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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十一章 ウルールカ女王国の第一王女
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EP.05 二人を鍛錬しました

 魔導……それは五つの要素から構成される称号。

 MP軽減、魔力アップ、詠唱破棄、魔法名破棄、多重起動の五つだ。

 MP軽減はまんまMP消費を抑える。魔力アップは魔力を1.2倍に上げる。此処までは良い。エーコは軽減しなくても余裕なMPを持っているし、神童で魔力が二倍になる。

 だが、此処からが反則だ。詠唱破棄は詠唱破棄による負担を無くす。魔法名破棄は魔法名破棄による負担を軽くする……ここでミソなのが軽くする(・・・・)事。無くすだったら、この時点でチートだ。

 尤も星々の(スターライト)世界の方が魔法名破棄の負担が大きかったので、あっちならこれだけでも計り知れないものがある。

 そして多重起動。これがヤバい。一つ唱えれば何十も同時展開する。しかも術者の技量によっては何百何千も可能にする。だからエーコが持っていたら世界が滅ぶと言うのは決して大言壮語ではない。


 レベルやステータス的にまだこの世界に来たばかりのようだし、魔法においての詠唱等も含め丁寧にそれを説明した。

 詠唱、それは魔法を唱える前に口にする口上。詠唱する事により、魔力を集中させ発動した際の負担を軽くする。無くても魔法は発動するが、魔法レベルが低いとMP消費が激しい。

 魔法名破棄は、魔法の名前を口にするのを破棄し、無言で発動する。この時のMP消費は詠唱破棄とは比べられない程に激しい。尤も月光の(この)世界なら慣れれば負担が少なそうだけど。


「………………」


 静はポカーンとしていた。余りにも話が大きいしな。


「静すげーな。そんな称号持ちだったのか」

「確かにシズシズは多重起動していたな」


 剣と眼也は直ぐに感想を口にする。


「……ほん、と…うに、私に……そんな、力が?」


 まだ驚きからか茫然と呟いている。


「そんな事で噓吐かないよ」

「……良か、った。これで、私も、剣君……の役に、立て、る」

「だから、そんな事は気にしなくて良いのに。ゆっくりで良いよ」


 目付きは悪いが言葉には温かみがあるな剣君や。


「でも、残念な事に炎魔法レベル1やら水魔法レベル1では、その称号の力を十二分に発揮出来ない」

「あ……」


 固まってしまった。そりゃそうか。やっと自分の称号が分かったのに、結局あんま使えないんだもんな。


「ところでお前達、どこに向かってるんだ? そもそも何で正規兵っぽいのに追われていた?」


 って訳で、秘儀話題変え。こうして三人の事情を聞いた。


「……って、訳でジパーング聖王国に向かっていたのだが、兵達から逃げながらだから、現在地が分からない」


 と、剣が最後にそう繋ぐ。


「一つ提案何だけどさ。俺達もこの国は腐敗してると思い逃げてるとこなんだ。俺達と一緒に来るか?」

「良いのか?」


 三人は目を見開く。そりゃ会ったばかりだしな。


「ただ、俺達が目指してるのはウルールカ女王国だ。残念ながら、国境が一番近いのはその国だ」

「……まあ、どうしてもジパーング聖王国に行きたいって、拘りがあった訳じゃないけど……」


 迷ってるな。まあ俺達が悪い奴だったら奴隷商にでも売り飛ばすしな。


「もし一緒に来るなら、三人共鍛えてやる」

「「「えっ!?」」」

「剣は沙耶と模擬戦を繰り返せばお互い良い刺激になるだろう。ナターシャは眼也の神薬調合の下位版の霊薬調合だが、一日の長がある。学べる事があるんじゃないのか? そして静はエーコから魔法を教われば魔導が活きて来るだろう」

