EP.07 闇を抱える少年と話しました
「院長、戻った。見せて頂きありがとうございます」
そんな訳で、メルシェーを放置して戻って参りました。
「お帰りなさい。如何でしたか?」
「ちょっと思ったより劣悪な環境だね。あと職員の教育は確りした方が良い」
「メルシェーが何か? 一人で戻られたようですが……」
院長が不安そうに尋ねる。
「ちょっとね。あとで本人に聞きな。まあそれを理由に寄付しないとか言わないから」
「そうですか。ありがとうございます」
「そう言えば、年々運営費減ってるの?」
「えぇ。今の代官様になってから、減らされる一方で食うのがやっとです。生産性のない者達に寄付等無駄と言われてしまいまして……」
「そうか。でだ、商談があるんだけど」
「……商談?」
首を傾げる院長。だよねー。寄付とか言いつつ商談とかほざいてるんだもんね。しかも話をガラリと変えたから尚更だ。
「近々お店を始めるんだ。その手伝いに子供達を貸して。賃金は出すし、開店までは、寄付金でやりくり出来るようにするから」
「あの……十五歳未満しかおりませんので……」
働けないって言いたいのね。
「そこは院長が後見人となってお手伝いって扱いにすれば問題ないでしょう?」
商業ギルドで規約に目を通して知っている。
「働いた事のない子ばかりですし……」
「それは誰もが最初は一緒。そもそも十五になって孤児院を出た時に、働いた経験があるかどうかで、大きく違うのでは?」
「……そうですね」
「まあともかく、大工を雇うから補修して貰いな。建物酷いよ?」
「……そこまでして頂けるのですか?」
院長が目を丸くする。
「それに今日のとこは吹き出しでもして、腹一杯食べさせるよ。勿論寄付金を置いて行く」
「ありがとうございます」
院長が頭を下げる。
「ところでさ、気になっていたんだけど、あの子はどんな子」
鑑定遮断をした少年を指差す。
「あの子は最近母親を亡くし孤児になった子で、まだ周りに馴染めていないのです」
「いくつ?」
「八歳になります」
「そっか。もしあの子を引き取りたいって言ったら可能?」
「えぇ、手続きをすれば可能ですが……」
ぶっちゃけ浮いてるんだよね。そんな子が欲しいのかと目が雄弁に語っている。
でもね、気になるんだよ。あの目が……。俺だからこそ分かる。いや、ダークの体だから分かると言うべきか。
「ちょっとあの子と二人っきりで話せる?」
「えぇ……ライオス君?」
「はい、何でしょうか? 院長先生」
本当に八歳? 礼儀正しくない?
「この方が、貴方と話したいそうです」
「そうですか」
「では、あちらの部屋で、どうぞ」
そう言われ、個室に二人で入る。
「君を引き取りたいと思っていてね。二人で話せないかなと思ったんだ」
「私をですか?」
訝しげに首を傾げた。
『私』と来ましたか。八歳にしてはマジで礼儀正し過ぎるような……。
「君、元貴族?」
「いいえ」
「ちなみに基本的な一人称は」
「『俺』ですが……何故そんな事を?」
胡乱げな黒い双眸を向けてきやがったぞ、こいつ。
「いや八歳にしては、ちょっと確りし過ぎてる気がしてね」
「そうでしょうか?」
「まあ」
「それより、私などより是非他の子を引き取って上げてください」
しかも他の人を推薦かい。ちょっと出来過ぎていない? 鑑定遮断を持ってるから見れないのが痛い。魔族が化けてる可能性もあるよな。
「いや、君が良い」
「何故、私なのですか?」
「目だよ」
奥に闇が潜んでいる目だよ。
「目……ですか?」
「君、何か復讐……もしくはそれに類似する目的を持ってるんじゃない?」
ダークの体だからこそ分かる。
「何故それを!?」
驚愕を露わにする。
「覚えがあるんだよ。同じ目をした者に……」
「……そうですか」
「何をするのか、言いたくないなら聞かない。ただ復讐するなら、力いるんじゃないか? 鍛えてやる」
って、どっかのアーム達と同じような台詞が飛び出たー。
「……貴方に何の得があるのですか?」
「見届けたい。それを成し遂げた後、どうなるのか。まあ早い話、野次馬根性だな」
実際は違うんだけど、今はそれで良い。
「……正直タチが悪いですね」
少年が苦笑いを浮かべる。
「だろ? だが、お互いにメリットがある。どうだ? 俺と来てみないか?」
「えぇ。鍛えて頂けるなら有難いです。どうぞ宜しくお願い致します」
「四、五ヶ月後くらいに出発する予定だ。その時にまた声を掛ける」
「わかりました」
ライオス少年と話した後、丁度エーコが大工を連れて戻って来た。
「なんでぇい? 打ち合わせ終わったと思ったら直ぐに呼び出しやがって」
「悪いね。孤児院の補修をしてくれないかと思ってさ」
「ああ、聞いたでぇ。構わねぇが、おたくらの店を建てるのが遅れるでぇ?」
「どれくらいだ?」
「ニ、三日ってとかだなぁ」
「それくらいなら構わない。宜しく頼む」
「わかったでぇい」
そうして、大工達が作業に入って行く。エーコに話しを聞いていたので、必要な道具とか分かっていたのだろう。
「よし! エーコ、吹き出しするぞ」
「分かったー」
それから俺達は吹き出しをし始めた。とは言え、作ったのはエーコだ。俺は野菜や肉を一口大に切っただけだな。
孤児達に腹一杯食わせてやった。ついでに院長達や大工達にも。