EP.07 王族らしき者を救出しました
やっと女王国だな。腐敗したこんな国はとっととおさらばしたいぜ。
だが、その前に関所で金を払わないと通してくれない。
「ウルールカ女王国に行きたいのだが?」
俺は関所に立つ衛兵に声を掛けた。
「お一人、中銀貨一枚になります」
10000ギルね。文化が違うから参考程度だが、1ギル=1円だ。つまり国境を越えるのに一万円掛かる。
日本は島国なので、国境線等無く、これが安いのか高いのか分からないが、飛行機で海外に行くと考えれば相当安い部類だろう。
まあそんな訳でナターシャが中銀貨を四枚、ケンが三枚渡して関所を越えた。
「よっしゃーーーー!!! やっとウルールカ女王国だーーー!!!」
思わず叫んでしまった。
「……そんなのに女性国家が楽しみなんだねぇ」
「アークだもんねー」
「口を出せば胸ばかりよね」
三人が冷たい。しかもケン達がなんかドン引きしてるし。
「ち、違うから! 腐敗国家からおさらばできたから喜んでるだし~。そもそも溜まると直ぐ襲って来るナター……」
ペッシーンっ!!
「ごめんなさい」
最後まで言う前にビンタされました。
「まあ腐敗国家から出られたのは嬉しいかもな」
「……そう、だね」
「僕も同意見だ」
ケン達は同意してくれた。だが微妙に俺から距離を取ってるのは気のせいかな? 気のせいかな?
まあそんな馬鹿話しをしながら南下して行く。関所の人が言うには南に半日歩いたとこに村があるらしいからな。
しかしそう問屋が卸さない。
「何これ?」
良くさ、アニメとかで羊飼いが通り、その羊が大行列で横切っており、なかなか通れないみたいな? 列車で言うなら開かずの踏切みたいな?
「何でこんな行列が出来てるんだ? まるで東から逃げ出すように西へ向かうような」
ケンがそう言いだす。
そうなんだよ。南下したいのに東から西に向かうように駆けているんだよ……魔獣が。
オーク、コブリン、オーガ、レッドブル、キリングスネークと、数えるの馬鹿らしくなる程の種類がいる。
「邪魔だし潰すか。いつこっちを標的にされるか分からないし、西を向いてるうちに数を減らそう」
「だねぇ」
「賛成ー」
「ちょっと数にげんなりするよ」
「皆さんが良いのなら。俺達では足手まといだし」
「……私も、剣君と、同じ……意、見」
「僕も同じだな」
よし全員賛成のようだし潰そう。って、ケン達三人は仕方無くって感じのようだけど。
「ただ、来たばかりの国で大暴れしたくなし、上位魔法は控えよう。地形変動とか避けたいし」
「分かったー。<光刃魔法>」
そう言って口火切ったエーコ。最近お気に入りの光魔法である光刃魔法だ。しかも多重展開している。
ブスブスブスブスブスブスっ!!