「ちょっとー。私の場合長物通しで眼也君と模擬戦するべきじゃないのよ?」


 沙耶さんご不満のようです。


「誰が薙刀で模擬戦しろと言った? 脇差だよ」

「あ!」

「勿論、俺も教えるがな」

「アークのくせに考えてるね」

「くせには余計だ残念パイが!!」

「アンタのそう言うとこ、ほんとにムカ付くよっ!!」


 さいですか。


「剣にも俺が多少剣を教えられるかもしれない。まあ残念ながら聖剣術なんてリッチなものは持ってないけどな」


 そう言って肩を竦める。


「あの……どうしてそこまで?」

「転移者の好って、理由じゃダメか?」

「えっ!? 眼也、本当か?」

「さっきも言ったが全部見えたのはエーコさんだけだ」

「エーコで良いよー」

「では、そのエーコは確かに転使者だったが……」


 信用出来ないよね。なんせエーコはピンク髪に左目は薄紫色、右目は赤色のオッドアイ。地球の日本人に見えない。


「転移者には見えないな。見えるのは……」


 剣が言葉引継ぎ、やがて三人の視線は沙耶に集まる。


「え? 何よ?」


 居心地悪そうに視線を逸らす沙耶。


「確かに純粋な日本人は沙耶だけだ。俺も事情があって灰色髪で灰色の瞳だが日本人だ。ナターシャとエーコは別の異世界から来た」

「「「えっ!?」」」


 またシンクロするように驚いてるし。何度目だよ。

 って言うか、さっきド〇えもんネタを出したんだから分かるだろ。


「と、言う訳で転移者の好で一緒に行動し、その間鍛えても良いと思ってる。どうする?」

「どうしようか?」


 剣が眼也と静に水を向ける。


「……剣君が、決め、た事な、ら……それに従う」


 静さんやー……君、依存していないかい? まあ口に出して言うのは野暮だから言わないけど。


「僕はケンケンとシズシズが決めた事で良いと思う」


 ケンケンにシズシズね。ケンケンは分かる。みつるぎけんだから、きっと漢字は御剣 剣だ。よってケンケン。

 シズシズは何故だ? むむいって字の中に静って字があるのか? 鑑定だと漢字まで出ないからな。そもそもむむいってどんな字だよ? と、割とどうでも良い事を考えていたら三人の意思は決まったようだ。


「では、これから宜しくお願いします。この世界で生きて行く為に力が欲しいから」


 そうケンケン……もとい剣がまとめる。


「分かった。これから宜しくな……って、勝手に決めちゃたけどお前らは構わないか?」

「アークが決めた事なら別に良いさぁ」

「わたしは構わないよー」

「私も転移者の好で助けたいと思うよ。私がアークに助けられたように、ね」


 三人共OKのようだ。


 それから二日程で東の森を南に抜けた。本当なら、もっと速かっただろうが、ナターシャが眼也に色々教え込んでいた。やっぱり森の中ならではの調合用の草花があるんだろうな。

 ずっと二人っきりで何やら薬学談義をしていた……べ、別に寂しかった訳じゃないんだけどねっ! って、誰得だよ?

 まあ弟子であるエーコもたまに混ざっていた。

 魔獣はなるべく剣に、手に負えない時は沙耶にも狩らせていた。実戦こそ良き鍛錬になるからな。


 それとナターシャの収納魔法(ストレージ)は本当に便利だ。隙魔法レベルが上がると収納出来る量も上がるらしく、三人増えても問題なかった。テントも二つ用意していたので男子用と女子用で分けられた。

 べ、別にナターシャと同じテントじゃなかったからって悲しくないんだからね! って、だから誰得だっつーのっ!!

 ちなみにだが収納魔法(ストレージ)は、隙魔法の分類だ。隙間(・・)法ってギャグかよって感じだよな。だが、読み『げき』だったりもする。読みだけはやたら格好良い。


 そんな訳で二日で南に抜け、一日歩くとカエサル村と呼ばれる村が見えて来た。メハラハクラ国の町村を使うのは不本意だが、仕方ない。やる事もいくつかあるしな。

 買い出しとか、金稼ぎとか。剣達は大してお金持っていないし、同行を呼び掛けたのはこっちだし、そう言うとこもフォローしないとな。

 って訳で、三人には冒険者登録をして貰った。問題なくGランクスタートだ。Hじゃなく良かったよ。


 クエストだがナターシャと眼也、エーコと静が組んで行って貰った。

 ランクに差があると間が採用されるらしい。DランクとGランクなのでE、Fランクのだが、この場合は下位のFが採用される。ケチくせーな!

