EP.18 侯爵様の邸宅にお邪魔しました
午後に領主の屋敷に向かった。門では衛兵が二人いる。その衛兵声を掛けた。
「デリダルク侯爵様に面会を申し込みたいのですが宜しいでしょうか? あ、此方デリダルク侯爵様から頂いた手紙です」
「拝見します」
そう此処はバリストン=デリダルク侯爵が住まう屋敷。この辺の領主だって言ってたしね。買い戻しの為に態々ルマの村に訪れたのだろう。
ちなみにだが、大勢で押し掛けるのは失礼なので、会った事がある俺とナターシャ、そしてサフィーネだけだ。他の面々は冒険者ギルドで適当なクエストをするように言っておいた。
「確かにデリダルク侯爵の印が入っております。少々お待ちください」
そう言って衛兵の一人が走って屋敷へ入って行く。待つ事暫くして衛兵が戻って来た。
「今からお会いになるそうです。案内しますので此方に」
貴族の面会の約束って数日前からするもんじゃないの? まあ手間が省けて助かるけど。
そんな訳で衛兵に、応接室らしきとこに案内された。侯爵って確か上から二番目だよな? その爵位だけはあり、調度品とかが豪華で、しかも広い応接室だ。
「では、失礼します」
そう言って衛兵は出て行った。俺達はソファーに腰を掛け再び待つ事暫くしてバリストン様がやって来た。護衛が二人。あの買い戻しの時と同じ人だな。
俺は立ち上がり……、
「この度は急な面会に応じてくださり感謝の極みにございます」
そう言いながら左足を少し下げ、右手を上に挙げ左腰の辺りに持ってくる。貴族に対する作法だったと思う。
「そんな畏まらなくて良い。丁度仕事がキリ良くてね。さぁ座って座って」
「はっ! 失礼します」
ソファーに座り直す。
「それでどう言った要件かな? 私に出来る事なら応えよう。私は君が気に入ったからね」
「それは、ありがとうございます」
う~ん。たかが一千万の価値の短剣を四百万にしただけなんだけどな。
「お話の前に此方の方のお顔を見て頂けませんか?」
「ん?」
バリストン様が訝しげにする。それもその筈だ。サフィーネは、先程からフードを目深に被って顔が見えないのだから。
そして、俺の言葉を聞きサフィーネがコクリと頷くとフードを取り顔を見せる。
「なっ!?」
バリストン様が目を剥き固まった。
ややあって再起動し、ソファーから立ち上がり床に跪き臣下の礼と思われるものをしだす。
「サフィーネ王女殿下が、いらっしゃる事も気付かず、大変失礼致しました。ご尊顔を拝しまして幸甚にあります」
「どうかお立ちになってください! 今は非公式の場です」
「はっ! それでは失礼します」
先程の俺の焼き直しだな。バリストン様がソファーに腰掛ける。
「ところで何故王女殿下が? それにその腕は、如何なさったのですか?」
気になるよね? やっぱ腕がないとか目立つしな。
「それを含め、俺達といる経緯をお話し致します。その上でお願いがあり、此方に伺わせて頂きました」
「何だね?」
「今から話す事を文に認め、早馬で王都に届けて頂きたいのです」
「何だそんな事かね? 当然だ。侯爵としての義務もあり、それは果たさせて貰うよ」
「ありがとうございます。では、ご説明します。集団暴走が起きており、その中心に王女殿下が倒れられていました。
魔獣を駆逐し保護したのは良いのですが、記憶がありませんした……」
「なに!? 記憶がなかった?」
俺の話を中断させ、驚きの声を上げるバリストン様。
「はい、ございませんでした」
「あ、いや失礼。今は記憶が戻られて問題ないのであろう? すまない。話の腰を折った。続けてくれ」
「はい、では……しかし、体に染みついたであろう所作には目を見張るものがあり、こう言ってはお貴族様に失礼ですが、一介の貴族にしては、あまりにも洗練され過ぎてると言う感想を抱きました。
よって、王族ではないかと予想を立てた次第です」
「ほう。慧眼だな」
はい、勿論嘘です。鑑定しましたなんて言えないからね。王族を鑑定とか処刑されかねない。まあそうなったら逃げるけどね。
嘘なのに慧眼なんて言われたら背中がムズムズするな。
其処から、これまでの事を偽り無しで話した。
ああ、一部偽ったな。記憶が戻った時に鑑定したのだけど、その時は態度で記憶が戻ったのではないかと疑ったと言った。
「ふむ。事情は理解した。だが、一つ気になる事がある」
バリストン様の眼光が鋭くなる。腐っても貴族。普段温厚でも何か問題があれば糾弾したいのであろう。
「はい」
