EP.10 盗賊が魔獣を操っていました
魔道具屋から出ると外が騒がしかった。
逃げ惑う人達がいる。
「おい。どうしたんだ? 何かあったのか?」
逃げる者を呼び止めた。
「集団暴走が村を襲ってるんだ。冒険者達が対応してるが、いつこっちに来るか分からねぇ」
そう言って行ってしまう。
「この国、集団暴走多くね?」
来る前にもあったしな。
「でも、村の人の慌てぶりを見るに頻繁にあるものじゃないんじゃない?」
沙耶が考えるように言う。確かに頻繁にあれば、あんな慌てるように逃げ惑わないよな。
そもそもの話、魔獣が入って来れないように外壁で村や町を囲んでいるのだ。その中に入るには狭い出入口を通るしかない。それが集団で入って来るなんておかしな話だ。
「サフィ、どうしたんだい?」
ナターシャがサフィを案じる声を掛けた。
サフィは自分の両肩を抱き震えている。
「何でもないです……たぶん。ただ体が震えているだけです」
記憶はなくても集団暴走への恐怖が体に染みついてるんだろうな。
「とりあえず様子を見に行くか。状況によっては俺達が対処しよう」
俺は、そう提案し村の出口の方へ向かう。
すると、村の内部まで侵入した魔獣達が暴れていた。冒険者達が懸命に対処しているが数が数だけに劣勢と言えよう。
具体的には冒険者が二十人くらいに対し魔獣は百体と五倍の数がいるのだ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!」
それを見たサフィが号泣しながら、叫び崩れ落ちた。
「おい、サフィ。大丈夫か? ……って、気絶してる」
無理もないか。と言うか、連れて来たのが悪手だったな。魔道具屋の辺りで待たせておけば良かったかも。
「ナターシャ、宿探して、サフィを見ててくれ」
「分かったさぁ」
「残った者は殲滅開始するぞ」
「分かったよー」
「分かったよ」
「了解だ」
「……う、ん。分かっ、た」
「ああ」
六人は頷き行動開始した。
にしても嫌な予感がするな。沙耶が言う通り頻繁に起こるものじゃないのかもしれない。それが起きてるのだ。
なら普通に殲滅すれば良いってわけじゃないだろう。
他に不測の事態が起きる可能性もある。なので、俺は家の屋根に上り俯瞰する事にした。
「ん?」
それで気付いた。あきらかにおかしい連中がいる事に。
「あれは盗賊か?」
村の入口付近で盗賊達二十人がたむろしているのだ。そうまるで魔獣達が暴れ終わるのを待つように……。
「これって魔獣達をけしかけて、その後に略奪しようって腹か?」
なんともまぁ効率的な方法を思い付くな。だが、俺がいたのが運の尽きだな。って訳で魔獣を飛び越えて盗賊達の前に降り立った。
「な、何だ? 空から人だと?」
「きっと気のせいだ?」
「最初からその辺にいたか、今村に来たとこだ」
「どっちにしろ運がないなー兄ちゃん」
ニヤニヤと嫌らしい笑いを俺に向けて来る。誰にそんな態度してるの? これって甚振っても良いって事だよね? 良いって事だよね?
ニヤリと俺の顔もにやけてしまう。
「状況分かってるのか? 何薄ら気味悪く笑ってるんだ?」
いや、それお前には言われたくないな。
<縮地>
「がはっ!」
はい、腹に掌打一発で沈みました。
「やってくれたな!? 我等『鋼の狼』を舐めるな!! 全員かかれー!!」
「「「「「「「「「「おーっ!!」」」」」」」」」」
煩いな!! つか、鋼の狼とかどうでもええわ。
「……っていない? 何処行った?」
「後ろだよ。お前らトロいな」
「……いつの間に」
「<風魔手裏剣>」
手裏剣を十個作り投擲した。
「「「「「「「「「「ぎゃあああああああああっ!!!」」」」」」」」」」
だから煩いな。
ちょっと動けないように十人の片足を手裏剣で斬り飛ばしただけだろ。
「ズラかるぞ!」
「勝てるわけがねぇ」
残り九人が逃げて行く。
「逃がすと思う?」
「なっ!?」
「<下位稲妻魔法>」
二人の盗賊の肩に手を乗せてスタンガン並みの出力の下位稲妻魔法を放ち気絶させる。はい、残り七人。
「クソっ! 何をしやがった」
「気絶させただけだけど?」
そう言って別の奴の方へ回る。
「なっ!?」
小刀二刀流で首を峰内ち。残り五人。
「分身魔法」
分身の術で囲む。まあ此処までする事はないのだけど、忍術を使ってレベル上げたいしな。
「クソっ! 同じ顔の奴に囲まれた。さっきから何をしていやがる!? バケモノめ!」
峰打ち四連発。はい残り一人。
「もう一人だね。ねぇねぇ、今どんな気分? ど~~んな気分?」
「……最悪の気分だよっ!!」
律儀に答えたし。ただちょっと脅かしたかっただけなんだけどな。
「逃げたい? ねぇねぇ、逃げたい?」
「当たり前だろ!?」
「じゃあ二つだけ教えてくれたら逃がしてあげる」
「な、何だ?」
「あの魔獣達は、どうやって操作してるんだ?」
「ボスの命令だ」
ボスは魔獣使いなのか?
