EP.08 サフィーネとデートしました
エーコをダレスの町に残し、一人で王都メルーシに戻ると、王城でサフィーネと出くわした。
赤いドレスを着ておりサフィーネに良く似合う。
侍女二人―― 一人はリセア――と護衛らしき人が、三人いる。それと十歳行ってるかどうかの、サフィーネと同じ赤色の髪に水色の瞳をしている黄色を基調としたドレスを纏った幼女がいた。
そっちの幼女にも侍女二人と護衛が三人付いているように見える。サフィーネの妹だろうか?
「これはこれは、王女殿下。ご機嫌麗しゅう」
そう言って俺は右手をお腹に添えて頭を垂れる。
「ふふふ……アーク様もご機嫌麗しゅう」
「ところで、今からデートなんて如何ですか?」
リセアを除く従者達から胡乱げな眼差しを向けて来る。ちょっとしたジョークだろうが、こいつらは。
王族相手にふざけた事を言った俺が悪いって? 細っけー事は良いんだよっ!!
「ふふふ……えぇ。宜しくてよ」
扇子で口元を隠しながら笑ってるが、胡散臭い笑みだな。目が笑ってないし。
ちなみに俺達が買い与えた扇子よりゴージャスになっているな。やっぱ王女に合う格のものにしたのだろう。空色を基調としておりサフィーネに良く似合う。
「姫様! このような怪しい輩の誘いを受ける等と……」
「私が良いと言ってるのです」
ピシャリと言うサフィーネ。
つうか怪しい輩で悪かったな。
「あ、そう言えばアーク様。ご紹介しますね。こちら私の妹のローズマリーです」
「第二王女のローズマリーと申しますわ。サフィーネお姉様が大変お世話になりました」
そう言って幼女が、スカートの端を摘まみお辞儀を行う。
やっぱり妹だったか。
「これは丁寧な挨拶痛み入ります。冒険者のアークと申します」
左足を一歩下げて、右手を上から左腰に下ろしながら挨拶した。
「良ければローズマリーも、ご一緒でも構いませんか? アーク様」
「えぇ。勿論です」
てか、さっきから様とか敬称を付けられて気持ち悪いな。
「それで、デートは何処に連れて行ってくださるのですか?」
なんか胡散臭く目を輝かせていやがる。つまり、演技で期待の眼差しをしていると言う意味だ。
「サフィーネ王女殿下は、簡単には城から出られないのでは? 城内で良い場所があれば、是非教えてください」
「では、庭園でお茶に致しましょう」
「はい、喜んで」
と言うか疲れる。デートに誘っておいて堅苦しく話してるからな。いや、OK貰えるとは思わなかったしさ。軽い冗談のつもりで言ったんだけどな。
まあOKされたし、そのままサフィーネに着いて行き庭園でお茶を用意して貰った。
四階で、花壇に囲まれた吹き抜けの場所。空中庭園って奴だな。四階だけはあり、景色も良い。晴れの日に此処でお茶とは、優雅なものだな。
「流石は、王女殿下ですね。良い葉を使ってるのでしょう。お茶が大変美味しいです」
「ふふふ……そうですか? アーク様」
「ははは……えぇ」
「ふふふ……」
「ははは……」
何かお互いに牽制するように笑っているな。俺もなんか表情作るの疲れて来たぞ。
「あの……お二人共怖いのですが」
ローズマリーが困ったようにおずおず言い出した。
「ふふふ……そんな事はありませんよ? ねぇアーク様」
「ははは……そうですね。サフィーネ王女殿下」
「……やはり怖いですよ」
いや、だってなんかサフィーネが牽制するように微笑んでるだもんな。俺なんかしたかな?
「ところでサフィーネ王女殿下。何故俺に様を付けられるのですか?」
「ふふふ……アーク様こそ他人行儀でしょうがぁぁぁぁあああああ!!!」
サフィーネが目を剥き叫び出す。
「サフィーネ様、お言葉が崩れております」
「失礼しました」
それをリセアが咎める。
てか、それかーーい!!!
「いやいや、護衛の方々がいるでしょう?」
「それでもサフィと呼んで欲しいですわ」
「ははは……」
「アーク様?」
「いや、護衛方々がね……」
「貴方達、私が何て呼ばれようが咎めない事!!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
強権を発動させちゃったよ。
「これで宜しいですね」
「じゃあサフィって呼ばせて貰うよ」
「はい。今更他人行儀は気持ち悪いですからね。アーク」
「それにしてもサフィのドレス綺麗だな」
「ふふふ……ありがとうございます」
扇子で口元を隠しながら、先程と打って変わって柔らかく微笑む。
「馬子にも衣裳ってやつだな」
ピキっ!
何か変な音が聞こえたけど気のせいだろう。
サフィーネの額に青筋が見えているけど、これも気のせいだろう。
「……相変わらず一言多いですね」
「それに比べ、ローズマリー王女殿下のドレス姿も大変美しいですね。ローズマリー王女殿下にとてもお似合いです」
こちらには慇懃に対応した。
「まぁ……ありがとうございます。アーク様」
「ナターシャに言いつけるますよぉぉぉおおおおっ!!!」
ローズマリーが頬を赤らめ礼を言って来たが、サフィーネはめっちゃ怒鳴って来た。
「ですからサフィーネ様、お言葉が崩れています」
「ふふふ……アーク様。ナターシャ様にお伝え致しますね」
「ごめんなさい」
また硬い笑いに戻ちゃったよ。ちょっと悪ノリし過ぎた。
「仲が良いのですね」
ローズマリーが微笑む。
「これは仲が良いと言いませんよ。アークは人を虐めるのが、とってもお好きな方ですから」
「失礼な」
「事実でしょう?」
「……はい」
「やっぱり仲が宜しいですね」
そう言ってローズマリーが更に笑い出す。
「そりゃもう裸まで、バッチリ見せて貰ったし」
ピキピキピキピキピキピキピキピキ……ッッ!!
