら無理にする必要はないぞ」
「そうじゃなくて~~。売れるか不安なのよ~~」
「そこは考えている。大注目をせざるを得ない内容を書いたチラシ配りをする」
「どんな~?」
俺はふっふっふ……と、笑いながら自慢げに語り出す。
「まず、この辺じゃ珍しいジパーング聖王国料理が食える」
「いや、米とかは~?」
「確保済み。あと十日程で届く」
「準備良いね~」
「そして、特大の爆弾。『開店記念! 最初の一週間は精霊さんが接客します』と書く」
「それってレイアースじゃない!!!」
「そう」
「セイラさんの店なのに、何で私に負担が来るのよっ!?」
「仲間じゃん」
「うっ! ……分かったよ!」
沙耶さんや、投げやりだな。
「それで~店の名前は『食事処セイラ!』に決定なの~? 恥ずかしいんだけど~」
「いや、それはセイラが決めなよ」
「じゃあ『食事処 アサシンズ』にする~」
「物騒だなオイ」
「私もアサシンズのメンバーだよ~」
そうだけど、それを店の名前にするってどう言う事だよ?
「ああ、死ぬ程、美味いって殺し文句ね?」
沙耶が得心行ったかのように言う。あ~そう言う意味なのか。
「自分で言うのは恥ずかしいけどね~。どうせやるなら其処までやらないと~」
「やる気になって何より」
「此処までされたらやるしかないでしょ~~~!?」
はい、ごめんなさい。
「それでこっちは何~~?」
セイラは窪みを見て、そう問う。
「田んぼにする予定。泥を流し込めばできるでしょう?」
「いや、田植えなんてした事ないから~」
「栽培があれば、なんとかなる」
「栽培のスキルは、万能じゃないよ~~~~!!!」
俺、知~らね。
「知りなさいよ」
沙耶さんにまた突っ込まれた。
「まあ、やり方を知れば良いだけだ。それと畑や花壇を育てるプロの庭師雇った方が良いかもな」
「私が庭師なんだけど~~」
うん、職業庭師になってるな。
「店やりながら、畑や花壇に田んぼの手入れは大変だろ?」
「そうだね~」
「じゃあ、中も見ようか。エーコの采配に全部任したけど、何か要望があれば今からでも変更可能だから」
「分かった~」
そうして中に入ると赤を基調として様式。うん、綺麗だな。
テーブルは丸くて六人くらい座れるのが十五個はある。思ったりより広いな。しかもテーブルとテーブルとの間隔広い。
「綺麗ね~」
「出来立てだから」
「そう言う意味じゃないでしょよ!?」
沙耶さんからの鋭いツッコミ頂きました。
次に階段を上り、広いホールのような部屋がある。こっちは特に飾り付けとかしていない。が、何かイベントができるようにステージのような台も一応ある。
ちなみに階段もエーコの上位大地魔法作。
「此処は~?」
「繫盛した時用。こっちも解放するも良し。イベント専用にするも良し。お店を始めてからセイラが考えれば良いよ」
「そう言えば、此処は私が一人でやるの~。無理よ? こんな広い店~」
「セイラが店長。俺がオーナー。お手伝いさんを二十人くらい借りられる算段は取った」
「に、二十人!? 採算取れないんじゃないのよ~!?」
セイラが目を剥く。
「いや、だからお手伝いさん。従業員じゃないよ」
「つまり十五歳未満を連れて来るのね? あくどいわよ!?」
またまた沙耶に突っ込まれた。
「いや、法は破ってないし、相手にも了承は得てるし」
「じゃあ問題ないね~」
「……それで良いの?」
ボソっと沙耶が呟く。
「流石は転生者。沙耶とは大違い!」
「何でよ!?」
沙耶が怒鳴り付けて来る。
「だって、此処で十数年生きて、此処の常識を身に付けてるじゃん」
「転生者は関係無いでしょよっ!!!」
「負け惜しみで突っかかるなよ」
ニヒって笑って揶揄う。
「アンタのそう言うとこ、ほんとに嫌いよっ!!」
さいですか。と言うか、それ言われた久々のような……いや、『ムカ付くよ』が『嫌いよ』に進化してるぞ。
「じゃあ三階行こうか」
そう言って三階に登る。
「此処は居住区画。セイラのお家だよ」
「家も十分多きいよ~~」
「部屋をいくつかに分けてるから、今後誰かを雇った時に住み込みで働かせれば良いよ」
「そう。でもそれなら~、男子棟とか作って欲しかったな~」
「あ!」
忘れてた。
「まぁそこまでは贅沢か~」
「そもそも感覚がおかしくなってるよ? 誕生日で家付き、庭付きのお店をくれるのがおかしいのよ!?」
流石常識人沙耶。
「ところでさっきからツッコミばっかして疲れない?」
「誰のせいよ!!!???……はぁはぁ」
「息荒くして欲情してるの?」
「違うわよ!!!??? はぁはぁ……アンタのそう言うとこ、本とぉぉぉぉうに嫌いよっ!!」
さいですか。その2。
「一応一通り家具も入れたよー」
エーコは俺達のやり取りをスルーし部屋の説明をした。
「わ~~畳だ~~」
そうセイラの部屋は畳にした。
部屋の扉を開けて直ぐに下駄箱や靴置き場がある。それとキッチンと一体のワンルームだ。
「良いわね」
沙耶が目を見張りながら言う。
そう言えば、沙耶は転移してから畳なんて見た事なかったかもな。あ、でもムサシの家にお邪魔した事があれば畳があったかもな。
「日本人と言えば畳っしょ」
「だね~~」
「沙耶は、ムサシに会った事あるよな?」
「あるよ。と言うかルシファー大陸からユピテル大陸に向けて、ずっと一緒だったじゃない」
「エド城に行った事は?」
「ないよ」
「なら、星々の世界に戻ったら、エド城に行って畳買いなよ。エドに頼めば買ってくれるだろ? エドだけに」
「つまんないわよっ!! って、エド城に行けば有ったね。戻ったら買うよ。エドワード国王に頼んで、私の部屋を改装して貰うよ」
「てか、『エドワード国王』呼びかよ。本人嫌がらないか?」
「別に良いのよ。エドなんて呼べば口説きに拍車が掛かりそうよ」
なるほどね~。まあ確かに。でも、その感覚は胡春と違うな。
エドは口説くと言っても、礼儀の範疇? なので胡春はそれを理解し、受け流せるようになっていた。
でだ、セイラの部屋は他に衣装ケースに押し入れ――中には布団一式――に本棚にと、一通り揃っているな。壁は緑にカーテンは黄緑を基調とした部屋か。セイラの雰囲気に合わせたのか。
「良い部屋だね~」
「他の部屋はー、ベッドと衣装ケースだけだけどねー」
うん、布団すらない。まあ誰も使う予定ないし当然か。ついでに洋式。
「お! 風呂もバッチリあるな」
「わ~~お風呂も~~~」
「やっぱ日本人と言えば風呂は必要だもんな」
「だね~~」
「私もそう思うよ」
沙耶も同意していた。
って言うか、大浴場だな。ぎゅうぎゅうに詰めれば二十人は入れそうだ。
ちなみにこの大浴場は、俺等が狩った炎系の魔獣と水系の魔獣の魔石をふんだんに使った。
炎系の魔獣の魔石は風呂を温めてくれる。水系の魔獣の魔石は水を浄化させる効果がある……まあ限度があるけど。