 これが四人PTなら最大ランクの者の一つ上が採用されるんだけどな。一応パーティ『アサシンズ』には登録したが、二人で行って貰うので、あまり意味ないな。


 でだ、俺は剣と沙耶両方の相手をする事にした。二人を鍛えると言ったしな。

 残念ながら日本っぽい武器はなかった。刀とか小刀とか。当然小太刀も売っていなかったので、投擲用に持っていた二尺弱の短剣と、適当に買った鉄の剣で同時に相手をする事にした。

 本当は長さが違う武器の二刀流は、間合いを測り損ねるので難しいしめんどい。しかも二人相手するなら尚更同じ長さのが好ましいのだが、まあこの二人なら問題ない。

 成長されると厳しくなるけど、まだまだ発展途上だしな。

 と言う訳で、カエサル村の近くの草原で二人と対峙する事にした。


「いつでも来い!」


 右手に剣、左手に短剣を持ち構えながら二人に声を掛けた。


「やぁぁぁぁっ!」


 最初に動いたのは剣――(つるぎ)を使って(けん)の相手をするのに字面的に面倒なので、これからはケンと呼ぶ事にしよう――が、気合の入った声を発し上段から斬り掛かって来た。

 ガキンと音を響かせ防ぐとそのまま剣を下にズラし受け流した。


「せっかくの聖剣術なのに馬鹿正直に斬り掛かっては意味ないぞ」

「はい」


 そう話してる間に沙耶が脇差で攻撃を仕掛けて来る。が、お話にならない。半歩下がっただけで躱せた。

 返しの刃で三歩詰めて来た。これもダメだ。俺はヤクザキックで沙耶を吹っ飛ばした。


「うっ!」

「普段薙刀を使ってるから、間合いが掴めてないんだ。話にならない」


 そう最初の攻撃は薙刀での間合いだ。故に半歩下がるだけで躱せる。次の攻撃は徒手格闘するかのような間合いで突っ込んで来た。

 まずは間合い取りから考えないと話にならない。


「はっ!」


 続けてケンが袈裟斬りを仕掛けて来た。俺の剣は降ろしっぱなしなので、そのまま上に突き上げて弾く。

 弾かれ、たたらを踏みながら下がる。そのケンの前を沙耶が移動する。そして次の瞬間ポジションを入れ替え同時に攻撃して来た。

 俺は腕を内側に持って行き、一気に開くように外側に払った。


 カーンっ! ガッキーンっ!


「クソ!」

「むぅ!」


 同時にケンの剣と沙耶の脇差を払う。入れ替わった際に俺は腕を内側に持って行き、手の武器を入れ替えたのだ。


「そんなのが通じるは二流だけだ。そもそも入れ替わったのがバレバレだった」

「悔しいな」

「悔しいわね」

「それに肝心な事をお前達は気付いていない。別に俺は剣でケンを、短剣で沙耶を相手する必要はないんだぞ? 逆の武器でも十分相手出来る。よって、あからさまに入れ替わったところで意味無い」

「「っ!?」」


 二人が失念してたと悔しそうに俺を見る。


「さあ続けるぞ!」


 そう言った瞬間、二人は一旦下がる。

 そして、沙耶が先に一気に迫って来た。


「はぁぁぁっ!」


 右から左に向かって横一文字に斬るつもりか。俺は別に短剣で相手する事はないのだが、あえて右手と左手に持った武器を再び入れ替え、短剣を上から叩き付けて軌道を変える。

 脇差が叩き付けられた勢いで沙耶はしゃがみ、そのまま横に転がる。

 そして、その直ぐ後ろからケンが飛び上がり斬り掛かって来た。


「たぁぁっ!」

「二人でジェットス〇リームアタックかよ!」


 そう突っ込みつつ右手に持つ剣を投げ付けた。その剣を弾くようにケンが剣を動かす。お陰でこっちを狙っていた刃先が明後日の方へ……。


「はっ!」


 それにより、ガラ空きになった胴に掌打。当然一割程度に手加減している。


「ぐはっ!」

「二人とも即席で良く考えてるけど、まだまだだな」

「と言うか、笑わせないでくれよ! 何でガ〇ダムネタをぶっ込んで来るかなぁ!?」


 ケンが何か言ってるし。


「いや、ジェットス〇リームアタックっぽい事をやるからだよ」

「あ~あ。アークには全然勝てる気がしないよ」


 沙耶が嘆き肩を竦める。


「そもそも何で脇差を振るうしかしないんだよ?」

「えっ!?」

「え? じゃない。その脇差は何て言って作って貰った?」

「……使い易さ優先」

「その使い易さは、武器を振るうだけか? あの鍛冶師は、お前のスキルとか見た上でそれを鍛えたんだぞ」

「あ!」


 やっと気付いたか。沙耶が魔侍で魔法も使う職だってのも分かってた。そして風魔法のレベルが頭一つ抜けている事も気付いた筈。

 なら、その魔法と絡めて攻撃した際に使い易いように鍛えた筈だ。それに闘気浸透って言う能力がある魔道具武装アーティファクト・ウエポン。これは闘気が乗り易いって事だ。って事は魔法剣を維持し易い事にも繋がる。


