EP.24 女王陛下に謁見しました
-2050――――月陸歴1515年9月11日
そして次の日、女王様との謁見だ。俺達は謁見の間に通された。一応作法はサフィーネから聞いてる。
赤い絨毯の道を歩き、階段がある3m手前で止まり、跪き顔を伏せる。ちなみに階段は五段あり、その一番上に王座が二つあり、左に女王様と右に王配殿下が座っている。
他、左右に何人かの兵と貴族らしき者が並んでいた。
「妾の娘を救い此処まで連れて来た事、真に大儀である」
威厳のある声音が響いて来た。流石は女王だけはあり声だけで畏怖させる迫力がある。
此処で、感謝の言葉も含め返事をしたらいけないと言われた。
「面をあげよ」
この『面を上げよ』は、直接話をしても良いと言う許しなのだとか。
「はっ!」
代表で俺が答え面を上げる。他の面々も顔を上げた。
女王様はカールの掛かった深紅の髪で水色の目をしている。やはりサフィーネの母親なんだな。似ている。それに若いのか、かなり美人だ。
鑑定してーな。だが、女王となると対策してる。バレたら面倒臭い事になる。
王配殿下は金髪の美丈夫か。目は緑色。うんサフィーネはやっぱり母親似だな。
「サフィーネより聞いた。此処までの道中色々あったそうじゃな。特にあの痴れ者の転移者を娘の手で殺めさせなかった事、真に大儀であった」
「そう言って頂き幸甚にございます」
周りの貴族達がヒソヒソ話すの聞こえる。冒険者風情にしては礼儀がなってるなとか。煩いわ!
「ただ残念なのがサフィーネの右腕じゃな。まぁお主達に言った所で詮無き事」
「失礼ながら、発言を宜しいでしょうか?」
いちいち断りを入れるのが作法なんだとか。なんとも面倒臭い。
「申してみよ」
「その腕、治せます」
「は?」
「えっ!?」
女王様は間抜な声を漏らし、サフィーネは驚愕に大声を上げる。
「……それは真か?」
「はい、眼也」
女王様に問われ、俺が眼也を呼ぶと眼也が立ち上がる。
「彼は神薬調合のスキルを持っています。そのレベルを上げるのに苦労しましたが、無事欠損回復薬アンブロシアを調合できました」
「ふむ」
女王様は頷くと兵に顎で示す。その兵が近付いて来たので、眼也は欠損回復薬を渡し再び跪く。
欠損回復薬を受け取った兵は王配殿下に渡す。うん? 王配殿下って鑑定持ちか?
「本物だ」
そう言うとサフィーネに使った。欠損部分に振り掛けるだけなんだけど。
すると腕がニョキっと生えて来た。てかキショっ!
「わ~~~~!!! アーク、ガンヤ。ありがとう!!! 腕が……腕がぁぁぁぁ……!!!」
めっちゃはしゃいでる。てか、目がぁぁぁぁぁって言うネタを彷彿させるな。
貴族達も目を見張っている。よしよし。これならこっちの要求も通し易くなるな。
「サフィーネ、はしたないのじゃ」
「失礼しました」
女王様に諫められ、顔を赤らめ俯く。
「更に恩が出来てしまったな」
「当然の事をしたまでです。喜んで頂き幸いにございます」
「では、褒美を取らせよう。何か所望する物はあるか?」
「いくつかございますが、宜しいでしょうか?」
勝負は此処からだ。はっきり言って複数あるとか何様だって話だしね。
実際周りの貴族から『複数だと!?』とか『王女殿下の覚えが良いからと調子こきやがって』とか『冒険者風情が図に乗りやがって』とか聞こえる。煩いわ!
「申して見よ」
「まず、ご紹介します。先程の欠損回復薬を作った眼也、女王陛下から見て右がケン、更にその右が静にございます。この三人は転移者にございます」
「なんと!?」
「聞けば、転移者の協力を仰ぎにメハラハクラ王国にサフィーネ王女殿下が向かわれたとか」
「そうじゃな」
「最初のお願いしたき事は、この三人をこの国の預かりにして頂きたいと思っております」
「それは妾としても良き事であるが……」
何故と訝しげな感じに首を傾げている。
「彼らはメハラハクラ王国が腐敗していると感じ逃げ出した者達です。デリダルク侯爵様のご尊顔を拝し、良き国だと感じました。この国が彼らの居場所になればお互いにウィンウィン……いや、失礼。お互いに良い話かと存じます」
確りバリストン様の名を出し女王様のバリストン様への心証も良くしておこう。
「そうじゃな。その申し出受けよう」
「ありがとうございます。宜しくお願い致します」
ケンが転移者組の代表で答え、頭を下げる。
周りの貴族達は『ほ~転移者を連れてくるとは見所あるかもな』とか『褒美と言えぬものを要求するとは謙虚な事だ』とか聞こえる。煩いわ!