とは言え、静の魔導のような何十も展開させるのは流石のエーコにも無理なようだ。よって六まで展開させ貫く。
「エレメント・ランス」
次に動いたのはナターシャだ。ただいつも出してる魔力の矢が金色を帯びている。今までは青白かったのに。
三射撃ちそれが、それぞれ五本に分裂し十五射になる。
「これ使い易いさぁ」
あ~俺があげたオリハルコン製の魔道具か。名前は確か魔真鍮のリングだったな。
さて俺も動くか……、
「おいおいおいおい……」
そう思っていたら魔獣達が不規則に動き出した。暴れたい放題。種族の違う魔獣だけはあり、共存出来ない者通し争ったりこっちに向かって来るのもいたり、逃げ出すのもいたり滅茶苦茶だ。
何なんだ? その原因が何かあるかもと思い徒手格闘で相手しながら辺り一帯の気配を探った。
「ん?」
「どうしたんだい?」
「悪い。暫く任せる」
ナターシャにそう答えると俺は飛び上がった。足に闘気を集めジャンプ力を上げ、更に風魔法で飛距離を伸ばす。
「<風魔手裏剣>」
ついでだ。風魔手裏剣を真下にバラ撒く。
そうして魔獣達がいた中央に向かう。其処に人間の気配が二つあったからだ。
「よっと」
着地した場所は不自然に開けており魔獣が通っていなかった。其処に無残な姿で倒れている少女がいる。
外傷は、腕一本斬られただけ。だがこれは刃物によるものだ。オーガやオークが持つのは棍棒なので、こんな外傷にはならない。それと多少の擦り傷か。
そして何より無残なのは、服がボロボロにされ、見えてはいけない部分が全部見えてしまっている。
「<中位回復魔法>」
とりあえず腕の止血だ。
それともう一人気配があったな。この少女より弱々しい気配だったけど。
それは直ぐ側で這いずってるメイド服を着た者がだった。
「……サフィ、ーネ様。サ……フィ……ネ……様…………!」
そして事切れた。
ちっ! 間に合わなかったか。
恐らくこの少女のとこに向かっていたのだろう。一時期的だけとは言え、せめて手を繋がしてやろう。
メイド服の女と少女の手を繋げさせると不自然に開けた部分を埋めるかのように魔獣達が押し寄せて来た。
二人――と言っても一人は死体――を守るように小刀を二刀流にして振るう。
このまま魔獣を殲滅しても良いが、少女の恰好は無残だな。どうにかしときたい。
胸も本来の年齢の沙耶以上にぺったんこでA´――今の沙耶は真っ平――くらいで残念な……いやいや、そんなのはどうでも良いわ!
俺は闇夜ノ灯に闘気を集め、逆手に持つ。
「<スラッシュ・ファングっ!!>」
黒い斬撃が地面を走り、大きく地面を抉りながら進行方向にいた魔獣を薙ぎ払う。
そうして出来た道があれば、きっと声が届くだろう。
「ナターシャ!! エーコ!! 重力魔法で、こっちに直ぐ来てくれぇぇぇ!!! 沙耶は他の三人を守れぇぇ!!」
と、叫んだ。
「無茶ぶりしないでよっ!!」
抗議の声が聞こえたけど無視だ。
やがてナターシャとエーコが重力魔法で飛んで来た。
「なんだい?」
「どうしたのー?」
「この二人を頼む。一人は生きてるから服着させてやってくれ」
「……これアークが服斬り咲いたのかい?」
桃色の双眸で睨まれる。ナターシャさん、怖いです
「こんな状況でそんな事出来るかっ!!」
「それもそうさねぇ」
「エーコはナターシャやこの少女を守ってくれ」
「分かったよー」
って訳で再び足に闘気を集め飛び、風魔法で飛翔力を高め、最初にいた位置の近くに降り立つ。
当然風魔手裏剣を撒き散らすオマケ付きだ。
「笹山流薙刀術・炎刀留乱舞」
沙耶が炎の魔法薙刀の斬撃飛ばしの連打を行っている。すげーな。魔法剣は一発飛ばすと刃先から魔法がなくなる。しかし、沙耶の薙刀の刃先に纏った炎は消えない。
この世界特有の魔法だから出来るのか、沙耶だから出来たかのか。いや、もしかしたら魔道具武装の能力である魔法維持の効果か?
