EP.19 ワイバーン殲滅戦を開始しました
エーコが神託が来たと言うので、詳しく聞くと『ニシピッツ湖に直ぐに来てください』だった。
なんじゃそりゃ?
とりあえず場所を調べると南西に徒歩一日と言った場所だった。直ぐに全員を起こし出発の準備を始める。
バリストン様には、急用が出来たから直ぐに発つと伝えた。すると当然ながらサフィーネは残るように進言して来た。
しかし、サフィーネは「ヨウジョ様の件は自分で決着を付けたい」と言い、譲らなかった。更に「もし、ヨウジョ様に出会った時に魔獣誘導で邪魔され、それでも捕まえれるのはアークだけです」と言い放った。
てか、トドメの言葉に俺を使わないでくれよと思ってしまった。
最終的に折れたバリストン様、今まで王女を守った感謝と王宮まで宜しくと言う意味で収納魔道具と言うのを三枚くれた。
文字通り収納できるカード型魔道具で、大きさは地球の運転免許証の倍くらいで、太さも5mmくらいあり分厚い。
高位の貴族か大商人でなければ手に入れられない高価な品なのだが、ナターシャの収納魔法があるので、ぶっちゃけいらない。
それでもバリストン様の好意に感謝をし、昨日歓待してくれた礼も含め耳よりな情報を渡そうと思った。
「バリストン様に耳よりな情報をお渡し致します」
「何だね? 改まって」
二人で話したいと申し上げたところ、快くバリストン様は執務室に案内してくれた。当然だが、扉の外で護衛が二人控えている。
「実はケン、静、眼也は転移者です」
「なんだと!?」
バリストン様が目を丸くする。
「メハラハクラ王国から逃げているとこを俺が保護しました」
「王女殿下といい、君はつくづく面白いな。転移者も保護か」
しみじみ呟く。両方たまたまなんだけどね。
「聞けば、この国も転移者を必要としているとか」
「ああ、そうだな。過去に魔王の被害にあった事があるし、魔王がいない時代でも魔族達が暗躍し、被害を被って来た」
苦々しく語るバリストン様。
だったら、この国はこの国で召喚しろよと、言いたいがどうやら、そう問屋が卸さないようだ。
何でも召喚には大量のMPと魔力が必要で下手すると死人が出るとか。なので、魔導士に余程余裕がない限り召喚は行わないらしい。
更に一度に何十人と呼んでしまうと次が呼び辛くなる。つまり呼び寄せるのに更に余計にMPと魔力を必要とするとか。
人数が増えれば増える程に呼ぶのが大変になり、これがリセット……元のMPと魔力で済むようになるには何年か要する。
よって各国は、召喚したとしても数人と暗黙の了解としている。残念ながら条約で結んでいるのではなく、暗黙の了解なのだ。だからメハラハクラ王国のような勝手をする国が現れたと言う訳だ。
増々腐ってるな、あの国。
「彼らの行き場は、この国が良いのではないかと思っております。勿論王都でのお貴族様の対応次第では、考えざるを得ませんが」
「そうなってくれれば有難い話だ。王都の者が馬鹿な事をしなけば良いがな」
「そして、その手柄はバリストン様にあります」
「うん? どう言う事かね?」
訝しげに首を傾げる。
「バリストン様を見て、この国の貴族は腐敗していないと感じたのです」
「はははは……それは嬉しい事を言ってくれる」
朗らかに笑うバリストン様。
「そう言う訳で先にお伝えしました。耳よりな情報でしたか?」
「ああ、素晴らしい話を聞けた。そして、この国に転移者を三人も連れて来てくれた事に感謝する」
バリストン様との密談を終わらせ出発の準備に入る。
セイラだが出来る事なら連れて行きたくなかった。しかし、ニシピッツ湖に行ったらそのまま王都に向かうので、此処には戻らない。なので、一緒に来て貰うしかなかった。
「さて、行くのは良いがどうやって? 俺一人なら一時間あれば到着するだろうけど」
「良い手があるさぁ。皆、手を繋いで」
ナターシャに妙案があるのか手を繋ぐように促す。
「<短距離転移魔法>」
わお! 一瞬で景色が変わったぞ。って、どっかの根源魔法ちゃんのような発言をしてしまった。