よし! 一つ目クリア。この調子でドンドン行くぜ。
「他には?」
「はっ! 暫く城への滞在を許可して頂きたいのと、その間、書庫の閲覧を許可頂きたい事でございます。勿論、王族しか読めぬもの、禁書に指定されているもの、読まれると不都合があるもの等は排して頂いても構いません」
「暫くと言うのはどれ程じゃ?」
「長くても半年予定しております。その後は、また旅を続けたいと考えております」
「良かろう。今、お主らが使っておる離宮を好きに使うと良い。また書庫の閲覧を許可するのじゃ」
「ありがとうございます」
よし! よし! 書庫の閲覧も叶った。これで、この世界の事をもっと知れるだろう。尤も俺は他にやりたい事があるので、他の面々にほとんど丸投げになるけど。
周りの貴族達からは『その程度か』とか『所詮は冒険者風情、望みも大した事ないな』とか聞こえる。煩いわ!
「これは、興味本位になるのじゃが、旅をすると申しておったな?」
「はい」
「目的はあるのか?」
「は? ……あ、えっと……」
想定外じゃーーーーーーーーーー!!!
何て答える。冷や汗がマジ凄い。それじゃなくても謁見ってだけで緊張し、いくつかの望みを叶えて貰う時点で、冷や汗ものだと言うのに、想定外の事を言われてマジでヤバイ。
「答えられるぬか?」
「あ、いえ……想定していなかったと申しますか、心構え出来ておらず……言葉遣いで不快にさせてしまうと申しますか……あ、いえ。このような言い方も失礼ですね。申し訳ございません」
俺は頭を下げる。パニくって馬鹿正直に言ってしまった。
周りの貴族達から「やはり所詮は冒険者風情か」とか「女王陛下への不遜だ」とか聞こえる。煩いわ!
「良い良い。お主は素直であるな」
女王様は優雅に微笑み。俺の不遜を許してくれる。やっぱこの国は良いとこかもな。
周りの貴族達とも大違い。それに女王様のお陰で周りの雑音が止んだ。
「ありがとうございます。大変失礼かと存じますが、言葉を纏める猶予をほんの暫し頂けないでしょうか?」
「良かろう」
「ありがとうございます」
さて、何処まで話す? 馬鹿正直の時の精霊が~とか、世界の異変が~とか、この世界は近々滅ぶ~とか、言えるわけねぇ~~~。
とりあえず深呼吸だ。ヒィ、ヒィ、フ~~~。ヒィ、ヒィ、フ~~~。そろそろ生まれる? って俺は何アホな事を考えてるんだ~~~。
「お待ちくださりありがとうございました。では、お話しさせて頂きます。しかし、前提として信じ難き事や、どうしても言えぬ事もございますので、お許しください」
周りの貴族達がまた煩くなった。『言えぬとは何だ!?』とか『信じられないとは嘘を述べるのか?』とか。マジでお前ら何でいるの? 煩いから消えて欲しい。
「ふむ。良かろう。申してみよ」
女王様のがよっぽど寛大だ。お許しを頂いた。
「実は我々も……いえ、其処にいるセイラ以外、転移者でございます」
「ほ~」
女王様から感心の声が漏れる。
「但し彼女を除く我々転移者は、ケン達転移者と事情が異なります」
「と、言うと?」
話しやすいなこの女王様。合の手を確り入れてくれる。
「彼らはメハラハクラ王国で呼び出された転移者。しかし我々は、神……いえ、正確には神の代弁者から直接依頼を受け、自らの意思で、この世界に来ました」
「なんじゃと!?」
女王様が驚きに目を剥く。
そして周りの貴族達もザワザワと。だから君ら煩いわ!
