EP.22 詐欺臭い神託でした
ロリコン野郎は痛みからなのか気を失っている。ナターシャは確り回復してくれたようで、止血はされていた。ただ両腕、左足、そしてタマを失ってしまっている。哀れだ。
「あ、そうだ。サフィ、着替えろ。至近距離で魔法ぶっ放すから血だらけだぞ」
そうサフィーネは丸で赤いペンキを頭から被ったようだ。ただしペンキではなく血なので、生臭い。と言うか、ロリコン野郎の血だと思うと吐き気すらする。
「……そうですね」
「エーコ、蔵」
「言い方が雑ー。<上位大地魔法>」
エーコは、かまくら型の蔵を作る。
「サフィとナターシャは中に入った入った。入口はエーコと沙耶と静とセイラで塞げば見られないかな」
そう言うと皆言われた通りに動きだす。
「四人もいらないよ」
一人文句を言ってる奴もいるけど。まあツッコミ役の沙耶だな。
「ところでセイラ、戦闘は楽しかったか?」
着替えを待つ間、暇なので新たな仲間のセイラに話を振った。
「楽しくないよ~。ワイバーンなんて私じゃ勝てないし~」
「いや、ナターシャの無双っぷりを見て爽快だったかなって」
「確かに次々に落として凄かったね~。ナターシャさんって凄く強いよね~」
「だってよエーコ。今回エーコは苦戦してたもんな」
ニヒと揶揄うように笑う。
「仕方ないでしょー。湖を守りながらじゃー、一気に殲滅出来ないよー」
「エーコちゃんも魔法凄かったな~。確実に一匹一匹落としていって~」
「ナイスフォロー」
「フォローって言わないでー。セイラお姉ちゃんありがとー」
俺にはおかんむりで、セイラにはお礼かいな。
「お姉ちゃん!?」
「え? ダメだったー? じゃあセイラさん?」
「ダメじゃないよー。エーコちゃん可愛いー!!」
エーコを抱きしめたぞこいつ。
「ちょっとー苦しいよー。セイラお姉ちゃん」
「ごめんね~。前世でも妹がいなかったからついね~」
「ちなみにエーコの実年齢十四だぞ。つまりお前と一緒」
「えっ!?」
「訳ありで八歳まで若返っている」
「……そうなんだ~」
「アークは空気読みなよ」
また沙耶さんからツッコミ頂きました。
「でもでも~見た目から、妹みたいなものだよ~」
そう言ってまたエーコを抱きしめる。
「俺のエーコをあんまり抱きしめるなよ」
「アークのじゃないしー」
「え? 俺の娘みたいなもんだろ?」
「そうだけどー。アークだけには言われたくなーい」
そうですね。中身が違うなんちゃっておとっちゃんだしね。
「……娘、みたいな、もの……ってど、う言う意、味?」
静がそんな事を聞き出す。そう言えばこの転移者組に話してなかった。丁度良い機会だし話すか。
「通りでアークは日本人と言う割に髪の色とか違った訳だ」
「前に言ってた理由があるってそれか」
ケンと眼也が得心言ったと言う感じで頷く。
「マジなの~? それって転生した私より特殊じゃん」
「かもな」
「あ、そうそう~。話は戻るけど、私もパーティメンバーだから何もしてなかったのにレベル上がちゃった~」
嬉しそうに話すセイラ。
「そう言えば転生者って普通の一般人と違うのか?」
「う~ん。特殊なスキルを持ってるとか~? 私は栽培があったし~。あと聞いた話によると成長率良いらしいよ~」
「転移者と同じか」
「いや、転移者のが優秀だよ~」
「どの辺りが?」
ケンも会話に混ざって来た。
「魔王は転移者以外のダメージを減らせるみたいだよ~。だから転生者でも魔王相手は厳しいらしい~」
「マジか。ダメージ軽減持ちなのか、魔王って」
「みたいだね~」
「だってよ。ケン、静、眼也。ガンバ!」
「いや、アークなら軽減しようが倒せるだろ?」
「……アー、クならい、ける」
「そうだな。アークが倒してくれよ」
こいつら何言ってるんだ? って言うか俺も転移者だからダメージ軽減無効になるんだけど。
「俺は魔王討伐でこの世界に呼ばれた訳じゃない。よって、それはお前達の仕事だ」
「やっぱりそうなるか」
「……無、念」
「残念だ」
ってな感じで話していたらサフィ達が出て来た。
「あ! 肝心な事を忘れていた。エーコ、洗ってやってくれ」
「そうさぁ。いくら服を着替えさせても髪まで綺麗にならないさぁ」
なら、着替えさせる前に言えよ。丸洗いした方が良かっただろ。
「<下位水流魔法>。とりあえず髪だけは綺麗にするねー。体はどうしようかー? 洗って着替え直す?」
「いいえ。ワイバーン討伐が目的でしたので、もう移動しましょう。寝る前に着替えますのでその時に洗えば良いでしょう。移動すれば結局汗で汚れますし」
まあサフィーネがそれで良いなら良いっか。
「それは困るってー。神託が来たよー」
またかよ。今度は何だよ?