「最初に王族と思ったなら、何故直ぐに王都にお連れしなかった?」
「記憶があり、王女殿下より、ご命令があればそうしたでしょう。もしくは、お貴族様にお預けしたでしょう。しかし、記憶がございませんでした。
それなのに『貴女は王族かも知れません』なんて口にすれば混乱し、最悪記憶が戻るのが遅くなったかもしれません。
記憶がないからこそ……いえ、王族だからこそ余計慎重に対応したいと考えた次第です。
なので、冒険者活動をしながら王都を目指してますと言う態度を取り、記憶が戻るのを待ちました。
最悪記憶が戻らなくても王都には送り届けられますし、元々王都を目指して旅をしていたので嘘にはなりません」
「英断だ。こう言ったら失礼だが、一介の冒険者とは思えない程の頭の回転だね」
「お褒めに預かり光栄にございます」
俺は頭を下げる。って言うか『一介の冒険者とは思えない』って、先程の俺の言動への意趣返し? 流石は侯爵。侮れない。
「増々君が気に入ったよ、アーク君。良ければ今夜は我が家に泊まり食事でもどうかね?」
「……お気持ちは大変嬉しく存じますが……」
さて、こういう時って何て言えば良いのだ? 元々引き籠りがこうやって貴族と話してるってだけで冷や汗ものだってのに。
「何か都合が悪いのか?」
「他に仲間がいるのです。我々だけでと言うのは気が引けます。また俺も含め、全員お貴族様に対し無作法なので、不快にさせるかと存じます」
「君を見てるとそうは思えないのだがね。ぎこちないが此処に私が入って来た時の所作、それに言動も」
「ありがとうございます」
「ふむ。では、全員連れて来たまえ。まさか百人千人単位とかではあるまい? 多少の粗相も目を瞑ろう。なんなら無礼講で構わない」
なんかこの貴族すげーな。ビックリだよ。メハラハクラ王国と大違い。ウルールカ女王国にケン達を預けるのを前向きに考えても良いかもな。
「そう言って頂いて幸いでございます。では、お言葉に甘えて仲間達を呼びたいと思います」
「ちなみに何人だ?」
「此処にいるサフィーネ王女殿下と俺とナターシャを含め九人でございます」
これから一緒に行動するんだ。セイラを入れてやろう。いきなり侯爵のお宅に招待されたら腰抜かすかな?
「ふむ。では、その人数を料理長に伝え歓待の準備をしよう」
そんな訳で皆を呼びに行った。
「ちょっと~、何で私まで人数に入れるかな~。ただの平民が、こここ……」
当然の如く、セイラは泡を食ったような態度で返して来た。って言うか……、
「鶏?」
「違うわよ~っ!! こ、侯爵様のお城にお呼ばれとか有り得ないでしょ~!!」
「だが、もうセイラは俺達の仲間のようなものだ。仲間外れが良いのか?」
「それは……嫌だけど~」
「なら決まりだな」
こうしてセイラもバリストン様のお城にお邪魔した。そして言葉通り無礼講で歓待してくれた。
まあセイラと静はガチガチだったけど……。
そして夜、一人一部屋与えられる。なんともまあリッチな事で。しかも広い。広過ぎる。落ち着かねぇ~よ!!
翌朝早く、エーコが俺の部屋にやって来た。まだ寝ていたのを起こされたので、眠気のある眼を擦り、エーコを部屋に招き入れる。
「エーコ、まさかこんな朝早くから欲情したのか? 八歳に下がったと言うのに」
「そんな訳無いでしょー!! あったとしても何でアークのとこに来るのー!?」
「確かに年齢を下げる前は、一人で慰めてばっかだったけど」
「わたしの話を聞いてーっ!! それに『ばっか』って何よー!? そんなにしてないよー」
顔がめっちゃ真っ赤になってるな。耳まで赤いぞ。
「そんなに? そうかそうか。それなりには……」
「ミーティ……」
「はい、ストップ! 悪かったよ。だから隕石魔法は使わないでくれ」
俺はエーコを羽交い締めにする。エーコの最強魔法、隕石魔法を使われたら、この町が壊滅的になる。
「だったらー、変な事言わないでー」
「ふむ。やはり八歳でも少しはあるか」
羽交い締めのついでに胸を撫でる。A´くらいはありそうだ。もうこの時点で沙耶と差が出ているな。
「どこ触ってるのー!?」
「え!? 微乳だけど?」
「触るなーって、言ってるのーっ!!」
って訳で手を離しテーブルの対面に座る。
「朝から疲れたー」
「わたしの台詞だしー。それにわたしの真似しないでー」
「で、何の用だ?」
「もー……切り替えが早いよー」
エーコが、は~~と大きく溜息を付く。
「神託が来たよー」
なんだって!?