EP.14 幕間 ロリコン野郎の行方②
田中 一……もとい、陽汝 基無だが、アーク達に出会った瞬間、漏らすのではないかと言う程に恐怖した。
それは基無が持つスキル、危険察知がそうさせた。レベル5もあったお陰で、アーク達と対面した時に頭の中で桁たましい警報が鳴り続けていた。コイツはバケモノだと。
実際基無とアーク達との差に大人と子供、いや赤ん坊くらいの差がある。それも大人二人が相手だ。騙し討ちしても、確実に返り討ちにされると考えた訳だ。
なので口八丁で難を逃れる。尤も英雄候補だったお陰で逃れられたのが一番の理由だったが……。
「クソ! クソ! 何なんだよ!? あいつらは? あいつらがいれば僕が召喚されなくても済んだろう。ふざけやがって! あ~~~もう腹立つ!! 結局また女食い損ねたし」
盗賊のアジトにしていた洞窟を出て暫く歩くと、悪態を付きまくり地団駄を踏みまくった。
「ババァだったらチョロいのに僕好みは何かと備えがあるか困るんだよな!!」
基無にとってババァとは十五歳以上の事だ。十五歳と言えばこの世界で成人しており、自分で考え行動したり、仕事に出ていたりしてる。つまり一人になり狙い易いのだ。
しかし、基無が求める十四歳以下は備えをしている。常日頃から親に知らない人に着いて行くなだの、変な人に絡まれたら叫べだの言われ続けてるのが最たる事だろう。
場合によっては護衛や親同伴だったりなど。
尤もこの世界なら、それでも簡単に攫えるのだが、地球の日本の感覚がまだ抜けていない基無には難しい事だった。
地球の日本だと引っ張ると鳴る警報装置があったり、人が周りに沢山いたりとかだ。
「とりあえずアジトに戻って、宝を拝借して仕切り直すか。二人じゃ全部持ち出せないだろうし」
そう思い直し基無は鋼の狼のアジトに日暮れに戻った。あまり早く戻るとアーク達が、まだどの宝を持ち出すか検討してるかもしれないと言う判断してだ。
結果的にはその判断に助けられたとも言える。直ぐに戻れば桃色空間が展開されていたのだから。
「って、ねぇじゃねぇか! 何なんだよ! クソが! クソ! クソ! どうやったら二人で全部の宝を持ち出せるんだよ」
再び地団駄を踏み、怒鳴り散らす基無。残ってるのは縛られた盗賊四人だけなのだから仕方無いとも言えるかもしれない。
「手元に残ったのはこれだけか」
懐から出したのは、ウルールカ女王国の地図だ。盗賊達の帰りを待つ間、基無はアジトにあった地図を眺め、今後必要になるかもしれないと懐にしまっておいた。
「ん? 飛竜の山? この世界には飛竜がいるのか? この大群を誘導すれば好き放題食えるかもな。仮にまたあのアークって奴に出くわしても竜には敵わないだろう」
ニヒヒヒ……と、気持ち悪い笑みを浮かべながら幼女に囲まれる妄想に耽る。
既に盗賊四人が目を覚ましてるのに、お構いなく幼女の妄想で硬くなったモノを処理し、アジトを後にした。当然盗賊達はドン引きしていた。
盗賊達に取って哀れだったのが、縛られ方や放置され方が、基無の方を向かざるを得なかった事だ。目を瞑っていても気持ち悪い声は聞こえるし、目を開けると見たくないものが、バッチリ見えてしまう。本当に哀れだ。
「此処から西か……まぁその前に腹ごしらえだな」
ワナを仕掛け魔獣誘導で、この変に棲息する牛型魔獣レッドブルを誘導しワナに嵌める。そして日本から持って来たチャッカマンで、焚火を起こしレッドブルを焼いて口にした。
「あんま美味くねぇな」
何故チャッカマンを持っていたかと言えば当然幼女や少女を脅す為だ。顔に火を近付ければ大抵大人しくなる。女と言うのは顔に傷が入るのを嫌がる。
基無はそれを利用し、日本では幼女少女を食いあさっていた。まさに称号にロリコンだの幼女狩りが付くのも頷けると言うものだ。
食べ終わると野宿を開始する。テントや寝袋などは持っていないので、雑魚寝だ。しかし魔獣に襲われる事はない。
魔獣誘導のスキルの良いとこは睡眠中でも発動出来る事にある。
次の日、飛竜の山に到着した。
「は~。これを登るのか」
溜息を溢し山登りしだす基無。しかし、日本でする登山と違い舗装された道がない。そのせいで一日に数十mしか登れない。
それでも王女の時にケチが付き、その後も盗賊が役立たずで、また食えずにいた基無は意地になっており、今度こそ幼女ハーレムを作るんだと意気込み、少しずつ少しずつ登る。
やがて何日も掛けて頂上付近に到着した。
「これが飛竜か……」
空を飛び回る飛竜は眺め達成感に浸る。が、残念な事に基無は知らない。この世界では飛竜と言われてるが、竜として扱われないでワイバーンと蔑まれている事に……。
竜ならともかくワイバーンなら平均的な実力のCランク冒険者パーティでも一匹狩れる。Bランクなら単独で狩れる程度の強さでしかないのだ。尤も大群となれば話は変わるのだが。
そして、腐っても竜。魔獣誘導で簡単に誘導されない。
「クソ! 何で一匹や二匹しか誘導出来ないんだよ!?」
まだまだ基無は魔獣誘導を使いこなせていないのと、理解が足りていないの二重で大群を操れないでいた。
魔獣誘導で一度でも誘導された魔獣は、誘導しやすくなると言う特性がある。
基無は、何日も何日も掛けて、その特性を理解していないまま誘導する数を増やして行く。それに加え徐々に使いこなし日に日に誘導できるようになって行った。
「よし! 全部誘導できるようになった。ニヒヒヒヒ……此処からが楽しみだ」
またもや不気味な笑いをしだす。
そして、今まで罠に嵌めて殺した魔獣の尻尾やキリングスネークを結びロープのようにし、一匹のワイバーンの首に引っ掛け、それを掴む事でバランスを取り、ワイバーンと共に空に飛翔する。
「ルマの村とやらは、アークってクソ野郎がいるから、サイールの町に行くか」
地図を見ながらそう呟く。と言うかいつの話をしているのだよとツッコミたくなる言葉だ。
此処に来るまで、そしてワイバーンを操るまで相当日数が掛かった。いつまでもアークが移動していないと思ってるのは、頭の中が幼女少女しかないと言えよう。
ともかく南東を目指しサイールの町を目指す。
「おい! どう言う事だ? 南東だよ! 何処行くんだ?」
しかし、やはり腐っても竜。完全に誘導しきれない。ワイバーンの大群は途中で南西に進路変更してしまう。
「クソが! どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって」
ワイバーンの上で親指の爪を噛みながら喚き散らす。しかし、地団駄は踏めない。ワイバーンへの攻撃と判定され完全に敵視され誘導出来なくなってしまうからだ。
「まあ良い。ダレスの町とやらがあったな。其処に向かえば良いだけだ。食えれば何処だって同じだ」
親指の爪をパキっと噛み切ってから、そう思い直す基無であった……。