「今、顔出すってー」
は? 顔出す? 神が?
そう思っていたら残り少ない湖が光出し、全身黄色いっぽい美しい少女が現れた。服はイエローグリーンのワンピースで、金色の髪は足元まである。それが中空に浮かんでいた。
人間味を一切感じさせない。肌も黄色なんだから当然と言われればそうだが、それだけではなく肌が透き通るような美しさなのだ。
その黄色い眼――肌と分けるならクリームイエローと言うべきか――も、相手を見通すのではないかと畏怖させるものがある。
《初めまして。湖の精霊レイアースと言います。この度は神託を受け、来てくださりありがとうございます。そちらの話が終わるまで待っておりました》
精霊が神託? それじゃあ霊託じゃねぇか。詐欺くさ!
「はい、質問!」
俺は手を挙げた。ずっと気になっていた事があったからだ。
《何でしょうか? 確かアークと言ってましたね?》
「この世界では、精霊ってどんな存在?」
《信仰されたり崇められた場所や物に時折意識が宿る事があります。それが精霊です》
「あ~付喪神的な?」
《付喪神がどんな存在か知りませんが、昔の転移者や転生者も同じように付喪神だと言っていました》
ふ~ん。昔の転移者や転生者も精霊と出会ってるのか? いや、此処に訪れて会話していれば会っていなくても、話だけは聞いてるか。
《では、話を続けても宜しいでしょうか?》
「あ、はい。どうぞ」
《このニシピッツ湖をまた水で満たして欲しいのです。なので、移動されると困ります》
え? 満たすってどんだけ水が必要なんだよ? 水があったらしき跡があるとこまでたぶん2kmくらいあるぞ。
《お願い出来ませんか?》
「エーコ、出来そうか?」
「無理ー。何日か掛かると思うー」
「精霊の頼みを聞くのに反対の人~?」
「私は精霊なら頼みを聞きたいよ」
「まあ沙耶は、そうだろうな」
なんせ精霊に愛されるスキル持ちだし、普段精霊の世話になってるからって理由でこっちの世界に来た訳だし。
そんな訳で話し合い、残る事になった。
「<上位水流魔法>」
エーコが上位魔法で水を流し込む。静と沙耶も一応水魔法を使えるので、エーコと比べると申し訳ない程度に水を放出した。
「もう限界ー」
てか、俺は初めて見たんじゃね? エーコがMP――星々の世界では魔力――切れ起こすの。
まあでも、エーコはワイバーン戦で結構MP使っただろうけど。
「とりあえず食事にして、今日は休むさぁ」
ナターシャがそう提案して来た。
全員賛成し、ナターシャとエーコとセイラは、調理を開始する。食材はや調理道具は、ナターシャの収納魔法でしまっており、外でも美味いものが食えるのは、有難いな。
収納魔法が、なければテントが一番かさばると言うのに食材も運ばないといけなくなるしな。星々の世界では、依頼等で遠出をする際に携帯食とか不味飯だったし。
「あ! そう言えば、セイラはマヨネーズ作れるのか?」
星々の世界で、俺等が住んでいるエド領のエド城では、日本料理っぽいものが主食なので、簡単に食材が手に入り食べれた。俺も覚えてる限りをナターシャに伝え、再現して貰った。が、マヨネーズだけは作り方を知らなくて、ぶっちゃけ恋しいんだよな。
「前世で作った事はあるけど~。今世では、お酢は無いくて作れないんだよね~」
「存在しない?」