「時空師になって覚えた魔法で、目視できる範囲なら転移できるのさぁ。これを連続使用すれば早く着くんじゃないかい?」
「でも、MP保つのか? それにぶっちゃけ俺の足のが速い」
「あ……」
考えてなかったんかーい。
「なら、エーコを抱えてアークは先に行くさぁ。あたい達はMPが続く限り、この魔法で追い掛けるさぁ」
そんなわけでエーコをお姫様してダッシュする事にした。ナターシャと違いエーコの場合は、少し手加減してあげる。俺って優しい~~~。
まあ手加減って言っても風魔法を使わないだけだけど。そもそも一時間風魔法を放出していたらMPが切れるのは間違い無い。
「エーコたんを抱っこ~~。役得役得」
「気持ち悪い事言わないでー」
「でも、そんな俺が好きなエーコでした」
「す、すす……知らなーい」
顔を赤くしそっぽ向く。
「え~~。ほとんど直接言われた事なかったし、久々に言ってよ~~」
駄々をこねた言い方をしてみる。
ルシファー大陸で、再会した時に言って貰えたけど、あれっきりだしな。まあ他には時間逆行してる時に一度言われたけど、あの時はエーコが死ぬ間際だったから悲しかったな。
「は~~~……す、好きだよ、アーク」
大きな溜息と共に言ってくれた。しかも耳まで真っ赤。めっちゃ可愛ええの~~。
「いえ~~い。エーコから告って貰ったー」
「でもー、そう言う意味じゃないよー」
「え? 俺はそう言う意味でとは言ってないよ?」
「もー、サヤさんみたいな事を言わないでー」
あ、またそっぽ向かれた。しかも頬を膨らまして。おかんむりですな。
じゃあそろそろ全力で行きましょうかね。風魔法を背中に当てる。
「えーーーーーーーっ!!」
エーコが目を剥く。
あ、今思ったんだが……、
「風魔法はエーコが使えば、もっと早く着きそうだな。俺が使うとMP直ぐ切れるし」
そう言いながら風魔法を止める。
「怖いからやだよー」
「おしっこ漏れる?」
ニヒと笑い揶揄う。
「そこまでじゃないよー」
「じゃあ俺が信用出来ない?」
「……そんな事もないよー」
「じゃあ確り抱っこしてるから風魔法宜しく」
「……分かったよー」
「エーコたんを抱っこしていられるのに離せる? いや、出来ないっ!!」
力強く言い放つ。
「だから気持ち悪いってー。それにー、何言ってるのか分からないよー」
それからエーコが爆風を起こして俺が風魔法を使うより断然早く到着した。って言うか、俺の方が怖かった~。人間あそこまで速くなれるのか? 体中が痛かった。バラバラになるのかと思ったよ。
エーコは、ちゃっかり自分に防御魔法を張って、風避けしてるし。範囲広げて俺にも使ってくれれば良いのにさ~。さっき怒らせたから、仕返しされたのかな?
「なんじゃこりゃ~~!!」
ニシピッツ湖に来て思わず叫んでしまった。だって湖の筈なのに水がほとんどないんだよ。地図で見た限りではそれなりに大きかったのに。それに何よりも……、
「ワイバーンだねー」
そうワイバーンだ。ワイバーンが百はくだらない数はいる。そのワイバーンが水浴びしたり水を飲んでいるのだ。そりゃ湖の水がなくなるわな。
「神託はこれか? ワイバーンを駆逐しろって事か?」
「かもしれないー。あ、また神託だー……『そうです』って言ってるよー」
何だよその神託? 神託じゃなく会話になってるじゃねぇか。
「それとー、湖を守って欲しいみたいー」
めんどくせ~~。
これエーコが隕石魔法使えば、一瞬で片付くだろ? だけどあの魔法を使うとクレーターだらけになり、湖なんか一発で干上がるだろうな。
「ん?」
「どうしたのー?」
「ワイバーン共の中に人の気配がする。ちょっと言って来る。確認するまで攻撃はしないでくれ」
「分かったー」
逃げ遅れた者だったら困るからな。ワイバーンを攻撃し、暴れ出せば逃げ遅れた者も巻き込まれる。なので先に確認が必要だ。
「あいつは……」
「何なんだよ!? こんなとこで道草を食ってるなよっ!!」
何でこんなとこに? 何か癇癪を起してるな。
「エーコ、攻撃して良いぞ」
風魔法で俺の声を乗せて飛ばす。
「分かったー」
風魔法に乗って言葉が帰って来る。草をくっつけてるから必要ないよ?
