EP.09 王都を観光しました
王城の書庫で本を読み耽っていたある日の事だ。
書庫にサフィーネがやって来た。一緒に侍女や護衛の他にちょび髭のおっさんもいる。身なりから護衛ではないな。誰だろうか?
「皆さん、ご機嫌よう」
「王女殿下におかれましても、ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます」
俺は、立ち上がり代表で挨拶する。
マジで肩凝るよな。公の場では、サフィーネを王女として扱わないと行けないし。
だが、俺も慣れたものだ。すらすらと言葉が出て来るのだから。昔の俺では考えられない事だな。
「皆さんに、ご紹介します。こちらサフメルディ伯爵。リセアの養父です」
「ダルコール=サフメルディだ。義娘が世話になった」
「サフメルディ伯爵様、お会いできて光栄に存じます。リセア様の件でしたらお気になさらず。当然の事をしたまでです」
右手を腹に添えて頭を垂れる。
ふ~ん。このちょび髭は、リセアの養父だったのか。しかも伯爵ね。何故養子なのか知らんが、そこそこの家柄だったのか。伯爵と言えば真ん中辺りの家格だしな。
「ははは……謙遜せずに良い。例の件は聞いた。アレが広がれば間違いなく面倒な事になるであろう。にも関わらず其方らは、リセアを助けたのだから」
例の件とは、蘇らせた事かね。
「そう言って頂きまして幸甚にございます」
「でだ、ささやかなながらにお礼の品を持って来た。受け取って貰いたい」
「ははっ! 有難き幸せにございます」
別に要りませんなんて言えるわけねぇーだろ!!
変な借りみたいのが、出来るのは好ましくないんだがな。
そんな訳で、サフメルディ伯爵は木箱を三つ起き去って行った。サフィーネも同じくだ。
「中身は何だろな」
「気になるね~」
「だねぇ」
俺が言うとセイラがそれに乗っかりナターシャが同意した。
「ワンピースだな」
「こっちは防具よ」
「素敵~。こっちはハイヒールだよ~」
俺が開けた箱にはワンピース、沙耶が開けたのには防具、セイラが開けたのはハイヒールだった。
どれも優雅で上品だ。特にワンピースは青を基調としたもので、ドレスに近いものがあり、貴族の前に出ても恥ずかしくないような上質なものだ。
ハイヒールは、赤色でワンピースと合わせれば尚、ワンピースが栄えるだろう。
そして、心臓を守るかのように左胸を重点にした作りの銀色の鎧……と言うより胸当てか。此方も優雅なデザインをあしらっている。
とりあえず鑑定っと。
フレスベルグのワンピ (防御力1000、魔力500、俊敏500)
自動修復機能ありの魔道具武装、ね。
かなりの性能だな。
てか、フレスベルグかよ。地球では北欧神話に登場する鳥で、この世界では霊獣の扱いになっている鳥だな。
ウーツのハイヒール (防御力300、俊敏200)
ダマスカス鋼かよ。地球では製法が失伝したと言われている伝説の金属だ。
プラチナメイル (防御力1500)
そして最後は胸当て。白金が素材かよ。これも良い性能だな
随分良い値段がする高価のものをくれた気がするな。三つ合わせると大金貨数枚はしそうだ。
「これナターシャ用だな」
「良いのかい?」
「大きさ的に他に着れそうな奴いないだろ」
「丸であたいが太ってるみたいな言い方じゃないかい!?」
「いや、エーコと沙耶は幼女になってるだろ。それに着れたとしても職柄的に合わないだろ」
エーコは魔導士系で、沙耶は侍系だしな。俺? 女物なんて着てるわけねぇーだろ!!
「って訳で、ちょっと着て来い」
「分かったさぁ」
そうして着替えて戻って来たナターシャ。
「これ動きやすいさぁ」
滅茶苦茶似合う。
スカートは、足首まである。普段普通の靴なので、そんなに長いスカートだと踏ん付けて転んでしまう。なので、ナターシャは普段は、膝下辺りのワンピースを好む。
しかし、このワンピースは、ハイヒールで踏み辛くなっている。
動きやすい……と言うか、俊敏能力の高いワンピースに転ばないようにハイヒールって、丸でナターシャに合わせて用意したとしか思えないな。
それと白金の胸当てがイカす。丸で戦乙女になったようだ。
それに武から自動反射マントが変化した。ショールから40cmくらいの短マントへ。最初に貰った時の形状だな。
ただ色は、白金と同じ色だ。そして、名前がヴァルキーストールに変わった。
不思議なものだ。胸当てが戦乙女みたいと思ったが、マントの名前が戦乙女を冠するようになるとはな。
「まあまあだな」
「もっと確り褒められないのかい?」
だってナターシャだし、ハズイじゃん。
「沙耶の着物ええよな」
「何で私なのよ!?」
「矯正っ!!」
ペッシーンっ!