「う~~ん? ジパーング聖王国になら、あるかも~? お酢って米から出来てるし~」
マジかよ。米から出来てたのか。って言うか、まんまかよ。日本人が絶対建国に関わってるだろと思われる国で米が手に入るのか。あそこから食材を調達しないと、日本食が食えないのか。
「私もマヨネーズが食べたいよ。それ以前に日本食が食べたいよ」
沙耶も同じ事を考えていたようだ。
「え? 沙耶はマヨネーズを直接チューチューするの?」
ニヒと笑いいつものように揶揄う。
「な訳ないでしょうよ!!」
「チューチューする相手がいないからってマヨチュッチュばかりしてるのか~」
「煩いよっ! 別に興味無いわよ!!」
「強がり?」
「違うわよ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよ!!」
さいですか。
「私は相手いたのに~。キスの一つくらいして死にたかったな~」
なんかイジけたように呟いてる奴がいるぞ。
「おい、眼也。セイラにチューしてやれよ」
「何故僕が?」
「いや、相手いないのお前だけだし」
「私にも選ぶ権利くらいあるよ~~」
「……なんか無駄に傷付いたんだけど」
眼也がポツリと言うと、ケンが肩をポンポンと叩いていた。
「じゃあ沙耶にだな」
「僕をあのロリコン野郎と一緒にしないでくれ!!」
「何で私なのよ!?」
眼也を辟易と、沙耶は眉を吊り上げ同時に突っ込まれた。
まあ確かに今の沙耶は八歳だけど実年齢は、十六歳で眼也と同じなんだけどな。
「……なん、で……エー、コ師匠…の名、前を出さ……ないの?」
ボソっと呟く静。
「エーコの相手は、俺を倒せる奴しか許さーーーんっ!!」
「またそれー? 滅多にいないよー」
エーコに呆れた眼差しを向けられた。
「ふふふ……エーコの、お相手を探すのは一苦労しそうですね」
可笑しそうにクスクスと笑うサフィーネ。
うん、完全に立ち直って何よりだ。いや、空元気かもしれないが、気落ちしているよりは全然良い。
「そうだよー。毎日毎日ナターシャお姉ちゃんとイチャイチャしててー、居心地悪いんだよー」
「エーコ! 余計な事を言わせないで良いさぁ」
ナターシャが、顔を真っ赤にしながら言う。
ちなみにだが、ナターシャ達は確り料理の手を動かしながら会話に参加してる。
「毎日ではないだろ? 三人で寝る時もあるんだし」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
ナターシャとエーコ以外からドン引きされた。何で?
「ちょっとー、誤解を招く言い方しないでー!!」
「事実じゃないかい」
エーコが泡を食ったように言うが、ナターシャは先程のお返しと言わんばかりに揶揄うような笑みを浮かべた。
寝る=抱くと誤解されたのかね?
「同じ布団で寝てるだけだぞ。何かエロい事でも考えたか? 沙耶」
「何で、私だけを名指しするのよっ!?」
顔を真っ赤にして言い返して来る。
「顔赤いよ? やっぱ変な妄想してた? 沙耶ってむっつりだもんな」
ニヒヒと更に揶揄うように笑う。
「煩いよっ! むっつりでもないわよ!! アンタそう言うとこ、ほんとムカ付くよ!!」
さいですか。その2。
と、まあ馬鹿話をしてたがその後、食事を摂りゆっくり休んだ。
それから、湖の水を満たすのに三日は掛かってしまった……。