「<水刃魔法>、<風刃魔法>、<光刃魔法>、<水刃魔法>、<風刃魔法>、<光刃魔法>…………」
魔法で切り裂き出す。エーコは何属性も使うのを好むからな~。今回は三属性か。湖を守りながらだから単体攻撃しか出来なくて大変かもな。
ちなみに俺も一応風刃魔法は覚えた。風魔手裏剣のが便利だから一度しか使わなかったけど。
「「「「「ぎゃぁぁぁんっ!」」」」」
ワイバーン達が一斉に騒ぎ出す。
「何だ!? いきなりどうした!?」
「こんにちわ。アークです」
後ろから奴に……ロリコン野郎に声を掛けた。てか、どっかの骨騎士みたいな言い方になった。あっちの名前もアークだったしな。
「っ!? こないだのバケモノ!?」
バケモノね~。失敬な!
「こんなとこで何してるんだ?」
「見て分からないのか? ワイバーンに水やりをしてるんだ」
「言い方を変えようか? こんな大量にワイバーンを連れて何してるんだ?」
「別に良いだろ!? お前には関係ない」
今日は随分余裕がないな。こないだは冷静に対応していたのに。
「そうも行かないな。サフィーネに頼まれているし」
「何!? あの女生きてるのか?」
ロリコン野郎が目を剥く。
「生きてたら不味いのか?」
「王女を呼び捨てにするなんて、お前あの女の男か?」
何、トンチンカンな事を言ってるんだ?
「そうだったら不味いのか?」
「クソ! 僕が食い損ねたのにお前は食ったのか? ふざけやがって」
ふざけてるのお前だろ。なんか話してると段々イライラして来るな。もう良いや。さっさと捕まえるか。
「って訳で捕まえるな。前回言ったよな? 次は無いって」
「ふん! いくらバケモノでも、これだけの竜を相手には出来ないだろ?」
竜? 何言ってるんだ? まあ良いや。俺は小刀を左手で抜き、上段から、左側に振り下ろす。当然左側なんて見ちゃいない。バケモノと言うならバケモノっぷりを見せてやろうかと思ってさ。
闘気の斬撃が飛びワイバーンが一匹真っ二つになる。
「何か言ったか?」
「は~~~~~~~!!!!???? 何処までバケモノなんだよ!!」
更に目を剥き叫ぶ。うるせーよ!!
「来いっ!!!」
そうロリコン野郎が言うとワイバーンが数十匹飛び発つ。その一匹に乗って逃げ出す。
「ちっ! 余計な事しないで、とっとと捕まえれば良かった」
俺は、ロリコン野郎を追い掛ける。だが速いな。追い付けない事はないが、風魔法で飛翔力が上がっても空を飛べる訳じゃない。これは長い追い駆けっこになりそうだ。
「クソ! クソ! 何で全員誘導されないんだよ!?」
なんか上で癇癪起こしてるな。どうやら誘導するのは、ワイバーンはちっと難しかったようだ。通りで湖で、たむろしてる訳だな。
あのロリコン野郎の事だ。本当は町に言ってワイバーンをけしかけて幼女を攫いたかったのだろうな。
さてエーコは……、
「えーい!」
草で見ると破邪の鉄槌を振り回していた。最初の魔法攻撃で暴れ出し襲い掛かって来たのだろう。
「上位氷結魔法」
あ! 上位魔法を使った。まあ湖が凍る程度で後で溶かせば良いから問題ないのか。
広範囲に吹雪を撒き散らす。だが悲しきかな。ワイバーンは元々高い山に棲息する。つまり寒いのを苦手としていないのだ。
勿論それはエーコも分かってるだろう。少しでも動きを鈍らせるのが目的かな?
「<水刃魔法>、<風刃魔法>、<光刃魔法>」
そして鈍ったワイバーンを切り裂く。
しかし、ワイバーンも馬鹿じゃない。空高く舞い上がり射程外まで逃げようとしだした。
「あ、逃げるなー。<上位火炎魔法>」
ドコドコドコドコドコドコ……。
空中なら湖を気にしなくて良いから上位魔法の餌食だな。
上位火炎魔法は、特大の炎――直径2mはある――を連続で飛ばす魔法だ。
それにより次々に落とされるワイバーン。寒いのには強いけど火には弱いからね。
そして今度は高度を下げるワイバーン。湖を攻撃出来ないと知ったのだろう。この世界のワイバーンは、つくづく頭良いな。