いずれにしろ俺には思い付かなかった発想だ。
更に……、
「はぁぁぁっ! 闘車っ!」
右手で薙刀を振るいつつ脇差を抜き近寄って来たオークを葬る。そして返しの刃で闘気を飛ばし、少し遠くにいたオーガも葬り、直ぐ様脇差をしまい炎の魔法薙刀に集中しだす。
やはり実戦に勝る経験はないな。俺と模擬戦した時より確実に強くなっている。
ケンの動きも俺とやりあってた頃より流麗になっている。ただ自分が一気に前に出ると沙耶の邪魔になるので、控えめに攻撃を行っていた。
「<炎刃魔法>」
静は多重魔法を展開し一度に八発は、放っている。それもケンに迫って来る魔獣を中心に。息が合ってるな。
そして眼也は三人の間を縫うように槍を突き刺す。流石は真眼により、良く見えている。更にナターシャから色々教わったのだろう。相手の動きを阻害するような霊薬をバラ蒔いている。
パチパチパチパチ……。
思わず俺は手を叩いてしまった。
「沙耶、やるな! 凄いぞ! 可愛いぞ」
「無茶ぶりさせてないで、アンタも戦いなさいよ」
「は~い」
そんな訳で近くにいたオーガに右手で掌打を放ち左手で抜いた小刀でキリングスネークを斬り咲く。
「それと可愛いとか思ってもいない事、言わないでよ! ムカ付くのよ!!」
「えっ!? 初めて会った時から可愛いと思っていたと何度も言ってるぞ? 薙刀を嗜んいるだけはあり、しなやかな四肢をしていて良い感じだし」
まあ今の年齢では、その四肢も見る影もないってのは言わぬが花だな。
「なっ!?」
あ、薙刀に纏った炎が顔に移った。いや、薙刀の炎が消え、顔を赤くしだした。しかも固まってるし。そのせいで魔獣が迫ってる。仕方ないな~。
「<クロス・ファングっ!>」
二振りの小刀をクロスするように振り下ろし闘気剣を飛ばす俺の十八番で蹴散らす。
「何、ボサっとしてんだよ」
「あ、ああああ、アンタが戦闘中におかしな事を言うからよっ!!」
「そうか!? これで胸があれば完璧なのに残念過ぎるなって思った事が? いつも言ってる事じゃん」
「な、なななななな! いつもそれしか言ってないでしょうが!?」
「<スラッシュ・ファングっ!>」
はい、また尻拭い。
「だから戦闘中」
「煩いよっ!!」
「こんな時にイチャ付いてるなよ」
「……仲が、良いの、は良い……事だよ」
ケンがげんなりしたように言い、静が苦笑しているし。眼也は我関せず。
「イチャっ!?」
更に沙耶の顔が火を噴き出す。耳まで真っ赤だ。
「いや~~それほどでも~~~」
「気持ち悪いよっ!!」
「おっと!」
沙耶が俺に薙刀を振るって来たので当然避けると、その後ろにいたオークが袈裟斬りにされる。
「さて、残念パイの相手してても片付かないから、真面目にやるかね。<分身魔法>」
「だから残念パイって言うなっ!!!」
沙耶が薙刀振るいそれが俺に直撃する。
「なっ!? 何で避けないのよ? アンタなら避けられるでしょう!?」
沙耶が目を剥くが、斬られたそれはボヤけて消える。
「え!? 沙耶が斬ったのは俺の分身だぞ? 避けるまでもないし」
そう言って沙耶の肩に後ろからポンと手を置く。
「……アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよ」
さいですか。
実は気付けば忍術レベルが5まで上がっていた。それにより習得したのは分身の術だな。
「なっ! アークが沢山」
「……ほ、んとだ」
「僕の真眼によれば半分は偽物だけど、もう半分は本物だ。どうなってるんだ?」
ほ~~半分偽物って気付いたのか。
「アークがその気になれば残像を残せる程に速く動けるのよ」
「マジか」
「……す、ごい」
「これを見れば信じぬにはいかんな」
沙耶が説明した通り、その気になれば残像を残しながら動ける。それにより次々に斬り咲いて行く。
そして、せっかく覚えた分身の術で、攪乱しているという訳だ。
これ便利だな。客観的に見てる訳じゃないから五秒間に残像をいくつ残せるか分からない。だけど仮に五秒間に残像を10体残せるように動けたとして、其処に分身の術で更に10体。計20体の俺がいる訳だ。
