EP.01 プロローグ
この月光の世界には様々な種族がいる――――。
人族、獣人族、魔族、亜人族、精霊族と大きく区分すると五つの種族だ。
更に細かく言うと、例えば魔族ならアークが遭遇した紫魔族の他に、赤魔族、茶魔族、黒魔族等がいる。
亜人族で言えばドワーフ族や、コビー族と言われる人間の半分の身長しかない種族。
他にもハーフ系が含まれる。例えばハーフエルフ族、ハーフ魔族、ハーフ猫人族等々。
では、精霊族とは?
精霊族は、子孫が精霊と言われているが定かではない。
種族としては、妖精族、エルフ族、ダークエルフ族がこれに区分される。
種族特性としては、妖精族は魔法に優れ、ダークエルフ族は武術に優れており、エルフ族は中間と言ったところだろう。
尤もこれは、あくまで種族特性であって個人差により例外もある。
その精霊族だが、ルナリーナ南大陸の更に南の未開の地に隠れ住んでいる。ドワーフ族もだ。
ちなみにだが、ダークエルフ族もドワーフ族も種族特性は武闘派だが、ダークエルフ族は技に、ドワーフ族は力に長けている。繰り返すようだが、あくまで種族特性であって個人差により必ずしもそうではない。
そのダークエルフ族とドワーフ族は、他の大陸に進出し自由に暮らしている者もいるが、他の精霊族はそうではない。
エルフ族は、見目麗しく透き通るような綺麗な肌をしているので、奴隷として高く取引されている。妖精族は、六歳~十二歳で成長が止まり幼体なのだが、その手の愛好家には、高く取引されていた。
両種族共に魔法さえ封じてしまえば、簡単に捕まえられるのだ。それ故に未開の地に隠れ住んでいる。
ダークエルフ族も見目麗しいのだが、肌が黒くエルフ族と比べ毛嫌いされているのと、武闘派故に簡単に捕まえられず奴隷にするのは難しいのだ。
ドワーフ族や獣人族も労働力として奴隷にしたがる者がいるのだが、武闘派故に難しい。
とは言え、ダークエルフ族、ドワーフ族、獣人族は、少なからず奴隷にされていた。
1800年前までは、そうではなかった。
精霊族は、未開の地から時々出て来ては、人族の領域を普通に歩いていた。
また、転移者を聖人と崇め、魔王を倒す秘宝を貸し与え、時に共に戦ったりもしていた。
別に秘宝がなくても、魔王は倒せるのだが、有った方が有利になると言うものだ。
そうやって人族と共存していたのだが、その四代前の魔王を討伐した後くらいから狂い始めた。
欲深い人族が精霊族を捕らえようと画策し、果てには隷属の首輪や、魔法を封じる枷を作り出した。
精霊族は、段々未開の地に引き籠るようになり、三代前の魔王から一切の手を貸さなくなったのだ。
ルナリーナ南大陸は、精霊族に倣い転移者を聖人と崇める文化が確立されていると言うのに、共存しようと言う意思が無くなったのは皮肉な話だ。
未開の地は、元々魔力の流れから迷い易く普通に通る事は叶わない。そこに妖精族は、幻魔法で更に迷い易くした。且つ結界も張った。故に現在では、精霊族やドワーフ族が暮らす集落まで、辿り着く者は滅多にいない。
いても、集落の者何人かでかかれば相手にもならない。
しかし、興味本位で人族の領域に足を踏み入れる若い者は、捕まり奴隷にされる。また森を一人や二人で、きままに歩き運悪く人族と遭遇して、同じく捕まり奴隷にされる等が起きている。
その未開の地にある精霊族(+ドワーフ族)の集落を毒牙に掛けようと画策している者がいた。
「ククク……遂に魔獣を意のまま操る枷が完成しました。これで番人をしている妖精族を捕らえれば幻魔法が解けるでしょう」
そう言ってほくそ笑む、とある人族。いや、人族と言うのは早計か。暗く影しか浮かび上がっていないのだから。
その影の手には、赤いワインが入ったグラスがあり、それを振りながら眺める。
「番人の妖精族は、適当に奴隷として売りましょう。そして、集落にいる精霊族を大規模に捕まえれば……。ククク……」
闇夜に不気味に笑う。今後の企みに思いを馳せていた。
「他にもいくつか次善策がありますが、どれも時間が掛かりますからねぇ」
続けて闇夜に浮かぶ影が思案を始める。
「この策が上手く行けば早期で決着を付けられますからね。…………邪神復活の為に」
そう影の目論見は全て邪神復活。
「まったく。先々を見通せない神々のせいで面倒です。邪神がいないと、この世界が滅びると言うのに……。まぁ私がどうにかするしかないのでしょうね」
影は嘆息し、手に持つワインを口にする。丸で血のように赤々としたものだ。
「それにしても、クルワーゾ騎馬王国とメハラハクラ王国との小競り合いから戦争に発展させる予定でしたが、此方は此方で大量に英雄召喚を行い面倒ですね。育つ前に一気に潰すと言う手も考えましたが……周辺諸国が警戒を強めるだけですし。上手く行きませんね」
そう言ってワインをもう一口。
「まぁこの策がダメでもう次善の策があるのですが。その為にジャアーク王国の外交官と言う立場を手に入れたのですから」
最後の一口を飲み干すと、まともやククク……と、怪しくほくそ笑む。
「やはり、未開の地を切り開くのが一番でしょう」
そう言った瞬間、スっと影が消える。残ったのは、何も無い静寂にグラスが一つだった……。