ついでにケン達やセイラ、サフィーネが息を呑む。そう言えば、この辺りの事は話していなかったな。話したのは、転移した目的まででケン達転移者組だけだ。
ちなみに代弁者と言うのは時の精霊だが、言えぬとはこの部分も含まれる。
「それは真か? 神が直接転移者を選定し依頼する等、聞いた事がないんじゃが?」
「事実です」
「そうか。じゃが、サフィーネがワイバーンの大軍を軽々と蹴散らしたと聞いたのじゃが、それ程の実力があるから、直接依頼をされたのか?」
周りの貴族達から『軽々蹴散らしただと?』とか『ワイバーンの大軍を?』とか騒いでいる。煩いわ!
「それが全てではございませんが、仰る通りでございます」
「……確かに信じ難き事じゃな。しかし、その実力は、その件と符号するとこもあるのじゃ」
「ご理解頂き光栄にございます」
「して、その依頼の内容は?」
「申し訳ございません。今はまだお話できません。しかし、その依頼を達成するには、まずこの世界を良く知らないといけないと考えております」
「それで旅をしてると申すのじゃな?」
「仰る通りです」
「もしかして書庫の閲覧もその為か?」
「仰る通りです。まだまだこの世界の事は無知なので、どんな小さな情報も調べたいと思っている所存です」
ふ~。なんとか上手く言えたぜ。言えたよね? 実際周りの駄弁り貴族が大人しいし。
「ちなみにその依頼で、この世界にやって来たのはお主ら四人だけか?」
え? まだ続くの?
「いえ……あと二人います。仲間と言うには少々……いえ、かなり不仲なので、顔見知りの同郷の者がいます。メハラハクラ王国で別れて来ました」
まあ不仲なのはロクームだけなんだけど。あいつさえいなければエリスとも一緒にいて戦力が申し分なかっただろうな。それについでに沙耶を鍛えて貰う事も出来たのに……。あの二股クソ野郎さえいなければ。
「なるほどのぉ。良くわかったのじゃ。して、望みは他にあるか?」
はい、此処から爆弾を投下して行きまーす。残り二つ……どう転ぶか。
「伝心魔道具を複数頂きたく存じます。数は女王陛下の采配で構いません」
伝心魔道具とは、昔にいた転移者が作ったと言われる。簡単に言ってしまうと電話だ。ただ昔の転移者が作ったってだけで、現在では作れないので現存する数は少ない。
よって国宝にような扱いをされている。
ちなみに形は初期の携帯電話のようにデカい。バリストン様に見せて貰った。と言うより、目の前で通話したのだ。サフィーネの事を文で送る前にかいつまんで、状況を王城に知らせる為に。
あ~またなんか駄弁り貴族が煩いぞ。『国宝だぞ』とか『これだから冒険者風情は』とか『ふざけやがって』とか言ってる。マ・ジ・で、煩い!
「良かろう。では、そうじゃな。お主達転移者の人数に合わせ四台下賜するのじゃ」
「はっ! 有難き幸せ」
よっしゃー。通ったぜ。それも四台だぜ。俺は嬉しさの余り頭を下げる。
「ただ、出来る事なら、その一台をケンに渡して頂けませんか?」
しかし、更に要求する。
「それは何故じゃ?」
「もし、今後ケンもしくは、この国に何かあれば馳せ参じる事を誓います。その際に直ぐに連絡を取れるようにと考えた次第です」
周りの駄弁り族――遂に族扱い――が、『ほ~要求するだけでなく国の為にと言うのか』とか『心証を良くしようとしてるのが透けて見える』とか『強かだな』とか言っている。煩いわ! さっき言っただろ。どんな小さい情報でも必要だと。
「ふむ。良かろう。そして我が国の事も考えてくれるとは、妾としても嬉しく思うぞ」
「お褒め頂き光栄にございます」
「それで最後か?」
「いえ……」
本当のマジもんの勝負は此処だ。まあサフィーネの為にしておきたい事なのだが、それをするまでの過程に問題がある。これが通らなければサフィーネには悪いが、何も残せない。
「最後に女王陛下とサフィーネ王女殿下と内々にお話したく存じます。勿論本当に信を置く者を置いて頂いても構いません。女王陛下としては、不測の事態を考えるのは当然かと思います。また少々床を汚す事になるのをお許し頂きたいです。なので、多少汚しても構わぬ場所に移動をお願い致します」