尤も、その半分はデコイなのだけど。
まあそんな訳で、俺は全力で動き周り次々に魔獣を屠って行った。
逃げ出した魔獣は元々無視していた訳だが、残った魔獣を全て屠りナターシャ達がいるとこに向かった。
「壮絶だな……」
「そうね」
「だな」
「……流石、エ、ーコ……師匠」
ケン達は驚きに目を見開き固まっている。
何故なら俺の言葉通り壮絶な光景だからだ。氷の柱は立ち、地面の抉れまくり、一部は水魔法のせいか泥沼化。エーコはナターシャと少女を守る為に相当暴れたな。
そしてナターシャだが、岩で作ったかまくらのような形をしてる蔵にいる。
「ナターシャ、服は着せたか? 入っても平気か?」
「大丈夫さぁ」
そうして中に入るとエーコが水魔法で綺麗にし整えたのか、最初見た時はドロが付いておりボサボサだった髪が、今は綺麗な赤色をしている。その少女が横たわっていた。
そしてもう一人、メンド服の女がいる。そのメイド服の女が必死に、この少女の下に行こうとしていたと言う事は主従で、この少女は貴族か何かだろう。ボロボロだったが着てるのはドレスっぽかったし。
なら、厄介事にならないように先に鑑定しておこう。本来はプライバシーを見る行為なので褒められた事ではないし、それを貴族にやったとなったら問題になる。だが、今なら気を失ってるのでチャンスだ。
名前:サフィーネ=メル=ウルールカ
年齢:十三歳
レベル:25
種族:人族
職業:舞姫
HP:1300
MP:300
力:170
魔力:280
体力:220
俊敏:200
スキル:演舞Lv4、扇術Lv3、奏術Lv2、話術Lv5、カリスマ性Lv5、風魔法Lv3、雷魔法Lv2、光魔法Lv5、鑑定遮断Lv1
称号:記憶喪失、右腕喪失
装備:ワンピース (防御力15)
右腕喪失とか見れば分かるわっ!!!
さて、それより問題は……、
「眼也、ちょっと来い」
眼也を皆から離した場所に連れて行く。
「僕に何か?」
「鑑定したか?」
「えぇ」
「遮断持ちだったけど全部見えたか?」
「えぇ。レベル1だったお陰か」
「なら話は早い。あの少女はウルールカ女王国の王族だろうな」
「そうだな。家名がウルールカだったので」
「問題は称号だ」
「右腕喪失の事?」
「見れば分かるわっ!!」
「冗談です。記憶喪失の方だね?」
そうそれが問題だ。
「記憶があるならウルールカ女王国の王都に送ってあげてハイさよならで話は終わったんだけどな」
「そこは報酬を貰いましょうよ」
余計なツッコミしてんなよ。
「話が逸れるから流したんだよ。でだ、記憶喪失なら何も言わない方が良い」
「なら、どうする?」
下手に記憶を刺激すると混乱し、魔獣の大群に襲われた事を思い出し発狂するかもしれない。それに右腕が斬られていた事も気になる。トラウマになってるかもしれない。いや、だからこそ記憶を亡くしたのかも?
まあかと言って王族を放置も出来ない。
なら、王都を目指すが、聞かれるまで、それは告げずに旅をしているから思い出すまで一緒にいれば良いよと言えば良いだろう。
仮に王都の人間や貴族や兵等に見つかっても王都まで送ってる最中だと言えばどっかの国のように腐敗していなければ問題無い筈。
一番厄介なのは、突然記憶を取り戻して何処かに行かれる事だな。なので誰かしら見張るしかない。
まあそんな話を眼也にした。
「僕もそのプランで良いかと思う」
「それとこれは俺達だけのヒミツだ。周りに話せば何処かで、サフィーネって娘に伝わるかも知れないからな」
「そうだね。それにも賛成だ」
そう言う訳で王都行きが決定した。
てか、女王国に来て早々記憶喪失の王族の保護とか前途多難だわ。マジ簡便してくれ。
俺も昔、記憶喪失になったがナターシャが記憶復元魔法を習得して、記憶を戻してくれた。が、時間逆行のせいで習得が無かった事になってしまった。
よって、ナターシャでも記憶を復元出来ない。俺も習得の為の精霊契約の言霊を覚えているが、世界が違うせいで、それも意味をなさないんだよな。