何か物凄い音がしたけど気のせいだろう。
護衛や侍女達がめっちゃ睨んで来てるが、これも気にせいだろう。
「いつですかああああああ!!!???」
サフィーネが、目を剥き物凄い剣幕になった。
「ですから……は~。アークさん、あまりサフィーネ様を挑発しないでください」
リセアがサフィーネに言うのは諦めて、俺に言って来た。
「はい」
「それでいつでしょうか? アーク様」
「初めて会った日。ロリコン野郎に酷い扱い受けただろ?」
「あ!」
思い出したようだ。
そして頬を赤らめる。
「忘れてください!」
「できればそうしたいね。綺麗な状態ならともかく、泥塗れ血塗れで汚かったしな」
「ですから一言余計です。ほんと相変わらずですね、アーク」
「にしても、このお茶美味いな~」
「聞いておりますか?」
「うん、聞いてる聞いてる」
「姫様、やはりこのような輩から、即刻離れるべきです」
護衛が何か苦言をしてるな。
「構いません。一緒に旅をして、こういう距離感なのです」
「ですが……」
「私が記憶喪失の王族だと知り、良からぬ事を考える事もできたでしょう。ですがアークは、慎重に行動し、私の事を考えてくださったのです。それをちょっと……いやかなりですが、態度が悪いからって邪険にして良いものですか?」
かなりとか言い出しちゃったよ。
「失礼致しました。差し出がましい事を申しました」
「失礼しました、アーク」
「いや、こっちこそちょっと悪ノリし過ぎた」
「やはり、お二人は仲が宜しいですね」
ローズマリーは、それしか言えないのか。
「そうですね。口は悪いですが、アークはとても素晴らしい方ですよ」
「気持ち悪っ! いきなり褒めるなよ。って言うか、口が悪いのはどっちだよ?」
「貴方のそう言うとこが悪いって言ってるのよぉぉぉぉ!!!!」
クスクスと、やがて従者達が和やかに笑い出した。
最初は、かなり胡乱げで見て来たり、睨んで来たのにな。
「そう言えば、ローズマリーって名のお茶があるんだけど知っているか?」
「いいえ」
「私と同じ名前ですか?」
「もしかしたらジパーング聖王国にでもあるかもな」
「それは興味がありますね」
「私もです」
おや、興味があるのか。
「転移者の出身地である地球では、リフレッシュしてストレスに良いと言われているお茶だな。サフィにピッタリかもしれない」
「誰がストレスを与えていると思っているのですか? 誰が」
「リセア様?」
「貴方でしょうがぁぁぁあああ!!!」
「クスクス……本当に仲が良いですね。こんなお姉様、見た事ないです」
ローズマリーが声に出して笑い出した。
「それで私の名のものとかも、あるのですか?」
「サフィの?」
「えぇ」
「あるぞ」
「何でしょうか?」
「内緒」
「何でですかぁぁぁ!?」
「ですから、サフィーネ様」
リセアが頭を抱える。
「いやサフィには、今度実物を見せる予定だから、先に教えたらつまらないじゃん」
「本当ですか?」
「ああ」
「それは楽しみにしてますね」
「にしても流石は王族。お茶菓子もかなり美味いな」
「こちらは私の好みの品なので、気に入って頂いて嬉しいですわ」
そうして和やかにお茶会が進む。そして、ふと聞いておきたい事を思い出した。
「そう言えばさ、孤児院って国の運営?」
「えぇ、そうですわ」
「じゃあ孤児達って国の所有物って扱い?」
「いいえ。それでは奴隷と同じ扱いとなり、孤児院ではなく奴隷商にしておりますよ」
「なら、孤児達に仕事の手伝いとかさせても罰せられないの?」
そうこれが気になって、暇な時にサフィーネに聞こうと思っていた。
「えぇ、問題ありません。ただ孤児院によっては、個人経営のもありますから、そっちは其処の責任者の所有物って扱いになりますね」
「ちなみにダレスの町は?」
「国が経営する孤児院ですね」
「そうか。ありがとう」
なら、問題なさそうだ。
「アークのお言葉から察するに、孤児達を雇いたいのですね?」
「ああ」
「親がいない、汚らしい、育ちが悪そう、と言う三つの事から、イメージがかなり悪いですよ?」
「親以外は、風評被害も良いとこだな」
「仰る通りです」
「まあ親がいないのは、どうしようもないけど、それ以外は払拭できるなら、お手伝いとして使えると思うのに、誰も使わなかったのか?」
「……はい」
サフィーネが忸怩たる思いで答えたのが伝わる。国が運営するからには、どうにかしたいのであろう。
「まあそれは、綺麗な服に教育で払拭するさ」
「そうなれば孤児達のイメージも変わり有難いですね」
その後、孤児院の事であれこれ話して、サフィーネとのデートは終わった。