「それとケンは、型がなっていない。普段から素振りをしないとな」

「それで型とやらが出来るのか?」

「可能なら何処かに弟子入りし、ちゃんとした型を身に付けるのが一番だ。しかし、そんな相手はいない。だったら素振りを毎日何百何千とこなし、自分に合った型を探すべきだ」

「それで強くなれるか?」

「なれる。その剣聖術は普段素振りをやっている動きが、より洗練されて行くってスキルだしな」

「なるほど」


 ケンが得心が行ったように頷く。


「それと」

「何だ?」

「同じ動きばかりしていると、その動きだけは、どんな動きよりも流麗になる。これは闘気と呼ばれるものがそうさせている。そして、そこから発展させて、どんな動きにも闘気を使えれば剣聖術と合わせて、かなりの使い手になる」

「闘気?」


 訝しげにケンが首を傾げる。


「沙耶、お前もう闘気の斬撃飛ばし出来るだろ? ちょっと見せてくれ」

「出来るけどまだ練習不足よ。魔法薙刀の斬撃飛ばしのが威力出るし」

「だろうな。魔法剣の斬撃飛ばしでの闘気は補助のようなものだ。闘気そのものを飛ばすのは、簡単じゃない。まあとりあえずやって見てくれ」

「分かったよ」


 そう言って薙刀を構え目を瞑り集中しだす。まあまだ慣れていないからな。集中しないと使えないだろう。よって実戦では使い物にならない。


「笹山流薙刀術・闘折留っ!」


 やがて目をカァっと開き薙刀を振るう。

 近くにあった木を一本薙ぎ倒した程度だが十分だ。ケンはポカーンとしてるけど。


「ケン、これが闘気だ。最初は慣れ親しんだ動き、素振りで何度もやった動きでしか発揮できないが、使いこなせば、こんな感じの事も出来る」

「……凄い」


 ポツリと呟く。まあ日本の男は斬撃飛ばしとか憧れだろうしな。はいそうです。俺もですよー。


「ところで、これアークも使えるのか?」

「使えるぞ」

「見せて貰っても?」


 そう言われたら期待に応えるしかないな。俺は光陽ノ影(こうようのえい)を抜き逆手に持つ。闇夜ノ灯(やみよのあかり)だと、威力が出過ぎるからな。何せ剣圧強化って能力があるし。


「<スラッシュ・ファングっ!>」


 ズサァァァァ……ドゴゴゴーーンっ!!!


 地走りを起こし軽く地面を抉り近くにあった大岩を真っ二つにした。


「……すごっ!」

「ドヤぁ~」

「何で私の方を見てドヤ顔するのよ!?」

「え? 決まってるんじゃん。残念パイは闘気も残念だな~~って」


 ニヤリと笑い揶揄う。ナターシャがいないからビンタもないしな。


「……残念パイって言わないでよ」

「残念パイって何?」


 ケンがキョトンと聞いて来る。


「あ! それセクハラだよ」

「アークが言うなぁぁぁぁああああっっ!!!! はぁはぁ……」

「大丈夫か?」


 めっちゃ怒鳴り、息切れしたな。


「大丈夫じゃないわよ。スケベアーク」

「見せつけ沙耶」

「っ!? 見せつけてない!!! 不可抗力だったでしょぉぉおおっ!! はぁはぁ……」

「仲良いな」


 ケンがしみじみそう言い出す。


「だろう?」

「どこがよ!? まったく! 剣は真似ても、このセクハラ言動は真似てはダメよ」

「それは当然だ」

「だからアークが言うなぁぁぁぁああああ~~~っっ!!!」


 ってまあそんな一幕もあり、カエサル村の宿屋に戻って来た。

 暫くするとエーコと静も帰って来た。

 男用の部屋と女用の部屋の二つの部屋を取っているのだが、今日はちょっと催し物があるので、男用に部屋に集まっている。

 ちなみにだが、静は眼也と同じ部屋になるのは恥ずかしいと言う事で、俺達とケン組みでの部屋分けではなかった。って事は静ってばケンと……。

 是非二人っきりの部屋にしてみたい。そして隣の部屋で物音を聞きつつ、それをオカズにナターシャと……って、事を考えていたら顔に出てたらしく昨日ビンタ喰らいましたハイ。

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