いつものようにビンタです、ハイ。
「いや、俺だって日本人なんだし、和装は好きだぞ」
「普段言わないくせに、こんな時に言うから叩かれるのよ!!」
分かってらーい。
言い返すと藪蛇になりそうなので、話題を変えよう。
「本ばかり読んでるのもなんだし、明日観光でもするか」
そう俺は、提案した。
「何処行くんだい?」
「明日は、祭りらしい。適当にぶらつけば良いだろ」
明日は収穫祭らしい。つまりハロウィンだな。
仮装するのかって? ちっげーよ。ハロウィンは、元々アイルランドから広まった収穫祭なのだ。
はい此処テストに出るぞ。
「何のテストよ!?」
何か聞こえた気がしたがスルーで。
って訳でメルーシ王都で開催のハロウィン……もとい収穫祭にやって参りました。
王都は人でごった返している。出店とか色々出ているな。
そんな中、料理対決と言うのがあった。飛び入りも参加有りらしい。
「ナターシャとセイラも出てみろよ」
「祭りだし、構わないさぁ」
「私も~?」
そんな訳で二人が飛び入り参加。予選は普通に通過し、本選の八人の中に残った。
予選は百人いたのに、そこから八人に絞り二人が残ったのは大したものだ。
そして、決勝での御題は卵料理。ナターシャは、コーンプディングを作成。セイラは……ただの玉子焼きかいな。
他の六人はカット。え? 予選の様子も他の参加者もカットだって? 細っけー事は良いんだよ!!
巻きだよ巻き。早送りで流して行くぜよ。
そうしてナターシャのコーンプディングが、審査員に食べられる。
「美味い」
「美味い」
「美味い」
「美味い」
皆、一緒かいな。ボキャブラリー少なくない?
続けてセイラの玉子焼きが、審査員の前に置かれる。
「こ、これは……口の中に広がる濃厚な味わい」
「素晴らしい!!」
「素材の味をそのまま活かしてる」
「マジうま!」
最後のは、おかしいだろ!? マジうまって何だよ? それまで美味いしか言わなかっただろ?
そもそも皆してボキャブラリーが、いきなり増えてないか?
まあこの反応で分かる通りセイラが優勝しました、っと。あっさりだな~。
「あんたの解説が、あっさりしてただけでしょうよっ!!」
沙耶さんは煩いな。
「あんたが煩いのよっ!!」
ハリセン必要?
「だから何でよっ!?」
と言うか、さっきから心の声を読まないでくれる?
「全部口に出てるよっ!!!」
続けて腕相撲大会があったので寄ってみた。
「うおおおお!! 次の挑戦者はいるかー!?」
なんかムキムキマッチョが、吠えているな。
これは挑戦者がいなくなるまで、腕相撲をする方式のようだ。
「じゃあ俺がやる」
そう言って、俺が前に出る。
「おいおい。ヒョロっちぃ兄ちゃんがやるってのか? 腕壊す前に帰りな」
「そんな事を言ってると負けた時に恰好悪いぞ」
「んだとぉぉぉ!!」
ギャラリーがドっと笑い出す。
よっし! 掴みはOKだな。
「腕相撲に掴みなんていらないでしょうよ!」
また沙耶に突っ込まれた。つうか腕を掴むんだから掴みは必要だろ。
「レディぃぃぃ・ファイト!!」
レフリーが開始の合図をした。
「ぬぬぬ!」
「あれれ~? 可笑しいぞ~。さっき威勢の良い事を言っておいて動かないぞ?」
マッチョは、俺の腕をピクリとも動かせない。真実は一つ! これぞ真実。
「今度は何のネタよ?」
何か聞こえたがスルー。
「てめぇ! 何をしやがってる?」
マッチョが吠える。
「え? ただ構えているだけだぞ。ほれ早く倒してみろよ」
ハイ、煽りまくりです。
力だけで言えば勝てないが、俺には闘気レベル8がある。はいズルです。純粋な力比べじゃありません。
「じゃあ、そろそろ動かすな」
「って言いながら、兄ちゃんも動かせないからピクリともしてないのだろ?」
ズッドーンっ!!
けたたましい音を響かせ、腕を置いていた台をぶっ壊す勢いで倒しました。と言うかマッチョの腕をへし折りました。フラグ回収っと。
「あんたの腕が壊れるフラグだったでしょうよ!!」
またまた何か聞こえたがスルー。
「続けての挑戦者はいますか?」
レフリーが呼び掛ける。が、誰もいない。なんせ俺が台を破壊する勢いで腕をへし折ったしな。
ヒヨるように仕向けないと、いつまで続くかわからないルールだしな。計算のうちだ。
「って訳で優勝は……って、貴方お名前は?」
今更?
「アーク」
「優勝はアークさんです!」
一戦目が最終決戦でした。まーる! ジャージ部入らないよ?
「また変なネタ出してるんじゃないのよ! と言うか何のネタよ!?」
って訳でお祭りを堪能し、次々に回る。ああ、勿論腕を破壊したマッチョは回復してやったぞ、ナターシャが。
「あんたがしなさいよ!!」
スルー。
「……もう扱いが雑ね」
お! 射的がある。射的と言っても銃ではなく弓だがな。
「ナターシャの得意分野だぞ」
「じゃあやって見るさぁ」
矢は七本。そのうち一本を掴み、弓につがえる
シュっ! と、大きく右に反れて外れた。
「癖は、分かったさぁ」
そう言って矢を三本掴み、それぞれ指の間に挟み、弓につがえる。
ブスブスブスっ!! と、三本とそれぞれ景品に突き刺さった。
すげーな、オイ。
同じように三本同時発射。景品を六個取れた。尤もどれも食い物だ。特に欲しい物はなかったので、食ってなくなる適当な物を落としたと言うとこだろう。
その次の日から、また書庫で本を読み耽ったりして過ごし、エーコと別れてから二十日後、エーコより伝心魔道具で連絡が来た。
『お店出来たよー』
「分かった。明日向かう」
って訳で次の日、馬車を借りてナターシャと沙耶とセイラの四人でダレスの町を目指す。