「ふ~ん。じゃあもう一つ、お前らのアジトは何処?」
「北西に半日行った先にある洞窟だ」
「そっかそっか。じゃあもう行って良いよ」
「あ、ああ。そうさせて貰う」
そう言って最後の盗賊が後ろを向き俺から逃げようとする。が、させない。後ろから首チョップ。
「テロリストとは交渉しないってのが俺の世界での決まりでね……って、もう意識ないな」
交渉しないって、相手から交渉を持ち掛けられた時のものなんだけど、今回は俺から交渉を持ち掛けたって? こまっけーー事は良いんだよ!!!
さて魔獣はどうなったかな? って、確認するまでもないんだけど。気配で全滅してるのが丸分かり。エーコ辺りが一瞬で全滅させたかな?
そんな訳で村に戻った。
「アーク、何処に行ってたのー?」
「そうよ」
なんかエーコと沙耶が怒ってるな。
「悪いな。魔獣騒ぎの原因を潰していた」
「まさか人為的?」
ケンに問われた。
勿論静と眼也も一緒にいる。
「そうみたい」
「お~い」
其処でヒョロっとしたおっさんが俺達に呼び掛けて近寄って来た。
「私は、この村の冒険者ギルドのマスター、ハリウスと言います。討伐にご協力ありがとうございます。冒険者ですか?」
「そうだよー」
代表でエーコが答える。
「ギルマス? だったら村の外にいる盗賊二十人を捕まえてくれないか? 無力化しといたから」
「にじゅっ!?」
目を大きく見開く。そんな驚く数字かな?
「お一人で?」
「まぁ。で、魔獣は盗賊が操っていたみたいだ。全員まだ生きてるから情報を聞き出せば?」
「魔獣を操る? そんな真似が……」
「じゃあ宜しく」
「あ、お待ちを……魔獣討伐の恩賞や素材、それに盗賊討伐の恩賞を渡したいので冒険者ならギルドに来てください」
「連れがいるからパス。明日か明後日に顔出すから、その時に話そう」
「分かりました」
ギルマスと話が終わったので、ナターシャが取った宿屋に向かう。場所が分からないって?
ふふふ……俺には草があるんだぜ。ナターシャにくっ付けておいたって訳よ。
「ドヤ~っ!」
「だから、何で私を見てドヤるのよ!?」
「聞きたい?」
「……胸が小さい上に使えないって言いたいんでしょうよっ!? アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよ?」
「小さいって言うか、今はぺったんこじゃん」
「煩いわよっ!!」
「どんなに成長してもB……悲しいけどこれ、現実なのよね」
「だから煩いよっ!! それに二十歳になればもっと大きくなるかもしれないよ!」
「悲しいけどこれ、現実なのよね」
「二度も言うなーーっ!!!! ……はぁはぁ」
と、いつも以上に沙耶を揶揄って遊ぶ。
「またガン〇ムネタか」
ボソっとケンが呟く。まあ沙耶は知らないだろうけどこれ、現実なのよね。
「アンタ、そのネタを言いたかっただけ!?」
「いや、事実を言っただけ」
「ほんとムカ付くよっ!!」
「それに比べエーコは、十一歳の時点で既にそれなりあったんだよな~。揉んだから良く分かる」
「ちょっとーー!! いつ揉んだのよーー!!」
あ! エーコが怒ちゃった。
揉んだのはタイムリープしてる時だからエーコの記憶にないんだよな。失敗失敗。
「いや自分で揉んでたじゃん。最近大きくなったとかなんとか」
よし! 改心の誤魔化し。そう俺が揉んだとは口に出して言っていない。
「それーナターシャお姉ちゃんと話してる時じゃー。何で知ってるのー?」
あら、そんな会話してたのか。
「……ところ、でさっき、から、何で……未来の、事が、わ、かってる、の?」
あ! ケン達知らないんだった。静に言葉にケンと眼也がうんうん頷いている。
「あー俺達特殊な転移だったから、実際の年齢と今の年齢が違うんだよ」
「そんな事が……」
ケンが目を丸くする。勿論他の二人も。
「な? Bダッシュ沙耶」
「Bを付けないでよっ!! しかもダッシュじゃないわよっ!!!」
まあダッシュを付けたら別の意味になってしまうな。ドカンから飛び出る赤いオーバーホールを着た髭親父に。しかし、沙耶は、このネタも知らないようだけどこれ、現実なのよね。
こんな馬鹿話をしながらナターシャ達がいる宿屋に向かった……。